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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
二章
23/59

トリック・オア・チート?

「くッ!」


 天から降り注いだ強烈な閃光――強制的に視界が奪われる! 

 ようやく取り戻した視力で周囲をながめると――、


「なんなんだよ、これ?!」


 ……そこには焼けただれた大地が広がっていた。

 

 あれだけいたゾンビたちは影も形もない。

 いや、ところどころに残骸(パーツ)が転がってはいる。かすかに身じろぎしているものもいる、

 だが、オレたちに襲いかかろうとするものは――もういない。


「まさか……一撃で?!」


 アングリー種バタリオンの全滅。

 目にしたすさまじい光景に、オレはぼうぜんとする。


 一方、ユズキさんは首をかしげ不満そうだ。


「う~ん。使えるのは屋外限定にしろ、ちょっと威力が高すぎたかな? 今の状況だとありがたいけど、実用化するとゲームバランスが崩れるわね。そこらへんはまだ練りこみしないと……」


 と、意味不明な言葉を漏らしている。

 そんな彼女に――、


「いったいなんですか!? 今のは!?」


 サユリさんが問いつめた。

 うん。オレも同感だ。

 いったいどんな手品(トリック)かと思いましたよ!?


「ああ、うん。え~とね。どこから話せばいいかな?」


 オレたち二人が詰め寄ると、ユズキさんは言葉を濁す。


「一から十まで全部です!!」


 ユズキさんの態度にサユリさんが熱くなりかけたそのとき――、

 


 轟ッ!

 


 ――遠くから爆音、そして連続する銃声が響いた。



 ああ、もう! 今度はなんだよ!?



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 アングリー種バタリオンに、衛星砲のバカげた威力の砲撃。

 そして今度は爆音に銃声?!

 いったい、なにが起きてるんです?!


 オレの疑問にユズキさんはあっさり答える。


「リックとテムじゃないかな? あっちのほうの大群(バタリオン)はあいつらの担当だからね」


 え? さらっと言ったけど、たった二人でアングリー種の大群(バタリオン)退治?

 いや、まあ、ユズキさんは衛星砲で一人でけっこうな数を倒したけど――、

 ここらにはガソリンスタンドがないそうだし、あの二人はどうやって戦ってるんですか?


「だいじょぶ、あいつら衛星砲なんて尖鋭(ピーキー)武器じゃなく、もっと実用的なの使ってるから」


 え? 

 衛星砲でも十分すぎるほどすごい武器のような気がしますけど――、

 さらに実用的ってどんだけ強力な武器なんだ?


 というか、バタリオンをあっさり圧倒できるような兵器なんてこのゲームにいくつもありました?

 しかもそれをなんで、ユズキさんたちが持ってるんでしょうか? 


 当然だが、混乱していたせいで思いつかなかった疑問。

 オレは、ようやく落ち着いてきた頭で口にした。


「そうです!」

『ああ、同感だね』


 オレたちは口々に問う。

 集まった視線にユズキさんは頭をかいた。


「……ま、説明はあいつらのとこに着いてからだね」


 そういってさっさと歩き出すユズキさん。


「ちょ、ちょっと、待ってくださいよ!」


 オレはあわてて彼女の後に続く。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 道場の敷地を出てすぐ――、


「うわぁ……」  

  

 目にした光景はとんでもないものだった。

 死屍累々ってのはこのことなんだろう。

 もしかしてバタリオンが三連続くらいで発生してたのだろうか? 


 道端に転がるゾンビの数は――

 ええと……、2、4、6、8、10……



 ――10体を越えたあたりでオレは数えるのをやめた。



 あんだけ手こずったアングリー種をこうもあっさり駆逐されると、恐ろしいものがある。

 しかもあちこちの部品(パーツ)が欠けてたり、逆にパーツだけで転がってたり。

 どれもけっこうエグイ死にざまだ。

 

 こんな状況を作り出していたのは見覚えのある人物たち。

 まだまだ数十体くらいも残ってるゾンビをたった二人で相手にしている

 


「ひさしぶりだね、タクくん! あとちょっとで終わるから、すまないがそこで見ててくれ」


 世間話のように気楽に話しかけてきたのはリックさん。

 テムさんは無言でうなずいている。あいかわらず寡黙な感じだ。


 ああ、どうもお二人ともおひさしぶりです。

 じゃなくて!


 ……『それ』はいったいなんでしょうか?


 オレは彼らをはるかに見上げてきく。

 彼らの身長はオレより少し高かったが、それでもたいした変わりはない。

 なのに、なんでそんなまねをしたかというと――、


 リックさんとテムさんがオレのはるか上方にいたからだ。


 彼らが装着というか搭乗していたのはロボ……だろうか? それとも重機? 

 とにかく人型の巨大な機械だ。高さは三メートルほど。

 がんじょうな鋼材、それに太いチューブやごついシリンダーがちりばめられたメカメカしい外見。

 ぶっとい足をウィンウィン言わせて二足歩行し、巨大な腕には武器らしきパーツがいくつか装備されている。

 

 ……いったいなんなんだ、これ?



