プロローグ
高校二年の夏休みに入り、気分も最高潮で迎えることができた。一年生の頃は補習やなにやらで、他の人よりも夏休みに入るのが結構遅かったけれど、今回は登校日を除けば学校に行くのをはぶけ家でゆっくりできる。だけど毎年特別なイベントもある事無く、宿題を早く終わらそうと思っても毎年のことながら終わることもなく、三日前ぐらいから宿題を始めるようと思う。そう思うと気が進まない。それでも宿題をしない訳にもいかないのが学生だ。
そんなことを思いながら既に、夏休みの半分に差し掛かった。もちろん宿題は一つも手をつけてない新品同然だし、人生を覆すイベントも無かった。だけど仮に人生を覆すような事が起きれば、それはそれで問題なのだけれども。何事も普通が一番って事だ。
そして俺は一人寂しく冷房が付いている部屋を拠点として、ソファに身を任せリラックスした状態でテレビを見ている。そんな時に突然聞きなれた携帯の着信メロディーが部屋に響いた。
誰だろう? 俺はそう思い携帯に手を伸ばして液晶画面に映っている番号を見る。そして、その番号は父さんの番号だった。
父さんと母さんと妹の真帆は今会社の都合上イギリスで暮らしている。本当なら俺も今頃はイギリスで暮らしているはずだったが、どうにも住み慣れた土地から出るのは抵抗があるため、一人さびしく日本に残った。決して英語が喋れないわけではない。転勤が決まった途端に猛勉強をしたため、多少の英会話なら問題なくできると思う。……たぶん。
そして俺は父さんからの電話を出る。
「もしもし?」
『よっ、一樹。元気にしていたか?』
「それなりに。それより久しぶりに電話なんかして何か用か?」
『いや~、ちょっと一樹に喜ばしい報告があるんだが、聞きたい?』
電話越しにでも俺の反応を楽しみにしていると分かる口調だった。ここで「別に」と言って電話を切ることもできるが、俺はそこまで捻くれた性格はしてない。
「ああ、聞きたい」
その代わり棒読みで答えた。
『そうか、そうか。そんなに聞きたいのか~、なら特別に教えてあげようかな』
その後父さんは驚くなよと言った。だけど俺は何を言われても驚く自信がない。それは父さんが驚くなと言った時の内容が何時も驚く程のレベルじゃないからだ。この前は真帆に友達が出来た事について長い時間聞かされた。だから俺はワクワクもしないし、無論ドキドキもしない。それどころか通話料の方が心配だ。
やれやれ、親バカというか何というか……。
『……なんと! 一樹に妹ができました!』
それと同時に拍手の音も聞こえてきた。
そして父さんの期待を裏切ることなく俺はかなり驚いた。口には出さなかったけど、きっと今の顔を鏡で見てみればとんでもない表情をしていると思う。そして父さんから『驚いたか?』と言う声が聞こえたような気がしたが、驚きのあまりはっきりと聞き取れなかった。
「……えっと、俺に?」
そして動揺している俺はなぜかもう一度聞き返す。父さんは嘘を言う人じゃないけど、これを聞き返さない訳にはいかなかった。
『そう言っているじゃないか』
「なら出産予定日はいつ?」
妹が産まれたからといって俺が時下に妹を見るのは産まれてから当分先だと思う。それでも聞いときたかった。だって自分に妹が出来るのに産まれる日が知らないのは変だから。
『残念だけどもう産まれちゃった。テヘ』
最後に『テヘ』なんて言う人を生まれて初めて聞いた。しかも聞いたのが俺の父親だから残念と言うか悲しいと言うか、実の父親にガッカリだった。だけどそんな事より父さんは『もう産まれた』と言った。そっちの方が産まれるまで俺に何も言わなかったからガッカリなのだけれども。
「どうして今まで俺に何も言ってくれなかった?」
だから父さんに問う。もしかしたら言ってくれなかった理由もあるかもしれない。まぁ、返事次第では今後の父さんに対する接し方が正反対になる。もちろんそれは悪い意味で。
『ん? だって妹が出来たけど産む訳じゃないからね~。テヘ』
