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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
四章
55/59

アルコフリバス!!

 無機質な廃ビルの群れの中――ひときわ目立つ人型のシルエット。

 50~60メートルはあるだろう摩天楼の合間から頭を出したゾンビが吠える!



『GUOOOOOOOOHHHHHHH!!!!!』



 開戦を告げるように野太い声を響かせたのは――新たな巨大ボス・アルコフリバス!

 立ってるのは数ブロック先――かなり距離がある。なのに首が痛くなるほど見上げなきゃ顔が見えない大きさだ。遠近感が狂ってしまうほど圧倒的なサイズ!

 さっきまでのボスゾンビだって立体機動装置でも欲しくなるような巨人っぷりだったけど、このボスはホントけたがちがう。


 う~ん……やっぱVRというか仮想現実ってすごい!

 特に特撮とかファンタジーと組み合わせると、ビックリするような体験ができるもんな!


 と、オレは心から思うが――今は感心してりゃいいってわけでもない。

 問題は、あの怪獣ゾンビさんを倒さなきゃいけないこと。

 どうすりゃいいか、なやんでるオレに腕のウェアラブル端末が鳴り、通信を告げる。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



『……ザ、ザッ……諸君。サザランドだ……聞こえているかね?』


 急な通信はなんとサザランド大佐からのもの!

 乗ってた軍用車をミサイルで破壊され、ご臨終したと思ってたから驚きだ。

 

 おお、サザランド大佐?! 生きとったんか、我ェ! 

 Zフォースは滅びぬ、何度でもよみがえるんですね!? 

 大ピンチに死んだと思ってた仲間が復活――胸熱な展開に思わず高ぶるオレ。

 しかし続く通信は予想を微妙に裏切るものだった。


『諸君らがこの通信を聞いているとき……おそらく、わたしはこの世にはいないだろう。これはわたしの生命活動停止後に流れる自動メッセージだ』  

 

 ……ちぇ、なんだ。よくある遺言か。加持さんみたいだな。 

 ちょっとがっかりさせられたけど……ま、あの状況じゃ、しょうがない。

 あれから生き延びるには『実は耐爆シャッターがあった』とか『忍者だからセーフ』って設定ぶちこまないと無理そうだし。


 で、そのサザランド大佐は、なにを言い残したんだろう? スイカの世話でも頼まれるのか?

 と、興味深く思ったオレに通信はこう告げる。

 

『人類存亡の危機にあたり我々Zフォースは最大級の報酬を用意した。アルコフリバスを倒してくれたものにはガルガンチュアやパンタグリュエル討伐の五十倍の功績を差し上げよう。だから頼む! どうしてもあの化け物を倒してくれ! ……さらばだ、諸君らと戦えたことを誇りに思う!』


 そう言い残して、サザランド大佐からのメッセージは切れてしまった。 


 …………うーん。最期の言葉が撃破ポイントの告知か。準備のいい人だったんだろうけど切なすぎる遺言だ。モブキャラを体現してるような人だったな。

 サザランド大佐の微妙な存在感に、オレはちょっと涙する。

 ま、だが、それはともかくとして――大問題が一つあった。



 あの……最後のボスがポイント五十倍ってどういうこと?! 

 なんでバラエティのクイズみたいな配点してるんだ!?



 と、オレはかなり納得いかない。

 一方、他のヘイブンからは歓声が聞こえてきた。

 どうやら大逆転のチャンスによろこんでるみたいだ。

  


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「よし! あいつを倒しゃ一発でランキングに載れる!」

「苦戦させられたが挽回の余地はあるってことだよな!」

「いいね。粋な心遣いだぜ!」


 と、意気ごむ他ヘイブンのみなさん。

 大型ゾンビを目にして静まり返ってた戦場に活気が戻る。アルコフリバスが強敵というより、ポイントの塊に見えてきたからだろう。

 その気持ちはよくわかるけど……今のオレには微妙な感じだ。 


 う~ん……どうして、ここまでのガンバリを一度で逆転されなきゃいけないんだ?


 スゴク納得のいかない事態――とはいえルールを示された以上、いつまでもぶつくさ言ってるわけにもいかない。なんとか活躍しないと、あっさり追い抜かれてしまう。


 ……でも、どうする? あんなデカブツ倒す方法なんてもう思いつかないぞ?


