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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
三章
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ファースト・コンタクト!

 道場ヘイブンの門の前――、

 オレはサユリさんを待っていた。


 今日から新種ゾンビの登場イベントが行われる。

 オレたち二人は、このイベントに参加して討伐数を稼ぎランキング入賞を狙う予定だ。


 ……というわけで集合時間を決め、ここでサユリさんと待ち合わせしていたのだが――、



「なんなんですか? そのやたらでかい荷物は……?」


 オレは現れたサユリさんの姿に絶句した。

 正確に言えば彼女の背後にある巨大なケース×2を見て、あっけにとられていた。 


「わたしの日本刀コレクションです! ここまで集めるのに苦労しました!」


 自分の背丈ほどもあるケースをサユリさんはポンとたたき、誇らしげにいう。


 ……いやいや。

 これからゾンビと戦おうってときに、どんだけでかい荷物持ってく気ですか?


「でも、日本刀の消耗が激しくなったので、これくらい数がないと……」


 サユリさんは不安そうだ。

 たしかに以前に比べ、日本刀の切れ味ははるかに落ちやすくなった。

 オレの持ってる長巻『次郎太刀』もそうだ。下手に使うとゾンビ数体を倒したところでただの鉄棒に変わってしまう。

 だから、予備を持っていきたい気持ちは分かるんだが――。


 ……でも、さすがにこれは多すぎです。

 だいたい、そんなにたくさん刀があっても持ちきれないでしょ?

  

「そんなことありません! まわりの地面に突き刺して戦えばいいのです! 室町幕府十三代将軍・足利義輝公は部下の反乱にあったとき、そうやって勇敢に戦ったと聞きます!」


 ……いや。その人、最後は殺されちゃってるじゃないですか。

 それに自分の周囲に武器をならべて戦った人間ってろくな死に方してませんよ?

 それこそ、その剣豪将軍みたいに部下に裏切られて包囲されて死んだり。

 あとは、どこぞの銃並べて戦ってた魔法少女みたく、頭から丸かじりされたり……とか。

 オレサマにマルカジリされて、マミられちゃってるサユリさんの姿なんて見たくありませんからね。

 遠足に持っていくおやつは三百円まで。刀は二本までにしてください。 


 と、オレが断固たる態度で告げると――、


「あの……どうしてもダメでしょうか? 兄にもあきれられたのですけど、タッくんなら許してくれるかな……と」  


 サユリさんはしょぼくれ、うついむいてしまう。

 う~ん。捨てられた子犬みたいな目つきでちらちら見てくるのはやめてほしい。

 なんだか、こっちが悪いみたいな気分にさせられてしまう。


 え~い、しかたない!

 自分でも甘いと思ったけど、大事な装備(コレクション)を持ち歩きたくなる気持ちは分かる。


「わかりました。そのかわりケース一個はオレが持ちますからね」

「やった! ありがとうございます!」


 オレの言葉に、サユリさんの顔がぱっと明るく輝いた。



 かくして――、

 やたらでかく重いケースのキャスターをごろごろ言わせながら、オレたちは歩き出す。

 目的地は新たに解放されたイベント会場――『廃棄された軍研究所』だ。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

 

 

 重い荷物を運んでいたせいで、スタミナがごりごり削られてる。

 リアルさを追求したゲームだから、数値やゲージが出てくるわけじゃないけど、さっきから視界がぼやけまくりだ。


「あれ、おかしいですね? スタミナを削る地形効果でもあるのでしょうか?」


 と、サユリさんが首をかしげて言う。


 ……いや。あきらかにこのケースのせいだと思いますけど。


 う~ん。これは武器より先に乗り物を買ったほうがいいかな? 


 このゾンビヘイブンというゲーム、マップがやたら広い。

 だから、あちらこちら見て回るのに乗り物が必要だと思ってたし、資金に余裕のあるときに思い切って買っておいた方がいいかもしれない。


 ただ、二人旅だからバイクかバギーでいいかと思ってたんだが――、

 サユリさんがこの調子なら大型の四駆どころか、トラックでも必要になるんじゃなかろうか?


