01:もうすぐココが自殺現場になると聞いて、やってきました
疲れた。
生きることに疲れた。
何で僕は、この世に零れ落ちてしまったんだろう。
どうして父さんと母さんは、この醜い世界の中で僕を望んだのだろうか。
もういいや。
いくら考えても答えを見つけ出すことはできない。
ならどうすればいいのか?
生きることが苦痛に感じ、世界を愛せない僕はどうすればいいのか?
答えはとても簡単だ。
楽になればいい。
そうすれば辛いこと、悲しいこと、苦しいこと、焦ったこと、傷ついたこと、不幸なこと、世界から逃れられる。
二十五階建てのマンション。僕は何かに導かれるかのように屋上にいた。
僕はフェンスに手をかけてのぼり始めた。
するすると高さ二メートルはある転落防止用のフェンスをのぼっていく。
白いフェンスのてっぺんから周りを見渡す。高い……。
そのままフェンスのうえから、したに飛びおりた。
といっても間違えないでほしい。ビルの端まではフェンスのうえから、さらに一メートル半ほどある。
「おぉ……」
フェンスを一つ超えるだけで、世界はここまで変わるのか。
あの世へ向かう直前なのに感動を覚えてしまった。
不覚……いや、いい記念品だ。
この景色は、向こうに持って行こう。
両手を広げて歩き出す。
数センチ歩いて立ち止まる。
「ここから飛び降りたら楽になれる。世界という法則、拘束、呪縛、戒めから解き放たれる……もう考える必要もない。苦しむ必要もない」
一歩。
たったそれだけで僕の全ては変わる。
否。終わる。
そう、たったそれだけで。
――さようなら、みんな。
「さっさと死んじゃえば?」
え、と間抜けな声を漏らしながら声をした方に振り向く。
隣に女の子が立っていた。
ニコニコと笑いながら僕を見上げている。
誰だ、こいつ?
目の前で自殺しようと人を目撃しておいて、ニコニコ笑顔で本人に向かって「死んじゃえ」とか普通言うか。
「普通、止めようとするだろ」
「アハハハ。もしかして『やめろ、自殺なんかするな』みたいなセリフが、わたしの口から出るのを期待してたわけ?」
「……」
「だんまり!図星なんだ。マジウケるんですけど」
女の子は腹を抱えて笑い転ける。
ホンットになんなんだ、この子は……。
「残念無念また来週。わたしの辞書に普通という辞書はあるけど読めないんだ。だってわたしは異常者だから。変態ともいう」
いきなり現れて自殺志願者に「死んじゃえ」の一言をハッキリと放ち、一人で大笑いしたと思えば、自分は変態だとカミングアウト。
僕は何を思ったか聞いてみたくなった。
「なあ」
「ん?」
「死んでほしい?」
「もうすぐココが自殺現場になると聞いて、やってきました」
「泣いていいか?」
こんな女に聞いた僕がバカだった。
「君が生きていることに感謝しているのなら泣け」
「ぐぬぬ……」
泣きたいけど、それじゃ泣けないじゃないか。
こいつ本当になんなんだよ。