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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
四章
52/59

VSガルガンチュア!!

「な、なんなんだよ……これ?!」


 腕の中には気を失ったサユリさんがいて……その肩には凶悪なシルエットの矢が突き立ってた。

 剣術美少女のぐったりした姿なんて初めて見て、オレはぼうぜんとする。

 いったい、なにが起きたのか。まったくわからぬまま、それでもオレはふりかえってたずねた……



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ――意識をなくしたサユリさんをそっと横たえ、オレは震える声で問う。 



「サカマキさん! なんで?! なんでこんなミスを――!?」

「ちっ! 外したか、そのクソガキよけいなことしやがって……」



 オレの声は絶叫に近く――だけど、それでもこれはミスだと思っていた。

 だが、そんなオレの問いにサカマキは忌々しそうに答える。  

 ミスでなくワザと狙ったのだという自白――そして身勝手な言い分、一気にオレはブチぎれた。


「おまえ……ッ!!!!!」


 そっから先、のどから漏れ出る音は言葉にならなかった――それほどぶちギレてた。

 ゲームで……いや人生のうちで、ここまで激怒したことなんてなかった。

 どちらかといえばおとなしい性格だと自分でも思う。それなのにぐったりしたサユリさんの姿に完全に頭に血が上っていたのだ。

 そして――全身が沸騰するような怒りとともに、オレはサカマキにせまる!


「く……ひッ!」


 詰め寄るオレの迫力に気圧されたのか、サカマキは思わず数歩後ずさりした。  

 しかし……それでも憎々しげにヤツはいう。


「て、底辺どもがいい気になるな! ちょっとばかりわたしを助けたからと言って恩に着せおって!」

「……そんな……そんなくだらない理由でッ!」 


 聞かされた悪意の理由はむちゃくちゃな逆恨みで、さらに頭に血が上る。気づけばオレは背中に差してた長巻『次郎太刀』を抜刀していた。

 次郎太刀の長い柄をギリギリ音が出るほど握りしめると、オレは大きく振りかぶって駆け出す。

 そんなオレの姿に――、


「ひっ……!」


 あんな非道をやっておきながら、血相を変えたオレに白刃を向けられ、サカマキはあせりを見せる。

 で、最低な卑怯野郎(サカマキ)は、あわててこう言った。


「……い、いいのか!!? その子を放っておいて?!」


 ――あ、しまった! そういえば矢に毒を塗ったって言ってたよな?! 

 

 ヤツの言葉はオレの弱点を射抜いてた。一瞬で我に返ったオレはサユリさんのほうに駆けもどる。

 そして――急ぎサユリさんのようすを確認し、オレは少しほっとした。


 ……ふぅ、まだ息はあるみたいだ。

 毒って言ってたけどあれは嘘だったのか? それともゆっくり効く毒なんだろうか?

 しかし、どっちにしろ弱ってるサユリさんの姿なんてみたくない。VRゲームのリアルさって、こういうときホントいやだよな。


 そんな風にごちゃごちゃ考えつつ、あたふたしてるオレを見て、よゆうを取りもどしたサカマキは鼻で笑い、こう告げる。


「……ふん、安心しろ。そいつはただの麻酔薬だ。病院ヘイブンは忌々しいことに重い殺害ペナルティがあるからな。もっとも自分自身でキルしなければなんの罰もない。放っておけば、あのバカデカイうすのろが処理してくれるだろう…………あとは、ついでにもう一押ししておくか」

 


 そうつぶやくと――ヤツは白衣から取り出したガラス瓶をいきなり投げつけてきた!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ――ガシャン、パリン!


 サユリさんを気にかけて、注意がそれたとこにサカマキの投げたガラス瓶が直撃した。

 あわてて体でサユリさんをかばったが――オレは全身で中身をかぶってしまう。


 う……なんだ? この粘つく気持ち悪い液体? 


