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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
四章
51/59

VSガルガンチュア!

 ゾンビの群れと人間(プレイヤー)の戦いが最高潮(クライマックス)に達する! 



 ――GRRRRRRRRAAAAAAAAAAHHHHHH!!!



 うなりを上げて突撃してくるゾンビご一行さま。

 大量のゾンビが押し寄せる迫力はすさまじいの一言だ。

 

 しかし人間側も負けてはいない。ゾンビに向けられた銃が一斉に火を噴く。

 銃弾を雨あられと浴びせられたゾンビから、瞬時に原型が失われ――『かつてゾンビだったもの』は生々しく濡れた音を立てて地面に転がった。


 ちなみに――この大群(バタリオン)憤怒(アングリー)種と暴食(ハングリー)種が半々くらいの構成だ。

 おなじみ『ハングリー種』は古典的な『よみがえった死体』タイプ。体が腐ってて足が遅いぶん、打たれ強くてタフなゾンビさん。

 一方、『アングリー種』は21世紀になって流行り出した、いわゆる『走るゾンビ』。こっちはなにかの理由で凶暴になった元人間って感じだ。痛がったりする弱点もあるけど、その分、感覚が鋭くて足も速い。


 こいつら両方にいられると短所を補い合って、かなりやっかいなのだが――、

 今のプレイヤー側はそんな不利などものともしない。



「うおおおおおおおお!!!! どんっどん撃つぜぇぇぇ!」

「邪魔すんな! どけどけどけどけーッ!!」 

「さんざんやってくれたなぁっ!!!!」

「テメエら、さっさと逝っとけぇぇぇぇぇぇ!」


 ここまでやられたうっぷんのせいか、みなさん戦意(モチベーション)はかなり高めだ。

 銃弾をばらまき、近接武器をふるい――あちこちでゾンビをフルボッコにしてる! 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ――と、まあ戦線を立て直したプレイヤーたちが奮闘してる一方。


 銀行ヘイブンとオレたちは前線を引き、戦況をながめてた。

 撃ちもらしのゾンビを撃破しつつ、戦線の後ろについていく形だ。 


 ……ま、手柄のひとりじめはよくないしね。


 ほんで――。

 腕組みして戦いを見てた二階堂さんが満足そうにつぶやく。


「……ふむ。良い具合だね。ヘイブン同士の連携はうまくいってるようだ」

「はい。みなさん協力的で助かってます。もっと反発されるかと思ったんですが……」


 すこし意外に思ってたことに、オレは首をかしげる。 

 う~ん。ふだん競争してる相手と、こんなにあっさり手を結べるもんだろうか? 

 協力作戦を言い出しといてなんだけど、よくみんな乗ってくれたよなぁ……。     


 ――そんなオレの疑問、二階堂さんはこう答えた。


「さんざん苦戦させられたせいだろう。手ひどくやられて、協力しなければ負けると身に染みたのではないかな? 痛い目にあわないかぎり教訓というのは身につかない。『愚者は経験から学ぶ』というチャーチルの名言もあることだしね」 


 むむむ、なんか耳に痛い感想だな。オレもヒドイ目に合わないとわからないタイプだし。 

 二階堂さんの言葉があんまり賢くないオレの心にグサリと刺さる。

 そんな感じでヘコんでるオレに二階堂さんは苦笑して言った。  


「ははは、ちょっと無駄口が過ぎたようだね。年を取ると口うるさくなるのはこまりものだ。――ま、それはともかく……そろそろガルガンチュアに射撃するころあいじゃないかな?」


 ……あ、そういやそうですね。すっかり忘れてました。 


 二階堂さんの言葉を受け、オレはガルガンチュアに視線を送る。

 その巨大な立ち姿は――すぐそばまで近づいていた。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 大群(バタリオン)との戦いは見ちがえるように有利になった。

 プレイヤーたちは戦線を押し返し――ついに巨大ゾンビ近くまでたどりつく。


 ……うん。いいね。超大型ゾンビまで……ちょうどいい位置だ。  

 的もデカいし、たいがいの銃なら狙ったとこに当てられる距離。それでいてガルガンチュアが攻撃をしかけてこない間合いは維持してる。

 つまり『しかけるならここしかない』ってポイントにオレたちプレイヤー勢はいた。


 そこから――打ち合わせ通りプレイヤー勢はガルガンチュアを包囲するような形に動く。

 ほんでもって全ヘイブンの全射手が射撃準備を整えたとこで、二階堂さんが片手を上げた。


「……よし! 今だ!」


 と、二階堂さんが一声かけるとともに――、



 ――ドドドドドドドドォ!

 ――ダダダダダダダダダダダ……!

 ――ガガガッ、ガガァン!!

 ――ババババババァン!!! 



