表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
四章
46/59

VSパンタグリュエル!!

 対巨大ゾンビ戦――イベント会場『G区画』にて――。

 オレたち――オレとサユリさん、それに銀行ヘイブンのみなさんは、こっちに注意を向けた巨大ゾンビ『パンタグリュエル』を引き連れ、やたらドデカい工事現場へとむかっていた。


 

 ――ズンッ、ズゥン!



 崩壊したビル街でくりひろげられる巨人との鬼ごっこ――腹に響く巨大ゾンビの足音がオレたちを追う。

 ゆったりした歩みに見えて、けっこう速度が出ているパンタグリュエル。どうやら、あのやわらかゾンビ――かなり動けるぽっちゃりさんらしい。


「くッ、どんどん近づいてきてるな!」

「ああ、思ったより速い!」

「もう! こっちは全力で走ってるってのに!」


 二階堂さん、マークスさん、三条さんがときどき後ろを振り返りながら言葉を交わしてた。   

 最初は500メートル、ビルの屋上から階段を駆け下りたときには400メートル。

 そして、ここまでの道すじで残り300メートルくらいまで差を縮められている。

 


 ――けど、それでもオレたちはよゆうを持って工事現場にたどりついた。



「ふう……なんとかここまで来れました」


 と、胸をなでおろしてるサユリさんにオレもうなずく。


 ま……それは距離をとった狙撃で、うまく挑発できたおかげだ。

 あの挑発だけでデカブツが向かってきてくれて、ホントに助かった。

 もしパンタグリュエルが反応せず、もっと近くで攻撃しなきゃならなかったら……追いつかれていたかもしれない。超大型ゾンビの反応の良さに感謝だ。

 さらに――巨大ゾンビと連携されたらかなりめんどそうな周囲のゾンビ軍団も他のヘイブンとドンパチやってるもんで、こっちにはこない。

 だからオレたちはパンタグリュエルの討伐に集中できる。

 ゾンビ軍団と苦戦してる他ヘイブンの人たちには悪いけど、これまたありがたい話ではある。 



 だけど――、

 ここまでの成果と幸運だけで満足してちゃダメだ。

 巨大ゾンビをおびき出したうえで、やるべきことがある。



「そうだったね。あの大物をやっつける準備をしないと……」 

 


 オレの意見に二階堂さんが同意した。

 そして一息つく間もなく、オレたちは工事現場のある一画をめざす。

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



『G区画』巨大ショッピングセンター建設予定地にて――。 

 オレたちが目指した場所――それは工事現場にどでんと設置された巨大クレーンのそばだった。    

 赤さびの浮いた鉄骨が転がる中をオレたちは急いでクレーンに近よっていく。

 と――、



「おう……遅かったな少年。こっちはバッチリ準備できてるぜ」    


 

 オレたちのはるか上方――クレーンの操縦席にいる小太りの男性、バトルライフルM14の使い手である『マル』さんが片手をあげてよこした。

 その言葉通り、さびついたクレーンのエンジンは元気にうなりを上げている。


 ちなみに計画を話したあと、マルさんともう一人――アサルトライフル使いのゲンジさんに、この工事現場で待機と準備をしてもらっていた。

 そのときにクレーンがまだ動くことは確認済みだ。

 やはり、この『クレーン』が巨大ゾンビ攻略のカギとして設置されてたらしい。

 ゾンビ軍団(バタリオン)を退治できる『ガススタ爆弾』みたいに強敵と戦うためのなにかがあるはず――って、オレの読み通りだった。

 

 そして……巨大ゾンビ攻略のカギはもう一つ。

 え~と。そっちを任せたプレーヤー『ゲンジ』さんはどこかな……?


 けっこう大事な仕事をまかせた人の姿をさがし、周囲を見回すオレ。

 すると――。



「ふう、ようやく終わった!」



 全身をほこりまみれにした優男さんが地下に続く鉄製の仮設階段から姿をあらわした。

 で、そのハンサムさん――プレイヤーネーム『ゲンジ』さんがニコニコ笑顔でオレに声をかける。



「こっちもなんとか用意できた――『アレ』は無事に全部設置済みだよ」

「お手間とらせてすいません。助かりました」

「いやいや。たいした作業じゃない。心配だった『アレ』の数も、現場にあった分だけで十二分に足りて――おつりが出るくらいさ。ほら!」


 そう言ってゲンジさんは手にした、とある『品物』をうれしそうに振って見せる。

 そんなゲンジさんを、三条さんがあわてて注意した。 

     

「ちょっと、ゲンジ! そんな『モノ』気楽に振り回さないでよ!」

「だいじょうぶだよ。三条さん。この程度でドカンといったりはしないさ」

 

 と、無邪気に笑うゲンジさん。

 だが――三条さんが注意したのも無理はない。

 ほこりまみれのハンサムさん――ゲンジさんが手のひらの上、気軽にくるくるもてあそんでたのは、かなりぶっそうな品『ダイナマイト』と、その起爆装置だったのだから。  



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


   

