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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
二章
21/59

アングリー!!!!! 

 救援――あきらめかけていた希望。 

 それが今、ここに迫ってるという!

  

 耳を疑ったオレは、ヒサヨシさんに、もう一度聞く。


「本当に……助けが来てるんですか?!」


『ああ。外からゾンビの包囲を切り崩してくれてる。さっき外に出て確認したよ』

 

 そうか。幽霊状態なら偵察し放題だもんな。

 さすが質量を持たない残像だ。


「よかった……これで助かります」


 サユリさんはほっとしたのか、またしてもへたりこんでしまった。


 でも……いったいだれが?

 もしかしてヒサヨシさんの知り合いですか?


「いや。おれは見覚えがなかったけど……でも強いよ。アングリー種の大群ををみるみるうちに駆逐していた」  


 そっか。

 腕に覚えがないとアングリー種、それもバタリオンに挑もうなんて思わないよな。

 ま、そのすご腕プレーヤーさんたちには後で感謝するとして。


 オレたちはとにかく、生き延びないと――。


「でも……この扉、あと少しで……」


 サユリさんが扉に視線を送り、不安げな表情を浮かべる。


 武器庫の扉は、さっきからがんがんとやかましい悲鳴を上げている。

 がんじょうなはずのそれも、アングリー種の凶暴さの前にはさすがに耐え切れないようだ。

 さすがに分厚い板は破れないようだが、留め具や継ぎ目――構造的に弱い部分がそろそろ限界みたいだ。

 衝撃を受けるごとに、がたつきが大きくなってきている。

 

「UGUUUUUUUUUUHHHHHHHHHH!」


 そして、扉の向こうからオレたちに向けられる殺意のこもったうなり声。


 ――まずいな。このままだと扉が持ちそうにない! 

 


   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 


 

 迎えたのは大ピンチ。 

 武器庫は最高の防衛拠点かもしれないが、追いつめられると逃げ出す先がない。


「……ヒサヨシさん、武器庫の中に使えそうなものはありますか? たとえば強力な火器とか……」


 ダメ元で聞いてみる。

 ヒサヨシさんは死亡前、武器庫の中の物はマスター権限で使えるようにしたといっていた。

 だったら、そこになにか役立つものがあれば……と思ったのだ。

 

『う~ん。ここは道場だからね。銃器はほとんどおいてないんだ。あるのは刀と槍くらい。そもそも日本刀自体がチート武器だから他の武器ってあまり需要がないんだよ。あ……でも、だれかが趣味で集めてた火縄銃があったな。単発でいまいち使い勝手が悪いからさっきは持ち出さなかったけど……』

 

 え? 火縄銃!? 

 ……どんだけレトロなんだ。


 だが、たしかに単発式じゃ意味がない。

 リベレーターでさんざん苦労したから、単発式の使えなさはオレもよく知っている。 

 次の弾をこめてる間に、ゾンビさんがやってくる。まして相手は足の速いアングリー種だし。


 ま、それでも……やれるだけのことはやってみよう。


 ヒサヨシさんの話じゃ、ヘイブン防衛戦に限ってアイテムや武器を共有できるらしい。この状況では、ありがたい話だ。


 オレは武器庫の中をあさり始める。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


「よし、こんなとこかな?」


 武器庫には、それなりに使えそうなものがあった。

 オレは、集めたそれらを目の前にならべてみる。

 

 ――さて、こいつらでどうしようか?


 まずは大量のひも。刀や武器を納めるための箱からとったものだ。

 それに刀の下げ緒からも取れるから無尽蔵ってレベルで数がある。

 意外と縛るもののあるなしって加工においては大事だしな。 


 そして『火縄銃』。

 十丁と意外に数がそろっていた。

 昔の銃って、けっこう口径がでかい。至近距離ならけっこうな威力がありそうだ。

 あとは単発で制圧能力に欠ける点だけ、なんとかなればいいんだが――、


 それと火縄銃の弾薬――鉛玉と玉薬にもけっこうよゆうがある。

 玉薬は一抱えもあるツボに入っていた。玉薬ってのはつまり火薬だから、この状況ではもしかしたら一番ありがたいアイテムかも知れない。

 他には火縄、弾薬装填用の杖、なぜか火種用の火打石まで用意されていた。


 ……むう、しかし、やたらリアルだ。

 本当にこういう点には手を抜かないよな。このゲーム。


 もちろん刀と槍はあるだけ引っぱりだしてある。こいつもけっこうな量があった。さすがは道場だ。

 下手すると三ケタくらいいくんじゃないか? 


 もっとも、こっちは三人――一人は幽霊で武器を使える人間は二人しかいないから、宝の持ち腐れではあるけど。二人が海賊狩りの剣士みたいに三刀流を使っても、六本しか使えないし。  

 

 あとはバリケードに使えそうな木箱、そして棚。

 中身を引っ張り出せば動かせるのでこいつも障害物になってもらおう。



 ……とかなんとかオレが生き延びるためのアイデアをひねり出してると――。


 オレの作業をのぞきこんでたサユリさんが感心したような声を出す。



「タクさん、すごいです。さすが『戦場のワクワクさん』ですね!」



 え……なんですか? そのファンシーな二つ名は?


