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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
三章
38/59

グッド・エンディング?

 サユリさん無双で撃破したはずの女王ゾンビ――、

 頭部を失っているのに、その巨大なお尻部分がまだうごめいていた。


 おいおい……さすがにしぶとすぎでしょ?!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ていうか……マズイ! 

 こっちはまだ女王ゾンビの毒針でかけられた麻痺が抜けきっていない。 

 一瞬、オレはパニックを起こしたが――。

 


「…………ん?!」



 とある事実に気づいて、すぐにパニックは収まった。

 オレは回らない舌で、サユリさんに声をかける。


「だい……じょうぶ。あれは、むしろボーナスステージ……かも」

「…………どういうことです? タッくん」

 

 オレが声をかけたとき、サユリさんはすでに刀を女王ゾンビに向けてかまえていた。

 巨大ゾンビの死体とオレとの間――動けないオレをかばうような位置取りだ。 

 ただそのせいで、さっきまで胸のあたりにあった極上の手触りは儚く消えているわけで――。


 むぅ……せっかくの美少女さんの感触がもったいない。

 ……って、そうじゃなかった。サユリさんに早く事情を説明しないと!



「――ボーナスステージとは、どういう意味なのでしょう?」


 女王ゾンビに警戒しつつも、首をかしげつつやってくるサユリさん。

 その武人っぽく、すきのない身ごなしに感心しつつ、オレは答える。  

 


「それって、たぶん……女王ゾンビの卵……です」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「――えっ、卵?」 


 オレの言葉に、半信半疑で女王ゾンビの腹をのぞきこんだサユリさんは――、


「あ、ホントです。タッくん! たしかに子持ちですね、このおっきいゾンビ!」

「……『子持ち』ってサユリさん。シシャモじゃないんですから……」


 剣の腕前と引き換えに残念な脳みそを持つサユリさん――彼女の妙な言葉にオレはためいきをつく。

 体はまだ動かないけど、律儀にツッコミを入れられるくらいには回復していた。


「……うぅ、子連れの動物を殺してしまいました。きっとお腹の子を守ろうと必死だったのでしょう。すごい罪悪感です」


 一方、サユリさんは、どこぞの猟師(マタギ)みたいなことを言って後悔している。

 う~ん。気持ちはわからないでもないけど……あんまり同情できる相手じゃないんだよなあ。

 こっちは奇襲でやられかけてる上に、卵を寄生させてくるような気色悪いゾンビさんだし。


 ま、それはともかくとして――ヘコんでるサユリさんにやってもらわなきゃならないことがあった。     


「すいません。サユリさん……お願いがあります」

「なんです? タッくん」

  

 ちらっと透けた産卵管内部――どうやら孵化ふかが近いらしく、うごめいてる幼虫ゾンビがいた。

 卵の中でモゾモゾしてるミニチュアサイズの蜂ゾンビちゃんたちは……それはそれは気色悪い。

 その生理的にアウトな外見にぞっとしつつもオレはサユリさんにお願いする。  


「……そいつら、ぶっ殺してください」

「ふぇっ!!?」



 ――オレの頼みにサユリさんはすっとんきょうな声を上げた。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ――グジュッ! ブジュッ!


「タッくん……こんなおっきくてかたいの……ムリ……です、ひゃっ、ひゃあッ!」


 湿った水音とともに、サユリさんがうめきながらオレに訴えかけてくる。

 かなりエッチな状況に聞こえるかもしれないけど、残念ながらオレとサユリさんがそういうことをしてるわけではなく――、


 ――サユリさんは愛刀で孵りかけのゾンビ卵を討伐してるとこなのだ。


「がんばってください。今、そいつらに卵からかえられてもめんどうですからね」

「……ふぇええええっ! ダメですぅ! もうムリぃッ!」


 再び、サユリさんのいかがわしい悲鳴が上がるが、無視してがんばってもらう。

 そしてサユリさんがまたしても刀をぶにぶにした卵に刺すと――、


 ――グジュッ!


 サユリさんの足下、はじけ飛んだ蜂ゾンビの卵が転がる。

 孵化寸前だった幼虫はきゅうと小さく鳴いて息絶え……また一つ、赤ん坊ゾンビの命が消えた。


 …………残酷なようですが、これもサバンナのおきてなのです。


「ううう、タッくん、ここはサバンナじゃありませんよぅ……それに、なんだかベタベタしますぅ」


 いかがわしい感じで顔についた粘液をぬぐいながら、サユリさんが不平っぽくツッコミを言う。

 だが、まだオレは動けない……昔、背中に矢を受けてしまってな。

 だから孵化寸前の虫ゾンビはサユリさんにしとめてもらって、討伐してもらうしかないわけで――。


「すみませんね。でも、こんな『ボーナスステージ』逃すわけにはいかないじゃないですか?」

「むぅ……こんなのの、どこがボーナスなんですかぁ!? 刀も柄まで汚れちゃいましたし……」

  