「そいつもゾンビを引き寄せるフェロモンだ。お前はもう一体の討伐作戦も考えたというし、功績を上げているライバルには早々に退場してもらいたいからな。さっさとヤツに殺されたあと、外でわたしの討伐を指をくわえて見ていろ!」


 なんてムカつく口調で嘲笑ったヤツはオレたちに背を向け、いきなりダッシュして逃げだした。

 そんな言いようと、まさかの急な逃亡に腹を立てたオレは――、


「――待てッ!」

  

 殺害行為のペナルティなど忘れ、急いでその背中を撃とうとした。

 しかし長巻から愛用のサブマシンガン『グリースガン』に持ちかえるため、わずかに手間がかかる――その間にゴキブリみたいにさささっと駆け抜けたヤツは物陰に姿を消していた。


「――ちッ!! 逃がした!」


 左右に銃口をむけてヤツを探したが、入り組んだ廃ビルの谷間とガレキの山の中じゃ見つけられない。 

 オレは行儀悪く盛大に舌打ちして悪態をつく。


「……まったく、なんてヤツなんだ!?」



『VRMMO』――オンラインで大勢のプレイヤーが参加するゲームだから、ろくでもないヤツがいるってことを話には聞いてた。

 だけど幸運なことに、ここまで会う人にめぐまれてたおかげで被害に会わずにすんでいた。

 それが、なんで今日にかぎっていきなり、地下水道ヘイブンだったり、こんなヤツにからまれなきゃならないんだろう。

 ああ、もう! 人の性格悪さが底なしだってこと――骨身にしみて教え込まれるなあ!


 とかなんとか、いろいろよけいなグチを考えてたが――状況はそれどころじゃなかった。



「GRRRRRRRRRUUUUHHHHH?????」



 サカマキにふりかけられたゾンビフェロモンをかぎつけたのだろう。

 こっちを見て方向を変えた巨大ゾンビが速度を上げ、確実にせまってくる!

 そして――、



「GUOOOOOOHHHHHHHHHHH!!!!!」



 ガルガンチュアは『そこか!』とか『見つけたぞ!』って感じの咆哮を上げた。

 殺意にあふれたその目は――まちがいなくオレたちに向けられている。

 迫る大型ボス――背後には動けないサユリさん。女王ゾンビのときと立場を入れ替えた大ピンチだ。



「……くッ!」



 目の前までせまった危機に、オレは反射的にパワードスーツケースを起動していた。

 意識を失ったサユリさんを抱き上げ、いわゆるお姫さまだっこの姿勢で一気に駆け出す。

 ま、介護用の機械補助(アシスト)スーツもあるし、使い方としてはまちがってないよな。



 そして、次の瞬間――オレたちのいた場所に向け、ガルガンチュアが一気に突進してきた!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 数分後、廃ビルのガレキの影にて――、 

 オレはためていた息をそっと吐き出す。


「……ふう……アブナイとこだった」


 ガルガンチュアの襲撃を逃れ、オレとサユリさんはガレキの中に逃げこんだ。

 その数秒後、オレたちの居たあたりにガルガンチュアが突進をかけてきて――、 

 


 ――ガァン! ドガァ、ドゴォォォン!  



 周囲の廃ビル――コンクリと鉄筋の塊が巨大ゾンビの体当たりであっさり砕け散り、もうもうと土ぼこりをたてる。

 いやはや、とんでもない破壊力だ。あのまま逃げずにいたら二人ともやられてただろう。 

 しかし、さいわいなことにガルガンチュアの立てたその土煙がオレたちの姿を隠してくれた。  

 あれから恐怖と緊張のせいで長く思える数分の間……オレたちは大きなガレキの影から出られずにいた。


 ドクドクドクドク――間一髪の危機をくぐり抜けた心臓が16ビートの強烈な自己主張をしてくるが、まだ完全にピンチを抜け出せたわけじゃない。

 サカマキにかけられた液体――『ゾンビフェロモン』のせいで、巨大ゾンビはこの場を離れようとしない。

 地面に顔を近づけ、自らを引きつけるにおいの元を求め、くんくんかぎまわっていた。


「……さっさと、どっかにいってくれよ」


 小声で必死に祈りつつ、オレはガレキのすきまから巨大ゾンビのようすをうかがう。

 だがゾンビフェロモンの効果はまだまだよゆうで健在なようで――。


「――GU?! GUA!?」


 なにかを嗅ぎ取ったのか、急に振り返った巨大ゾンビの姿にオレは急いで頭を隠す。


 うおッ……あとちょっとで見つかるとこだった! 

 まったく巨大ゾンビとの鬼ごっこは心臓に悪すぎるぞ! 


 それから、しばらく――。

 オレが物陰で身をひそめてると重い足音が消え、周囲は静けさに満ちた。



 ……ん? さすがにもうあきらめたかな?