 じょじょに迫りくるアルコフリバスを前に悩んでたオレだったが――、

 そこで背後から声がかけられた。えらく調子のいいその声はオレたちにこう告げる。



「はーい。みなさん、ボスの周りから離れて、ミッション終了まで邪魔にならないとこまで下がってくださいね。これから我々基地ヘイブンが攻撃に入ります。あの大型ゾンビは我々の獲物なので、くれぐれも手を出さないように」

 


 ……あ、はい。わかりました。今下がります。


 と、危うく指示に従いかけて、オレは我に返った。

 かけられた言葉は低姿勢だったけど、どう考えても言ってることがおかしい。  

 なんで他のヘイブンが攻撃するからって、オレたちが手出ししちゃいけないんだ?

 不思議に思って、ふりかえったオレの目の前に――大量の迷彩服の群れがあらわれる!  



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「は~い。下がって下がって。あとは基地(うち)が全部引き受けますからね~」


 てなことを、まわりのヘイブンに大声で告げて回ってるのは迷彩服を着た十代後半くらい、少年と青年の中間くらいの見た目の男子くん。

 そんな彼を先頭にこっちへ……というかアルコフリバスに向けて迷彩服集団が我が物顔で行進してくる。 


 全員が同じヘイブン所属らしい。十代後半から五十代くらいまで年齢はさまざまだけど、みんな男性――アサルトライフルがメイン武装。その他スナイパーライフルや重機関銃持ちも、ちらほら見受けられる。

 他ヘイブンは大群ゾンビとの乱戦で消耗してる感じだが、この『基地ヘイブン』を名乗った集団は、えらくよゆうたっぷりな態度……なんというか『歴戦の強者』って感じだな。

 前にユズキさんから聞かされた話じゃ討伐ノルマがキツく初心者向けじゃないってことだけど……。

 なるほど――その話がもっともだと思えるくらい全員が熟練兵(ベテラン)っぽく見えた。



 しかし、ただ一つ気になるのは――。

『なんでオレたちが、彼らのために下がらなきゃいけないか』ってこと。

 このゲームでもイベントでも、そんなルールもマナーも無かったはず。彼らの言ってることはおかしい。


 で――案の定、すぐによそのヘイブンから苦情が上がった。


「おい! 他のヘイブンは下がれってどういうことだよ!?」

「勝手に指図すんな!」

「そうだそうだ! ここまで来たのに退かされるワケ、聞かせてもらおうじゃん!」


 口々に上がったその声に怒りの感情が入ったのも無理はない。せっかくの逆転チャンスを捨てろってほうがおかしいのだ。 

 だが迷彩服集団の先頭に立つ男――基地ヘイブン兵士Aが、言葉はていねいだけどバカにしたような笑みを浮かべて言いかえす。


「いやいや~。きっついボス戦になりそうですしね~。上級者以外にうろちょろされて邪魔されるとホント迷惑で話にならないんで~。みなさんレベルなりにね。楽しくプレイするため下がっててくださ~い」  


 軽い口調ながらもナメたセリフを当然のように言い、他ヘイブンを押しのけだす基地男A。


 え? いや。この迷彩服連中がどんだけ強いか知らないけどさ。

 でも、なんで自分たちだけ上級者で他は邪魔者みたいな言い方するんだ?

 ていうか。この連中が言ってることって要はボス戦を自分たちだけにやらせろってことだろ? 

 ヘイブン同士が競い合うゲームでボス戦闘を独占するなんて、どう考えたってマナー違反じゃないか?!


