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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
四章
45/59

VSパンタグリュエル!

 超再生型巨人ゾンビ『パンタグリュエル』から500メートルくらい離れた場所――、

 ビルの屋上にて――、


 オレとサユリさん、それに二階堂さんをはじめとする銀行ヘイブンの面々が最初の標的――パンタグリュエルにじっと視線をそそぐ。

 そしてオレたちが固唾をのんで見守る中――最初の一撃が放たれる!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ドゴウゥゥゥ…………!



 くりぬかれた銃床が特徴的なドラグノフとかいう狙撃銃(スナイパーライフル)が火を噴いた。

 続けて、お隣のスマートなシルエットがかっこいいPSG-1って名前のライフルも間髪おかずに発砲――ビルの谷間に二発の銃声が長くこだまする。


 長い銃身(バレル)の中、火薬から運動エネルギー、ライフリングで安定性をあたえられた弾丸は音速を超えて銃口から飛び出していった。

 二人の射手の放った弾丸は激しい戦闘を繰り広げるゾンビ集団(バタリオン)と他のヘイブンの上空を瞬時に駆け抜け――そして見事に着弾。

 巨大ゾンビ――パンタグリュエルのドデカイ頭部へ、吸いこまれるように二発の銃弾は突き刺さる!



 しかし――、


 ブヂュヂュッ……。



 強烈な貫通力を誇る弾丸も、パンタグリュエルのやわらか表皮で止められてしまっていた。

 巨大ゾンビにいっさいダメージを与えられなかったことに、射手(スナイパー)ふたりは舌打ちをもらす。


「ちっ……ダメか。こんなことなら対物ライフルでも買っとくんだった」

「しゃーないだろ。ただのゾンビ相手のドンパチじゃ、威力デカい割に取り回し悪くて、使いどこが難しすぎるしな」

「そりゃま、そうなんだが……しかしロマン兵器に金をかけられないと、セールになってたバーレットM82をあきらめたのが今となっちゃ悔やまれるなあ」

「ああ。こんなデカブツが出るとわかってりゃ、それなりの装備を整えたんだがな。やっぱ実用性の面で不人気な武器に対するテコ入れなのか? 対大型ボス用に対物ライフルとか、あつかいづらい強力火器にも需要が出るだろうし」


 ――と、ぶつくさ言ってるのは『銀行ヘイブン』のスナイパー二人組。

 プレイヤーネームはアーチャさんとマークスさんというらしい。

 ふたりともノーダメージを悔やんでいるけど――でも、オレの『目的』は達成できた。  


 ……ホントおかげさまです。ナイス射撃(ショット)でした。

 

「な~に、この距離で標的があのデカブツなら、だれだって当てられるさ」

「ああ、ちょろいちょろい」


 けんそんする二人だったが、巨大やわらかゾンビ――パンタグリュエルまでけっこう距離がある。

 相手が巨人(デカブツ)とはいえ動いてる頭を狙って当てるって、そんなかんたんじゃない。

 オレが賞賛の視線でスナイパー二人組を見ていると――、


「アーチャにマークス。どっちもウチのヘイブンの遠距離エースだからね。ときどき二人でゾンビを全部やっつけちゃって、あたしらのとこまで来ない。おかげでストレス解消できない――なんてこともあるくらいだし」

 

