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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
一章
3/59

ガチャ!

 

 VRゲーム開始時におなじみの白いトンネルを抜けると――、


 そこには立ち並ぶ高層ビルディングの群れ。

 

 人気のない無機的な街並み、そのあちらこちらに車が停められていた。役割を終えた交差点の信号機が傾き、こちらを見下ろしている。

 外れかけの交通標識が、キイキイ耳障りな音を立てて揺れている。

 標識をなぶった風が、オレの顔をなでて吹き抜けていった。

 踏みしめたブーツの足元、砂埃のざらりとした感触が伝わる。


 おお、さすがにリアルだ。実に洋ゲーらしい。

 手抜きをしない、こういった細かな作りこみには感動せざるをえない。

 


 操作説明(チュートリアル)いっさいなしって硬派な仕様も洋ゲーらしい。

 なんでも一番最初の没入感を壊したくない。まず、この世界を体感してほしいのだとか。


 とにかく、プレイする映画、ゲームと感じさせないゲームを目指しているらしく、

 攻撃力や防御力なんかのパラメータも非表示(マスクド)データ。

 はっきりわかるのは減れば視界が暗くなる体力と、速度がガクッと落ちるスタミナくらいだ。


 さて、そんな世界観の中に飛びこんだオレだったが――、


 リアルな世界に見とれてばかりもいられない。

 さっそくマップを呼び出し、現在地を確認する。

 これまた世界観を壊さぬよう、地図は腕につけた着用型(ウェアラブル)端末から立体表示される。


「ふむ……、ここはオフィス街か。中立エリアみたいだな」


 中立エリアっていうのは、いかなる安全地帯(ヘイブン)にも属さない。ただ狩りのための場所。

 人がゾンビを狩るのか、それともゾンビが人を狩るのか。

 どちらになるかは、そのときの戦力差によるだろうけど――。 

 (ここら辺の説明は実はゲームの公式サイトの受け売りだ)


 とはいえマップの情報からすると現在の時間帯、ここいらの危険度はEだった。 


「そうだよな。最初からいきなりゾンビのどまんなかに飛ばされるはずはないか」


 ちょっと拍子抜けだが、戦闘するにも準備が必要だ。

 今のオレは丸腰。このまま(ゾンビ)に会えば、いい獲物でしかない。


「この間に装備を確認しとくか」


 オレは腕の端末をいじり、メニューウィンドウを開いた。

 装備品の欄に購入者特典のギフトボックスが三つならんでいる。


 ちなみに無料版では武器なし、防具なし、アイテムなしの三重苦状態からスタートする。

 ゾンビから身を守るには街で武器を拾ったり、あるいは自分で落ちていたアイテムから作成、もしくはアイテムを売却し、得たお金で武器を購入しなければならない。


 その点、有料版では最初からある程度の武器や防具が所持品に入っている。

 強くなっていく過程が楽しいから無料版で育てて有料版というマゾな人もいたが、

 こっちはわざわざ有料版を買ったのだ。楽をしたい。 


 それになにより『銃』だ。

 仮想空間で派手なドンパチがやりたくて、このゲームを始めたのだ。

 いちいち手間をかけず、さっさと銃を手に入れたいじゃないか。


「よし、開けるか」

 まず一つ目のボックスを開けることにした。 

 アイテムウィンドウを開き、『ギフトボックス』を選択。

 目の前に現れ、宙に浮かんだ立方体に、そっと手を触れる。 


(ここでいきなりファンタージー演出か。まあシステム上しかたないんだろうけど……)

 没入感のためとあれこれ凝ってる割に、ときどき大ざっぱな洋ゲーらしさに苦笑する。


 ちなみに武器ボックスの中身は抽選(ガチャ)で選ばれる。

 発光エフェクトとともに現れたのは……、


「う~ん」

『戦闘用ナイフ』だった。ランクBとは初期装備にしては希少度(レアリティ)が高い。

 解説を読むとダマスクス鋼使用らしい。手にとってみた刀身に木目模様が浮かんでいる。


 しかし……だ。


(いい品なんだろうけど、これはちがう)

 欲しかったのは『銃』。メインで使っていける火力を持った武器なのだ。

 だから、これは副武装にするとして……。


「次だ、次!」

 さらにもう一つ、ボックスを開ける。

 今度はどうだ? 


