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ゾンビヘイブンon-line  作者: 習志野ボンベ
二章
14/59

ガール!!!

「これが……『道場』?」


 初めて訪れたヘイブン『道場』

 その見た目は……、正直に言えばうさんくさかった。

 こちらに所属中のサユリさんには悪いけどね。

 中華風だか日本風だかわからない建物。そのあちこちに赤とか金とか、クワトロさんやアズナブルさんのMSみたいな配色だし。

 なんていうか、海外の映画に出てくるカンフーテンプルとカラテドージョーみたいな雰囲気だ。

 ちらっと見えた内部の装飾品もいいかげんだ。ツボとか、屏風とか、鎧とか、刀とか……中国と日本の品がごちゃまぜに配置されている。東洋っぽければなんでもありな感じなのか?

 チャンチャンバラバラやりあうけいこの場所に景徳鎮とか、ふつうは飾らないと思うんだけどな。


 さて、そんな道場にお邪魔するわけだが…… 


(やっぱり、頼もう……とか入るときに言わないといけないのかな?)


 くだらないオレの悩み。サユリさんは、あっさりかたをつける。


「ただいま。お兄ちゃん」

「おかえり。ん、そちらの方は?」

「ああ、以前話していたタクさんです……今日は勝負を受けていただきました」

 

 アットホームすぎるあいさつのあと、事情を説明するサユリさん。

 続けてサユリさんの兄――道場主さんがあいさつしてくれた。


「ようこそ。タクくん。この道場ヘイブンのマスターやってるヒサヨシです。サユリの兄です」


 ヒサヨシさんは目を糸のように細め、にこやかに笑う、人のよさそうな好青年だった。道場主という単語からは想像がつかない外見だ。


 ――けど、意外とこういう人が達人なのかもしれないな。


 オレは内心で思いながら頭を下げた。


「はじめまして。タクです。お邪魔します」 


 礼を返したあと、オレは周囲を見回す。

 おかしいな。オレたちの他にだれもいないぞ? 聞いてみるとするか?


「ところで……他の皆さんは、いらっしゃらないんですか?」


 もしかして今日はどっかでイベントとか? 


「ああ、ウチは弱小ヘイブンだからね。常駐はオレたち兄妹二人。あとはたまに来る連中が十人ばかりいるだけさ」


 そういって室内を見回すヒサヨシさん。


「ま。分かるだろう? この内装だからさ。不人気なんだよね。うちのヘイブン」


 ええ、わかります。フランクすぎる言いようですが。

 しかし、なんか悪いこと聞いちゃったな。


「向こうじゃ『道場』ヘイブンは人気らしい。でも、さすがに日本でこれだと……ね。まあ、きっと向こうの人も日本の西洋ファンタジーとか中世ものを見て、似たような感覚でいるのかもしれないけど」


 う~ん。その視点はなかったな。

 けど、たしかにヒサヨシさんの言うとおりかも。

 向こうの人の感覚を頭からバカにするのはやめにしておこう。 

 

 それにしてもヒサヨシさん。話しやすそうな人で良かった。

 サユリさんをもっとめんどい感じにした人かと思ってた。



「ははは。大学進学で実家から遠く離れたんでね。妹とはここで会ってるんだ。このゲームをやってるのはそれだけが目的。小さいころから剣道一筋の妹とは違うよ」

 

 なるほど、そんなほっこりした理由があったんですか。

 

 ……なんて風に、家族の話を他人にされるのがいやだったのか。

 サユリさんは急ぎ、口を挟んでくる。


「そんなことより始めましょう。さっさと終わらせて返して差し上げますよ。さあ、お兄ちゃん、審判お願いします」


 む、お兄さんの前だからか、サユリさん、すごい自信だな。

 まあオレも勝てる自信なんて一切ないんだが……できる限りのことはやってみよう。

   

   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 金色をした謎の仕切り線で一礼。

 オレはいつものダマスクス槍を、サユリさんは日本刀をかまえる。

 じりりと背中に汗が走る。緊張の瞬間だ。


 と――、

 ヒサヨシさんが手を上げ合図を送る。


「はじめッ!」

 

 戦闘開始――しかし次の瞬間、サユリさんは一気に後退した。


「え?!」

 彼女の突撃を予期し、その後の斬り合いに備えていたからオレはびっくりする。


 一方、サユリさんはどんどん下がっていき、なんと壁際ぎりぎりまで到達した。

 そこで彼女は抜身の刀を肩に乗せる。腰もぐいと下がって地を這うような姿勢だ。


 ん? いったい何をするつもりだ?