 なんて言って、ささやかなお胸を張る小柄ギャルの三条さん。

 同じヘイブンの仲間からほめられ、アーチャさんとマークスさんは頭をかく。

 やっぱ美女――キレイなお姉さんにほめられてイヤな気はしないみたいだ。


 ……うむうむ。気持ちはよくわかりますよ。    


 なんて、オレがにやにやしてると――、

 そこで――照れ隠しだろうか。アーチャさんが話題を強引に切り替えてきた。 


「まあ、それはさておきタクくん……きみの作戦もスゴイよ。よく『あんなこと』思いつくもんだ」

「たしかにそうだな。急に『あんな策』を思いつけるなんて驚いたよ」


 さっきオレが話した『作戦』の内容に感心してるアーチャさん。

 その話にマークスさんも乗り、今度はオレが持ち上げられて、背中がむずむずする。


「うんうん。どうやって『あんな作戦』を考えついたの? お姉さんに教えてくれない?」


 そこでさらにオレの顔を興味深そうにのぞきこんでくる三条さん。

 しっかりアイメイクがほどこされた目が、ぱっちりこちらを見つめる――小悪魔っぽい視線にドギマギしながらオレは返事した。


「あ、いや………リリパット社の作るゲームって、お金がなくてもなんとかなる手段が必ずどこかに用意されてるみたいなんですよね。……ま、かなり意地悪く隠されてはいるんですけど……」


 この前の蜂ゾンビ『ゾン・ビー』との戦いできっちり身に染みた教訓――そいつをもとにオレは今回の戦場『G区画』を見回してみた。

 すると『とある場所』に使えそうなものが見つかったのだ。 


 ……ま、『アレ』に気づけたのは実は運がよかっただけだったりする。

 まさか巨大ゾンビと戦う手段が、あんな目につく場所に堂々と置かれてるとは思わなかった。

 予想の逆を突いてくるあたり、ひねくれ者のリックさんといえばリックさんらしい。

  

「……あ~、なるほど。そういや前に二階堂さんから聞かされたな~。リリパット社社長のリチャード・ウォーホル――才能はあるけど、なかなか変人らしいね~?」 


 オレの感想に三条さんがおもしろそうにうなずく。

 すると、その態度をからかうようにマークスさんが言った。


「……お、三条の恋愛レーダーに引っかかったか? そういや以前、『恋人にするなら優秀なのがいい』って言ってたもんな。なんだったら二階堂さんに頼んで紹介してもらうか?」


 ……ほう。三条さんってばけっこう美人さんなのに彼氏いないのか。

 ま、お若いのに社長さんやってて、いそがしいんだろうな。


 んなことを考えながら、オレがちらっと視線を送ると――三条さんはため息をついている。


「いいえ。いくら優秀でもあつかいづらそうなのはお断り――だいたい向こうは既婚者でしょ? 火遊びする気はないわ。それより年下の機転の利く男の子のほうがいいかも……成長途中の少年を自分好みに育てるのもなかなか……」 


 とかなんとか光源氏じみたことを言って――急にオレのほうに近よってくる三条さん。

 するっとオレのとなりに来た小柄ギャルさんは――なんとオレの手をにぎり、体を寄せてきた!

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 いきなり体を密着させてきた銀行ヘイブンの散弾銃(ショットガン)使い――三条さん。

 キレイなお姉さんの思わぬ急接近に、オレはうろたえる。 



 ……え? あ、ちょ……なにを!?



「…………ね? タクくん………………年上の女って……どう思う?」


 

 小柄で、いわゆる『合法ロリ』な感じの体型――だから、あんまりお胸が豊かじゃない三条さんだが、それでも、しがみつかれたオレの腕にふわりと柔らかさが伝わる。

 さらに――濡れたような赤い唇が耳元でささやき、全身の産毛がぞわっとした。


 うお…………年上お姉さんの色気ってスゴイ。

 思わぬ誘惑にごくりと唾を飲みこむオレ。

 しかし、そこで――、

 


 チャキン……。



 背後から耳慣れた金属音が響く――それは刀のつばをはじく音。サユリさんの抜刀のときのくせだ。


 ……いかん! しまった! 真後ろにサユリさんがいるのをすっかり忘れてた!


 びくりとふりかえると――そこには背後から殺気を立ち上らせてうつむくサユリさんの姿。

 殺意の波動にでも目覚めたような剣術美少女ののどから、えらく冷たい声が漏れる。  



「タッくん……あの破廉恥なユズキという女だけでなく……今度は別の女も……ですか……?」



 わッ! ちょ! これは抜刀五秒前くらいの怒りっぷりだ!