『タクティカルベスト』 

『防具――装備効果は防御UP、リロード速度の向上、所持弾数の増加』


 武器ボックスなのに中身が防具かよ。しかも銃がない現状、装備効果もほとんど意味がない。

 

「なんだよ。この引きの悪さは!」


 納得いかない想いをかかえつつ、それでもベストを装備する。

 有料版の初期(デフォルト)防具はカーキ色の戦闘服なので、それらしい外見になった。

 さらに付属の(シース)にナイフを収め、ベストの胸部分に装着。

 おお。かなりイイ感じだ。

 あとは『銃』だ。『銃』をください。中毒者のようにオレは銃を欲する。


「ラスト一つ! これに賭ける!」

 せめて最後のボックスくらいは……祈るような気持ちで開封する。  

 

 品名『FP45 リベレーター』 

 お、拳銃カテゴリー。

 ようやくまともな武器か……と思った。

 だが、リベレーターという名になんとなく、悪い意味で聞き覚えがあったような……、

 オレは不吉な予感におびえながら解説を読んでいく。


『第二次世界大戦中、枢軸国と戦うレジスタンスのために開発・生産された』


 そうそう。だから反抗者(リベレーター)。命名の由来はかっこいいんだけど――、


『しかし大量生産品のため質が悪い。装弾数は一発。銃身の短さゆえに威力と命中率は最低。

 鹵獲されていたものを発見したアメリカ軍兵士は、これを自決用拳銃だと誤解した(笑)

 とりあえず、.45ACP弾を使用』


 やっぱり、そうか。いやな予感は当たっていた。


 ていうか説明文の(笑)ってなんなんだよ! 

 使用弾薬にとりあえずとか使わせる気があるのか!


 (つまり、ハズレ武器ってことか?)


 オレは愕然としながらリベレーターを手に取る。

 ああ、手のひらに収まったそれは悲しいほどに粗末な作りだ。


 ――ごていねいにも物悲しげな音を立て、風が吹き抜けた。


 

 せっかくの有料版特典ががっかり装備。オレはあまりの不運に肩を落とす。

 こうして数秒間、固まっていたオレだったが気持ちを切り替えることにする。


「なにもこの武器を使い続けなきゃいけないわけじゃない。別の装備を整えればいい。

 リベレーターはともかく、あのダマスクス鋼のナイフは高く売れそうだし。

 あとは換金した資金でまたガチャを回して……」


 このままの装備ではオレの求めるプレイにほど遠い。

 まともな銃を手に入れるためには次善の策を考えるしかない。


「まず、どこかの避難所(ヘイブン)にたどりつかなきゃ。最寄りのヘイブンは……病院か?」


(う~ん。イイ武器がありそうな場所じゃないな)


 オレがそう思ったのには理由がある。 

 ネットなどで事前に調べておいた情報によれば、避難所(ヘイブン)同士が競い合う形式のこのゲームでは抽選を行う場所が入手アイテムの希少度に影響してくるらしい。

 医薬品関係なら薬屋(ドラッグストア)や病院。食料品ならスーパーやレストランという風に……だ。

 所属するヘイブンごとの差別化を図り、それでいて他ヘイブンに属していても移動の手間さえ惜しまなければガチャのレアドロップ率を上げられる、よく考えられたシステムなのだ。


 そして強力な武器が欲しければ基地か、あるいは銃器店などの近くでガチャらなければならない。  

 もちろん、購入や交換は可能だが、現状の予算と装備じゃどちらも無理。

 長く使える(あいぼう)を求める以上、武器に関係のあるヘイブンの近くでガチャりたいわけだ。

 そう考え、マップを見ていくと――、


「お、警察署じゃん?」


 表示されたランドマークのうち『パライソ・シティ第六分署』というゾンビ避難所(ヘイブン)のものが一番近い。ネット情報だど警察署では拳銃(ハンドガン)のレアドロップ率が上がったはずだ。

 オレは端末をいじり、マップのマーキング機能を使ってみる。

『6キロ』と目的地までの距離が表示された。少し遠いが歩いていけない距離じゃない。

  

「じゃ、最初の目的地へ向かいますか」


 ――オレはゾンビヘイブン・オンラインの第一日目、第一歩を踏み出す。


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