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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
二章
25/59

リベンジャー!

 

 少し前までいっしょにゲームで遊んでた人物が実は有名なゲーム会社の社長だった。

 しかも彼は日本版での運営の問題点を探るため、こっそりプレイしてたのだという。


 ――まったく予想もできなかった事態だ。


「いや、ホントびっくりさせられましたよ、リックさん」

「ははは、そこまで驚いてくれるとうれしいね。なんだかクセになりそうだよ……これからもちょくちょくこっそりログインしようかな」


 なんてネタばらしの済んだオレたちがのんびり談笑している一方――、

 向こうではユズキさんが遠慮も容赦もなく横溝社長を痛めつけていた。



  ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「――ここまで御社が有料ユーザーにまでなされていた『汚染度』によるプレイ時間制限はリリパット社が当ゲームを広告媒体として利用する上で大きな不利益となります。これは契約書56ページに定めた条項『リリパット社に対する不利益行為の禁止』にあたるとみなされ、当社との流通契約解除および損害賠償の理由となりえる……ということです」


「そ、そんな!? きっちり利益をあげていただろう!?」

 

 大声を上げて反論する横溝社長。その声の調子だけでそうとうテンパってるとわかる。

 だがユズキさんは追及の手をゆるめない。


「問題はそこではありません。条項に違反した行為があった時点で、すでにこちらは生殺与奪の権利を得ていたのです。それでもここまで待ったのは業務改善の余地を期待したから――ですが、御社は我々の警告や注意をさんざん聞き流してきた。もはやこちらも限界……ということです」 


 うわ、おっかない。

 あのお姉さんだけは敵にまわしちゃダメだな。


 オレの言葉にテムさんがうなずく。

 

「ああ、そのとおり。特にリック、お前だよ。あまり迷惑かけてキレられるとめんどうだ。ほどほどにしとけよ。サラのストレスの半分はお前の妙な思いつきのせいなんだからな」

「う~ん。それでも文句言いながら、なんとかしてくれるけどな。さすがわが社の法務担当」


 悪びれないリックさんに、テムさんがため息をつく。

 

「ストレス解消のため、オレたちの声を使用してるゾンビを撃ちまくってるらしいぞ。いつか本物を持ち出される前に少しは反省しておけ。お前のわがままに慣れてるオレですら、ときどきぶんなぐって辞表をたたきつけたくなるからな。とくに開発最終段階で思いつきを差し込んでこられたときとかは……」


「……うう、気を付けることにしよう。おれのアイディアをきっちりゲームの形にしてくれる人間はそうそういないからな。わが社のゲーム制作のトップに辞められたらこまる」


 え? なぐられるほうはいいんだ?


 しかし、けっこう好き勝手やってる人だったんだな。リックさん。

 ユズキさんが、あれだけ楽しそうにこのゲームを遊んでた理由がわかった。

 かなり殺伐とした理由だったんだ。


 ――あと、すいませんね。テムさん。


「ん? どうしたんだい、急に?」


 いえ、リックさんの話を聞くと、あなたがこのゲームを作った人なんでしょう?

 課金について責任のないあなたとかのせいにしてました。

『オレたちは重課金を強いられてるんだ!』とか言って。 

 そこはリックさんだけじゃなく、あなたにもちゃんとおわびしとかないと。

 

 本当にもうしわけございません。このとおり。


 オレが頭を下げるとテムさんは。はにかむような苦笑を浮かべた。

 ふだん冷静な感じのこの人にはめずらしい。人間的な表情だった。 


「まったく……君は妙なところで律儀だね。だが気にすることはない。汚染度システムは実際、有料版ユーザー優遇のためおれが導入したものではあるし、それに不評はむしろ期待の裏返しだ。裏切られたと感じるってことは、そもそも期待してたということだろう? ありがたい話だ。」


 へえ、そうなんですか?

 オレだったら自分の作ったものけなされたら泣きそうになるけど。


「いや。オレは評価がないほうが恐ろしい。マザーテレサの言葉じゃないけど『愛情の反対は無関心』というやつさ。売れてるはずのゲームなのにレビューサイトでいっさい評価されてなかったときなんか仕事机に向かう気すら起こらなかったね……いや、ゲームそのものにかかわったことすら後悔した」


 うわ。すごい入れこみようだな。

 でっかい会社でゲームを作るような才能ある人って、こういうとこがちがうんだろうな。

 でも、少々思いつめすぎじゃありません?

 レビュー書いてるヒマもないくらい楽しんでたのかもしれないし。     


「そうだぞ。創作者なんてのは自分が一番おもしろいと思ったものを世に問えばいいんだ」

「いや。お前はもう少し周囲の反応を気にしろ。とくに身近な人間のめいわくとか」


 リックさんの勝手な言いように、即座にツッコミを入れるテムさん。

 繊細な人っぽいが、傍若無人な感じのリックさんとはつりあいの取れたいいコンビなんだろう。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

 