 不審な目で見つめるオレにヒサヨシさんは――、


「サユリの得意技『介者剣術』。戦場の刀法だよ。ダッシュから斬撃まで一気に踏み込んでくるからね。急な突進にびびったり、逃げたと思って油断してるとバッサリだよ?」


「お兄ちゃん!」

 兄によるネタバレにサユリさんはお怒りだが――、


「さすがに得意技くらい教えとかないと不公平だろ。それとも……この技はご存じだったかな? タクくん?」


 なんてことを言い、ヒサヨシさんは意味深に笑う。

 そんなもの知ってるわけない……と言おうとしたが、記憶の深いところ、どこかで見覚えがあるような気がした。

 ……だが、いったいどこで?


 いや、そんなこと考えてるヒマはない。

 むこうでは意図を漏らされ、おかんむりのサユリさんが臨戦態勢だ。


 まずいな。この状況。

 ともかく間合いだ。自分の槍の間合いを把握しないと。

 ここのところ外でばかり戦ってきたから、室内だとなんとなく間合いの感覚がつかめないんだよな。

 一気に突っ込んでくるサユリさん相手に、これは致命的な弱点だ。



 ……よし、槍を軽く振って、どんだけ届くかを確認してみよう。

 


 しかし、オレは忘れていた。

 オレの今使う槍は即席の品であることを……。

 いや、正直、槍というのもおこがましい。鉄パイプにダマスクスナイフをくくりつけただけのもの。

 こんな粗品でもオレのことを支え、ここまで戦ってきてくれたわけだが――、

 さすがに歴戦の疲労が限界にきたらしい。

 多くのゾンビを葬る間にかかった負荷は、特にきつく縛り付けたワイヤーにかかっていたようだ。



 だから、オレが軽く槍を振った瞬間――、

 


 ブチッ、ヒュン



「あっ!」


 金属疲労で強度が失われたワイヤーが切れ、固定されていたナイフが一直線にサユリさんのもとへと飛んでいく。


 ストッ……


 白光を放ち、飛来したナイフ。

 それが壁際のサユリさんの顔面わき、わずか数センチのところに突き立った。


「ヒッ!!」


 サユリさんは顔のすぐ横、ぎらりと光った木目波紋に腰を抜かし、ひざをついた。 

 これから突撃しようという一瞬の呼吸のすき――そこを飛来したナイフがついたようだ。


 達人でも不意打ちで呼吸を乱されると、一気に崩れることもあるというし……。


 と、そこで――、


「勝負あり!」


 ヒサヨシさんの声が高らかに響く。


「ん? え? あれ!?」


 オレ……勝ってしまった……のか?

 本当にいいのか、こんな結末で……?



     ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 



「その……さすがに今のは勝負なしって方向でお願いしま……」

 

 いくらなんでも今の勝ちはマグレすぎる。

 再勝負したほうがいいと、オレは言おうとしたが――、

 

 ――すでにヒサヨシさんによる、お説教が始まっていた。


「サユリ、この銃器全盛のご時勢に、わざわざ好き好んで刀を使おうっていうんだ。暗器やら飛び道具の類には注意をしておく……当然の心がけだよね?」

「ごめんなさい、お兄ちゃん、でも、タクさんは槍使いだったし」

「それが油断だというんだ。君だってスペツナズナイフ、そうでなくても飛刀や投げナイフの存在くらいは知ってただろう?」


 いや、さすがにスペツナズナイフとか、女の子は知らないんじゃないかな?

