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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
四章
40/59

ダンディ・アゲイン!

 ヒドイ乗り心地にもけっこう慣れたパワードスーツケースの上で揺られること、しばらく――、

 街はずれにある防壁ゲートを抜けた先、目的地はあった。


 たどりついた『Z区画』――新イベントの会場は人でごったがえしている。

 この新エリア――ぱっと見はいつもと同じような廃墟が広がってて、少しだけ高層ビルの数が多いくらいだろうか?

 あとはショッピングセンターでも作るつもりだったのか、大規模な工事現場の跡地があるだけ。

 変化を感じさせるものは特にない――が、会場にはプレーヤーたちの新イベントへの期待が満ちあふれていた。

 そんな……どこかお祭り気分な雰囲気に、オレはわくわくさせられる。 



「……おお。けっこう人がいますね」

「は、はい。びっくりです」



 一方、人見知りのサユリさんは、人の多い環境が苦手そう。

 知らない場所に連れてこられた子猫みたいに、おちつきなく左右をみまわしてる。 


 ……むう。これはいかん。なにか気をまぎらわすコトはないかな?


 サユリさんの緊張を解くため、話のネタを探すオレ。

 すると、少し離れたとこにいる四人組が目に入った。


 ……おお、いるじゃないか。剣術美少女(サムライガール)が興味を持ちそうな相手。  



「サユリさん、あっちにも日本刀ユーザーがいますよ。他にもなんか変わった近接武器――棒とかヌンチャクとか、あとは十手もありますね?」 

「――ちがいます。タッくん。あれは十手じゃなく『サイ』です」


 オレの話にサユリさんが食いついてくれた。


 あれ? でも……『サイ』? 

 短くて手元にL字っぽいなにかがついてるあの武器――時代劇とかで岡っ引きが使ってる『十手』じゃないんですか?


「はい。サイは沖縄の古武術などにつたわる武器です。十手とよく似ていますが、サイのほうは左右両手に一本ずつ持って使います――ほら、あの人は二本持っているでしょう?」


 ……ふ、ふ~ん。なかなか奥深いんだな。武器の世界。

 そして、ふだんは残念なのに武器に関してはくわしいんですね。サユリさん。 


「――ええ。タッくんのナイフに敗れて以来、小太刀や変種相手の訓練も積んでいますから」


 と、ちょっと得意そうに言ったサユリさん。

 その表情から、さっきまでの不安は抜けていて、オレはほっとする。

 ただ――、


 オレたちが視線を向けていた相手――近接武器使いっぽい四人組がこちらに気づいたようだ。

 ちょっとけわしい顔つきで、こっちに向かってやってくる。  



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「さっきから、こっちを見てたみたいだけど……なにか用かな?」


 背中にダブルで日本刀をしょったお兄さんが、オレたちに声をかけてきた。

 柔らかな言い方だけど口調は問いただすような感じ。

 ヤバ……怒らせちゃったかな?


「――すいません。オレたちも刀使いなので、同じ武器を持ってる人が気になって」


 他人をじろじろ見て話題にしたのはよくない――てことで、オレはとりあえず頭を下げた。

 だが……そんなオレを日本刀お兄さんは軽く無視。

 そして微妙に気取った口調でサユリさんにだけ、たずねる。 


「……ほう。キミも刀を使うのか? ちなみに所属してるヘイブンはどこなんだい?」

「わ、わ、わたしは『道場』ヘイブン…………です」


 日本刀男の問いに、おずおずと答えたサユリさん。

 ぎこちない返し方だったが、人見知りにしてはガンバったほうだと思う。

 しかし……そんなサユリさんの答えに、ダブル日本刀男はヤな感じの笑いで応えた。


「ふ、ふ~ん。道場……なるほどね」

「ぷっ……」 

「ぶふっ!」  

 

 遅れてこっちにやってきた残り三人も、サユリさんの言葉に吹き出している。


 ……む、美少女に鼻の下伸ばしてたクセに『道場ヘイブン』所属ってわかったら、これかよ?

 少し前までの道場はたしかにひどいデザインだったし、ネタヘイブンみたいなもんだった。

 けど、だからって……他人がそういう風に笑っていいもんじゃないだろ!


