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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
三章
32/59

リローデッド!

 怪しげな屋台で売られていた新装備『パワードスーツケース』。

 店主のうさんくさいオッサンから説明を聞かされたオレは――、


 強敵ゾン・ビーと渡り合う作戦をひらめき、とっさにさけぶ。


「おじさん、このケースください!」 

『はいヨ! パワードスーツケース・タイプ・アースラ、お買い上げありがとうネ!』



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 十分後――、

 そこには『パワードスーツケース』の上に乗って街中を駆け抜ける元気なオレの姿があった。 

 


 この『パワードスーツケース』――見た目はただのスーツケースだが、なんとパワフルな電動モーターを内蔵し、人を乗せて走ることができる。

 持ち手部分がは90度折れ曲がって手すり兼操縦装置になる。走ってる姿は、ぶかっこうな電動スクーターみたいな感じだ。あるいはエンジン付きの台車といえばいいだろうか? 

 重いケースを引きずらなくていいばかりか、上に乗って移動できる。

 スピードも体感ではスクーターくらい出てるみたいだし、これはありがたいことなんだが――。 


 スーツケースが人を乗せて街中を爆走する――はたから見れば、かなりシュールな光景だ。

 はっきりいってかっこわるい。


 さらに――、


 ドゴンッ!


「あうッ!」


 小石を踏んだだけで、とんでもない衝撃がオレを襲い、腰のあたりにダイレクトにひびく。

 う~ん。このスーツケース……移動装置としては失格もいいところだ。

 ま、そもそも乗り物じゃないから、乗り心地を追及するほうがまちがいなんだろうけど。

 やっぱり一つのものにあれこれ詰め込みすぎると、かえって不便になるんだよな。柄の両端にナイフとフォークがついてるアイディア食器みたいな感じだ。


 ちょっと高い買い物だっただけに欠点が見つかるとへこんでしまう。

 もっとも、あくまでこれは対ゾン・ビー用――このスーツケースに秘められたもう一つの特殊機能を使ってあの虫型飛行ゾンビと渡り合うためでしかない。

  

(……オレ、この戦いを終えたら別な乗り物を買いに行くんだ)


 なんて死にフラグっぽいことを考えてるオレの隣――、


「ふ~ん、ふんふ~ん」

 

 サユリさんがオレと同じパワードスーツケースに乗り、機嫌良さそうに鼻歌を漏らしている。  


 ……ていうか、なんでサユリさんまで同じものを買ったんです? 

 他にも手ごろなかばんがあったでしょう? 

 これって高かったですし、お財布だいじょうぶですか?


「わ、わたしだって、ちゃんとお金持ってるんですよ!」


 オレの心配に、サユリさんは口をとがらせた。


 ま、いっしょにアングリー種を狩ったわけだから、同じくらいもらってるはずだけどさ。

 でも、いくら余裕があっても無駄使いはいけませんよ?


「むぅ……だってタッくんとおそろいがよかったし」


 オレの忠告に何事か抗議するサユリさん。

 小声だったんで、よく聞こえなかったけど――なんていったんです?


「い、いいえ! 別に何も……」


 はあ。そうですか。

 しかし残念だな。サユリさんと二人乗りしてみたら楽しそうだと思ったんですが。 

 いや、ちょっと子どもっぽかったかな?


「ふ、ふ、二人乗り!? タッくんと二人乗り!?」

 

 え、ええ……そのつもりでしたけど。

 サユリさんの妙な食いつきに少し引きながら、オレが答えると――、


「……このケース……返してきます」


 キキィ!

 

 ブレーキをかけ、いきなり引き返そうとしたサユリさん。

 オレもあわててブレーキをかけ、サユリさんの行動を止めた。


 ダメですよ! あの店主さん、お試し価格だから返品はきかないって言ってたじゃないですか! 