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「あれはAF(アシストフレーム)(仮)だよ」

 

 と、ユズキさんは名前を教えてくれた。

 

 ん? (仮)ってどういうことでしょう? ガールフレンド? 


「他にもパワーローダーとか命名候補があるみたいだからね。あくまで(仮)なんだ」


 え? 名前が決まってない? そんな武器なんてあるのか?

 いや、名前なんかどうでもいい。オレが知りたいのはこいつの正体です!


「人間の動作を機械の動力でアシストする骨格(フレーム)ってとこかな?」 

  

 その説明で分かれというのでしょうか? ユズキさん。 

 オレは頭をかかえる。

 


「ははは! いい調子だぞ!」


 一方、喜々としてマシンを動かしてるのはリックさんだ。


 そのロボだかAFだかが手にしてるのは、見たことのない武器ばかり。

 たとえばリックさんが乗ってるマシンは両手にお皿のような物体が二つ――衛星放送を受信するためのパラボラアンテナに似ている。

 で、そのお皿二枚をリックさんは寄ってくるゾンビの群れに向けた。


 と、その二つのパラボラアンテナが向きを合わせたゾンビが――、


「UGIIIIIIIIYYYYY!」 


 ボシュッ! 


 なんと内側からはじけるように爆発した!

 似たような光景がすぐそばでも連続する!

 血しぶきをあげて次々と蒸発していくゾンビさんたち。


 な、なんじゃこりゃーぁっ!?


 突然のスプラッタは心臓に悪い。

 びっくりしているオレにユズキさんは解説してくれる。


「え~と……たしか電子レンジの原理を応用した兵器なんだってさ。あのアンテナからマイクロウェーブが照射されて、焦点にいる生体を内側から加熱して焼くんだって」


 うわあ、なんかムチャクチャえぐい兵器なんですが…… 

 目を丸くしたオレの前で――、 


「ひゃっはー!」


 リックさんは順調に汚物を消毒している。 

 さらにテムさんも、いつものSAA(シングルアクションアーミー)じゃなく、AFに別の巨大な銃器をかまえさせていた。

 

「……起動」


 テムさんの一言とともに、動き出すのは束ねられた複数の銃身。ガトリング砲だ。 


 ウィイイイイイイイイ……


 機関部分が空転してうなりを上げる。

 ああ、これは分かるぞ。機関砲――たしか、バルカン砲だっけ?


「ちょっとちがうかな。バルカンは口径が20ミリ、これはアベンジャーで口径30ミリ」


 と、ユズキさんがオレのまちがいをすかさず訂正する。


 おお! ご高名はかねがね聞いておりました! 

 しかし、お目にかかるのは初めて――伝説の陸上攻撃機A10に装備されていたという機関砲ですな!

 さすがに個人では扱えない大型の兵器だが、テムさんはロボだかパワードスーツらしきAFとやらのおかげで難なく使いこなしている。


 ブボボボボボボボッ!


 砲身から火花が吹き出し、連続した銃声が少し離れたこちらにまで届いた。

 重く低い音が内臓にひびく。

 さらにキンキンカンカンと、やたらどでかい薬莢が地面に飛び散ると――、

 

 ボシュ、ブシュ、バシュッ!


 大口径の弾をくらったゾンビは挽肉(ミンチ)……どころか血の霧となって消えていく。

 うわ、こいつもえぐいな。

 

 しかし……アベンジャーにマイクロウェーブ?

 どちらもこのゾンビヘイブンでは聞いたこともない装備だ。

 さっきまで火縄銃やら刃物なんて原始武器で戦ってたオレたちには未来兵器すぎる。


(ん、待てよ?)


 ――そこでオレは気づいた。


 ゲームバランスを壊すほど圧倒的なパワー。

 アングリー種すら歯牙に駆けないようなその性能。


 あれ? もしかしてユズキさんたちが使ってるのはチートなのか?



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 


 

 チート――それは改造したデータなどを用いてゲームを有利に進める行為だ。

 高度に暗号化されたVRゲームではチート行為をするにも一苦労らしいが、それでも他者より先に行きたい連中は後を絶たないそうだ。


 う~ん。ユズキさんたち。助けてくれたのはおおいにありがたいが、チートは良くないよなぁ。

 下手するとアカウント削除されますよ?

 まして道場ヘイブンは運営ににらまれているそうですし。


 なんて勝手に誤解したオレは遠慮がちに警告したのだが――、


 ユズキさんは首を横に振る。


「チートとはちがうかな? ま、ある意味チートといえばチートだけど。でもアカウント削除されることは絶対ないよ」


 あれ? あんまり悪びれてないし、自信満々だな。

 ということは、これってチートじゃないのか?

 そういえばユズキさんもリックさんもかなり堂々と装備を使ってる。

 チートプレイヤーって、露見してアカウント削除されないように、もっとこそこそしてる感じだし。


 ……じゃ、いったいなんなんだ、この装備は?