「あの『ユズキレポート』に書いてありました」


 ああ、オレを探すためにユズキさんがばらまいたチラシか。

 なんだかかっこいい名前がついてるけど、内容はほぼでたらめだ。

 真に受けたのはこの剣術美少女くらいだろう。

 オレにとってはあのレポート――黒歴史だから全部に目を通してなんかいない。


 ちなみに……どんなことが書いてあったんですか?


「ええ、バタリオンのときのタクさんは冒険野郎マクガイ〇ーみたいだった……とか」


 ……少々ネタが古いな。


 だいたい、あの大群(バタリオン)との戦いでは、せいぜい槍を作ったくらいだぞ。

 あとはバリケードとか……。


 そういえば、あのときもビルに立てこもったんだよな。

 たしか入り口を障害物でふさいで、敵が集まったところで2階の窓から飛び降りて……


(ん、待てよ!?)


 あの日の記憶に、オレは一つの思いつきを得る。


(もしかしたら……いや、たぶんこれでいける!) 


 記憶を思い出させてくれたサユリさんに感謝だな。


 ……そして、いちおうユズキさんにも。 

  


  ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 というわけで――、 

 オレが作戦準備に精を出していると――

 

『……そろそろ来るよ』


 半透明(シースルー)な体をいかして偵察に回ってくれたヒサヨシさんが注意してくれる。


 おお。たしかに。

 もう扉は限界みたいだ。

 何度かの体当たりを受け、ぼろぼろになり、開いたすきまからゾンビの姿が見える。

 

 ――危ないとこだったが、こっちはもう迎撃の準備はできてる。


「サユリさん、準備は良いですか?」

「はい!」


 美少女が元気よく返答してくれた次の瞬間――扉が破られた。 


「GUUUUUUUAAAAHHH!」 


 踏みこんでくるゾンビさんたち。

 だが――、


「AGAHHHHH?」


 すぐに間の抜けた声を出す。


 ……ま、そりゃしかたない。 

 彼らが足を踏み出したそこには床板が存在しなかったのだから――。


 実は先ほど、むやみやたらと切れ味のいい日本刀を工具として使い、扉あたりの木製の床をけっこうな範囲で切り破っておいたのだ。


 ――つまり『落とし穴』である。


 この道場は体育館みたいな構造になっていて、けっこう床が高い。

 だから床から地面まではけっこうな距離がある。落とし穴としては最適なくらいに……。

 そして空を踏み抜いたゾンビは――


 ズブッ!

  

 斬り破った床の先――地面に刺しておいた大量の槍の穂、日本刀の刃に串刺しにされる。


 よし! うまくいった!


 次から次へと室内に入ってくるゾンビはどんどん落とし穴へと落ちていき、埋め込まれた刃のえじきになっている。


 いいね。ゾンビホイホイ。

 時間がなくて『ドッキリ大成功』の看板を作っておけなかったことだけが心残りだ。

 もっとも通用したのは最初に入ってきた一群だけだった。

 やがて落とし穴は埋まってしまう。それだけゾンビの数が多いのだ。

 まったく……人海戦術にもほどがある。



 かくして落っこちた仲間(ゾンビ)を足場にして迫りくる、血も涙もない冷血ゾンビさんたち。 

 だが、そんな連中を迎撃作戦第二弾――棚や木箱を並べたバリケードが待ち受ける。

 棚と棚の間、床上20センチのとこにはがんじょうな組みひもがクモの巣のように張られ、ゾンビの足をからめ捕った。じたばたしてるゾンビの群れにオレは笑みを隠せない。

 

 よし。足止め成功!

 さらに(バリケード)には火縄銃がひもでしっかり、固定され、間近まで侵入してきたゾンビに狙いをつけていて――、

 

 ――どうも。いらっしゃいませ、団体さま。


 オレは歓迎のあいさつとともに、火縄銃につながるひもの束を引いた。

 手にしたひもの先は、ならべられた火縄銃の引き金にかかっている。

 

 その結果は……、

 旧式の火縄銃がいっせいに火を噴き、雷のような大音響を発する。


 ドドドドドドドドドウウウウウンッ!


 連鎖した轟音と共に大口径の鉛玉がゾンビの肉をえぐり、骨を砕く。

 まともに集中砲火をあびたゾンビたちは無残な肉塊になってバリケードの前に転がった。  

  

 一丁一丁は単発式でも、まとめて運用すればこれだけの威力がある。

 バリケードで敵の進路をふさぎ、足止めしたうえでの一斉射撃。

 織田家鉄砲部隊が武田騎馬部隊を打ち破ったとされる『長篠の戦い』みたいな感じだ。

 

 ――ま、今ので十体ちょいいけたんじゃなかろうか?