 それに、どうしたって日本刀ケースは必要なんだし。

 おたがい移動手段があれば、二人で別行動もできる――いろいろ便利なんです。


「べ、別行動! そんな! わたしはなんて失敗を……!」


 なぜか、さらに激しく落ち込んでいるサユリさん。

 どうやら、よけいなことを言ってしまったらしい。

 

 その後――、

 ケースを処分しようとするサユリさんをなだめるため、かなり苦労させられた。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 新たな移動手段のおかげで、あっという間に道場に着いた。


 で、サユリさんを送り届けたオレが端末からログアウト操作をしていると――、 

 きょとんとした顔でサユリさんがたずねてくる。

  

「あれ? もうログアウトしちゃうんですか? いつもなら道場でお話していくのに――」

「え、ええ。ヒサヨシさんはいそがしそうだし。オレも予定があるので」

 

 ちょっと隠し事があったオレはサユリさんの問いに動揺してしまう。


 ……あぶない、あぶない。

 これからやろうとしてることサユリさんに気づかれるわけにはいかない――反対されるに決まってる。 

 だけど、あのゾン・ビーに対抗するためには必要なことなんだ。


 そんなことを考えこんでたオレに、サユリさんは首をかしげている。


「どうしたんですか? なんだか変ですね。タッくん」

「あはは、すいません。それじゃまた」


 サユリさんに疑惑を抱かれそうだったので、オレは勢いでごまかし、早々にログアウトする。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 そして翌日――。


 大学から帰ってすぐにログインする。

 昨日のログアウト地点『道場』ヘイブンそばに出現したオレはあたりを見回した。


 ――よし、サユリさんはいないみたいだ。


 確認してオレはうなずく。

 前回はサユリさんといっしょに動いたけど、今回は単独行動……今日はどうしても一人でやらなきゃいけないことがあるし。


「……一人でやらなきゃいけないこと? それってなんですか?」


 え~と、それはですね――って!

 聞きなれた声が背後からたずねてきて、オレはぎょっとした。


(……うわ、たしか前にもあったよな、こんなこと)

 

 そう思いながら、おそるおそるふりかえると、

 そこには――、


 ――にたりと不気味に笑うサユリさんの姿。


  サユリさん! なんでここに!?


「……ふふふ、タッくんの背後には、ず~っと、わたしの目が光ってますから」


 そう告げたサユリさん――垂らした前髪のすきまから、白目でオレを見つめている。


 うわ! やめてください! 美少女がだいなしだし、超怖いです!


 ひさしぶりのサイコなサユリさんにオレの腰が抜けそうになるが――、

 

 サユリさんはすぐにまじめな――悲しそうな表情になった。

 そして、しんみりした口調でオレに話しかけてくる。


「……昨日のタッくんの様子が変だったので気になってしまって、ログインを待ってました」


 むむ……そうか。幼なじみだし、いっしょに修羅場をくぐった仲でもある。

 オレも挙動不審だったし、隠し事を見抜かれてしまったか。

 

「悩み事があるなら……わたしでよければ相談に乗ります。こんな詮索は迷惑だったでしょうか?」


 と、おずおずとたずねてきたサユリさん。

 オレはあわてて首を左右にふった。


 あ、いえ。迷惑じゃないです。

 ただ、オレがやろうとしてること、サユリさんに反対されると思ったんですよね。


「そんなことしません! タッくんの考えにまちがいはないはずです! 実際、すごい作戦でわたしたちを救ってくれました!」

 

 拳を握って力説してくれるサユリさん。

 その信頼が気恥ずかしいけど、うれしくもある。


 う~ん……やっぱり、ここまで信じてくれる人に隠し事はよくないな。

 そう考えたオレは、サユリさんにこう告げる、


「じゃあ、サユリさんもいっしょに行きましょう。実は今日は銃器のトレードに行くんですよ」

「……え? トレード?」 

 

 オレの言葉にサユリさんは目を大きく開いた。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 その後――、

 オレたちは、またも臨時市場へ行く。

 もっとも今回は昨日の買い物ゾーンじゃなく、隣接する飲食ゾーンのほうへ足をむけた。


 ちなみに臨時市場の周辺は安全地帯――屋台村の周囲には廃車を利用したバリケードが置かれ、警備兵が巡回し、ゾンビの侵入を防いでいるという設定になっているらしい。


 さて、その臨時市場の飲食街――ここで料理を食べると、イベント戦闘でほんのわずかだがステータスが上昇するらしい。

 しかも味のほうも上々だそうで、けっこう多くの人でにぎわっていた。


 そんな屋台村の中、オレは目的の人物を探すと――、


 ああ……いた!

