VSパンタグリュエル!!!
GRRRRRRRRRRRRRRRRRAAAAAAAAAAAHHHH!
陥没した地面に足を取られた、やわらか巨大ゾンビ『パンタグリュエル』。
ぽっかりあいた大穴から脱けだそうとジタバタするが、崩れたガレキの間でもがくばかりだ。
そこへ――、
「オラァアアアアアアアッ!」
マルさん――銀行ヘイブンの一員が巨大クレーンを駆り、襲いかかる!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ウイィィィーーーーーッ!
うなりをあげて駆動する巨大クレーン――操作してるのはマルさんだ。
現実世界でもこの手の重機を使っているらしく、オレたちの頭上、強化ガラス張りの操縦席に座り、マルさんはクレーンを苦も無く操っていた。
ちなみに――このクレーンは悪路や荒地でも問題なく動ける最新式の『多脚型重機』ぱっと見メタ〇ギアみたいな感じの巨大メカだ。
そいつがぐわしぐわし音を立て、巨大ゾンビにせまる光景はかなり迫力がある。
ほんで、なんでそんなシロモノが使える状態で、こんな廃棄都市にあったかといえば……。
たぶん、このゲームお得意のハリウッド的ご都合主義――ツッコむほうがヤボだろう。
ま、それはともかくとして――。
八本足で踏んばりをきかせた巨大クレーンはごっついアームをぶんと振り回す。
そして炭素繊維の強靭ワイヤーでぶらさげた鉄骨をドデカゾンビにたたきつけた!
「でりゃああああああああっ!」
操縦席にすわるマルさんの気合とともに――、
ずっしり重そうな鉄骨がパンタグリュエルへ、すさまじいスピードでぶち当たる。
ウイイイイイイィィィィ…………グワシャ、グジャッ!
最初の一撃はみごと頭部に激突! 肉と骨が叩き潰される痛々しい音が響く!
同時にパンタグリュエルの顔面が左半分だけ陥没し崩壊していた。
おかげで、福々しいパンタグリュエルさんの丸顔がつぶれ、えらくスプラッタな見かけになる。
――ひゃ、ひえぇッ! めちゃくちゃグロいぞッ!
なんという……ことでしょう。匠の技のおかげで飛び出した眼球、こぼれる脳、あふれる血潮に露出した骨――すっかりゾンビらしい外見になってしまったパンタグリュエルさん。
そんなビフォーアフターな惨状にビビったオレだったが、すぐ気を取り直す。
……いかんいかん。作戦を考えた本人がおびえてる場合じゃなかった。
どうやらオレの思ったとおり、やわらかゾンビのパンタグリュエルさん『超再生』なんてスーパー能力持ちだが、防御力はほとんどないらしい。
銃弾程度の攻撃じゃ、ふんわり表皮で勢いを殺されてしまうが、十分に威力のある攻撃なら、きっちりダメージを与えられるみたいだ。
「――あ、そういや下水道ヘイブンが足を狙った攻撃も通用してたもんね。まあ、すぐ回復されちゃってはいたけど」
と、オレの考えに同意する三条さん。
作戦の成功を確信したのか、楽しそうに見上げてきた三条さんと視線を合わせ、オレは言う。
「はい。でも、あのときの傷は大型ゾンビからしたら軽い切り傷程度でしたから。回復する以上に大きなダメージをガンガン当てていけば――」
「――あのデカブツもいつか倒せる。そのためのクレーンと鉄骨ってわけだね」
説明したオレに、二階堂さんが確認するようにつづける。
今度は二階堂さんに顔を向け、オレはうなずいた。
「ええ。そのとおりです。それで、がっつりダメージを与えられるものを探したら、クレーンが目に入ったんで利用させてもらいました。やっぱ巨大怪物にはデカいモノで対抗ってことで」
と、オレは作戦を思いついた流れを口にする。
すると――サユリさんがかなり感動した表情をオレに向けてきた。
「へえ……あのでっかいゾンビ退治に大ダメージを与える……そんな理由があってクレーンを使ったんですね。本当に驚きです! タッくん!」
目を丸くしてるサユリさん――そのようすに、ちょっとオレはとまどう。
……あ、いや……美少女さんが、こんなに感動してくれるのは素直にうれしいです。
キラキラしたまぶしい尊敬の視線がうれしいのもホントなんですが……
でもサユリさん……作戦を思いつくまでの流れはともかく、作戦の目的はさっき説明しましたよね?