 落とし穴にも同じく十体は落とせたし、いい感じだ。



   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 しかし、あとからあとから押し寄せるアングリー種ゾンビの大群――

 いったいどんだけいるんだ?!



「サユリさん、はじめてください」

「はい!」


 大量にある日本刀を――サユリさんと二人で『投げ』はじめる。 

 手に持って使えないなら投げてしまえという、素朴で乱暴なアイデアだ。

 しかし、自暴自棄(やけっぱち)に見える攻撃だが、刀自体の攻撃力のおかげで意外と威力は高い。

 投擲された鋭利な日本刀が、ゾンビに根元までぶすぶす刺さっていく。


 刀の重量と肉をえぐり続ける刃にゾンビはたまらず足を鈍らせる。

 さらに突き刺さった刀の刃で、暴れ狂うゾンビ同士が傷つけあっている。

 

 ま、他に手がないからやってるが、実際やったらずいぶん高くつく飛び道具なんだろうな……。



 と、こうやって足止めしたうえで――。

 

 お高そうなツボをゾンビの群れのど真ん中にころがしてやる。 

 中には火縄銃用に用意された火薬、それに鉛玉がぎっしり――手榴弾もどきだ。

 こいつはだれかの所蔵品らしいツボを利用させてもらった。

 備前焼っぽい渋いツボ。キシリア様に献上したいほどの逸品だったんだが……生き延びるためには、しょうがない。


『おお! 焙烙(ほうろく)だね?!』


 ヒサヨシさんが声を上げる。

 へえ、そんな呼び名もあるんですか?  

 オレはトリビアを一つ獲得しつつ、ホルスターからP7M7を抜いた。

 そしていい具合の場所に転がったツボに狙いをつけ、引き金を引く。


 その結果は――、

  

 ボゥン!  


 炸裂したツボから大量の鉛玉と陶器の破片が飛散。

 バリケードの手前にいたゾンビさんたちにエグい傷を負わせてやった。 

 

 やったね!


 

 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 そして――残るは最後の一手。


「GIIIIIIYYYYYY!」


 バリケードの手前におおぜいのゾンビさんを引きつけたうえで――、

 オレは用意しておいた大きめのツボに近寄る。

 中身は大量の玉薬――火薬だ。このツボにも鉛玉がしこまれている。さっきの簡易爆弾の大型版である。


 こいつで集合したゾンビさんたちを吹き飛ばす――それがオレの切り札だ。


 ツボから床にさらさらと細く長く火薬をまき、導火線がわりにする。

 そして火薬の一番端に火打石で火をつける。


 カチッ、カチッ!


 ぶっつけ本番だし、焦って手が滑ったりしたが、それでも火花が飛び、火薬に燃え移った。

 ちりちり、じりじりと音を立て、その火はツボへ向かっていく。

  

「よしッ!」


 確実な着火を確認したオレは即座にその場に背中を向け、一目散に駆け出す。  

 

「……タッくん、早く! 早く中へ!」


 一足先に『脱出口』にたどりついていたサユリさんが声をかけてくる。 

 オレはその声に従い、武器庫の端、床に大きく開いた穴へと身を躍らせた。


 ――実はこの武器庫の中、部屋の奥にある床をもう一か所、切り破っておいた。

 ここがオレたちの脱出口となるのだ。

 

 オレは床下の狭い空間に飛びこむと、必死に這いずって進む。

 とにかく爆発から距離を取る必要がある。

 わきにかかえた次郎太刀が邪魔だが、命をあずける大事な相棒だ。手放すわけにはいかない。


 ――そして刻々とせまる爆破時間。




 轟ッ!!!!!




 這いずり続けた数秒後、強烈な爆発音が頭上で響いた。

 切り破った脱出口から爆風が吹き込み、土埃をまき散らす。

 

 それでも爆風の大部分は上と横に広がるから、床下のオレたちに大した害はない。


 ま、反響した轟音でびっくりさせられたけど――、


(今のでゾンビはだいぶ減らせたはず……)


 ――少なくとも、うめき声はまったく聞こえなくなっている。


 

 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 それから床下をはい進むことしばらくして――


(あとは――ここから表に抜ければ……)


 明かりの射し込む通気口――張られた金網を取り外し、オレは警戒しながら顔を出した。


(ゾンビの姿は……ないな)


 どうやらアングリー種のみなさんは武器庫に全員集合していたようだ。

 集団行動ができてるようですばらしいね。 


「だいじょうぶです、出てきていいで……」


 と、安心したオレが、背後のサユリさんに声をかけようとしたとき――、  



 カチャリ――



 機械の作動音とともに後頭部になにかが突きつけられる感触があった。 

 この硬さ、冷たさは金属――おそらく銃のものだ。



(だれだ!? 人の姿なんて見えなかったのに!?) 

 


 ――オレは全身の血が一気に引く感覚を味わう。


 

   

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