 そうオレは思ったが、サユリさんはしゅんとうなだれた。


「は、はい……」


 知ってるのかよ!


「もしタクくんが手加減してくれなかったら、あの一撃でキミの眉間にナイフが刺さってた。わかるね? キミの完敗だと?」

「……そうです、わたしの負けです」


 うわ。えらく意識の高い会話してるな。

 もう「あれはマグレでした」といいづらいじゃないか。


 そうこうしてるうち――、


「ほら、負けとわかったなら、未熟なキミの都合にむりやり巻きこんだタクくんにちゃんと謝って」

「タクさん。参りました……あなたを(あなど)るような口をきいてしまい、すみませんでした」


 ヒサヨシさんに言われ、腰を抜かしていたサユリさんが深々と床に頭を下げる。 


 ……あ、いや。あなたがなかなか手ごわそうなのでね。初手から全力でいきました。


 なんてことをオレは場の空気に合わせて言ってしまい――、


「ありがとうございます。あなたほどの強者に全力で戦ってもらえたこと、生涯の誇りといたします……ぐすっ」


 あら……サユリさん、頭を下げたまま、ついに泣き出してしまった。 

 こっちは、ものすごい罪悪感なんだが……

 

 一方、ヒサヨシさんはさわやかな笑顔で――、


「うん。これでサユリも自分の未熟さがわかっただろう。それだけでもいい試合だった」

 

 そんな傷口に塩すりこむようなこと言わなくても……。

 さらに彼は妹のところへ歩み寄る。


「悔しいかい?」

「はい。お兄ちゃん」

「もっと強くなりたいかい?」

「……はい」

「では、いい方法がある」

「?」

 

 ヒサヨシさん、そこでいったん沈黙した。

 妹の近く、壁に刺さったナイフを抜く。

 そして今度はオレのほうへ歩みを進める――えらくタメを置く人だな。

 業を煮やしたサユリさんが、兄の背中に問いただす。


「お兄ちゃん! 強くなる方法ってなに!?」


 そこで、ようやく口を開くヒサヨシさん。


「……サユリ、キミはたしかに強い。だけどずっとこの道場でけいこばかりしていたせいで見聞が不足しているんだ」

 

 ほほう。たしかに。その点は同意だ。

 世間知らずというか一本気というか、サユリさんには純粋すぎるところがある。

 たとえばオレに勝負を申しこんできたときのこととか。

 まっすぐなところは嫌いではないけど、それでも思い込みってのはときとして危ないもんだし。



 と、そこで――、


「はい」

 ヒサヨシさんはオレにナイフを差し出してきた。


 ああ、ありがとうございます。

 オレが頭を下げ、愛用の刃物を受け取ったところで――、


「……サユリ、このヘイブンを離れて、タクくんといっしょにしばらく外の世界を見ておいで」


 しれっと爆弾発言をなさる道場主。


「お兄ちゃん?! どういうことです!?」

 お兄さん!? どういうことですか?!


 シンクロして応えたオレたちに――、


「ほう、仲がいいね」


 と、にこやかに笑う。

 そしてヒサヨシさん。今度はオレに向かって、小声でささやきかけてくる。

 

(もちろん、断らないよね……断ったらサユリにさっきのキミの勝ちがまぐれだと教えるよ?)


 く、やっぱり、さっきの勝ちがまぐれだって見抜いてたのか? 

 そして、なんて卑怯な! 

 サユリさん、負けをあんだけ悔しがってたからな。

 ここにきて、オレのまぐれ勝ちってバレたらフルボッコにされるに決まってる! 


 この道場主、虫も殺さなさそうな顔で、なんてことを……


 しかし、ヒサヨシさんの爆弾発言はまだまだ終わらない。


 ――唇をかんだオレに、彼はさらに驚くべきことを告げる。


「じゃあ、妹のことはまかせるよ……桜井タクトくん」

 

 な、なんでオレの本名を知ってるんだ!?

 この人は一体……何者!?

      

 


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