 合図を受けて火を噴く大量の銃器――銃声の大合唱はいきなり始まった。

 大人数による一斉射撃はすさまじい大迫力。間近の轟音が内臓をゆらす。  


 そして、これまた打ち合わせ通り――各ヘイブンは割り当てられた場所へ銃弾を当てていた。

 ガルガンチュアの全身に着弾の火花が散り、まぶしいくらいにあたりを照らす。

 

 ――よし、いいぞいいぞ! ねらいどおり!


 その光景にオレは歓声を上げるが……、

 しかし、さすがのカチコチ装甲。ほとんどの銃弾がダメージを与えられず弾かれていた。

 でもって、よゆうで立ちはだかる巨大ゾンビの姿にオレはあせる。


 ……あれ? もしかして無傷(ノーダメ)? ピンポイントバリアかATフィールドでも装備してるのか?

 あんだけ弾を当てたんだし少しは痛そうにしてほしいんだが……かわいげのないゾンビだよな。


 オレは八つ当たり気味の難癖をつけ、他のヘイブンにも失望の色が広がる。 

 だが、それでも――こりずに射撃を続けてくと『弱点さがし』は急に成功した。

 張られた弾幕のうちの数発がガルガンチュアの『脇』の部分に届いたのだ。



 ガルガンチュアの巨体からすると、ほんとに小さな銃弾が『左脇』に着弾した瞬間――、

 


 ――ビシャッ!

 


 周囲に血が飛び散り、さらに――、



 GYAAAAAAAAAAAAHHHHHHHH!



 ――ガルガンチュアは痛みにもだえ、絶叫を上げた!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 カチコチ巨大ゾンビが初めて見せた反応――周囲は騒然とする。


「まさか……ほんとうにあったのかよ……弱点」


 なんて、だれかがつぶやいていた――どうやら作戦の成功には半信半疑だったらしい。


 ……ま、その気持ちはよくわかる。

 策を考えた本人(オレ)も目の前の光景にビックリしてたのだから。 

 

「……ふむ。弱点と言えば定番の『かかと』だと思ってたんだが、ちがったか……残念」

「なるほど『脇』ですか……そういえば組討術を習ったとき、左脇を狙えと言われましたね」


 一方、オレの隣の二階堂さんはいつものように落ちついてた。

 サユリさんもぶっそうなことを言って、妙に納得している。


 と、まあ、思いどおりの事態が逆に意外で――。 

 あっけにとられたオレたちだったが、二階堂さんがすぐ我に返る。 


「いかんいかん。弱点をさっさと攻撃しないとな。あの位置なら……今は病院ヘイブンのからの攻撃が有効か。ええと、だれか連絡にいってはくれないかな?」


「……あ、だったらオレが行きます」


 メンバーを見回した二階堂さんにオレは名乗り出る。

 せっかく万全な感じの銀行ヘイブンの連携を崩すのはもったいないし、部外者のオレが行ったほうがいいと思ったのだ。

 あのサカマキっておっさんに会うのはヤだけど……このままだと手持ちぶさただしね。 


「タクくん……行ってくれるならありがたいが……本当に大丈夫かね」


 二階堂さんは一瞬だけ不安そうなようすを見せた。

 その心配をゾンビへの警戒だと思ったオレは、あっさり笑い飛ばす。


「だいじょうぶですって。ここらへんのゾンビはだいたい掃討されてますし。それじゃいってきます」

「あ……、わたしもおともします!」


 さらにサユリさんも手を上げついてくることになった。


「む……二人で行くならば、まあ問題ないか……しかし、くれぐれも気をつけたまえ」 

 

 すでに駆け出したオレたちの姿に。二階堂さんは出発を認めざるをえない。


 もっとも――、

 このとき二階堂さんがなにを心配してたか……ちゃんと考えとくべきだった。

 その考えの甘さに、オレはすぐ気づかされることになる。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 



 ガラガラ、ゴロゴロ――、



 おなじみ『パワードスーツケース』を引きずり、オレは廃れたビル街を行く。

 当然のようについてきたサユリさんとオレは、二階堂さんから指示された地点を急いでめざした。

 その後、わずか数分で目標の場所についたのだが――。



 ……う~ん。なんだか気まずい。



 廃墟の街中、病院ヘイブンの中心――サカマキ氏の姿にオレは緊張する。

 少し前、向けられた敵意が気になってたのだ。 


 ……でも自分から言い出したことだしなぁ。


 そう考えたオレはイヤな気分を押し殺し、連絡員のお仕事をこなすことにする。 


「銀行ヘイブンからの連絡です。巨大ゾンビの弱点は『左脇』のようなので、一番狙いをつけやすいこの位置からガンガン攻撃してほしいとのことでした」


 するとサカマキ氏――話しかけたオレに一瞬だけ鋭い視線を向けた。

 もっとも、すぐに態度をとりつくろって声をかけてくる。

 