クレーンを使うワケ――巨大ゾンビに大ダメージを与えるっていうねらいも説明したはずです。
なのに、なんで今はじめて聞いたみたいに感動してるんですか?
「え……そうでしたっけ? う、あうぅ……それは……」
オレの問いに口ごもる残念美少女さん――どうやらオレの話は右耳から入って、そのまま左耳から抜け出ていたみたいだ。
……う~ん。ちょっとめんどい話すると、いつもこうなんだよな。サユリさん。
もしかして、三歩歩いたら頭から抜けてしまうのかも――。
そんな風に――少しだけ白い目で見てしまったオレに、サユリさんの顔から一筋汗がたれた。
「うぅぅ……と、とにかく、さすがタッくんなのです!」
「…………え、ええ、そうですね……あとはマルさんの腕に期待です」
力技で話をうやむやにしようとするサユリさんにあきれるオレ。
……ま、残念美少女さんのアレな理解力はいつものこと。
だから一々ツッコまないことにして――、
――大型ゾンビをフルボッコにしかけてるマルさんへ、オレは視線を向ける。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「おらおらッ! もういっちょ行くぜェ!!!」
すっかりガテンなノリ全開のマルさんが、巨大クレーンのアームを引いた。
同時にワイヤーと鉄骨もすごい勢いで引きもどされる。
――ガシャ、ガラガラガラガラ――ブゥン!
血肉まみれの鉄骨が地上を引きずられ、パンタグリュエルから距離を取る。
再攻撃にそなえ、加速をつけるため距離を稼いだのだ。
GU……GUUUUUU…………AH?
一方、顔面に鉄骨をぶつけられ、衝撃でもうろうとしてるパンタグリュエル。ふらふらと頭部が大きくゆれ、ダメージのほどを物語っている。おかげで二度目の攻撃の準備に気づいてなさそうだ。
情けないうめきまであげてる姿は、ちょっとかわいそうだったけど――ま、これもボスキャラの宿命と思ってあきらめてもらおう。
巨大ゾンビさんもオレたちを殺そうと追ってきてたんだし、敵意を向けられた以上は、それなりにお返しをしないとね。
てなわけで――、
「ガンガンやっちゃってください。マルさん!」
「あたぼうよ! まかせときなッ!」
江戸っ子なマルさんの返事とともに――、
ふらつくパンタグリュエルへ、またも重機の振り回した鉄骨が襲いかかる!
ガラガラッ、ブゥン……ゴグゥッ!
やかましい音を立てて地面を転がり、速度が乗ったとこで、ふわっと浮いた鉄骨。
そいつが巨大ゾンビの腕に勢いよく衝突し、大ダメージを負わせた。
肉がえぐれ、骨の砕け、血が飛び散り――すぐ傷の再生が始まったが、それもとちゅうで止まる。
おそらく最初に一撃いれた顔面といい、骨まで届くダメージはさすがに回復に時間がかかるらしい。
……うん! いいね! しっかり効いてる効いてる!
と、オレが作戦の効果に満足したとこで、さらに――、
「まだまだッ! 終わりじゃないぜェッ……と!」
完全にスーパーロボット系主人公のノリ――某スパ〇ボなら精神コマンドに『熱血』を持ってそうな熱さで濃ゆい顔になったマルさんはさけぶ。
そして三たび、うなりをあげて鉄の凶器が巨人ゾンビに襲いかかる!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ガラガラガラッ……!
――ズブシュッ!