 オレの隣、考えこんでいた半透明のヒサヨシさんが問う。


『ユズキさん、あなたは……もしかしてテストプレイヤーの方でしたか?』

 

 テストプレイ? ああ、なるほど。それなら納得だ。

 こんなムチャな装備も運用試験(テストプレイ)中っていうならわかる。

 そういえば、さっきのユズキさんの発言も武器の使用感を検証してる感じだったし。

 きっとプレイヤーの中から選ばれて新装備のお試しをしているにちがいない。

 オレはまたも勝手にそう思いこんだ。


 ……しかし、ユズキさんの答えは半分だけの肯定(イエス)だった。


「そうだね、テストプレイも目的の一つだよ」


 え? 目的の一つ? 

 じゃあ他にも理由があるんですか?


「とある人物に依頼を受けてね、タクくんたちの救援をたのまれたの――こっちも都合がよかったんでその依頼に乗ったわけ」


 救援の依頼? ユズキさんやリックさんたちが、なぜそんなことを……? 

 せっかく答えてもらったのに疑問は深まるばかりなんですが。


「うん。早く説明したいんだけど、あたし一人の独断じゃダメなんだ……ほらリック、楽しんでないでさっさと片付けちゃいなさい! タクくんたちが待ってるわよ」  


「ちぇ! クソいそがしい中でこれが唯一の楽しみだっていうのに……まあいい。あの集団で最後だ。やってくれ、テム!」 


 ユズキさんの上げた大声。リックさんがいまいましそうに返す。

 だが、たしかに彼の言うとおり。ゾンビの群れはあれで終わりのようだ。

 オレたちがよそ見してる間に、もうここまで駆逐してしまったらしい。すごい速さだな。

 

「……了解」


 ガトリングとは逆側の腕――ぶっとい砲身をテムさんは最後に残った十体ほどのゾンビの群れに向ける。

 

「タイマーは三秒後にセット」


 シュボッ!


 テムさんは名残惜しむようにゆっくり狙いをつけ、発射する。

 軽く曲線を描くような軌道で飛んでいくこぶし大の物体。

 ん、榴弾(グレネード)……か? 


 オレは爆発を予期して身がまえたが――、


 バシュッ!


 いや。ちがう。広がったのは爆風ではなく、白い霧だ。

 そして周囲にまき散らされた、それに触れたゾンビは……


 ピキィ!


 真っ白な霜をまとって動きを止める。

 ゾンビの群れは、まるで前衛芸術のオブジェのような姿でそこに固まっていた。


「おお! 冷凍弾もなかなかじゃないか! 重火器でひゃっはーするのもいいが、たまにこういう変化球も捨てがたい!」


 リックさんはその光景に歓声を上げている。 


「れ……冷凍弾?!」

「なんなんですか!? このSF武器のオンパレードは!?」

『ああ、さすがに一テストプレイヤーに任せるような量じゃないぞ!』


 さっきから見せられ続けた謎兵器の数々――オレとサユリさん、ヒサヨシさんは立ちすくむしかない。

 そんなオレたちの姿にユズキさんが頭を抱えている。


「ああ、もうリックってばやりすぎ! タクくんたちの前でそんなに大盤振る舞いしちゃっていいの?」 

 あせったユズキさんは止めようとするが、リックさんはどこ吹く風だ。 


「彼らには事情を教えると決めたからね。ならば隠す必要もないだろう。だいたい君だってさっきド派手に衛星砲を使ってたじゃないか?」

「う、あれはしかたなく……ま、少しは楽しんだけどね。でも今の大量撃退で確実に日本版の運営にバレたわよ?」


 言いくるめられたユズキさんが心配そうにいう。 


「……かまわんさ。むしろそれが狙いだ」


 しかしリックさんは不敵に笑った。



 というか……いったい、二人ともなんの会話をしてるんでしょうか?

 そろそろ、ちゃんと話してくれません?

 オレはもう大混乱な状況、頭が破裂しそうなんですが……。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「ああ、タクくん。今から説明するよ……その前にちょっと失礼」   


 残敵をすべて掃討したリックさんが言う。


 リックさんの乗ってるAF(仮)はひざまずき正座の姿勢になる。

 と、響いていた駆動音がとぎれる。どうやら電源を止めたらしい。

 リックさんは停止したAFの胴体、操縦席からはしごを伝って降りてくる。


 そして、にこにこ笑って近づいてきたリックさんが――、


「まず、オレたちの正体というか素性から教えないと……」


 と、話しはじめたところで――、



 シュウウウ!



 オレたちのすぐそば、光の渦があらわれる。

 これってログイン時のエフェクトだ。 

 しかし、こんな状況でいったい誰が……!?

 オレは疑問に思う。


 一方、収束する光の渦をながめたリックさんは――、 


「……最後の登場人物が、ようやくお出ましのようだね」 


 と、満足げにつぶやいた。



 

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