 刀を手にプルプル震えてるサユリさんの姿――オレはあわてた。


「す、すいません三条さん! オレ、どちらかといえば年下好きですので!」


 密着してきた三条さんの小柄なボディを急いで押し返しつつ、頭を下げるという器用なマネをしながら、オレは謝罪する。

 しかし、三条さんは――、

 

「……ふ~ん。でもさ。そういう男子の考えを変えさせるのも……けっこう燃えるんだよね~」


 とかなんとか言って、今度はオレのおなかのあたりにしがみついてくる三条さん。どうやらオレの体が視界をふさぎ、殺気を立ち上らせるサユリさんが見えてないっぽい。

 甘えてくる年上女性――萌えるシチュエーションに思わずオレの心臓がドキッとしてしまう。 


 だが、その瞬間――、



 ゴゴ、ゴゴゴ、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!



 三条さんに興奮させられてしまったオレへ――サユリさんの放つドス黒い殺気がガソリンでもそそがれたように、ぶわっと立ち上った!



「……タッくん……どうやら……本当に……命、いらナイ……ミタイ、デスネ」



 サユリさんの口から出る言葉が、だんだん片言になっていく。

 刀にかけた手も質量ある残像を残すほどの速さで震えていて――その光景のヤバさにオレの背筋も震えた。

  

 ……あ、あかん! これはガチであかんヤツや! 


 なんて、なぜか関西弁になったオレが死を覚悟した、そのとき――、




 GUOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHH!




 ――ビルの谷間にすさまじく巨大な雄叫びがこだまする!




 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 オレがサユリさんに斬殺される寸前――ちょうどいいタイミングで咆哮してくれたのは、さっき狙撃を受けたパンタグリュエルだった。


「ッ!」

「……!」


 とどろいた爆発的な声量。こめられていたのは圧倒的な敵意。

 内臓を震わす強烈な絶叫に三条さんとサユリさんは我に返り、オレから注意をそらす。 

 

 一方、叫んだパンタグリュエルのほうは――、



 GRRRRRRRRRRRRUUUUH!



 低いうなりを上げ、ぱっと見はつぶらでかわいらしい目に怒りの炎を燃やしている。

 そして、その目が遠方のビルの屋上――オレたちにすえられた。

 どうやら、あのやわらかゾンビさん、だれが攻撃してきたか気づいてるようだ。

 ゆっくりとぽっちゃり巨体(ボデー)がこちらに向けられ、一歩二歩、地響きを立ててパンタグリュエルは歩み寄ってくる。 


 ……むむむ。巨体のせいでパワー系かと思ってたけど、意外と知能(ノウミソ)もしっかりあるらしいな。


 さっき攻撃したのは巨大ゾンビをおびき出すため――だから、こっちに気づかせたのは狙い通り。

 しかし、それでも意外と高い巨大ゾンビの能力にオレは警戒する。 

 それはサユリさん、三条さんも同じようで――、 

 

「……来るわね」

「………………」


 巨大ゾンビのおたけびと接近――真顔になった三条さんはオレから体を離し、無言のサユリさんも刀にかけた手をはなした。

 おかげで、さっきまでの大ピンチもうやむやになる。



 ――ほッ。マジでホントにサンキューです、巨大ゾンビさん。 

 ま、でも、このあと倒させてもらうんですけどね……命の恩人なのにすいません。


 てな感じで内心で巨大ゾンビさんに感謝と謝罪をしたあと、オレはサユリさんと銀行ヘイブン一行に声をかける。



「――行きましょう」


「はい」

「おう」

「うむ」

「ああ、行こう」



 と、短く応答したオレたちが目指す先は……、

 パンタグリュエルとの決戦場――巨大ショッピングセンターの工事現場だ。





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