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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
四章
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インターミッション!

 落とし穴にハメ、クレーンのワイヤーでやっつけた巨大ゾンビ『パンタグリュエル』。

 スゴイ形相であちらの世界に旅立った超大型怪物のそば、オレはパニックにおちいっていた!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 あわわわ! ど……どうしよう!? 

 もう一体のボス『ガルガンチュア』を倒すため利用するはずの重機(クレーン)がガス欠で使えない!

 銃弾すらはじきそうな装甲を持ってる敵に重機の馬力が通用したかはわからない。

 それでもアレがあれば、いろいろやりようもあったのに――大誤算にもほどがあるぞ!

 

 作戦の一番大事なとこが崩されて、あわてたオレ。

 なにも考えられなくなって、顔から血の気が引いてくのがわかった。 

 すると……オレのようすに気づいたのか、二階堂さんがなだめるような声をかけてくる。


「落ちつきたまえタクくん。きみのアイディアでボス一体を倒せたのだ。二体は連携できず各個撃破できたのだから……その点を良い方向に考えようじゃないか?」


 という低くてシブい二階堂ボイスのおかげで少しパニックがおさまった。


 ……う~む。そりゃたしかに。

 二体ボスが出た場合、片方に攻撃を集中して倒す――ってのはロープレ、狩りゲーなどジャンルを問わず、どんなゲームでも定番の攻略法。 

 つまりパンタグリュエルを倒せたのは勝利に向けて大きな一歩ってこと。

 ガルガンチュアとパンタグリュエル――二体と同時に戦うより、はるかにマシな状況ではあるんだよな。



 ――そう考えると、かなり気が楽になった。  

  


「……だいぶ落ちついたようだね?」

「お、おさわがせしました。便利な重機(どうぐ)に頼りすぎてたみたいです」


 二階堂さんにぺこりと頭を下げると、三条さんたちが笑いながらフォローしてくれた。


「ま、気持ちはわかるよ~。ロープレでも最強武器とか最強キャラを手に入れて慣れたころ、いきなりイベントとかで使えなくなると――もうホント頭のなか真っ白になるもんね~」

「ああ。『最強』ってのも意外と考えもんだ。装備とか使用キャラが固定されちゃうから、知らず知らず頭を使わなくなるしな。おかげで急な非常事態に対処できない」

「ボス戦で単発のフィールド配置武器(オブジェクト)があるのは定番だけど……そうは思えなかったもんな、あのクレーン。おれだって、もうちょっと長く使えると思ってたし」


 とかなんとか――三条さんらの『ゲームあるある』話を聞いてるうち、ぐるぐるしてた思考がスーッと冷えてくる。


 と、そこで――、

 

「……で、どうだね? ガルガンチュアと戦うための策――なにか見つかったかな?」


 またも今後の策をたずねてくる二階堂さん。

 考えるのをオレに丸投げしてるワケじゃなく、別な意図がありそうだ。

 弟子に試練を与える師匠っぽい感じ……だろうか? 興味深そうな表情は若者(オレ)の成長を願って考えさせてるように思えた。


 ほんで……こっちも、その期待に応えたくなって必死で頭を働かせる。


 え~と。つまり、手持ち武器であのカチコチゾンビを倒す方法ってことだよな?

 そこそこな長さのゲーム経験から考えられる方法っていえば…………、



 ようやく動き出した脳みそで、オレはガルガンチュア攻略法を考えはじめる。

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 二体目の巨大ボスゾンビ『ガルガンチュア』を倒すため――オレは足りない知恵をふりしぼる。  

 

 ……う~む。『ガルガンチュア』って、かなり防御力のあるボスゾンビだ。岩みたいな装甲で最初の下水……じゃなかった『地下水道』ヘイブンの攻撃もあっさり弾いてたし。

 てことはたぶん、RPGや狩りゲーによく出てくる『硬さ』が売りなタイプのボスなんだろう。

 今までやってきたゲームでも初見じゃ苦労させられたし、惨敗してゲームを投げ出したことも多い。 


 でも……。

 

 ここまでの経験上、この手の『硬いタイプ』の敵には『弱点』があるのがふつうだ。

 たとえば『属性』だったり『魔法』だったり『特殊なアイテム』だったり――あるいは装甲が薄かったり柔らかかったりする場所。 

 試行錯誤して弱点(そこ)に気づけば、あっさり倒される中ボスにすぎないんだよなぁ。

 

