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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
四章
43/59

ミュータント!

 

 地下で生まれた突然変異(ミュータント)だという、今回のビッグなボスゾンビさん×2。

 ポッチャリ系やわらかゾンビさんも、マッチョなゴツゴツゾンビさんもビルの七階くらいの身長がある。ガン〇ムとほぼ等身大と言えばいいだろうか?

 さらに、それぞれ足元に人間サイズのゾンビ軍団を従えて、ご登場だ。 



 で――そのゾンビ軍団と先行したプレーヤーさんが早くも激突していた。

 大人数対大人数――ド派手で見ごたえのある戦闘が開始される!



 ドドドドドド――轟轟ッ!



 まず響いた銃声とともに、集団の前方にいたゾンビがなぎたおされた。

 大口径の大威力に吹き飛ばされるもの、小口径高速弾の連射を喰らいズタボロにされるもの――と原因はさまざまだが、十数体のゾンビが一気に戦力外となる。


 だが、命とともに感情と恐怖を失った死骸(ゾンビ)はひるまない。  

 倒れてく仲間の屍をあっさり踏み越え、弾幕の中をひたすら前進していく!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 UUUUUUUUUUHHHHHHHHH!

 AAAAAAAAAAAAAAAAHHHH!



 うなり声を上げたゾンビと人間(プレーヤー)――両者は街中でついに接触した。 

 交戦してたプレーヤーは退却しようとしたけど、後からやってきた連中とぶつかって大渋滞が発生――もどるにもどれない状況だ。

 さらに同士討(フレンドリーファイア)を恐れて迎撃の手が止まり『左舷弾幕うすいぞ、なにやってんの!』って状況になる。


「うおおおおおおッ!」

「やってやるぜぇ!」


 ――で、今度は山刀(マチェーテ)塹壕最強兵器(スコップ)消防用斧(ファイアアックス)、それにバールのようなものなどを手にした近接武器ユーザーが奮闘。


 ――ぶぢゃッ!

 ――メギシッ!

 ――ゴシャリッ!


 なんて擬音がつきそなスプラッターがくりひろげられ、ゾンビの血潮と内臓と脳漿が飛び散る。

 しかし全体としては――敵味方入り乱れる戦場じゃ、数の多いゾンビ側が圧倒的に有利だ。



 そして――早くも何人かのプレーヤーがゾンビに集団で襲われ、殺害(キル)された。



「はなせッ! このッ! うわあああああああああぁぁぁ!」

「……く、大物(ボス)に一撃も入れられずにこれかよォ……!」

「このおれ死すとも――ホームセンターヘイブンは死せじィ!」



 オレの耳元に不運な犠牲者(プレーヤー)たちの断末魔の声がいたましく響いて…………、

 ――って、あれ!? なんであんな遠くの音がここまで聞こえるんだ!?

 むむ? まさか……怪奇現象?


「あ、はい! わたしにも聞こえます! これ……どうなってるんでしょう?」


 同じく疑問に思ったらしいサユリさんとオレが顔を見合わせてると――。

 峰不〇子風のセクシー衣装を着た小柄ギャル、三条さんが口をはさみ、理由を教えてくれる。


「その双眼鏡――指向性集音装置がついてるからね。遠くの音もひろえるんだ。貸してくれた二階堂さんに感謝しときなさいよ」


 ……おお! そんな便利装置がこの小さなボディに?!  

 感心するオレにあわせてサユリさんもうなずく。 


「ええと……つまり、『ふしぎな双眼鏡』ってことですか? すごいですね!」

「…………あ、うん。まあ、そんな感じ……かな」 


 サユリさんの残念な理解力に三条さんが言葉につまっている。

 う~ん。相手が残念美少女(サユリ)さんですから……しょうがないですね。 



 ま、それはともかくとして――、



 どうにもイベントの戦況はよくない。

 プレーヤー側の無謀な戦略ミスがたたって、最初からムダな犠牲を出してしまった。

 さらに、そのままずるずる乱戦にひきずりこまれつつある――って感じだ。


 と――、

 ここまで黙って戦闘を観察してた二階堂さんが口を開く。


「……ふむ。これはまずい状況だね。あの巨大ゾンビに一撃も入れられていない」

「どうします? そろそろ戦いに参加しちゃいますか?」

「そうだね……だが、情報がほとんど手に入らないままでは……」  


 ショットガンを手にワクワクしつつたずねた三条さんに対し、ちょっと表情をくもらせる二階堂さん。

 だが、そのとき――、 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「……ん? なんだ、あいつら……?」