 ……ああ、出費がかさむなあ。


 なんて悩むオレの内心なんかまったく気にせず――、

 マップを見ていたサユリさんの能天気な声が響く。



「タッくん! ここです! 着いたみたいですよ!」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 



 オレたちのたどりついた目的地――イベント会場である『廃棄された研究所』はうす汚れたコンクリ製の建物群だった。

 だだっ広い敷地の中、林立する三階建ての研究棟の間を生ぬるい風が吹き抜ける。

 上空には――どす黒い雲が垂れ込めていた。 



 ……おお! いいね! それっぽい雰囲気だ!

 やっぱりゾンビものってヤツは、こうじゃなきゃ!


 オレが期待感に胸をわくわくさせながら、歩みを進めていくと――、

 どうやらイベント領域に入ったらしい。ウェアラブル端末から空中に文字が浮かんだ。



『イベント《新種ゾンビを討滅せよ!》に参加しますか?』



 Y/N 



 当然イエスです。

 サユリさんと同時にイベントへの参加を申しこむ。


『《タク》さん、《サユリ》さん――二名の参加を受け付けました』


 というメッセージがあらわれ、消えると同時に――、


 血まみれの白衣をまとった白髪に白ひげの老人――いかにも『博士』って感じの人物が建物の中からあらわれ、こっちへよろよろと歩いてくる。

 

 どうやらこの人、中に人が入ってるわけじゃなく、プログラムで動いてる案内役(ガイド)NPCノンプレイヤーキャラクターらしい。


 ……ふ~む。こういう小芝居がはさまるあたり、こったイベントだ。 


 で、そのNPCの博士さんは――、

 蒼白な顔、絶望しきった声でオレたちに語りかける。


『わしは……なんというものを生み出してしまったのじゃ!』


「ど、どうしました!」

 

 そんな博士の姿に、あわてて声をかけるサユリさん。

 

 いやいや。サユリさん、相手はプログラムですよ?

 あれ? それとも、もしかして気づいてないのかな? 

 サユリさん、残念美少女だからありえる話だけど……。 


 ――そして案の定、NPCの博士さんはサユリさんの心配をガン無視して唐突に説明に入る。



『わしの名はシュタイン。生物工学者のシュタイン博士じゃ。きみたちは……ジガバチという昆虫を知っておるかね?』 


「あ……無視されちゃいました。この人、ひどいですよ!」


 と、ショックを受けてるサユリさんはさておき、オレはNPC博士の説明に耳を澄ます。


『ジガバチというのは獲物を捕らえ、その体内に卵を寄生させる習性を持つ昆虫じゃ。昔は獲物を土に埋め、自分と同じものに変えてしまう生物と考えられていた。そのジガジガという鳴き声に《似我(じが)》という言葉を当て《我に似よ》と語りかけているようにとらえたらしい。それゆえ《ジガバチ》と名付けられたのじゃ』


 ほう。エイ〇アンみたいな習性だな。

 ……で、その昆虫(ジガバチ)さんが、どうしたんだろう?


『わしらは、この昆虫を生物兵器とするべくゾンビ化ウイルスの遺伝子を組み込んだ。しかし、完成した生物は我々の予想をはるかに上回り、手に負えぬほど凶暴じゃった。だから失敗作として廃棄される予定になっていたのじゃが――その前にヤツラは暴走し研究所を脱走しおったのじゃ!』


 うわ、とんでもない大失態じゃないですか。

 ……ま、だいたいゾンビものでは軍の研究って、たいがいひどい失敗してるけどさ。

 そうじゃなきゃ、物語もはじまらないしね。


 ――そんなオレの感想はさておき、NPC博士は説明を続ける。

  

『ああ……間もなくヤツラが出てくる。そうなったらこの世界は終わりじゃ! ヤツラの名はゾンビビー通称ゾン・ビー! 人間の体内に卵を打ちこみ、寄生させ、内側から同族へと変えてしまう――最凶最悪の生物じゃ!』



 という博士の説明が終わるやいなや――、

 どこからともなく重く低い羽音が響いてくる。



 ……ブウウウゥゥゥゥン

  


 その羽音にNPC博士はおびえだす。


『やつらじゃ! ヤツラが来た! もう、だめじゃ! こんなところにいられない!』


 ムチャクチャこわがりながらも、ここまでくわしい説明をしてくれるあたり、NPCの(かがみ)だな。 

 そして博士、今度は一目散に駆け出した。 


 と――、

 

 博士を追いかけるように、研究所の中から巨大な何かが飛び出した。


 そして――逃げだした博士に背後から黒い影が迫る!