 と、考えをめぐらせてるうち――、

 なんとなくだけど、ガルガンチュアを倒す方法が浮かんできた気がした。

 そんなオレの変化――楽しそうにながめてた二階堂さんは気づいたみたいで、


「……ふむ。なにか思いついたようだね?」


 と、声をかけてくる。

 オレもうなずき、答えた。


「はい。でも、そのためには必要なものがあって……」

「――必要なもの? それってなにかな~?」 


 そこで興味津々で首をつっこんできたのは小柄ギャルの三条さん。

 首をかしげてる三条さんにオレは視線で答えを示す。


「あれです……あっちで戦ってるみなさんの協力が必要なんですよ」


 と、オレが向けた視線の先には――、

 ゾンビの大群(バタリオン)と乱戦をくりひろげてる他ヘイブンの姿があった。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ――ドン、ドドン、ガガガガッ!

 ――ザシュ、ボギャッ!


 廃墟の街中、さっきから響いてた銃声に骨を砕く打撃の音、肉を切り裂く斬撃の音が混じる。

 巨大ゾンビのお供――通常型ゾンビの大群と他ヘイブンが戦う音だ。


 パンタグリュエルにガルガンチュア、それぞれ百体くらい通常ゾンビを従えてて、数は増えもしないが減りもしない。残りゾンビ数が100を切ると周囲の地下から補充されるみたいだ。

 おかげで他ヘイブンはキリのない消耗戦に引きずりこまれていた。こんな戦いに巻きこまれなくてホントよかったと思う。   


 ――で、そんな中、他ヘイブンの救援に向かいながら、オレは新たな思いつきをざっくり話す。 



「ほう……つまりタクくんの狙いはガルガンチュアの弱点探しってことか?」

 

 とっちらかったオレの説明を理解し、その上でまとめてくれる二階堂さん。 

 年長者さんのありがたいフォローに感謝しつつ、オレは後を続ける。 


「そうです。体全部が堅いはずないだろうし、関節とか弱点っぽいとこを軽く攻撃して、ダメージの一番とおりそうな場所を見つける。で、そこに攻撃を集中すれば討伐できるかな――と、思ったんです」


「……そして、その弱点探しのためには頭数が必要。だから他ヘイブンを助ける……と?」

  

 オレの考えを先読みした二階堂さんは、オレよりわかりやすく話してくれた。

 質問の形をとった要約にオレはうなずき、同意する。



 そう……ガルガンチュアの弱点探しには多くの人の協力が必要なのだ。

 動き回る大型ゾンビの全身に攻撃を当て、弱点をさぐる――銀行ヘイブンとオレたちだけでやったら、かなり時間のかかる作業である。 

 その作業の間に苦戦してる他ヘイブンがゾンビの大群にやられたら……今度は残ったオレたちに攻撃が集中して、ガルガンチュアを倒すどころの話じゃなくなる。

 それよりは他ヘイブンと協力し、ゾンビの大群の足止めをする人たち、大型ゾンビに探りの攻撃を浴びせる連中と大勢で役割分担したほうが、なにかとつごうがいい。

 そのあとの弱点への集中攻撃も手数が多いほうが有利だろうしね。


 ま……他のヘイブンと功績を分け合うことになっちゃうが、倒せないままバッドエンドをむかえるよりマシなはずだろう。



 ――そんな考えをオレはめぐらせていた。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「へ~、他ヘイブンと協力して攻撃をしかける作戦って、そういう狙いがあったんだね~。通用しない攻撃じゃ意味ないと思ったけど、目的は弱点さがしってことか~……」


 オレの提案――というより二階堂さんの説明に感心してる三条さん。

 そんな小柄ギャルお姉さんに、オレは頭をかきながら答えた。


「はい。まあ定番(ベタ)といえばベタなやり方ですけど……他に方法が思いつかなくて。なにも案がないよりマシって程度ですから、正直、微妙だと自分でも思うんですが……」

 

