ガルガンチュア&パンタグリュエル!
巨大ゾンビに一撃入れたものの、あっという間に退場させられた地下水道の四人組。
ビルに『壁ドン』というか『壁ベチ』した二人と、やわらかゾンビの巨体でつぶされた二人――四人の体が光の粒子に変わった。
四人の魂魄は封神台に――じゃなかった元の《領域B》に飛ばされ、あとは今回のイベント終了まで復活できないことになる。
こうして――地下水道ヘイブンの夏は終わった。
巨大ゾンビには傷跡一つ、つけられなかったが――それでも彼らが残したものは確実にある。
『――諸君! サザランドだ! 先ほどの戦闘で新たな事実が判明した!』
巨大ゾンビへのダメージが起動条件だったらしく――端末に突然、通信が入る。
どうやら、さっきのサザランド大佐からの通信のようだ。
――で、通信はオレたちに新たな情報を告げる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
『戦士諸君、心して聞いてくれ! 判明した新事実とは……』
――と、戦場に再び響くサザランド大佐の声。
ただ、戦場にいるプレーヤーのほとんどはゾンビ大群と激闘中なわけで……。
この通信をまともに聞いてる人って、あんまりいないんじゃないか?
そう考えると、ちょっとシュールな光景ではある。
……ま、それはそれとして通信は続く。
『超大型のゾンビは巨大化しただけではなく、新たに特殊能力を得ていたようだ。先ほどの戦闘データを解析したところ一体はきわめて強力な再生能力を持っていることが判明した! どうやら、ぶよぶよとした表皮の下には万能細胞を含む体液が、たっぷりつまっているらしい!』
……ふむふむ。そいつは例のぽっちゃり系やわらかゾンビさんのことですな?
そういや、さっきスネを斬りつけられたときもすぐ元通りになってたし。
傷つけても即回復されてしまうなんて……こいつは、かなりやっかいだぞ。
『――そして、もう一体は恐ろしく堅い表皮を持っているようだ。体表面に強固な外骨格を形成できるらしい。当たる場所や銃弾の種類によっては、はじかれダメージが与えられない可能性がある!』
……え~と、こいつはカチコチゾンビさんのほうか。
あの堅い装甲って防御だけじゃなく攻撃面でも強力そうだ。
……むむ、こっちもやっかいさでは引けをとらないな。
なんて頭をなやませるオレ。
一方、サザランド大佐は――、
『以降、我々《Zフォース》は超回復型の巨大ゾンビを《パンタグリュエル》、硬質装甲型を《ガルガンチュア》と呼称する! 諸君らはくれぐれも気をつけて撃滅に当たってもらいたい! 通信は以上だ!』
と、告げて通信はまたもぷつりと切れる。
……ほう、ガルガンチュアさんにパンタグリュエルさん。なかなかおしゃれなネーミングですな。
やわらかゾンビとカチコチゾンビよりは緊迫感があっていいんじゃなかろうか?
ただ……サザランド大佐、命名しただけで去ってかないでください。
せめて弱点とかの情報をくれてもいいんじゃないですかね?
なんてオレは思ったが――端末は沈黙したままだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
今回のボスの名は『ガルガンチュアとパンタグリュエル』――略してガルパンか。
……う~む。戦車が欲しくなってきたな。
と、命名をすませて、ぐっと親しみの湧いた巨体ボスゾンビさんたち。
けど能力がやっかいなことに変わりはないわけで――、
通信を聞き終えた二階堂さんが肩をすくめて言う。
「……ふ~む。まいったね。いろいろ情報は手に入ったが攻略につながる手がかりはなし。強敵ということがわかっただけとは……」
「そうですね。ま、情報に関しては下水――じゃなかった『地下水道ヘイブン』に感謝ですけど……」
あの四人組を見直したような顔で小柄ギャル――三条さんは言い、二階堂さんはうなずく。
「うむ。彼らをけしかけ――ではなく、彼らと話しあったかいがあったよ」
なんてホンネがぽろっと漏れるブラック二階堂さん。
ちょっとヒドい気がしたけど、からんできた連中だし、別にいいか――。
……それより問題は、あの特殊能力のオマケつき巨大ゾンビ二体だ。
「さて……どうしたものかね?」
同じく首をひねった二階堂さんはそこで――なぜかオレに視線をそそいでくる。
……ん? あの~…………しがない量産型大学生に、なにかご用でしょうか?
「……いや。リックくんやユズキくんから、君はかなり機転がきくと聞かされていてね。なにか良い策があるんじゃないか、と思ったのだが…………」
「はい! タッくんはスゴイ人です! ふだんは頼りないですけど、ピンチの時はビックリするくらい頼りになるんです!」
妙なことを言い出した二階堂さんに、なぜかサユリさんが意気ごんで答え――オレはあわてる。
……いやいや! 他人の前でホメ殺さないでください。
ヤバい状況でやむを得ずやったムチャが、たまたまうまくいっただけですってば!