 じっと戦況を観察してた銀行ヘイブンのメンバー、スナイパーライフル使いの人が声を上げた。

 その声にオレはふたたび双眼鏡をのぞきこむ。

 すると――、

 

 ゾンビの大群(バタリオン)とプレイヤー勢が交戦してる戦線のはるかむこう、巨大ゾンビの足下あたりにうごめく人影があった。

 

 でも……どうやってあの乱戦を回避したんだ?!

 ゾンビの大群は大きく広がっていて、戦わずに突破なんてできそうにないのに……?


「おそらく……あっちのマンホールを利用したんだろう」


 そんな二階堂さんの言葉どおり、大型ゾンビの足下近くのマンホールのふたが外され、口を開けていた。

 なるほど。マンホールを出入り口に使って奇襲をかけたのか。


 ――って、あれ? どっかで聞いた話だぞ!?


 思い出したオレは、巨大ゾンビに突っこんでく人影――四人の近接武器使いに双眼鏡の焦点をあわせた。

 どこか見覚えのある、その後ろ姿は――――まさか!? 

 


 …………さっきオレたちともめた意識高い系四人組?! 地下水道ヘイブンのメンバーか!?



「うおおおおおおぉぉぉッ! もう逃げ回ってるだけの『下水ヘイブン』なんて呼ばせねぇ!」

「ああ! 今からおれたちは地下水道を使った神出鬼没が持ち味のヘイブン――忍者のように敵を翻弄してやるぜ!」

「そうだ! 一人はみんなのために。みんなは一人のために! おれたちは(トータル)にして一、一にして(トータル)のチームワークを誇る――忍者トータルズ! 行くぜ! みんなーッ!」



「「「おう! カァー〇ァーバンガァーッ!」」」



 ――と、どこぞの忍者カメ集団みたいなかけ声とともに地下水道ヘイブンは突撃を開始する。 


 どうやら突然変異の巨大ゾンビに対抗して、こっちも突然変異(ミュータント)化しちゃったらしい。

『意識高い系』から『戦意高い系』に進化しちゃってる感じだ。

 ふむ……さっきの二階堂さんの説教で触発されちゃったのだろうか?



 そして――、

 通常サイズのゾンビの群れを回避した地下水道ヘイブンは、大型ゾンビ二体に果敢に挑んでいく!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「サンティ、ボナローティはあっちのデカブツにかかれ! バルディはおれに続け!」

「「「おうッ!」」」


 二刀流使い――仲間にはヴィンチと呼ばれてたリーダーっぽい男は仲間に指示を出す。

 その指示に合わせ、二手に別れていく自称トータルズ。


 ……あ、そこは戦力集中しといたほうがいいような。


 オレはおせっかいな心配をしたが、はるか前方、巨大ゾンビに挑戦する下水ヘイブン――トータルズのメンバーにはとどくはずもない。

 そして全力疾走で巨大ゾンビにせまったトータルズは、さっそく攻撃を開始する! 



「まずは足を攻めろ! ひざをつかせて急所を狙う!」


 と、日本刀使いのヴィンチから、またも指示が飛ぶ。

 おお! 意外と考えてる……といったら失礼か? 

 巨大な敵を相手にする戦術の定番(セオリー)だけど、なかなか有効そうな作戦にオレは感心した。


 ほんで、その指示通り――、

 おたけびを上げながら、巨大ゾンビの足を狙う地下水道ヘイブン。

 足だけで人の身長の何倍もある巨大な敵だが、それでも彼らはひるまず進み、そして――!



「うおおおおおおぉ!」


 ザシュッ! 

 グシャッ!


 まずはリーダーのヴィンチがぶよぶよゾンビの足に斬りつけ――大きな傷を負わせた!

 さらに、その傷をバルディという長棒使いが叩きつけ、強烈な打撃が傷口をさらに広げる!


 ――おッ! すごいぞ! いきなり大ダメージじゃないか!