 あんまり自分の提案に自信が持てないオレ。

 しかし、三条さんは首を左右に振ってこう言った。   


「……いやいや~。たしかに言われてみれば定番な攻略法だけどさ~。この状況で、すぐアイディアを思いつけるのはスゴイって」


 ふむふむと深くうなずいてる三条さんに、他の銀行メンバーも同意する。


「うむ。この『ゾンビヘイブン』は驚くほどリアルだ。ゲームだってことを忘れそうになるくらいにな。目の前の現実としか思えない怪物のせいで『攻略法があるかも』って考えが頭から吹っ飛んでしまう――そんな状況で頭が回るってだけで大したものさ」


「そうだな。まして今回みたいに巨大な化け物がいきなり出てくると圧倒されちまう。それなりにゲームはやってるはずの連中が苦戦してるのも、この『プレイする映画』が迫力ありすぎなせいだろう。そんな中、冷静を保つのはなかなかできることじゃないぞ。もっと自分を誇っていい」


 スナイパー二人組から口々に賞賛をもらったけど……変な気分だ。

 そもそも最初に突っこもうとしたとき、二階堂さんに止めてもらわなきゃオレだって乱戦に巻きこまれてたわけで……、

 そう考えると、そこまでホメられるようなことしてませんよ、オレ。  


 なんて、けんそんではなく思ったが――、


「な~に言ってんの!! 大人からのホメ言葉は素直にありがたく受け取っときなさい! そのうち、ど~んだけ業績あげてもぜ~んぜん評価してもらえない年齢(トシ)にイヤでもなっちゃうんだからね~!」

 

 と、三条さんが妙な実感のこもったお説教をしてきた。

 で、サユリさんも三条さんの言うことにうなずいている。

 

「そうです! タッくんはとにかくすごいんです! だから、もっと自信を持ってください!」


 ――と、ぐいぐいホメてくるサユリさんに、オレはちょっとあきれた。


 あの……サユリさん、ここんとこオレへのホメ言葉が口ぐせになってません?

 認めてもらってうれしいですけど、あんまり身内をホメるのも、どうかと思いますよ?

 

 と、照れつつも保護者(ヒサヨシさん)代理として、たしなめるオレ。

 しかし言いたかったこととは、別のとこにサユリさんは引っかかったようで――、


「へ……ひゃッ! タッくん……い、今、『身内』っていいました?!」 


 オレが口にした『身内』という単語にあわててるサユリさん。

 剣術美少女はぱたぱた手を動かして甲高い声を上げ、挙動不審なそぶりを見せている。


 ……ん? おかしなこと言ってしまっただろうか?

 妹みたいに思ってたから『身内』って言ったんだが、お気にさわったのかな?

 

「え……い、妹……ですか? そ、そうでした。妹ですよね、すみません」


 なにかかんちがいしてたらしいサユリさん、今度はそうつぶやいて落ちこんでしまう。

 そんなサユリさんに、三条さんが声をかけた。 


「なんというか……なかなか大変そうだね~、サユリちゃん」

「……わかりますか? わかってもらえますか?」

「――ま~ね。鈍感男子の相手する苦労は、よくわかるつもりだよ~」


 と、しみじみ言った三条さんにサユリさんが顔をあげて言う。

 その顔は理解者を見つけた喜びで輝いていた。

 む……ていうか『鈍感男子』ってオレのことか? 失敬な!


 そんなオレの気分も知らず、女子二人は盛り上がっている。


「――うぅ、ありがとうございます……三条さん」

「おぉ、よしよし……ミサトって呼んでいいよ」

「はい。ミサトさん!」


 下の名前がわかった三条さんの小さなボディへ顔をうずめにいくサユリさん。

 さっきまでの敵意とか殺意がウソのように三条さんになついている。



 てな感じでワケわからん女同士の友情が芽生えたとこで――、



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 GRRRRRRRRRRUUUU!

 GRRRAAAAAAAAAHHHH!



 ――間近でゾンビの声が聞こえた。それも複数!



 いつの間にかオレたちは乱戦のすぐそばまで来ていたのだ。

 足下に転がってる手足やらの人体部品(パーツ)は――おそらく討伐されて間もないゾンビのもの。

 目にした光景とゾンビの上げるうなり声で、抜けてた緊張感が瞬時にもどってくる。 



 そして――、

 引き締めた表情を見合わせる銀行ヘイブン一同。




 ――他ヘイブン救出のための戦いが今、始まろうとしていた!






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