腕に傷を負い、体勢を崩したパンタグリュエル――そのぼってりした腹部へ、鉄骨が見事に突き刺さる。
スピードが乗った上に、刺さった角度がよかったのだろうか?
とがった部分がぶよぶよした皮をあっさり抜き、鉄骨の半分以上が巨大ゾンビの腹に姿を消していた。
GYAAAAAAAAAAAAAAAASSSSHHHHHHHHHH!
おそらく内臓までぶち抜かれて、さすがの巨大ゾンビさんも苦痛の悲鳴をあげる。
ひときわ高い絶叫が巨大ゾンビののどから漏れ、天と周囲にとどろいた。
――よ~し! いいぞ! あとはこのままトドメまで行っちゃえ!!!
と、歓声を上げかけたオレだったが――、
マルさんの舌打ちがよろこびに水を差す。
「ちッ……ダメだ。深く刺さりすぎた!」
ガッコン、ガッコンとクレーンのアームが動いてるが――鉄骨はびくともしない。
パンタグリュエルの腹に深く刺さった鉄骨は、衝撃でしまった筋肉で固定されてしまったようだ。
あげく巨大ゾンビの手がぎっちりつかんだもんだから、鉄骨は抜くに抜けなくなってしまった!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
うわ……マズイぞ! どうしよう!?
鉄骨を動かせないと大ダメージを連続で与えられない! 巨大ゾンビが回復してしまう!
なんて目の前の状況にあわてるオレ。
だが、そこで――、
マルさんの落ちついた……というより開き直った感じの声がオレたちの頭上、クレーン操縦席から届く。
「ああ、もう! だったら――こうしてやる!」
――キン、ガチャン!
ふっきれたようなマルさんの声とともに金属音がひびく――なにか金具が外れたようだ。
それと、ほぼ同時に――、
カァン! ドサ、ズササッ!
鉄骨を固定していた金具が地面にたたきつけられ、炭素繊維ワイヤーも落ちてくる。
どうやらマルさん、デカゾンビの腹に刺さった鉄骨とワイヤーを切り離したらしい。
――ま、これはしかたない。あのまんまじゃ身動きがとれなかったし。
でも……振り回す鉄骨が無けりゃ、クレーンの攻撃力が落ちてしまうよな?
アームにぶら下がってるのは炭素繊維製ワイヤーだけ――マルさんは、そんな状況で、どうするつもりなんだろう?
と、疑問に思ったオレの目の前――、
マルさんはうれしそうな声をあげる。
「ちょっと前、試しにやってみた遊びが、こんなとこで役立つとはなあ!」
そう言いつつ、マルさんはアームを微妙に動かし、切り離したワイヤーをふり出した。
炭素繊維ワイヤーをくるくる回してるうち、先端のアタッチメントを振り子にして、ワイヤーがきれいな円をえがく――まるでカウボーイの投げ縄みたいだ。
「む……簡単にやっているように見えるが、重機でこんな精密作業なかなかできないぞ? 現場主義の社長で重機のあつかいに関しては熟練作業員を上回ると聞いていたが……これは、もう神業だな」
と、マルさんの見せた技にうなる二階堂さん。
一方、マルさんはしばらく、ひゅんひゅん音を立て金具を回したあと――、
「ほら…………よッと!」
かけ声とともにワイヤーの先端にある金具を投げつけた。
抜群のコントロール――自分の手でやってもできないような精度を見せ、ワイヤーは一直線に巨大ゾンビに向かう。
そして、ワイヤーの飛んでった先には腹に刺さった鉄骨を抜こうとしてるパンタグリュエルがいて――、
――ひゅるひゅるひゅるッ!
風を切って宙を駆け抜けたワイヤーは、デカゾンビの短く太い首にきれいに巻きついた。
「よっしゃ成功! それじゃ行くぜェ!」
そこで、さらに――、
なんとマルさん――巨大ゾンビの太い首に巻きつけたワイヤーを、クレーンでぐいぐい引きはじめる!