 彼らの態度と行動にムカっときたオレ。

 同じく不満に思った人は他にもいるようで――、


「なにが『楽しいプレイ』だよ! 楽しいのはポイント稼げるあんたらだけじゃん!?」

「ええ、あんたたちにそんなこという権利なんかないでしょ!」

「そうだよ。ボスの独占なんてズルだ!」


 と、あるヘイブンから基地ヘイブン男Aに苦情があがった。

 女性メンバーだらけのそのヘイブンは流行の先端を行ってる感じのオシャレ集団。

 みなさん露出多めだけどスタイルがいいせいでかっこいい。もしかすると服屋さんか、どこかの夜のお店ヘイブンなのかもしれない。

 ただ、せっかくのオシャレ服もセットされてた髪型も乱戦のせいか、すっかり汚れてしまってた。

 そんな奮闘のあとが生々しいオシャレヘイブンのギャルたちは、きりっとした顔立ちのお姉さんを先頭にはっきり否定の意志を告げる。


「とにかくウチラもボス退治に参加するから! 妙な言い分でポイント稼ぎの邪魔なんかさせない!」

「……ふ~ん。そういうケンカ腰な感じできます? いいですよ? ウチに逆らう気なら……」


 だが基地兵Aは、しごくまっとうな反論を鼻で笑い、ばかりか挑発するような態度まで見せてきた。

 と、そこへ――。


「おい。どうした新兵。なにチンタラやってる? さっさと部外者をよけろよ! 最低限の雑用もできねえなんて使えねえヤツだな!」

 

 さらに基地ヘイブンの男B――なんだかAよりエラそうなゴツイ青年が現れる。

 態度からして基地兵Aよりエライそうだけど……横暴なセリフととも基地男Aの肩を強く小突いた。


「あ、すいません。ケンさん。こいつら話が通じない感じで……」


 エラそうにしてた基地男Aも基地兵Bには頭が上がらないようす。

 で――怒られた不満をオシャレお姉さんたちに押し付けるように、告げ口っぽくいう。


「ちっ……そこのお前ら、ちょっと邪魔者どかすの手伝ってくれ!」


 部下Aの言いわけに舌打ちした兵Bは背後にいた迷彩男数人に指示を飛ばした。

 すると――、



「「「…………イエッサー!!」」」

 


 基地男Bのかけ声一つで駆け寄り、いっせいに銃をかまえる基地ヘイブンの迷彩集団五、六人。

 兵士CDEF……その他がかまえたアサルトライフルはオシャレヘイブンに、がっつり向けられる!


「ひゃッ!」

「な、なんなのいきなり!」


 いきなり突きつけられた銃口の列に驚くオシャレヘイブンの面々。

 さすがに威勢の良さも消え、腰も引け、二、三歩後ずさりさせられたオシャレお姉さんたちを、兵Bは、さらにおどす。


「よけいな邪魔されるよりは、ここで後腐れを絶っといたほうがいいかもな。そっちがやる気なら遠慮なくいくぞ?」

「く……アンタどんだけ……」


 そんな脅迫にも屈せず、言い返そうとしたギャルリーダーお姉さんだったが――。

 オシャレヘイブン仲間が、その腕を引いて止める。


「ダメだよリサちゃん! ここでやられたら、せっかく稼いだポイントがチャラになっちゃうんだよ?」

「そうそう……アイの言うとおり。それにこんなヤツラに、これ以上関わりたくないし」

「…………わかった。ユウとメグがそういうなら……」


 リサと呼ばれたオシャレギャルリーダーさんは唇をかんだあとうなずき――さげすむような視線を基地兵たちに向けたあと立ち去って行く。 


 ……ま、無理もない。

 お姉さんたちじゃアサルトライフル持ちの連中に対抗するのは難しそうだし。拳銃と警棒――あと、なぜかハンガーを持ってるお姉さんもいたが、それじゃ武器の差で分が悪すぎる。

 それに文句を言われたからって銃を向けておどすとか、どう考えたって基地ヘイブンのやり方は危険すぎる。そんな連中に絡まれたら引き下がるのも当然だろう。


 そして、ここまでの一部始終を見ていた他ヘイブンからも批判の声は消えた。

 ただ基地ヘイブンに向けた非難の視線はより強くなっている。

 だが基地男ABは集まった軽蔑の視線も気にしない。逆らう相手と周囲のヘイブンを引かせたことに、ご満悦なようすだ。


「……な、こうやりゃさっさと終わるだろ? これが抑止力ってヤツだ。覚えとけ」


 他人をおどして退かせておいて、得意げに言う基地兵Bに、部下Aは尊敬するかのような視線を向ける。


「お~、すっげ~勉強になりますケンさん。けどアイツら、引くぐらいなら最初からからんでくんなって感じっすけどね~」 

「バーカ。お前が最初にガツンと言わねえからだろ。こういうのはナメられたら終わりなんだ」


 お世辞を言う後輩基地兵に対し、ケンさんと呼ばれた兵士Bはふんぞり返る。 

 そんなヤツらの態度にオレはうんざりした。あきれて二の句も継げない。

 でもって突然の乱入者のせいで(ゲーム)の雰囲気も、ものすごく悪くなってしまった。

 いくつかのヘイブンはあきれた表情を見せて帰り始め、未練があるのか残ったヘイブンも巨大ゾンビから距離を取り始める。



 ……うわ。楽しいはずのイベントがだいなしじゃないか……。 



 そんなようすにオレが興ざめしかけてたとこで――、



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   



 ビュッ――!



