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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
三章
37/59

サムライガールVSクイーンゾン・ビー!

 サユリさんの放った強烈な一太刀。

 女王ゾンビのお尻部分――毒針の射出口あたりがすっぱりと切り裂かれた!



『ギィィィィヤァァァァァ!』



 ――飛び道具と体の一部分を失い、巨大蜂ゾンビはムダにデカい悲鳴を上げる。 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 …………うわ、すごいな。


『仲間の制止も聞かずに敵に突っ込む』とかパニック映画じゃ本来、死にフラグ。

 製作者のつごうよくストーリーを進めるため、頭の悪い行動をして視聴者をイライラさせたあげく死ぬ――脳筋ならではの死にざまだ。 

 だから、かなり心配したんだが……むしろ脇役の負傷で覚醒するフラグだったらしい。 

 そっか、オレってクリ〇ン役だったんだ。


 ――なんてことを麻痺して地面に転がった状態で、オレはのんきに考えてた。  


 一方、デカい(ヒップ)を斬られた哀れな巨大蜂ゾンビはといえば……。

 


『ギイィィィウウウウウゥゥゥ!』



 サユリさんの怒りの攻勢に恐れをなしたのだろうか? 

 一声鳴いたあと、女王ゾンビはゆっくりと後ずさりし、素早く反転した。

 オレたちに背中を見せて遠ざかっていこうとする――どうやら退却することにしたらしい。


「逃げるなんて卑怯です! 待ちなさい!」


 もちろんサユリさんは怒りの声とともに女王ゾンビを追った。転がっていた日本刀入りケースをひろい、引きずりながらすさまじい速さで駆けていく。  

 そしてオレが視線を送る先――一人と一匹は、やや離れたとこ、研究所二階につながる階段部分へと向かっていった。


 ……ええと。あそこはたしか少し広くなってたよな。吹き抜けになってて、この不気味な建物の中ではめずらしく開放感のある場所だった気がする。


 オレは研究所を探索したときのことを思い出す。


 ――ブウウウウウウウウン 


 と、そこで女王ゾンビはかすかに羽をはばたかせ上に向かった。

 階段の吹き抜け部分――天井の高いとこへ向かい、上空に飛んで逃げたのだ。

 遠距離攻撃手段を持たないサユリさん相手なら、やられないポジションか……。


 ――く、虫のくせにずるがしこい。

 オレは虫らしくない頭脳的な行動にイライラさせられる。


「………………」


 だが、後を追ったサユリさんのほうは冷静だった。黙ったまま、なにか考えこんでいる、


「――これって、筋力を増強できるんでしたよね……だったら、いけるかも」


 そして自分のパワードスーツケース(日本刀入り)を見て、つぶやくサユリさん。

 いや、まあ、ここまで戦闘モードで使ってないから、サユリさんのケースのバッテリーはまだあるはずだけどもさ……。

 でも、いくら筋力を上げても、敵に届かないんじゃ意味がないような気がするぞ。

 と、オレは危ぶむが――、


 ……ぽちっ


 サユリさんは迷うことなくケースを起動させていた。

 そして――あっという間にケースを身にまとうサユリさん。

 大正ロマンあふれる女学生っぽい服装の上にパワードスーツっていうSF装備――ミスマッチかと思ったが意外とお似合いなようす……やっぱ美少女さんってなにをやっても絵になるらしい。 

 ま、メカ美少女なんてジャンルもあるくらいだし。 


 というわけで――。

 六本の腕それぞれに刀を持つ戦女神が、そこに降臨していた! 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 



 筋力増強スーツをまとったサユリさんは、ものすごい勢いで突進をかける。

 だが、敵の女王ゾンビはどうやったところで手が届かない高さにいる。

 サユリさんを見下ろす顔が微妙に得意げに見えてイライラさせられた。


 ……む、これじゃ突撃をかけても意味がないよな。


 オレはサユリさんの行動をあやしんだものの――。


 ……いや、ちがう。


 サユリさんは女王のすぐ手前で方向転換した。

 そして、なぜか最寄りの壁に加速しながら突っ込んでいく。

  

 ――うわ、危ない! ぶつかるぞ!