 そう言いつつも半泣きで作業を遂行してくれるサユリさん。本当にもうしわけない。

 虫ゾンビの卵は半透明でブヨブヨしてて――破裂した音を聞くだけでも気色悪いシロモノだ。

 そんなものを女子高生に処理させて悪いと思ったが、他に手はない。



 というわけで……きりきり働いてください。サユリさん。



「ほら。サユリさんがプレイしてるのはR-15バージョンでしょう? オレのプレイしてる18禁バージョンよりグロ表現は緩和されてるはずですし」

「だとしても……気持ち悪いものは気持ち悪いんですぅ……!」


 いつものりりしさや、さっそうとした感じもなくなり、涙目で言うサユリさん。

 いや……本当にごめんなさい。年ごろの美少女さんにヒドいことをさせてます。

 それでもサユリさんは一つ一つミニゾンビを潰していき、スコアを伸ばしていく。



 そしてついに――サユリさんは、すべてのベビーゾン・ビーを倒し終わった。

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「……よ、ようやく終わりました」


 かなり長いことかかった殲滅作業――やりとげたサユリさんはへたりこんだ。

 そのやつれきった顔にさっき女王ゾンビを倒した女剣士の面影はない。

 オレのやらせたことだが……かわいそうに。


 まあ、それはさておくとして――オレは討伐数(スコア)を確認する。


 どれどれ……ああ、やっぱりオレはランキングに届かなかったか。

 麻痺で動けない状況だったから、しかたないっちゃあしかたない。そして、いいところで邪魔したあの女王ゾンビは絶対に許さない。


 しかし一方で、サユリさんは……、

 

 ――お! ランキングに載ってるぞ!


 中位くらいだが、それでもちゃんとランキングにサユリさんの名前があった。

 うむうむ――さすが最後に大量の赤ん坊ゾンビを虐殺しただけのことはある。



「……ひ、ひどいです。タッくん! 『虐殺』だなんて人聞きが悪いです!」


 オレの言いようにショックを受けたようすだ。

 サユリさんは口をとがらせて言い返してくる。

 

「――ちゃんと思いをこめて一つ一つ、ていねいにつぶしました!」


 ……いや……それはそれでどうなんだろう?

 ゾンビ討伐を人のぬくもりが伝わる手作業みたいに言われてもなあ……。


 しかし、とにかく――だ。

 当初のランキングに入るという目的は達成できた。  

 残念ながらオレが入ることはできなかったけど、サユリさんはランク入りできたわけだ。


 よし! いいぞいいぞ!

 フレンド登録してる相手がランク入りした場合、ゲーム内のメールボックスだけじゃなく、アカウントに関連付けられてる現実(リアル)のほうのメールアドレスにも報告が届くようになっている。


 そうなればユズキさんやリックさん、テムさんもオレたちの近況が気になるはずだろう。

 そしてきっと、ログインしてオレが送ったゲーム内メッセージに気づいてくれるはずだ。 


 楽観的すぎる希望をいだいたオレだけど、ここまでリベレーター地獄で苦しんできたのだ。せめて少しくらいの浮かれっぷりは許してほしい。 


 ……ああ、これでオレにかけられた『リベレーターの呪い』も終わる。

 銃器の抽選(ガチャ)でハズレ銃器しか出ない日々が終わるのだ――短いようで長い日々だったなあ。 

 


 と、胸をなでおろしながら言ったオレに――。

 首をかしげたサユリさんが不吉なことを告げる。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「……はい? わたしはあんな女と――その知り合いなんかとはフレンド登録してませんよ」


 きょとんとしながら告げられたサユリさんの言葉。

 てっきり、サユリさんとユズキさんがフレンド登録してるもんだと思ってたオレは、ぼう然となる。

  

「えっ?」 

「えっ?」


 おたがいに首をかしげあうオレたち。

 サユリさんの言葉の意味を飲み込むまで――数秒が必要だった。



 ……ああ、そういえばサユリさんって昔から人見知りだったもんな。 

 しかも妙に好き嫌いが激しくて――そんなサユリさんが初対面の人間とフレンド登録してるはずがない。

 うん。もっと早く気づいとくべきだったんだよ。アハハハハハハ……


 と、脳内で乾いた笑いを漏らしたオレは、ようやく一つの考えにたどりつく。


 …………ってなると。


 オレ→そもそもランキング外。

 サユリさん→そもそもフレンドじゃないから、ランク入りしようと通知が行かない。


 どちらにしろ、ユズキさんたちに気づいてもらえないことになる。

 つまり、ここまでやってきたことすべてがムダだったってこと……か?



 ――気づかされた事実にオレは絶叫するしかない。



「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーッ!!!!」



「タッくん!! どうしました!?」

「……オレは……人間をやめるぞぉッ! サユリさん! UREEYYYYYY!!!」


「お、落ち着いてください! タッくん!」


 血の涙を流して錯乱する相棒(オレ)へ、心配して声をかけてくれたサユリさんに――。

 オレは頭の中が真っ白になりながらも事情を話す。


 と――。

 サユリさんが震えながら口を開く。


「え……それじゃあ……おっきなゾンビを倒したことも、気持ち悪いちっちゃいゾンビをつぶしたことも……全部、無駄だったということ……ですか?」


「――――ええ。はい。そうですね。全部ムダです」

「そ、そんな…………」


 乾いた声で答えるオレ。

 今度はサユリさんが、がっくりひざをつく番だった。

 そして――、



「…………………………」

「……………………」



 それからしばらく――イベント終了時刻まで研究所内に無言でたたずむオレたち。

 好条件(グッド)エンディングを告げる祝福BGMが、むなしく響きわたる。  


 その後、衝撃から覚め、道場ヘイブンへと帰る道すじ。

 オレたちの足取りは底抜けに重く――。

 



 ――かくして、オレのリベレーター地獄は続く。





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