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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
四章
54/59

アルコフリバス!

「ふぅ……なんかほっとしたな」


 大型ボスゾンビ『ガルガンチュア』を撃破し、ようやく緊張が抜けた。

 そんなオレの肩を銀行ヘイブンの合法ロリお姉さん――三条さんがぽんとたたく。


「すごいじゃん! タクくん! さっきも大活躍だったし、これはランク急上昇じゃない?」

「あ、いえ。それもこれもすべて銀行のみなさんのおかげです」

「こらこら。ホメられたら素直に喜んどきなさい。若いうちからおべんちゃら覚えたらダメだよ~!」


 イベントはこれで終わり。戦果は上々だしランキングにのるにちがいない。

 場合によっては……むふふ、一位とかありえるんじゃね?

 調子に乗ったオレは三条さんの祝福ににやにや笑った。


 一方、サユリさんはオレにまとわりついた三条さんにお怒りのようす。


「……むぅ。タッくん、鼻の下をのばしすぎです! 三条さんもタッくんから離れてください」

「ケチくさいこと言わないでよ~。減るもんじゃないんだし~」

「いいえ、タッくんの純潔は一度きりなんです! それ以上近づくなら刀のサビに――」

「えっ……いや、ちょっとからかっただけだって~」


 ちょっとしたやり合いのあと、剣に手をかけた美少女さんにあわてる合法ロリお姉さん。

 そんな光景もなんだか楽しくて笑いが止まらない。

 たぶん、さっきまで極限(ギリギリ)の緊張状態にあった反動なんだろうな。


 だが――そんなのんきな時間も長くは続かなかった。

 ふと耳に入った言葉が、オレをガレキの中の現実(リアル)に引き戻す。



「……おかしいな? ボスは両方倒したはずだ。どうしてクリアにならない?」



 首をかしげたマークスさんの発言に、オレは我に返った。

 あ……そういや。たしかに。ガルガンチュアとパンタグリュエル――標的二体を倒したのに、ぜんぜん通信が入ってこない。

 ええと、たしか『Zフォース』だっけ? ぽっちゃりゾンビのパンタグリュエルを倒したときは、すぐ通信が入ってきたのに今回はずっと沈黙したままだ。


 うんともすんとも言わない腕のウェアラブル端末に、オレの不安はつのっていく。

 そして――そこで、ようやく気づいた。


 ん? 待てよ? もしかして、これも『フラグ』か?

 強敵を倒して安心した瞬間、もっとヤバい敵が現れる――映画、ゲーム、アニメなどジャンル問わず、よくある状況じゃないか!

 く……しまった。なんで、こんなベタなフラグを見逃してたんだ!  

 このゲームを作ったのは『あのリックさん』、こういう展開のほうが自然だってのに……!



 ――そんなオレの予想は悪い意味で当たってしまう。 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆




 BEEEEEEP!!

 BEEEEEEP!!



 ガルガンチュアの絶命後しばらくして、ようやく腕の端末に通信が入る。 

 その通信は強烈にやかましい警告音(アラート)の大合唱だった。 

 そして、さらに続けて――、


『……戦士諸君! サザランドより緊急事態を告げる! ガルガンチュアとパンタグリュエルの討伐――よく遂げてくれたと言いたいが……祝っている状況ではない! これまで最大のゼータ反応が検知された! 分析してみたところ、そいつはガルガンチュアとパンタグリュエルの波形パターンを併せ持っている!』

 

 ノイズ入りまくりの通信に異常事態を告げられた。

 思ったとおり、敵はあの大型二体だけじゃなかったらしい。


『どうやら、あの二体の親のようだ! 我々Zフォースは新たな個体を『アルコフリバス』と呼称することにした――くそッ、まさか最後の最後でこんなデカい反応が出てくるとは! どこに隠れてやがった!?』


 冷静さを欠いてるサザランド大佐の声がパニックをあおる。

 そしてさらに大佐はこう告げた。


『……諸君、これからわたしも前線指揮にむかう! 同時に巨大な反応に向け、虎の子の巡航ミサイルを全弾撃ちこむ……こいつが効いてくれればいいんだが!』


 おお! なんか最終決戦っぽい雰囲気をかもしてきたな?

 新たなボス登場にぼう然としつつも、オレが思ったとこで――、



 ――はるか上空から、鋭い風切り音が響く。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 キィィィィィ…………!