 約束通りの待ち合わせ場所、ケバブ屋台の前の長椅子――プレーヤーネームを頭上で紫色で光らせている人物が一人いた。


「どうもタクです」

「やあ、ハンクだ」 


 オレが声をかけると彼は――ハンクさんは気さくに応えてくれた。 

 服装はボディスーツ、サイバーパンクな特殊部隊風だけど、態度といい表情といい、いたって好青年な感じの人だ。

 名前からして、アン〇レラ社特殊部隊所属、ガスマスクを付けた四人目の生存者な人を想像してたんだが――、 

   

 ――で、その彼は笑いながらこういう。


「あはは、ちがうよ。名前は好きな銃器メーカー『H&K』からつけたんだ。ヘッケラーの『H』、&の『AN』、コックの『K』――合わせて『HANK(ハンク)』ってわけさ」


 ……へえ。トーラスさんみたいなプレーヤーネームの付け方だな。

  

 ま、それはさておき――、


 このハンクさんは、オレが銃器トレードの申しこみをした相手である。

 昨日、ログアウトしたあと、オレはゾンビヘイブンのアプリを利用して掲示板にトレード要請をのせていた。それにハンクさんが応じてくれたのだ。


 今までは同種武器のみのトレードしか認められていなかったけど、少し前のアップデートで、すべての種類の武器同士でのトレードが解禁された。

 そのトレードで、オレはとある銃器を手に入れようとしていたのだ。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「……じゃあ、さっそく本題に入ろう」


 そういうとハンクさんは拳銃(ハンドガン)よりは大きく、小銃(ライフル)よりは小さいサイズの銃器――サブマシンガンを差し出してきた。


 飾り気のなさすぎる無骨な外見のサブマシンガン――名を『M3サブマシンガン』という。

 その特徴的な見た目から通称は『グリースガン』あるいは『ケーキデコレーター』。

 第二次大戦中に米軍が開発させた兵器で、とにかく量産性を重視し簡素に設計されており、45ACP弾を使用――ここら辺を聞くとリベレーターと似たような感じを受ける銃である。

 しかしハズレ銃器のリベレーターさんと違い、こちらはそこそこ優秀な銃らしい。

 

 初めて手に入れようとしている連射銃器――その無骨な見た目にわくわくしながら、オレはかわりとして手持ちの銃器を差し出す。


「じゃあ、オレからはこれを……」


「おお! やはりいいね! 試作型(トライアルモデル)のP7M7――能力的に飛びぬけてるわけじゃないが、なかなか手にはいらないんだよな。やっぱり物欲センサーってあるんだろうかね?」


 ハンクさんは目にした銃の姿に大いに喜ぶ。 


 そう。オレがトレードに出したのは愛銃P7M7だった。


 ――いっしょにアングリー種バタリオンをくぐり抜けた相棒。

 ――引き当てたFive-seveNをユズキさんに譲ったとき、かわりに贈られた銃。


 さまざまな思い出のある武器だが、今はどうしても連射できる銃が欲しいとき。

 あの『リベレーターの呪い』のおかげで、まともな銃器がガチャできない今、こうしてトレードに頼らざるを得ないのだ。  


 手にした愛銃の重さ――戦友を手放すことに胸が締め付けられる。

 だが、それでも――、

 オレが悲しい想いをこらえてトレードを実行しようとすると――、


「ダメですッ!」


 サユリさんの手が横から伸びてきて止めた。

 端末をいじろうとしたオレの腕を強く握り、それ以上操作させないようにしている。


「タッくん! それはユズキさんとの大事な絆でしょう!? いかがわしいかっこうでタッくんをたぶらかす、ふらちな女ですが、いっしょに戦った仲間じゃないですか?! そんなことしちゃダメです!」


 サユリさんは涙目でオレにトレードの中止を呼びかける。

 一方、オレたちの修羅場に取引相手のハンクさんはかなりひき気味だ。


「……おい? いいのかい? なんだかモメてるみたいだけど……」

「いいんです。気にしないでください。今のオレにはこれが必要なので」


 心配そうにたずねてきたハンクさんにオレはうなずく。 

 そんな――なんとしても連射武器を手に入れようとするオレの姿を見て、サユリさんは何かに気づいたようだ。


「あ……もしかしてタッくんが連射できる武器を欲しがるのって……わたしが刀しか使わないせいですか?」


 ……ま、はい。その理由もあります。

 サユリさんの言葉に、オレは包み隠さず同意する。


 彼女は銃が苦手――というか性格的に飛び道具が不得意らしい。手にする武器は日本刀ばかりだ。

 それでも近接戦闘では無敵の強さなわけだが、今回の飛行ゾンビと相性が悪い。

 オレの思いついた作戦でサユリさんでも飛行ゾンビと戦えるようにするつもりだが――そこまで持っていくためには、敵を寄せ付けない弾幕が張れる銃器がどうしても必要なのだ。