 慣れないスーツで操作をまちがえたのか?

 サユリさんがコンクリートにたたきつけられると思って、びびったオレだったが――、

 壁のすぐ手前、サユリさんは飛びあがり――そして迫りくる壁面を蹴っていた。


 ――ズガッ!

 

 すさまじい音が響き、コンクリの壁に亀裂が入り――、


「てえッ!」


 一方、サユリさんは気合の声とともに反動を使って、ななめ上方へ高く飛翔していた!


 ――さ、三角とび……だと!? 


 壁を蹴った反動を使って、ただの垂直跳びよりも高度を稼ぐ――国民的サッカー漫画の空手家ゴールキーパーの必殺技だ。

 名前だけは聞いたことがあったけど……まさか実際にやる人がいるとは!

 


 ――驚くオレの前、予想外のジャンプを見せた剣術美少女は高々と宙を舞い、女王ゾンビにせまる!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ……そうか! 

 サユリさんがわざわざパワードスーツをまとったのは、強化した脚力で大技を決めるためか!

 オレがパワードスーツを使うとこを見てただけで、最適な使い方を自分で発見してしまうなんて、さすが戦闘狂(バトルマニア)のサユリさんだ。

 優雅に宙に舞うサユリさんの姿――オレだけじゃなく、昆虫らしく無表情な女王ゾンビも驚いてるように見えた。

 


 で……、空中浮遊(ホバリング)してる女王ゾンビへ――。

 サユリさんは飛びつき、手にした二本の刀を突き立てた。



『アアアアアアアァァァァァーーーーーッ!』



 鋭い一刺しを、どデカい産卵管に喰らった女王ゾンビが悲鳴を上げる。


 ふっふっふ! ざまあ見ろ! こっそり後ろからオレに毒針を刺した報いだ! 

 今度は自分が刺される苦しみを味わうがいい!

 オレは、ここぞとばかりに女王ゾンビを笑ってやる。 


 ……まあ、麻痺した状態じゃ他にすることもないしね。

 

 一方、サユリさんはブッ刺した二本の刀につかまって体を持ち上げていた。

 そして巨大ゾンビの腹に深々と突き刺さった刀の柄を足場にする。

 細く小さく――かなり不安定な足場だったが、サユリさんは危なげなく立ちあがった。


 で――、

 巨大ゾンビと真正面から向き合う美少女さん。その姿はかなり小さく見えた。

 ぱっと見でも大人と赤ん坊ほどの差がある……というより女王ゾンビがデカすぎるのだ。

 距離があったせいで分かりづらかったが、オレたちはとんでもない怪物を相手にしていたらしい。

 

 ……しかしサユリさんは敵のデカさにもひるまない。燃え上がるような闘志をぶつけていく。


 そして、そこでさらに――、

 スーツの補助アームからすばやく予備の刀を受け取ったサユリさん。

 その刀をサユリさんは目にも止まらぬ左右の高速突きで女王ゾンビの胸に打ちこむ。



『ヒイイイイイイィィッ!』



 ふたたび女王ゾンビの悲鳴が上がるが――サユリさんは止まらない。

 胸に突き立てた刀の柄を足場にして駆け上り、女王ゾンビの顔と真正面から向かい合う。

 そして、今度は一本だけ受け取った刀を腰あたりでかまえ――、



「……これで……終わりです!」



 戦いの終わりを告げるとともに、サユリさんは刀を振り抜いた!



 ――斬撃、一閃!