 オレのことを無視して美少女(サユリさん)に声をかけたことといい――感じ悪いぞ。こいつら。 

 と、腹を立てたオレに、ダブル刀男はようやくえらそうに声をかけてくる。


「じゃ、ついでに…………そっちのキミも道場なのかな?」

「…………ちがいます。どこのヘイブンにも所属してません」


 半笑いで失礼な質問をしたダブル刀野郎に、オレはできるかぎり冷たく返した。

 だが、そんなオレの答えに――、


「……は?! 未所属?」

「キミ、未所属ノラプレーヤーだったのかい!?」



 ――ダブル刀野郎と仲間たちから、妙にはげしい反応が返ってくる。 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ダブル日本刀男と、その仲間たちはオレを口々に非難してくる。


未所属(ノラ)とかありえないな。ホント」

「考えられん。プレーヤーのつらよごしだ」

「うむ。よくイベントに顔出せたよなあ?」


 いきなりかけられた圧倒的な否定の言葉。  

 オレは怒るより先にあっけにとられてしまった。



 ……え? なんで、ヘイブン未所属ってだけで、そこまで言われにゃならんの?



「OH NO! キミ、マジでそれ言ってんの?」

「ああ、この『ゾンビヘイブン』ってコンテンツはメーカーからの『どのヘイブンが至高か決めよう』っていうサジェスチョンだろう? なんでユーザーとメーカーとのコンセンサスに逆らうんだい?」

「そうだ。我々ユーザーはメーカーとグランドデザインをシェアしてコンテンツをエンジョイする――そんなカスタマーとメーカーのウィンウィンのリレーションシップにプライオリティをおいたプレイスタイルがマストなんだ!」


 とか、なんとか――わけわからん演説をはじめる近接武器四人組。

 しかし、激しくモヤっとする外来語の多いしゃべりかた――オレには心当たりがあった。 



 ……うわ。この人たち、うわさに聞く『意識高い系プレーヤー』だ。



 しかも、その中でも一番イヤなタイプ――『このゲームは、こうプレイすべき』みたいな理想を持ってて、他人がそれとちがう遊び方をしてると、やたらかみついてくる連中。 

 逆らうと、やたらからんできて――おかげでゲームをやめちゃう人たちもいるみたいだし。


 う~む。他人にかみついて同じことをさせようとするあたり――この人らもゾンビみたいだよな。

 野生動物と同じで遠くから見てるとオモシロいんだけど……実際からまれるとマジでめんどい。

 これってゲームなんだし、楽しんでナンボ。自分の好きにやればいいと思うんだけど……。

 


 ――と、なんか醒めてるオレに対し、四人組の非難は続く。



「HOLY S〇IT! そうやって自分だけ良ければいいっていう、キミみたいなカスタマーが業界を衰退させていくんだ! ASAPでヘイブンにコミットしたまえ!」

「THAT’S RIGHT! リコメンドされたスキームをリジェクトするなんて、スペシャルなエクスペリエンスをアチーブしようってビジョンへの……」



 ――とかなんとか横文字(いしきたかそう)ワードが大量に含まれた説教は、まだまだ終わらない。



 …………えーと、要はヘイブンに所属してプレイしろってこと……なのか? 

 でも、作った当の本人(リック)さんたちには別に何も言われなかったしなあ?

 なんでまったく利害関係のない人らに、こうも説教されなきゃならんのだろうか?


 命令口調にイラッときたオレだったが、そこはなんとか自分をなだめる。


 ……ま、いいや。とにかくメンドイ人たちってのはわかった。

 なんかムカつくけど、ここはとりあえず、こっちが大人になってあやまっとこう。

 サユリさんにこれ以上イヤな思いもさせられないし。



 と、ヘタレたことを考えてため息をついたオレだったが――。

 横のサユリさんにちらっと目をやってぎょっとする。

 


 なんとサユリさん――お腰の愛刀『菊一文字』に手をかけ、プルプル震えてるじゃないか!?

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「……許せません。わたしと兄の所属する道場(ヘイブン)をけなしたばかりか、タッくんにまで妙な難癖をつけるなんて! そもそも……ちゃんと日本語で話しさない!」


 なんてブツブツつぶやいてるサユリさん。

 その細く長い指はすでに刀の柄をぎゅっと握りしめ、白く変色している!


 ちょ……ダメですってばサユリさん! さすがにキレるのが早すぎです! 

 頭にきたら即抜刀――(ムカ)(そく)(ざん)っていう、その思考回路がコミュ症の原因なんですってば!

 それに……自分や友人をバカにされたことよりもワケわからん言葉づかいにキレちゃいけません!