 豆粒くらいに見えたそれは甲高い音を立て、みるみる大きさを増し接近してきた。 

 翼の生えた細長い物体を目にした次の瞬間――ミサイルは少し向こうのビルに着弾。

 


 ――チュド、ドゴォォォォォン!!!


 

 ぐらり――一瞬、地震かと錯覚するくらい強烈な縦揺れがオレたちを襲う。

 同時に周囲すべてをおおい隠すほど大量の土ぼこりが立った。


「……うわっ!」 

「ちょ、まわりに人がいるんだ! 自重しろよ!」

「ひゃあ! なにも見えない!」


 と、大爆発にビビったオレたちだが――サザランド大佐はそんなことおかまいなし。


『……やったか!?』

 

 なんてフラグめいた発言が通信機に入った。 

 しかし案の定、もくもくと立ち上る粉塵が薄れたとき――。



『GYAOOOOOOOOOHHHHHHHHHHH!!!!!』



 舞う砂煙のむこう、雄叫びとともに新たな巨人が姿をあらわす。


 ……ていうか大きい。まじで超デカい。 


 でもって、姿をあらわしたガルガンチュアやパンタグリュエルをはるか上回る巨大な人影――ビルをはるかに超える大きさの巨人はたしかにボス二体の親らしく両方の特徴をあわせ持ってた。

 体型はパンタグリュエル似のポッチャリさんだが、表皮はガルガンチュアっぽい堅そうな甲殻で覆われていて――その恐ろしい外見に不吉な予感が走った。 



 ……あれ? もしかして……こいつ両方の力をあわせ持ってる? 



 そんなオレの予想は、またも最悪な形で的中してしまい――、



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ――キィィィィィン! ドォォォォォン!!



 こりずにもう一発、飛んできた巡航ミサイルが巨大ゾンビに直接命中した。

 またも飛散する爆風に響く大音響――あいかわらず迷惑なやかましさだ。


 だが――せっかくの現代兵器も巨大ゾンビにはまるで効いてない。

 硬い鎧と巨体のせいだろうか。ミサイルが直撃したのに大型ゾンビは揺るぎもしなかった。

 その上、かすかな鎧の損傷も浸みだしてきた液体が、あっという間に回復してしまう。

 う~む。やはりガルガンチュアの防御とパンタグリュエルの再生力をダブルでお持ちらしい。



『なに?! ミサイルが効かないだと!? そんなこと……あるはずがッ!? 』


 一方、そこで、かませ犬っぽいせりふを吐くサザランド大佐。

 あ……フラグに忠実なこのゲームで、それ以上はよしといたほうが……。

 オレは内心で忠告するが、それはもう手遅れだったみたいだ。



 キィィィィィィ!



『GUAAHH!!』



 さらに飛来したミサイルを『アルコフリバス』は巨大な手のひらで、あっさり振り払う。

 その結果、ミサイルは行く先を変え――よりによって、こっちに全力で飛ばしてくる軍用車両(ハンヴィー)にピンポイントで向かってしまう。

 


『……バカなァ! なぜ、こっちにッ!』


 直後、悲痛な声と耳障りなノイズを発し通信は切れてしまった。

 そして、それ以降、サザランド大佐から通信はいっさい入らなくなる。

 どうやらサザランド大佐、あの車に乗ってたらしく、さっきの爆発で逝ってしまわれたようだ。 


 ……ま、そりゃそうだよな。あんだけ負けフラグ立てたらしょうがない。

 特に土煙で姿を隠した敵に『やったか?』なんてセリフ最低最悪過ぎるフラグなのに……。

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ちゅどぉぉぉん!



 ぶっぱなしたミサイルを自らくらう、お手本のようなブーメランを見せた軍人――サザランド大佐が乗ってた軍用車両(ハンヴィー)が爆炎を上げる。

 そして燃え盛る軍用車両のむこうから怪獣みたいな大きさのゾンビ『アルコフリバス』がやってきた。

 その圧倒的な大きさに見上げた銀行ヘイブンのみなさんから驚きの声が上がる。


「ウソ……なんなのよ、あれ……?!」

「最後の最後で大物さんの登場だな……クソッ、あの二体はただの前座だったってことか?」


 ぼうぜんと三条さんがつぶやき、マークスさんは悪態をつく。

 

「そうらしい。どうも戦闘が簡単すぎたと思ったが、やはり本番はこれからのようだね」

 

 一方、冷静な二階堂さんだったが視線は厳しい。

 ていうか……『戦闘が簡単すぎた』って本気ですか二階堂さん? 