俺の聞き間違えじゃなければ産む訳じゃない、そう言った。正直俺には父さんが何を言っているのか理解できなかった。妹ができたのに産まない。それはいったい何を意味するのだろうか? そんな疑問があった。そして父さんは再び『テヘ』と最後に付けた。俺としてはこっちの方が少々気になったり気にならなかったりする。どっちと言われれば、きっと俺は両方と答えるだろう。全くの矛盾だけど、両方なのだから仕方が無い。それに俺としては最後に『テヘ』なんて付ける人が自分の父親にかなりの衝撃を覚えた。短い生涯で一番の衝撃だ。こんな事を言う父さんは日本中探してもごくわずかだろう。それはそれでレアなのだけれども、正直のところ嫌だ。もしこんな父さんが授業参観にくれば俺の心に一生のトラウマが出来る事を保障してもいい。
「全く父さんの言った事についていけない。……からかいたかっただけ?」
もし父さんの言っている事が理解出来る人がいるなら俺に説明してほしいぐらいだ。お礼に父さんを譲ってもいい。
『誰もお前なんかからかわんわ。ちょっとした理由がある。だけど一樹に妹ができたのは本当だからな』
そして意味の分からないまま父さんは真剣な口調に変わった。父さんの口調が変わるのは真剣モードに突入した時だけだ。だけど父さんが真剣モードに入るのはプレミアがつくぐらい珍しい。多分一番最近でも年単位前だったと思う。
「その理由とは?」
そこで父さんは小さく咳をつき、
『いろいろと省かせてもらうが、父さんの友人が事故にあった。それだけならまだしも不幸にも亡くなってしまった。その父さんの友人には娘が二人いるんだが、引取り先がみつからなくて友人である父さんが引き取った。こっちで二人とも面倒をみたいのはやまやまなんだが、こっちにも色々と事情があるから娘の一人はそっちに行くから一樹にその子の面倒係りを任命した。当たり前だが拒否権はないからな。それで質問はあるか?』
久々に父さんから真面目な話を聞いたし、さっきの父さんが言ったことも納得がついた。
「……そう。別に俺は断らないから任せてくれ。だけど食費はどうする? 今は俺一人分でギリギリだけど?」
『それなら問題はないぞ。少し多めに仕送りをするから心配するな』
ごもっともな事を言ってきた。もしいつもの父さんなら『一樹なら何とか出来るだろう』とか何とか言ってきそうだ。もちろん冗談でなんだけどね。
「その子の歳と性別は?」
『歳は一樹と同い年だ。一応誕生日が一樹の方が早いから一樹の方が年上で、お兄ちゃんだ。それから性別は妹だけあって女性だ。しかもかなりの美貌だから期待しといても損はないぞ。後、名前はジュリンちゃんね』
そして俺はその後も何個か質問した。そして父さんは俺の質問をできる限り明細に答えた。
一通り質問が終わった所で、父さんから妹であるジュリンの来日する日を聞いて驚いた。それはかなり急で、今日の最終便で来るようだった。俺は父さんに呆れながらも話を聞く。
『それじゃあ、最後に一つだけ言っとくぞ』
「なに?」
『ジュリンちゃんを襲うな――』
父さんが話している途中で俺は電話を切った。それから携帯を置き、部屋の中を見渡して掃除を始める。それからジュリンの部屋を作るため、倉庫扱いしている部屋を綺麗に掃除してジュリンの部屋を確保した。
九時頃に着くといわれたため間に合うようにバイクで空港に行き、顔も知らない妹を迎えに行った。
最終便がきたが、俺はジュリンの顔を知らないためただ待っていたら、綺麗な外人の女性が俺の前にきて丁寧にお辞儀をしてきた。だから俺もお辞儀を返す。そして父さんの言ったことも納得した。それはジュリンの美貌だった。髪の色は綺麗なブロンドヘアーで、瞳も澄んで綺麗なグリーンだった。そして顔に付いているどのパーツも整っており、肌の色も雪のように白い。だから俺は妹と忘れて数秒見惚れてしまった。
こんな美人な子とこれから長い事二人暮らしだと考えるだけで妹との二人暮らしが楽しみ半面、緊張したりしないだろうかと思う気持ちが反面あった。だけど一つ言える事は今後の生活が華やかになる事だった。