  

「そんなのダメです! わたしも銃を買って……必死に練習しますから! だから、せっかくの思い出の品、トレードなんてしないでください!」


 と、オレの説明にも納得せず、必死でトレードを止めるサユリさん。


 ……ああ、やっぱりこうなったか。

 こうなると思ったから、隠そうとしてたんだけど――。


 でも、やっぱり隠し事でごまかそうとしたのは、よくないよな。

 短い間しか組んでないけど、それでもオレたちは相棒なんだ。

 ちゃんと話をして、その上でサユリさんに理解してもらわないと――。


 覚悟を決めたオレはサユリさんに、きっちり向き合うことにした。 

 大粒の涙が浮かぶ、きれいな目に視線をあわせ、オレは告げる。


「……いいですか。サユリさん。これは役割分担です」

「役割……分担? どういうことでしょう?」

 

 首をかしげたサユリさんに、オレはゆっくり言葉を選びながら説明する。 


「サユリさんは最高の剣士――最高の前衛です。慣れない銃器を持たせて長所を消してしまうよりオレがきっちり後衛に回ったほうがいい。そのために連射できる武器が欲しかったんです。オレたちは相棒(パートナー)でしょう? おたがいの長所で短所を埋めあって、支え合いたいんです」


「わたしが最高の前衛? それにわたしとタッくんが……相棒(パートナー)?」


 オレの言葉にちょっとうれしそうな表情を見せるサユリさん。

 しかし、それだけじゃやはり納得しかねたようで――、 


「でも、やっぱりユズキさんに悪いです! 思い出の品を交換に出されたら悲しむと思います!」  

「……いえ。あの人はたぶん喜んでくれると思いますよ」


 ハズレ銃器リベレーターをガチャしてしまい、オレがへこんでログアウトしたとき――ユズキさんは必死でオレを探してくれた。

 後で理由を聞いたら、自分のかかわったゲームで悲しむ人がいるのが許せなかったらしい。

 そんな彼女ならリベレーター地獄を抜け出すため、オレがP7M7を使っても許してくれるだろう。

 いや、むしろ遠慮して使わなかったら怒るはずだ。


 ――それに、これはユズキさんにまた会うためにやってることでもあるんだし。

 

「……それは……たしかにそうですね。あの人はそういう人でした」


 ようやく納得してくれたようだ。

 うなずいてくれたサユリさんにオレもうなずき返し――、

 それから、ハンクさんに視線を向ける。


「……あ、それじゃハンクさん、トレードの続き、お願いします」 

「あ、ああ」


 オレが端末をいじってトレードに必要な操作を終わらせると――、 

 あっけにとられていたハンクさんも同じように端末を操作。



 そして――トレード実行。



 ――こうしてオレはP7M7を手放し、かわりに『グリースガン』を入手した。

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 別れ際――、

 ハンクさんは笑顔でオレたちに言う。

 

「ありがとう。ほしかった銃器が手に入っただけじゃなく、おもしろいものまで見せてもらったよ」


 ……あ、いえ。見苦しいところをお見せしました。 


「ま、たしかに独身男には壁を殴りたくなるような甘酸っぱい光景もあったが、それでもいいもんだな。人が信じあい支え合えってる姿ってのは――。おれも、かわいい女の子の相棒を見つけようかな?」


 そう楽しげにつぶやくと、ハンクさんはその場を後にした。

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 遠ざかるハンクさんの後姿を見送ったあと――、 


 オレは手の中、グリースガンに視線を送る。

 頼りがいのある重さ、無骨な金属の手触りがオレの心の中で闘志がメラメラと燃え上がらせてくれた。


 ――よし! これで念願の連射できる銃器を手に入れたぞ!



 武器も装備も整った。

 これで準備完了。



 さあ――再びゾン・ビーに挑みに行こう!



 

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