と、サユリさんの暴走をオレは止めるが――、
「へ~。美少女にかなり信頼してもらってるじゃん…………やるね~『タッくん』?」
サユリさんのようすにニヤッと笑って食いついてきた三条さん。どうやら妙な誤解をしたらしい。
そして、二階堂さんも大きくうなずく。
「……ふむ。いざというとき結果を出せるのは、すばらしいことだよ。どれほど立派な経歴や能力を持っていても、大事な場面でヤラカしてしまう人間もいるからね」
いやいや、そんな。それほどでも……ないような、あるような……。
二階堂さんのホメ言葉にちょっとイイ気分になるオレ。
しかし、そこで自分の置かれた状況に気づかされる。
って……あれ? なんかホメられて断れない空気が出てきたぞ?
いや、でも……それぞれトップやってる社長さんだらけのヘイブンでしょ?
一般人のオレがあれこれ指示するのも失礼なんじゃありません?
なんて反論してみたオレだったが――社長さんらは首を横に振る。
「たまには他人に従ってみるのも気分転換になっていいもんだ」
「ああ。判断を人任せにできるって、ホントぜいたくなことだよな……」
「うむ。若いころを思い出して懐かしい気分になれるね」
……え? なんで社長さんたち、そんなノリノリなの?!
わざわざオレの指示に従いたいとか、エラい人の考えって、よく理解できないなあ……、
「な~に。彼らはいつもこんな感じさ。みな儲けるシステムを軌道に乗せてしまったあとでね。代わり映えしない日常に飽き飽きしてるから刺激が欲しいのだろう。…………で、タクくん。あの巨大ゾンビ二体を倒す良い策――なにかないのかね?」
と、笑顔の二階堂さんに再びたずねられたオレ。
むむむ……すでに退路を断たれちゃってる感じだ。
…………う~ん。
…………まぁ、そこまで言うなら。
『硬い敵』『回復持ちの敵』の攻略方法――思いついたことが一つありますけど……。
と、微妙な気分でオレが告げると――なぜかサユリさんが歓声を上げ、ワクワク顔になる。
「……さすがタッくんです! さあ、早くあのデカいのを倒す方法を教えてください!」
あ……いや、そんな期待されてもこまりますって!
うまくいく保証なんてないですし、めんどうな下準備もいりますから!
オレはサユリさんを止めたが、話はもう転がり出していて――、
「ふむ。それなら他に良案があるわけでもなし、タクくんの策で動いてみるってことでどうだね?」
「異議なし!」
「はいよ!」
「おう!」
「了解で~す!」
二階堂さんの提案に銀行ヘイブン全員から賛成の声が上がる。
……うぅ、飛んでくる期待の視線が……重い。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「いちおう我々の装備を説明しておこう……まずは散弾銃の使い手が二人――三条くんと神田くんだ」
「よろしくね! タッくん!」
「……うむ。存分につかってくれ」
二階堂さんの言葉に小柄ギャルの三条さん、ごっつい体型のオッサンが応える。
さらに二階堂さんは紹介を続け――、
「……くわえてサブマシンガン、アサルトライフル、バトルライフル、あとはスナイパーライフルも二人、主にこのメンバーでうちのチームは戦ってるよ」
……ほう。いろんな銃をお持ちですな。
そして、チーム構成もしっかり考えられてるらしい。
サブマシンガン、アサルトライフル、ショットガン――三種の銃器で街中でいきなり出てくるゾンビをにそなえ、バトルライフル、スナイパーライフルで中長距離にもしっかり対応。
その上、全装備に二人担当がいることで一人やられても致命的にはならない――そんなバックアップまで完備してるそうな……。
「うちは金満ヘイブンだからね。死亡時ドロップを狙いにくる不心得者が多いんだ。長距離から襲ってくる連中と戦ってるうち、こういう構成になったんだよ」
とかなんとかで――がっつりゲーマーだった二階堂さんの考えらしい。
……うぅ、ここまできっちり考えられる優秀リーダーをさしおいて作戦指揮とか気が重いんですが。
そんな思いでオレはちょっとパニクる。
一方、人見知りのサユリさんは銀行ヘイブンとうまくやってけるか、まだ不安そう。
「……タッくん、この人たち、かなり強いんですよね? わたしなんかじゃ力不足じゃありませんか?」
コミュ症美少女の小声の質問――いっぱいいっぱいなオレは上の空で返事する。
「…………銀行ヘイブン? 強いですよね? 近距離、中距離、遠距離、すきがないと思いますよ。だけどオレは負けません。じゅうた……銃たちが踊るオレの策をみなさんにお見せしたいと……」
「タッくん! どうしました!? 急に頭を揺らして、妙なことを口走らないでください!」
オレの見せてしまった醜態に、サユリさんがあわてた。
その心配そうな声でオレは我をとりもどす。
……おっと、いかんいかん。急な話でちょっと浮足立ってたな。
こんな調子じゃ、サユリさんまで危険にさらしかねないし……しっかりしなきゃ!
と、なんとか気を取りなおしたオレは――、
「それじゃ、ざっくりですけど作戦の説明を……」
――銀行ヘイブンのみなさん、そしてサユリさんに思いついた『対巨人ゾンビ作戦』を伝える。