 と、急いで止めに入ろうとしたオレだったが――。

 それより先に相手のほうがサユリさんの剣幕に気づいた。 

 


「ホワッツ! こいつ、剣に手をかけてるぞ!」

「〇ァッキン!? ジー〇ス・クライ〇ト!!」


 かぶれたような英語スラングとともに、しゃっと音を立て、無礼なお兄さんは二本の刀を抜く。

 他の面々も、それぞれ武器をかまえ――完全に臨戦態勢だ。


「ウーーープス! これだからクソヘイブン所属と野良プレーヤーは嫌いなんだ」

「――YEAH! SURE! まったくだ。やってられないよな」


 からんできたことは棚に上げて、勝手なことをいう意識高い四人組。

 正直、微妙に巻き舌発音の英語が、オレもかなりイラつきますな。

 

 

 ――で、そんな連中(やつら)、にサユリさんがぷっつりキレた。

  


「日本男児の風上にも置けない……絶対に……斬ります!!」



 人斬りと呼ばれた幕末(あのころ)に帰っちゃってる感じのサユリさん。

 そして武器をかまえた四人組――双方の間に、どんどん殺気が高まっていく。



「なんだなんだ!?」

「イベント前なのに対人戦か?」



 ただならぬ気配に周囲もざわついて、完全に一触即発の雰囲気だ。



 ……ああ、もう! しょうがない! 

 サユリさんもオレも、こんなとこでやられるわけにはいかないし!


 やむをえず覚悟を決めたオレは、接近戦にそなえ愛用の長巻『次郎太刀』に手をかけた。



 だが、そのとき――。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「……おいおい。2人相手に4人がかりってのは、さすがに卑怯じゃないか?」

  


 対峙するオレたちの背後から、声がかけられた。

 そんな主人公(ヒーロー)っぽい登場をしてきたのは、四十くらいのダンディな感じのオッサン。

 背後には十人ほどの集団を従えて――お仲間らしき雰囲気だ。



 ――で、颯爽(さっそう)登場した銀河美中年(ダンディ)さんはさわやかな笑みを浮かべ、日本刀男をなだめる、



「これから始まるのは複数(マルチ)ヘイブンによる共同戦――こんなとこでつぶしあって貴重な戦力を失うのはもったいないだろう?」

「――AH HAH? ボクたちはプラクティカルなエクスペリエンスを得るオポチュニティを彼らに提供してるだけさ。なんなら、あなたがたもリテラシーをフレームにたたきこんであげようか?」


 でも――日本刀男は止まらない。

 そればかりか、いいかげんな意識高そうワードを並べて、ダンディさんにも食ってかかろうとする。    


 だが……そんな日本刀野郎を仲間の棍棒男が止めた。



「おい、よせヴィンチ! あいつらの装備を見ろ!」

「――――あ!? あの金満装備は……!?」

「まさか……お前ら……銀行ヘイブンか!?」



『銀行』という言葉が出た瞬間――すぐに警戒して腰が引ける四人組。

 装備と名前だけで意識高い系四人組をビビらせたのは……どうやら『銀行』って避難所(ヘイブン)に所属する人たちらしい。


 で、その先頭にいたダンディさんは――。

 なぜかオレたちに、やたらフレンドリーな声をかけてきた。



「やあ。ひさしぶりだね。タクくん。それとも……この姿では初めましてというべきかな?」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「え~と……タッくん? お知り合いですか?」


 ダンディさんの登場で毒気を抜かれたサユリさんが、きょとんとした顔でたずねてくる。

 だが――オレにも心当たりがない。


 ……いったい、このえらくフレンドリーなダンディさん、だれなんだ? 

 このゲームをはじめてからほぼ道場に入りびたりだし、こんな知り合いはいないはず――だよな?  


 不思議に思ったオレはにっこり笑ってるダンディさんのプレーヤーネームを確認。

 で……そこに表示されていたのは『ハルトマン』という名前だった。



 ええと…… 銀行ヘイブンの『ハルトマン』さん?

 ……う~む『ハルトマン』って少し前、どこかで聞いたような?

 

 と、最初はとまどったものの次の瞬間、一気に記憶がよみがえってくる。




「……ん? 待てよ? 銀行…………ハルトマン…………あ、もしかして!?」


 


 新イベントで待ち受けていたのは予想外の事態――思わぬ再会にオレは大きな声を上げた!



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