インターミッション!!
パンタグリュエル撃破後――、
大量のゾンビとプレイヤーが入り乱れ、死闘をくりひろげる戦場にオレたちは足を踏み入れた。
で、そのむこうには今回のイベントのボスの片割れ『ガルガンチュア』のビッグなお姿が見える。
もう一体のお仲間――先ほど天に召された巨大ぽっちゃりゾンビに比べ、筋肉質でシャープな顔立ちと体型。ゴツイ腕を胸の前で組み、足を左右に大きく広げ――いわゆるガイナ立ちしてるようすは、じつにボスっぽい感じだ。
もっとも……今はアイツの相手をしてる場合じゃない。
まず他のヘイブンのプレーヤーさんたちを救援しないと。
――そんなわけでオレとサユリさん、それに銀行ヘイブンのみなさんは戦場に足をむける。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
響く銃声と打撃、斬撃の音、そしてゾンビのうめき――乱戦の風景には闘争心をかきたてられる。
――よし! やるぞ!
と、勢いこんで戦場に突っこみたくなるオレ。
だが、そこで致命的なミスが発覚した。
……あ、でも、どうやって助けよう?
そこまできて自分がノープランだったことに気づく。
アホみたいな話だが急な方針変更で、救出方法なんて考えてるヒマがなかった。
……う~ん。どうしよう?
いっそのことスーツケース型の補助機械『パワードスーツケース』を使ってしまおうか?
どうせ、ここまでタダの荷物でしかなかったんだし、こいつを使えばちょっとやそっとのムリは通じる。
けど――帰りの足が無くなるのはこまるなあ。
なんて悩んでるオレに――、
「ここから先はまかせておきたまえ。集団戦なら、きみたちより慣れているからね。……というわけで、まずは目の前、敵の一角を食い破る! さあ、行こうか! 銀行ヘイブンの諸君!」
二階堂さんがたのもしく言って仲間のメンバーに声をかける。
すると――、
「「「「おうッ」」」」
銀行メンバー一同より、ぴったり息を合わせた返事が返ってきた。
そして前衛、後衛、中距離戦用――それぞれの武器にあわせて隊形を組みなおす銀行ヘイブンのみなさん。
打ち合わせもないのにすぐ動けるあたり、一人でも優秀な人は集団になっても優秀らしい。
で――まず遠距離戦、スナイパーライフル使いの二人がひざをつき、射撃を開始する!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――ダ、ダァン!
二発の銃声が朽ち果てたビルにこだまし、銃弾が空気を切り裂いて走る。
ほぼ同時、倒れたプレイヤーに襲いかかってたゾンビが頭部を撃ち抜かれてのけぞった。
――うっひゃ! あいかわらずスゴイ正確さだな!
みごとなヘッドショットを決めたスナイパーの二人に思わずうなってしまうオレ。
そして矢つぎばやの二射目――さらに二体のゾンビが頭を吹っ飛ばされた。続けざまの撃破で大群の一角に戦力のうすい場所ができる。
そのわずかな突破口を銀行ヘイブンは一気にこじあけにかかった。
「マル、行ってくれ!」
「おう、わかってる! みなまで言うな!」
まずバトルライフル――中距離戦に強い銃二丁の連射でゾンビの群れがなぎ払われた。
次に一歩前に出たアサルトライフル――近距離戦で制圧力を発揮する銃で掃射して、広範囲のゾンビに弾薬のシャワーを浴びせる。
ここまでで、かなりのゾンビが倒れた――おそらく十数体。あっというまのできごとだった。
他のプレーヤーたちに襲いかかってたゾンビ集団の横腹をつく奇襲が功を奏したらしい。
「ほいほ~い! あたしらの出番だね~!」
さらに散弾銃を持った三条さんと、もう一人が猛ダッシュで急接近をかけ――残ったゾンビを各個撃破していく。
バァン――ビシャッ!
ドゥン――ブシュゥ!