 工事現場用のダイナマイト――さっきクレーンを調べにきたとき、たまたま見つかった爆発物だ。

 クレーンより、そのままこっちを使ってしまおうかと思ったが、見つけたゲンジさんいわく『小ぶりで火薬も少ないんで、まとめて使っても倒せるかどうかあやしい』とのこと。

 しかし、便利なことに遠隔操作できる起爆装置が残されていた。コイツのおかげで、クレーンを使った巨大ゾンビ討伐作戦がやりやすくなった。

 さらにおまけに――銀行ヘイブンにはしっかり爆発物を扱える人間もいる。


「うっふっふ……いや~、まさか街中でダイナマイトを使えるとはね~。仮想現実(バーチャルリアリティ)ゲームって最高だよ~」


 と、かなりうれしそうなゲンジさん――優男に見えるが現実のお仕事で危険物を使うらしく、爆弾をあつかうスキルをもってる人だ。

 ちなみにさりげなく置かれたダイナマイトの箱を見つけ出してくれたのも、この人である。

 変な笑いを漏らし、円筒状の爆発物にほおずりしてる姿は、ちょっとどころじゃなくアブナイ。現実で爆薬を使ってるとなるとなおさらだ。

 それに、せっかくの美形顔面がだいなしな感じだけど……こんなときに専門技術がある人がいたのはありがたい。


 と、まあゲンジさんは爆薬関連、マルさんは重機操作と――現実世界(リアル)での土木系スキルがある。この二人のおかげでオレの作戦は成功に、ぐっと近づいた。

 ほんで、それじゃ爆薬とクレーンを使ってなにするかと言えば……。



 と、脳内で手順を再確認しようとしたオレだったが――、



 ――ドウゥン! ドズウゥゥゥン!



「タッくん! 来ました!」 


 サユリさんの緊張した声、それにどんどんデカくなってきた巨人の足音に思考がさえぎられる。

 そして――、




 GRRRRRRRRRUUUUOOOOOOOHHHHHH! 




 ようやく追いついたぞ――そんな怒りのこもったおたけび。

 工事現場に到着した大型ゾンビはオレたちに向けて咆哮をはなつ。



 ……うおッ……近くで見ると……なおさらデカい!



 至近距離で見上げた巨人ゾンビの姿は迫力満点。ビルの屋上から見てたときとはだんちがいの威容だ。

 さらに――内臓をゆらす重低音の雄叫びと巨大なものに対する本能的な恐怖が身をすくませる。

  


 だけど……ビビってるわけにはいかない。

 オレの判断に作戦の成否がかかってるのだから――。

 自分だけじゃなく、サユリさんや銀行ヘイブンのみなさんの命運までかかっているんだし、パニクって失敗するわけにはいかないんだ。

  


 ――心の中、再確認した決意とともに、オレはゲンジさんに問う。



「爆薬をしかけたのって、どこらへんですか?」

「ええと……あそこらへんだね。鉄骨が散乱してるとこのちょい手前。地下の太い支柱二本にしっかりしかけといたよ」


 質問に答え、ゲンジさんが指さしたのは巨大ゾンビの数歩先のあたりだった。

 オレたちとパンタグリュエルの中間地点――うまい具合に巨大ゾンビの進行方向と重なっている。 


「よし! それじゃ、アイツが真上にさしかかったら起爆してください!」

「OK! まかせてくれよ! さあ、もう少し…………今だ! ほれ……ぽちっとな!」


 うれしそうに言ったゲンジさんがタイミングを見計らい、手のひらサイズの起爆装置の赤いボタンを軽く押しこむ。

 すると――、



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 弩…………轟ッ…………!

 


 周囲に響き渡る爆発音!

 さらに強烈な振動が足元を揺らす。

 そして、爆発とほぼ同時、巨大ぽっちゃりゾンビ――パンタグリュエルが踏みしめたアスファルトが一気に陥没した!  

 コンクリートと鉄骨製の床――ただでさえ巨大ゾンビの重さに悲鳴を上げていた足元の構造物は爆発の威力を受け、ついに耐え切れず崩壊したのだ。 

 


 GUAAAAAAAAAAHHHHHHHH!!!!!?????



 いきなり出現した大穴に足を取られ、ひざまで飲みこまれたパンタグリュエル。

 そのけた外れの重さのせいで、深々とガレキに突き刺さった太い足はかんたんには抜けそうになく――巨大ゾンビのとまどったような叫びがあがる。 

 これで作戦の第二段階――パンタグリュエルの足止めは成功した。



 ――よしっ! ここまでは狙い通り! 

 


 爆弾フェチっぽいゲンジさんのようすから、ちょっと不安だったけど……いらない心配だったみたいだ。

 最小限の爆薬できっちり狙い通りの結果を出すとは……さすがの爆破技術。

 見つけたダイナマイトは三本――超再生能力を持つ巨大ゾンビを倒すには少々足りない威力らしいけど、こうやってうまく使ってもらえば、足止めはできる。



 こうして巨大ゾンビの動きを止めたあとは――、

 作戦の第三段階――巨大ゾンビにダメージを与えにいく!



「――今です! やっちゃってください!」



 パンタグリュエルをうまく穴にハメ、今度はマルさんに合図を出すオレ。

 


「おうッ! まかせときィ!」



 気合十分なマルさんの返答とともに、超大型のクレーンがうなりをあげて起動。 

 ぱっと見不器用そうに見えるぽてっとした指で、信じられないくらい精密な操作を見せレバーを動かし、どでかいクレーンを手足のようにあやつるマルさん。



 そして――、 

 クレーンの先端、鉄骨をぶら下げたワイヤーが遠心力で大きく円を描き、一気に速度を上げてパンタグリュエルにせまる!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