 銀の光が横一文字に女王ゾンビの首筋を抜けていく。

 同時に、きれいな断面を見せて高く舞う女王ゾンビの頭部。



 胴に四本も刀を突き刺され、首を斬り飛ばされたら……どんなタフなゾンビもおしまいだ。

 はばたきが止まり、重力に逆らうことをやめた女王ゾンビは地に落ちていく。  


 ……ボテッ、

 

 まず、ゾンビの頭部が地面にたたきつけられ――。


 ……ドウゥゥゥンッ!


 続けて落ちた巨大な体が重い地響きを立てた。

 同時にサユリさんも地面に到着している――もっともこっちは軽やかな着地だ。


 おおっ! すごいぞ! サユリさん!

 まさか、あの巨大ゾンビ――ラスボスをたった一人で倒すなんて!


 オレは転がったままの体勢で大仕事をやってのけた剣術美少女に、心から賛辞を送る。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ――きゅううううううん!

 


 電池切れを起こしたサユリさんのパワードスーツが、元のスーツケースの形にもどった。

 しかし、サユリさんはごとりと転がったケース、それに巨大ゾンビに刺さったままの愛刀も気にせず、オレのいるほうに駆け寄ってくる。



「タッくん! だいじょうぶですか!?」

「だ、だいじょうぶです……まだ……しびれてるけど」


 サユリさんの心配そうな声、泣きそうな表情にオレはなんとか返事する。

 ちょっと強がりをいったものの、たしかに体の感覚はもどってきてる感じだ。 

 そんなオレの姿と言葉に、サユリさんは胸をなでおろす。


 そして、なんと――まだ倒れて動けないオレの胸にしがみついてきた!


「よかった……ほんとによかった。タッくんが無事で……!」


 サユリさんの黒髪が顔をかすめ、滑らかなくすぐったさにドギマギさせられるオレ。

 おなかのあたりにも少しだけ、柔らかなふくらみが触れて、さらに動悸が激しくなる。


 これは仮想現実(ゲーム)の中のできごと。現実世界(リアル)のオレが動けなくなってるわけじゃない。

 だからサユリさんの反応はちょっと大げさで恥ずかしかったんだが……オレの胸板にすがりついて肩を震わせてる姿を見ると文句なんか言えない。



 ま……こんだけ心配させちゃったのは悪かったし。あと少しだけ、このままでいよう。 

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 しばらく、サユリさんに胸を貸したあと――。


「それにしても……よく、あのデカいやつを……」


 オレは照れ隠しに少しだけ体を起こし、女王ゾンビのほうを見ていった。

 まだ歩くのはムリだけど、それもあと少しで回復できそうな感じだ。

 そんなオレを切り離された女王ゾンビの頭部が無表情なまま、どこかうらめしそうに見つめている。


 空中から放たれるあの麻痺毒針は自分が喰らったから言うわけじゃないけど『初見殺し』だ。 

 サユリさんはよくもまあ、たった一人で……あんな化け物を倒せたよな。


 と、オレが半分あきれつつ、ほめると――。



「……タッくんが倒されちゃったので……頭に血が上ってつい……」



 サユリさんは照れくさそうに言う。

 ……う~む。『頭に血が上ってつい』か。『今は反省している』とか続きそうな動機だ。

 そんな出来心みたいな理由で倒されるとは……あの女王さんも浮かばれないな。


 なんて風にバカなことを考えられていたのは、大ボスを倒した(というか倒してもらった)余裕のせい。


 しかし――。

 何の気なく視線を送ったサユリさんの背後――女王ゾンビの亡骸を見て、オレは驚かされた。


「あッ!?」


 目にした光景にオレは思わず、まぬけな声を上げ――、


「……どうしました!?」 


 顔色を変えたオレの態度を見て、サユリさんも異変に気付いたのだろう。

 即座に反転して敵に備えている。

 無意識のうちにオレを体でかばってくれてるあたりが、ちょっとはずかしいけど……  



 そして、ふりかえったサユリさんの目の前、オレたちが視線を送った先では――、  



 なんと……女王ゾンビの胴体――というか、お尻部分がビクビクと震えていた!


  


  

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