 オレの背後から人影が一つ、人間離れした速さで駆け出していった。

 疾風のごとく基地男B――ケンと呼ばれた男に詰め寄ったその影は、こう言い放つ。 



「――あなたがたの横暴に屈しなければならない理由などありません! 恥を知りなさい!」



 周囲に響く凛とした声は……ええ。もちろん、サユリさんのものです。 


 ていうか……マズい! これはマズイ! 大失態だ。こっちには危険なサムライガールさんがいることを今の今まですっかり忘れてた!!!

 正義の女神の目隠しされた部分をしっかり再現してるサユリさんは周囲の状況なんかおかまいなし。悪とみれば猛然と噛みついていく、おっかない美少女さんなのだ!


 ダメですサユリさん! そんな連中にからんじゃいけません! タクトはタクトは撤退を提案します!


 あわてて駆け寄り、量産(クローン)妹のような口調で止めたオレだったが……もう遅い。

 基地兵ABCDその他だけじゃなく、この場のヘイブンすべての視線が集まってる。

 


「……あ? んだ、お前は?」


 はわわわ! サユリさん、注目の的じゃないか! 

 基地ヘイブンからはガッツリにらまれてるし! 基地男Bはイライラしてるし!


 焦るオレだったが正義一直線のサユリさんはひかない。 

 そればかりか、そばに来たオレを、にらみつけてきたケンさん――あるいは兵士Bのほうに押し出して自慢まで始めた!


「……だいたい初心者とそちらはバカにしますが、こちらにはタッくんがいます! タッくんがさっきのボスを倒したんですよ! もう一体のボスもタクくんの策でやっつけたのです! 上級者を名乗りたければ、せめてボスの一体でも倒してから来ることですね!」


 と、いらん挑発までしてくださるサユリさん!

 え……ちょ、そこでなんていきなりオレを持ち上げるんですか!?

 注目がこっちに集まってきて……オレはパニクる。

 一方、サユリさんの言葉にあたりの人たちは驚きの声をあげた。


「おお! さっきボスをやったのはキミか!」

「初見のボスを倒すってのは運だけじゃできないよな」

「うん。それなら彼らも最後のボスと戦う権利がある」

「ええ、そうでしょう? タッくんはスゴイ人なんです!」


 力づくで押しのけられた反感もあるのか、彼らはオレを後押しするようなことを言う。 

 いや……ホメられたのはうれしいけど、明らかにもめ事に巻きこまれそうなんですが……。

 と、鼻高々なサユリさんの隣でオレがヒヤヒヤしてると――、   


「おい、どうした? こっちはまだ片付かねえのか? そろそろ大物(ボス)が来るぞ」


 騒ぎに気付いた基地ヘイブン兵GHIJ以下略までやってきて……事態はもう収拾がつかない感じ。

 そんな状況で基地男Bあるいは『ケンさん』がオレに険しい視線を向ける。


「ほう……おれは『ケントリオ』だ。あの女の話にあったように、さっきのボス『パンタグリュエル』を倒したってのは本当か?」

「……はい。ま、一応」


 と、ケンさん――ケントリオと名乗ったゴツイおっさんが乱暴に質問してきた。

 さっきからのヒドイやりようとエラそうな態度がしゃくにさわる。それにVR空間内とはいえ軍用アサルトライフル装備の武闘派集団に囲まれ気分もよくない。オレは言葉少なに答えた。

 しかし、そんなオレを鼻で笑い基地男B――ケントリオを名乗ったゴツイお兄さんは言う。



「ふん……大物倒してさぞ気分がいいんだろうが、あのボス、討伐ポイントはそれほど高くねえぞ」



 ……え? マジで?! 

 そういやボス倒したんだし、たっぷりポイントが入るのは当然と思って確認してなかったけど……。 

 基地兵B『ケントリオ』の言葉に、オレは端末をのぞいて討伐数と功績を調べる。



 すると――そこには予想外の数字が並んでいた。



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