 

 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ぱっと見は巨大な昆虫――だが、どこか人型のシルエットもあわせもつ異形の生物。

 『ゾン・ビー』と呼ばれる新種のゾンビが……あろうことか、空中からNPC博士を襲う。


 なんと、今度のゾンビは虫型――しかも空を飛ぶらしい!

 すごい! なんてB級映画臭だ! 

 きっとエンディングにロックが流れるに違いない。オラわくわくしてきたぞ!



 で、両手足で博士をからめ捕ったその巨大蜂――あるいは虫ゾンビはその口をパカリと開け、黒光りする鋭利な針を飛び出させた。

 博士えものを地面に押さえつけると、ゾン・ビーはその粘液に濡れ光る針を、ゆっくり近づけていき――、


 そして――、 


『ぎゃあああああああッ!』


 あたりに響く博士の断末魔。

 首の付け根あたりに極太の針を深々と打ちこまれ、博士は絶命する。


 ――びくりびくりと地面で震えるあたり、やたら生々しい死にざまだ。

  


「ああっ! あの人、やられちゃいました!」


 目にした光景にサユリさんはショックを受けている。


 ……ええ、まあ……そうですね。死んじゃいましたね。


「タッくん! なんでそんなに平気な顔をしてるんですか!?」

 

 う~ん。序盤に出てきて細かな説明してくれたり、兵器の開発者の博士だったり、あげく怪物から一人で逃げ出そうとしたり――。

 あの人、死にフラグが全身くまなく深々と突き刺さってましたからね。

 そりゃ死にますよ。物語的な予定調和ってやつです。


「そんな……ひどいです。タッくん!」


 オレの言葉に抗議するサユリさん。  


 ――だけどね。サユリさん、この程度じゃありませんよ。

 ゾンビものだとたいてい、ここからさらにひどい展開が待ってるんです。


「……な、なんですか?!」


 おびえたサユリさんの背後――襲われて死んだはずの博士が立ちあがった。

 その口からは耳障りな音が漏れている。  


 ギギギギギギィ


 博士の目は虫っぽい複眼に変わっていた。

 そして、いきなり頭部が内側からはじけ飛び、昆虫のそれに代わる。 

 背中からは白衣を突き破り、濡れ光る薄い羽が飛び出してきた。



 ――その姿は、先ほど博士を殺した『ゾン・ビー』そのものだった。



「ひゃ!」

 

 あまりに気色悪い光景にサユリさんが悲鳴を上げた。


「やれやれ。やっぱりか」


 一方、オレはすでに取り出していた愛銃――P7M7で射撃を開始する。



 ――ま、だいたい展開は読めてたしね。



 ダン、ダダン!


 あっさりを胴体中央を撃ち抜き――って、あれ? 効かないのか?!


 ってことは、そうか。頭を狙えばいいんだな。

 胴体への攻撃はあまり効果なしってことらしい。 


 ダダン――、バヂュッ!


 オレは虫ゾンビの頭部を慎重に狙って弾丸をたたきこむ。

 元・博士――今は白衣の虫ゾンビさんの頭部がはじけ飛び、緑色のグロい体液をまき散らして二度目の絶命をむかえた。



 ――基本講座(チュートリアル)、どうもお疲れさまでした。博士さん。



 オレは倒した博士さんに心の中で手を合わせる。

 サユリさんには白い目で見られてたが気にしない。

 この人には、こういう役目があったからね――いただいた命に感謝だ。



「さて、さっき逃げたヤツは……」


 と、オレがもう一体のゾン・ビーの姿を探した、そのとき――、



 ブウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥ!



 さらなる羽音が響いた。

 それも一つ二つではない。もっとおおぜいだ。



「タッくん!」

「来た……みたいですね」


 衝撃の光景にショックを受けていたサユリさんも気を取り直し、腰の刀を抜刀している。

 そして顔を見合わせ、武器をかまえたオレたちの前に――、



 ――研究所の中から、大群の虫ゾンビ『ゾン・ビー』が現れる!


 

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