接近戦では圧倒的威力を持つショットガン――その破壊力にオレは驚かされた。
大量の弾をぶちまける鳥打玉をほぼ全弾くらい、肩から上がまるっと消失するゾンビや大粒の一発玉――対猛獣用のスラッグ弾で、どてっぱらに大穴を開けてるゾンビなどなど……。
散弾銃の強烈パワーはスプラッタな光景を作り出しながら、まばらに残ったゾンビを駆逐していく!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
……ありゃりゃ、オレたちの出番がないや。
見せつけられた銀行ヘイブンの戦闘力――個人の腕と集団戦術の完全な融合にオレはもう声も出ない。
「ふ~む……なかなかやりますね」
接近戦じゃ最強剣士のサユリさんも目を丸くしてる。
それくらい銀行ヘイブンの見せた連携はカンペキなもんだった。
「ひゃっは~! どんどん行くよ~!」
特にさっきから奇声を上げて戦ってる三条さん――小柄ギャルお姉さんが見せる散弾銃のあつかいは強烈なインパクトがある。
狙いはざっくり大ざっぱだけど、キッチリ当てられるとこまで接近して撃ってるから問題ない。軽い体重でも射撃の反動をうまく殺しつつ、次の目標に最速、最短距離で迫っていく。
躍動感のある動きで次々と敵を屠ってく姿はストリートダンサーみたい。
激しく速い三条さんの戦いは、日本舞踊っぽい優雅さを持ってるサユリさんとは対照的な動きだ。
「……む、あの動き、わたしでも苦戦させられるかも……弾切れの瞬間を待つしかなさそうですね」
なぜか知らんが三条さんとの戦いかたを考えているサユリさん。これは、どうやら強い相手と出会ったときの習性らしい。
そんな風にオレたちがのんびり観客をやってられるほど、銀行ヘイブンの戦いにはよゆうがある。
で、しばらく銀行ヘイブンの素晴らしい戦闘シーンが続いたあと。
ゾンビとプレーヤーたちの乱戦に、ぽっかりと大きな空白地帯ができあがった。
そこですかさず――、
「こっちだ! 生きのびたければ我々が開けた突破口から離脱したまえ!」
大量のゾンビとドンパチやって苦戦してた他のプレーヤーたちに二階堂さんが声をかける。
その声に反応して、どんどんこっちに人がやってきた。
人間側が少し形勢が悪い戦況、押しあいへしあいで硬直してたとこに風穴を開けたから、どっと人が流れこんできたのだ。
「こいつはありがたい!」
「マジ助かります!」
と、素直に救援に感謝する人が半分くらい。
「……く、やむをえないな」
「他人の手を借りるのはしゃくだが、この状況では……」
なんて、ちょっとくやしそうに指示に従う人もいた。
あとは――、
「ヤダね! おれはまだまだ殺りたりねェ!」
「ああ、ヤダもう! あとちょっとなのにぃ……きゃあっ!」
もう完全にイッチャってる感じの戦闘狂らしき人、力およばずこっちまで来られなかった人とか……。
残念ながら全部は救えず、三割くらいの人はやられてしまった。
それでも――、
追ってくるゾンビをどんどん撃破する銀行ヘイブン、それに一度態勢を立て直してから救援に入ってくれた他のプレーヤーさんたちのおかげで多くの人が乱戦を脱出できた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
GRRRRRRRRRRRUUUUUUUHHHH!
逃げた人たちのあとを追って押し寄せるゾンビの群れ――およそ百体ほどか。さっきに比べて大きく数を減らしている。
たぶん理由はパンタグリュエルが敗れたからだろう。ゾンビを引きつけるフェロモンの元がいなくなって出現数がかなり減っているのだ。
くわえて、もう一つの理由は……ヘイブン同士が協力しあってるから。
先ほど救出した人たちが回復や銃のリロードをすませ、次々と攻撃に参加してくれた。乱戦のときのように同士討ちの危険がないのでけっこう有利な状況で戦えている。
おかげで、オレたちはじょじょにであるがゾンビの群れを押し返しはじめていた。
と、まあ戦線が一段落したとこで――
銀行ヘイブンのボス・二階堂さんのとこに主だったヘイブンのリーダーがやってくる。
白衣の初老男性、制服姿の秀才っぽい少年、そして露出の多い服装のセクシーお姉さん――老若男女さまざまな人たちが、それぞれ口を開いた。
「『病院』の院長サカマキだ。よく助けてくれた。礼を言うぞ」
「『高校』ヘイブンからも感謝をのべさせていただきます……つい、いつものペースでバタリオンに突っこんで乱戦に巻きこまれてしまいました。正直、危ないとこでした」
「まったく……急に大型ボスを出してくるなんて運営も人が悪いわ。これで銀行ヘイブンに借りができちゃったわね」
――てな感じで礼を言ったリーダーたちに、二階堂さんは首を横に振る。