「おや。きみは……この策を考えたというタクくんだったかな? 連絡ご苦労。先ほどはすまなかったね。ヘイブンの連中が被害を受けて気が立っていたようだ」

  

 ――あれ? やけにフレンドリーだな? まるで別人みたいだ。


 ほがらかな猫なで声、あいその良さが不気味でオレは首をかしげる。

 一瞬だけ向けられたキツイ視線にも、なんとなく不吉な予感がした。


 後から思えば、この予感をもっと気にしとくべきだったんだが……。

 このときのオレは巨大ゾンビを倒すこと、ヘイブン同士を協力させることに夢中だった。 


 だから――こう続けられたサカマキ氏の頼みも断りきれない。


「……で、すまないがタクくん。我がヘイブンはご覧のようすでね。戦力としては不十分なのだ。攻撃に当たって、きみとそちらのお嬢さんに協力を頼みたい」 


 そう言って周囲のメンバーを見回すサカマキ氏。

 彼の言葉通り、白衣を着た病院ヘイブンのみなさんはボロボロ。

 ここまでの乱戦でそうとう痛めつけられたらしい。

  

「……え、ええ。わかりました。サユリさんも着いてきてくれますか?」

「はい。もちろん。タッくんについていきます」


 そんな状況への同情と言い出しっぺの責任感もあって、オレはサユリさんとサカマキ氏についていくことにした。

 その判断が、どんな結果をまねくかも知らないまま……。

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「タクくん、お嬢さん、こっちだ。ついてきてくれたまえ――病院のメンバーは安全なところまで退避」

「…………了解、リーダー」


 ボロボロなヘイブンメンバーに言い残したサカマキ氏は、愛用の武器らしいクロスボウ――弓と銃を合わせたような飛び道具を手にした。

 そして少し離れた場所までオレたちを案内する。


 ……あれ? なんで巨大ゾンビの進行方向と別の場所に?


 疑問に思ったオレがクロスボウをいじってるサカマキ氏にたずねると――。

 

「病院ヘイブンはスキルでさまざまな薬品を『調合』できるのさ。そしてこいつは『ゾンビフェロモン』。たいがいのゾンビを引き寄せることができる」


 と、得意そうに言い、サカマキ氏は白衣から小さなビンを取り出した。

 ほんでもって、そいつを豪快に地面にたたきつけ、中身をぶちまけている。


 ――ああ。なるほど。

 この前、蜂ゾンビ『ゾン・ビー』を引き寄せるため使ったのと似たようなヤツか?

 たぶん負傷してる仲間から巨大ゾンビを遠ざけるため、ここで使うつもりなのだろう。攻撃をしかけたらガルガンチュアの反撃が来るかもしれないしな。

 

 ……ふむふむ。このオッサン、けっこうイイとこあるじゃないか。

  

 なんて考えたオレは、サカマキ氏の本心を見抜けぬまま。


「この矢には致死性の毒が塗られていてな。こいつをアイツの弱点に撃ちこむつもりだ。狙いをつける間、周囲の警戒を頼みたい」


 ――という彼の言葉をすなおに信じてた。


「わかりました。それじゃしっかり狙ってください」


 返事したオレが、クロスボウをかまえたサカマキ氏に背を向け周囲に気を配ってると――、 

 カチリ――と背後で妙な音がした。

 

 ……あれ? なんの音だろう? まだガルガンチュアはこっちに来てないよな? 

    

 思わず気になってふりかえったオレの目に――。



 ――こちらへ向けられたクロスボウが映る!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 白衣を着たサカマキ氏がこちらにクロスボウを向け、引き金にかけた指を動かす――その瞬間がスローモーションのようにゆっくり見えた。


「――サカマキさん!? なんで!?」


 問おうとしたオレは彼の表情を見て、すべてを悟る。

 初老の男の顔に浮かんでたのはドス黒い笑み――そいつを見れば最初からサカマキが『これ』を狙ってたのは明らかだった。

 そしてヤツはオレの胸の中心を確実に狙っていて――、



 ――ダメだ! これじゃよけられない!



 オレが絶望とパニックにおちいりかけたとこで――。



「――タッくん!」

 


 横から飛び出した一つの影――サユリさんがオレを突き飛ばす!

 おかげでオレは間一髪、ボウガンの矢から逃れられた。


 ただ、やや遅れて――、



 ――ブシュ!



 なにか柔らかなものを貫く音が聞こえた。

 それはオレの体が立てた音じゃない。オレが無傷ということは……まさか!?


「サユリさんッ!」


 叫んだオレの目の前で剣術美少女は倒れ伏す!

 起き上がり、急ぎ駆け寄ったオレに――、



「よかった、タッ……くん。あの男、急に……妙な殺気が……気に……なって」



 そこまできれぎれにつぶやいて、意識を手放すサユリさん。

 そのきゃしゃな肩には……深々と矢が突き立てられていた!




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