 と、オレはほんのり希望をいだく。

 だが、しかし――、



「……ふう」



 そこでようやく、ほっと一息ついた瞬間。

 背中にチクチクと突き刺さるような感覚――見られてる気配に気づく。



 ……あれ? これってもしかして……。



 イヤな予感とともに、オレはななめ後方にふりかえる。

 すると、オレがようすをうかがってたのとは別のすきまから――、



 ……血走った巨大な目がこっちをのぞいていた!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 巨大ゾンビが動きを止めたのは、あきらめたせいじゃなかった。

 どうやらにおいでオレたちの居場所を突き止めたからだったらしい。

 硬直したオレとのぞきこんだガルガンチュア――真正面から目と目が合う。

 そして次の瞬間――、 



「GUOOOOOOOHHHHHHHHH!!!!」



 獲物(オレ)を発見したガルガンチュアが歓喜のおたけびをあげる。



 ――ま、マズい! 見つかった! 



 予期せぬご対面にオレの心拍数がいっきに跳ね上がった。

 恐怖でパニックになりながらも、オレは必死で頭を働かせる。


 な、なんとかしないと! でも……どうしよう!? 

 この状況じゃ、もう隠れてられない。かといって逃げるのも無理だ。ダッシュしても追いつかれるし、そもそも、せまいガレキの中にいるから逃げ場がない。

 ……じゃあ助けを呼ぶのは?

 ……いや、ダメだ。他のみなさんはまだ離れてとこで通常ゾンビの相手をしてるし、今から助けを求めても間に合わない。



 ならば選べる選択肢は一つだけ――『戦う』以外になかった。



 やむをえずオレが覚悟を決める一方、ガルガンチュアは顔面を近づけてこっちを確認してる。

 どうやら、オレの他にも獲物がいないか探してるようだ。 

 一思いにガレキごと踏み潰さないのは油断か。それとも恐怖を長引かせるよゆうのつもりだろうか?


 しかし……オレにとっては唯一にして最後のチャンスである。

 ここで一撃入れ、ひるませる以外に脱出のチャンスはない。このまま隠れていてもやられてしまうし。 


 けど――今の状況じゃ弱点である脇を狙えない。

 硬い顔面に当ててもダメージは通らない、だとすると他に狙える場所は……。

 大ピンチに追い込まれた脳がフル稼働を始め――その瞬間、ひらめきが脳内に走った!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ……あ! もしかして脇だけじゃなく、目もいけるんじゃね?!

 ぱっと見はやわらかそうだし、もしかしたらここも弱点かも!?


 ガルガンチュアと再び目が合った瞬間、急に思いつきが湧いてくる。

 というよりガレキのすきまからじゃヤツの顔しか見えず、他に狙える場所はない。

 

 でも……問題が一つあった。

 一発で大きな痛手をあたえられないとダメなのだ。ちょっとしたダメージじゃヤツを怒らせるだけ。激怒したヤツの攻撃を隠れてるガレキごとくらって昇天(ゲームオーバー)してしまう。

 きっちりキツイ一発をくらわせないと、あの巨大ゾンビをひるませるなんて無理だろう。

 しかし……オレの手持ちにそんな強力な武器なんてない。


 ……む、やっぱこりゃダメかも。ごめんサユリさん。オレをリベレーター地獄から助けるためについてきてくれたのに……こんなとこで巻きぞえにしちゃうなんて。


 せっかくのアイディアで湧いた希望がみるみるうちにしぼんでいこうとした。

 あきらめの中、オレは倒れてるサユリさんに謝る。

 そして同時に、オレたちをこんな状況に追い込んだ欠陥銃器を呪った。


 まったく……なにもかも、あの疫病神(リベレーター)のせいだ!

 やっかいなプレーヤーにあわされたり、巨大ゾンビに殺されそうになったり……あげくサユリさんをこんなとこで死なせそうになったり……もう頭に来たぞ!


 と、オレは腐れ縁の銃器に八つ当たりする。

 だが、そのとき――、

欠陥銃器(リベレーター)』の名を思い浮かべオレの脳に一つの記憶がよみがえってきた。



 ……ん……待てよ? リベレーター……そういえば……?



 次の瞬間、脳内の神経がバチバチと音をたて、思考回路がぶん回る。

 そして――、



 そうだ……あった! 

 一つだけあったぞ! かなり問題児だけど『アレ』ならいけるかも!

 


 再び湧いてきた希望とともに――、

 オレは手持ちの武器――今はパワードスーツの手の一本が持ってる『とある銃』に視線を送った!




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