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ヤンデレ王子に愛される婚約者令嬢のおかげで、王国は今日も安泰です  作者: 月乃ふくや


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11/12

神父の告解と偽王子への尋問


*捕らえられた神父の告解


 石造りの地下室は、ひどく静かだった。

 祈りの場であったはずのその空間に、今は鎖の擦れる音だけが響いている。


「……もう、隠すことはありません」


 神父は、ゆっくりと顔を上げた。

 老いたその目に、怯えはあるが、狂気はなかった。


「私は……ただ、娘の行く末を思っただけです」


 問いかけた近衛兵に向けてではなく、

 自分自身に言い聞かせるような声だった。


「数十年ぶりに顕れた聖女です。神の声を聞き、民を癒し、国を守る存在……」


 そこで、微かに笑う。


「聖女は、王家と婚姻を結ぶ。それは、信仰であり、法でもある」


 当然のことを語るように。


「なのに……なぜ、放置されるのです。なぜ、あの方との婚約が優先される。ただの令嬢でしょう」


 拳が、わずかに震えた。


「私は……正しいことをしようとしただけだ」


 幻術の使用。

 王子を騙る男の手配。

 婚約破棄宣言という“劇”。


 それらを、彼は淡々と語った。


「……これは、神が与えた機会だと思った」


 問いが投げられる。


「協力者は?」


 神父は、少しだけ黙った。


「……いました」


 だが、首を振る。


「名も、顔も、よくは知りません。私は……提示された“道具”を受け取っただけです」


「嘘だ」


 低い声が落ちる。


 神父は目を伏せたまま、ゆっくりと言い直した。


「嘘では、ありません。……“名も姿も覚えられない”のです」


 机の端で、紙が擦れる音。

 供述書の余白に、検分の付記が加えられた。


〈記憶保持に干渉する術式痕あり〉


 神父が俯く。その沈黙は、守秘ではなく、本当にわからないのだと示していた。



*偽王子の尋問


 男は、椅子に縛りつけられていた。


 殴打の跡で顔は腫れ、声も掠れている。

 それでも、目だけは忙しなく動いていた。


 その視線の先にいるのは、静かに椅子に腰掛ける、ただ一人⸻エリアル。


「……質問は簡単だよ」


 柔らかな声だった。


「君は、王子の姿を借りて、学園に出入りした。聖女に近づき、話をした。ここまではいいよね」


 男は、ごくりと喉を鳴らす。


「甘い言葉を言ったね?」


「……あ、ああ」


 そこは否定しない。


「言われた通りにしただけだ」


「婚約破棄を、叫んだね?」


「……っ、ああ!」


 叫ぶように答える。


 だが。


「じゃあ」


 エリアルは、ほんの少しだけ、首を傾げた。


「──『()()シルティアに興味がない』と、言った?」


 一瞬。男の顔から、血の気が引いた。


(……だめだ)


 理屈じゃない。

 理由もわからない。


 ただ、本能が叫んでいた。


(それだけは、頷くな)


「し、知らねえ!!」


 反射的に、叫んでいた。


「そ、そんなことは言ってねえ! 俺は……俺は、甘い言葉を言えって言われただけだ!」


 必死に、言葉を重ねる。


「婚約破棄も! ああ言えって、指示されただけだ! あ、相手の顔は覚えてねえ! フード被ってたし、何も……!」


 近衛兵たちが、息を詰める。


 エリアルは、しばらく黙って男を見ていた。


 そして。


「……そう」


 それだけ言うと、紫の瞳が柔らかくなる。


「じゃあいいや」


 声は穏やかだった。


 男は、全身から力が抜けるのを感じた。汗が落ちる。


(助かった)


 そう理解した。たった一つ。()()違いで、首の皮が一枚だけ残ったことを。

 

 ただし。


「まあ、でも、シルに婚約破棄を叫んだのも君だからね」


 落ちかけた首が、元に戻る道理はない。


 エリアルの声が落ちた瞬間、近衛の背筋が揃った気配を感じた。ひゅっ、と男の息が掠れる。


 救われたのか、それとも、まだ終わっていないのか。男には、もう分からなかった。


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