 ガルガンチュア相手に間一髪だったり、オレはけっこう大変だったんですが……。


「ヘイブン同士連携していれば火力の集中や弱点さがしもはかどり、もっと早く倒せたはずさ。あの二体、ボスというには体力が低かったからね。しかし……ヘイブンの競争をあおりながら、実は協力したほうが撃破が楽なんて……まったくリックくんも意地が悪い」


 なんて二階堂さんは冷静に分析する。

 ま、たしかに二階堂さんの言うとおりかも。

 弱点に当てたとはいえ欠陥銃器(リベレーター)で倒されるボスって味気なさすぎだもんな。

 チェーンソー一発でやられる、どこぞの神さまじゃあるまいし。

 だけど――せっかくボス撃破をできたと思ったら、ぬか喜びだったのか。はあ……。


 と、嘆いてたオレの耳に――、



『GUAAAAAAAAAHHHHHHHHHOOOOOOOOOOHHHHHH!!!!』  



『おい、忘れんなよ!』って感じのアルコフリバスさんの叫び声が響く。

 戦場にいる人間たちがようやく目に入ったらしく、ゆっくりと確実に――巨大ゾンビの体がこっちを向く。



 どうやら――決戦は待ってくれないみたいだ。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ズゥゥゥゥゥン、ズドォォォォォォォォォン!

 


 アルコフリバスの足音――内臓を突き上げる震動は以前の二体より、はるかに長く、強く、激しい。

 近づいてくるスピードはゆっくりに見えたが、それはあいつがデカすぎなせいだろう。

 その証拠に地面の影は飛ばした自動車並みの速さでこっちに迫っている。



 ――ゴガッ、バギャン!



 巨大ゾンビの重量に耐えきれず道路が陥没。

 ひびわれたクレーターがアルコフリバスの足下で左右交互にできていく。

 そんな状況に――オレは焦る。


 ああ、こんなのもうゾンビゲーじゃないよな。怪獣退治は光の巨人さんの仕事なはずだろ。

 あのサイズと戦えってんなら……せめて戦隊ロボでも持ってきてくれないと……。


 ぶつくさつぶやきつつも、オレは必死に考えた。

 

 巨大ロボが無いにしても重機なら……いや、さっき使ったのはバッテリー切れだったな。

 そもそも怪獣サイズの敵に工事用の重機だと通用しないだろうし。

 う~ん。爆発物ならどうかな? 単体じゃ無理にしてもビルの崩壊に巻きこめばどうにか……。


 あれこれ考えたが、どの案もあの大物相手じゃ致命傷にはならなさそうだ。

 というかミサイルが通用してない時点で、どうしようもない気もする。

 あきらめが先に立ち、ここまでオレを生かしてくれた機転(おもいつき)も完全に沈黙していた。



 一方、接近中だったアルコフリバスさんは――、

 


『GYUAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHH!!!!!!!』



 二体の子ども――ガルガンチュアとパンタグリュエルの無残な姿を見つけて、たいそうお怒りのようす。

 しかもなぜか知らんが、オレのいるあたりに殺意をこめた視線をぶつけてきた。

 あれ……もしかして本能的に子どもを殺した相手を察した……とか?

 


『GUOOOOOOOOOOHHHHHH!!!!!』



 オレの問いに答えるように大絶叫するアルコフリバス。

 その圧倒されるような迫力にオレは思わず謝罪してしまう。


 ひゃあ……すいません! 

 わ、悪気があってやったわけじゃないんです! おたがい正々堂々戦った結果ですって! 

 あ、いや……ちょっとズルしましたけど、サイズのちがいってものもありますしね。

 あくまで正当防衛というか、そもそもお子さんがオレたちの命を狙って…………。


 だが――アルコフリバスの怒りは腰の引けた弁解(いいわけ)なんかで抑えられるはずもなく。



『――GAAAAOOOOOOOHHHHH!!!!!!!』



 激怒の雄叫びを上げ、どんどん加速しながらやってくる超々巨大ゾンビさん! 

 迫りくる地響きが、オレたちに圧倒的不利を告げる!




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