「ふむ!」 

「「「おおぉぉ!」」」


 地下水道ヘイブンの見せた予想外の健闘。

 銀行ヘイブンとオレたちから、歓声が上がった。 


 しかし――、



「……ふふん!! 意外とちょろいな? あとは、このまま一気に押し切っておれたちだけで討伐…………って、なッ!?」



 次に目にした光景に、得意げだったヴィンチのドヤ顔が一気に青くなる。

 ……まあ、それも無理はない。

 せっかく負わせた傷が目の前で、あっという間に元にもどるさまを見せつけられたのだから……。   



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「そんな……傷が……再生した?!」

「あれだけの傷が……跡形も残らない…………だと?」


 傷の超回復――直近で信じられない状況を目にして、うめくヴィンチ、バルディ。

 遠くで観察していたオレと銀行ヘイブンの面々も、驚きを隠せない。



 そして、さらに――、

 もう一体の巨大ゾンビ――カチコチさんに襲いかかってた二人も予想外の事態に直面していた。

 


 ――ガギィッ! ゴガッ!



「な……!」

「コイツ、むちゃくちゃ硬いぞ!」  


 勢いをつけて振り回したヌンチャクとサイ――二つの武器がカチコチゾンビの表皮であっさり弾かれる。

 たいがいのゾンビなら骨を砕き、肉をえぐるような強烈な一撃なのに、まるで通用していない。 



「くッ! だが、まだまだおれはやれる!」

「そうだ! 一度でダメなら二度、二度でダメなら三度!」

「ああ! 壊れるまで何度でも叩けばいい!」



 それでも熱血なせりふとともに突っこんで行く二人だったが――、

 次の瞬間――、 



 ――巨大カチコチゾンビが、咆哮を上げた!





『GUUUUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHH!』


 



 すね――弁慶の泣き所を強打されてお怒りになったのだろうか?

 遠くで見てるこっちの腹にまで響くような、重く大きな叫びが上がった。

 とんでもない大音響を至近距離でくらい、二人の足が恐怖ですくむ!


 そこへ――、



 ――ブンッ!



 うなりを上げて迫る巨人のキック!

 思いのほか速い、その動き――さらに恐怖で足がすくんでいたこともあり、トータルズの二人はまともにキックをくらってしまった!



 ドゴッッ、ガシッ…………!



 大型トラックにでも引かれたような衝突音のあと、ものすごいスピードで吹っ飛んでく二つの人影。

 数十メートルの超高速飛行を体験した二人は、それぞれ別のビルの壁面にたたきつけられる!



 ミジュッ――ベジュッ!



 そして『あ、こりゃ助からん』って感じの生々しい音を立て、二人の体はビルの壁に張り付いた。



 …………地下水道ヘイブン――メンバー二名、死亡。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「……そ、そんなッ! サンティ! ボナローティ!」

「よくも……二人をッ!」



 仲間二人の無残な死にざまに激怒するトータルズの残りメンバー。

『意識高い系』から『戦意高い系』に変わり、さらに『殺意高い系』に進化してしまってる感じだ。

 その怒りのまま武器をかまえ、仲間の仇――カチコチゾンビに襲いかかる二人。


 けど――彼らは忘れていた。

 背後にのっそりとせまる、巨大やわらかゾンビさんを……。


 ぽっちゃりな外見から、おっとりして見られることが多そうな、やわらかゾンビさん。

 しかし、スネを切られた怒りは忘れていないようで……肉をぶよぶよ言わせつつ、思いがけない速度でヴィンチとサンティを後ろから追いかける!



「……あ、危ないです!」   



 サユリさんが悲鳴を上げたが、遠く離れたここからじゃ、どうしようもない。 

 そして――やわらかゾンビさんは、フライングボディプレスを敢行した。


「うわッ!」

「なんだ!?」


 上空から迫る影――気づいたときにはもう遅く、巨大ゾンビの圧倒的質量がヴィンチとサンティの二人の上からのしかかる! 



 ブチィッ――グジュッ!



 指向性マイクが連続してひろったのは……水風船がつぶれたときのようなイヤな音。

 その音が意味するのは…………地下水道ヘイブンの全滅。




「「「「………………………………」」」」


  


 見せつけられた哀れで悲惨な最期にオレたちは沈黙させられ――、

 さらに巨大ゾンビの思った以上の戦闘力に、オレたちは戦慄させられる! 




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