「いやいや。礼はけっこう。貸し借りもなし。こまったときはおたがいさまだ。それに……こちらにも思惑があってやったことだからね」
そんな二階堂さんの言葉にリーダーたちはぴくりと反応した。
「……ほう。思惑だと?」
「ええと、なにか妙なことじゃないですよね?」
「そうだわ。借りがあるのはたしかだけど、だからって使いっぱしりや楯に使われるのはまっぴらよ」
なんて露骨に警戒の色を見せるリーダーたち。
……ま、それも当然っちゃ当然か。
ふだんはおたがいゾンビ討伐数を競い、物資を奪い合うライバル同士なんだし。
でも、この人たちの協力がないとガルガンチュア討伐はうまくいかないわけで……。
う~ん、どうやったら信頼してもらえるのかな? うまく説得できないと、こまったことになるぞ。
と、オレがちょっと不安になったとこで――、
疑い深そうに見つめる他ヘイブンのトップに二階堂さんが笑いかけた。
「もちろん無理難題を押し付けるつもりはないさ――それどころか諸君にとってもいい話だと思う」
いつもの人を落ちつかせる笑みを見せ、二階堂さんは語り始める。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「――というわけだ。こちらの狙いは理解してもらえただろうか? であれば協力してもらいたい……付き合いのあるヘイブンのリーダーにも話を通してもらえると、なお助かる」
二階堂さんがオレの何十倍もわかりやすく『ガルガンチュア討伐作戦』について説明する。
ざっくり言うと『巨大ゾンビに対して合同で弱点さがしの攻撃をする』ってアイディアだ。
すると――、
「……ほう。なるほど」
「たしかに悪くない話ね。他の店の連中にも教えてみるわ」
「ええ、これなら生徒会の連中の同意も得られそうです。大学ヘイブンにも協力を要請してみましょう」
納得してくれたリーダーさんらは深くうなずいていた。
そのようすにオレは――、
……ほっ。これで作戦の第一段階はなんとかなりそうだな。一番大事なとこがうまく行ってよかった。
と、胸をなでおろしていた。
しかし、あれこれがせっかくうまく行きかけてたとこで――、
病院ヘイブンのリーダー・サカマキ氏が二階堂さんによけいな一言を放つ。
「……ふむ。さすが我ら『病院』ヘイブンとならびエリートぞろいと言われる『銀行』だな。この短時間で策を考えつくとは……そこらの凡人どもとは格がちがう」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「どことは言わんが、よそのヘイブンの愚行に巻きこまれ、ひどい目にあったよ。しかし我々と同じく選良たる君らのおかげで勝利の目が出てきた――実にありがたい話だ」
院長を名乗るサカマキ氏が口にしたのは、他のヘイブンを見下すイヤミ発言だった。
ゾンビの大群にボコられ、他人に助けられてプライドが傷ついたのかもしれないけど――ヘイブン同士が協力しなきゃならないとき、ホントにいらない迷惑発言だ。
さりげなくディスられ、お隣の秀才少年とセクシーお姉さんがムッとした顔をする。
近くのオレもヤな気分になったが――二階堂さんは笑みを顔に張りつけたまま、こう答えた。
「いや。あなたにとっては残念だろうが、この案はウチのヘイブンから出たものではないよ。そこにいる彼――タクくんが考えてくれたものさ」
二階堂さんがさらっと言い、そこにいた一同の視線がオレに集まった。
なぜかエッヘンと胸を張ったサユリさんはともかく――急に注目をあびたオレはあせる。
――ちょ、いきなり何言ってるんですか二階堂さん! どういうつもりです!?
「どうもこうもない。タクくんが策を考えたのは本当のことだろう? ついでにいえば他ヘイブンの救援を願ったのも彼だ。つまりサカマキ氏が生き延びているのもタクくんのおかげだな」
と、しれっとした顔でオレに返答する二階堂さん。
そのやりとりを聞き、イヤミなサカマキ院長はオレをじろりとにらみつけた。
「……ふん。まあ、この程度の策ならだれでも思いつくしな」
どうやら認めた相手が立てた計画じゃないことが気に入らないらしい。
急に意見を変えて、そっぽを向くサカマキ氏。
一方、ザ、生徒会長って感じの秀才くんとセクシー美女さんは――、
「そうですか。あなたが……。本当にありがとうございます。他の生徒会メンバーに代わり、礼を言わせていただきます」
「ええ、本当に感謝だわ――服を買いたくなったら、いつでもショッピングモールに来てね。お安くしておくから」
感謝を言葉と態度で伝えてくれるお二人さん。
おかげでサカマキ氏の悪意も気にならない。
というわけで――。
少しばかり問題もあったけど、他ヘイブンとの協力関係はなりたった。
そして――ゾンビたちに対する人間からの反撃がはじまる!