「……で、どうだリック? 新装備の実証だけじゃなく、いろいろ意見をきけたおかげで改善案が見つかったんじゃないか?」


 テムさんの問いかけにリックさんはうなずく。


「たしかに。ユーザーの中でプレイしてみてわかった。日本版の運営のやりくちだけじゃなく、こっちのミスもな。特に『日本刀(サムライソード)』……あれはひどい」


 リックさんは渋い顔をし、テムさんも肩をすくめる。


「ああ、たしかに問題だな。日本版ローカライズにあたってスタッフが趣味と気合を入れ過ぎた。お前が集めたのが、やたらニンジャ好きで、こんなもん作って『ワザマエ!』とかさけんで喜んでるようなやつらだからなあ」

「しかたないじゃないか。大手に拾われず、かといって才能と情熱あわせもってる連中を集めたら、どうしたってああなるさ」

「しかし、下手をすれば『ロケランは最強鈍器』事件の二の舞だったぞ?」

「むう……」


『……ああ、なるほど。たしかにあれはひどい事件でしたもんね』


 テムさんの言葉にリックさんが黙りこみ、ヒサヨシさんがうなずく。


 ん? ロケランは最強鈍器事件?    

 なんだか好奇心をそそる響きですね。いったいどんな事件だったんでしょうか?

 わたし、気になります!


 オレの疑問にテムさんが答えてくれた。


「ロケラン――ロケットランチャーは射撃後のすきが大きいとユーザーに不評だったから、砲身部分での『打撃(バッシュ)』をアップデートで導入したんだが……」


 え? それっていいことなんじゃないですか?

 むしろ、そういう救済策がないとソロユーザーとかスキの大きな重火器使えないですし。


『いや。その性能が高過ぎたんだよ。強制押し返し能力のせいで囲んでおいてのハメが可能になってね。おかげで当時『ロケランバッシュ祭り』大量のロケラン使いが追い込み漁みたいにゾンビの大群を囲んで打撃を当てまくる光景が続発したんだ』


 ヒサヨシさんが遠い目をして回想し、オレも当時の状況を想像する。


 あちらこちらから、なぜか重火器に殴られ続ける哀れなゾンビたちの群れ――。


 ……うわ。ひでえ。 

 

 リックさんも苦い顔をしていた。


「ああ。あれは悪夢だったな。日本刀はそこまでのチート武器じゃないが、さすがに性能が高過ぎだ。なにか手を考えないと……」


 と、腕を組み、なにごとか考え出すリックさん。


「え、もしかして日本刀が弱体化される?」


 サユリさんはリックさんのようすに危機感を感じてるようだ。

 


  ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 一方、オレたちがそんな話をしてる間に――

 向こう側でユズキさんが、横溝社長のメンタルをごりごり削っていた。



「――そもそも弱小ヘイブンをつぶすという行為自体が『最高のゾンビ避難所をめざして多くのヘイブンが競い合う』というゲーム本来の目的を損なう上、使用した手段が契約に禁止されていたデータ改変をともなっていました。その状況は実際にプレイした我々のログにしっかり証拠として残っています」


 むむ。あの知能が強化されたアングリー種と戦いながらデータまで取ってたのか。

 抜かりがなさすぎだぞ。リリパット社――というかユズキさん。


「くっ!」


 横溝社長はもう返す言葉もないようだ。

 ついにはキレて子どものようにわめきだす。


「ええい! もういい! わたしはもう帰る! こんなところに呼び出されたあげく、くだらん文句をきかされるなど非礼にもほどがある!」


 いや。リックさんたちは別にあなたを呼び出してはいないですよね?

 むしろ、自分からわざわざログインしてきたような気がしますけど……?


 それにユズキさんが口にしてるのも、くだらない文句ではなく正当な批判と苦情じゃあ?


 ――なんてオレは内心でツッコミを入れる。

 もちろん面と向かっては口にしない。テンパったオッサンは怖いからな。


 しかし、しがない大学生のオレなんぞでもツッコミどころが見つかるくらいしどろもどろだ。

 横溝社長、そうとうテンパってるらしい。


「とにかく、そちらが弁護士など立ててくるなら、こちらもそれなりの手段でのぞませてもらおう。こんなゲームの中でなく、もっとちゃんとした場所でお話をうかがうことにする!」


 おお、キレたふりしながら逃げる気なのか?

 ログアウトの手続きを意外と冷静な手つきで始めている横溝社長。


 ……ま、その判断は責められない。

 さっきみたいにユズキさんの本気の追及を受けたら、オレだって泣いて土下座する自信がある。


 しかし――。


 自分が運営して、目の前の相手の会社が作ってるゲームを『こんなゲーム』呼ばわり?

 さすがに社会人として……いや人としてもひどい言い方なんじゃないでしょうかね?

 オレは少々引いてしまう。


 ――だが、当のユズキさんは平気な顔をしていた。


「こちらは別に日と場所を改めてもかまいません。――が、しかし、そのときに、あなたが責任者の立場にあるかどうか……」

「……どういうことだ?」


 ユズキさんのさりげない言葉に横溝社長はログアウト操作の手を止めた。


「すぐにわかりますよ」


 と、ユズキさんが謎めいた微笑を浮かべた、そのとき――、

 

 オレたちの背後から光がさした。

 ふりかえるとそこには、またも光の渦が発生している。


 どうやら、さらにだれかログインしてくるみたいだ。


 ――ああ、今度はいったいだれなんだろう? 

 

 すっかりハプニングになれたオレは視線を光の渦に送る。


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