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第七話:クラスメイト、カーリー登場

 新キャラ登場。

「おはようございます」


 私は教室に入るなり、朝の挨拶をした。

 そして返ってきたものは、


 しーーーん……。


 静寂だけ……いや、耳を澄ませばカリカリと何かを書いている音が響く。

 つい先程まで、乙女ちゃんや吏緒お兄ちゃんと話をしていた私にとって、この静寂は逆に耳に痛かった。

 ここは教室。

 私のクラスメイト達は、一度此方をチラリと見た後、興味を無くした様に机に向かう。

 私の事など完全無視である。


 はうっ、もうちょっと反応してくれてもいいんじゃないですか?

 ふえ~ん、寂しいですぅ。


 私はクスンと鼻を啜りながら、自分の席に着いた。


 皆さん机に噛り付いて、参考書やら問題集などを開いて、カリカリと書いている。


 いや~、皆さん勉強熱心ですなぁ。私には真似できません。

 という訳で、私はオヤジ達をば……。


 私はバックの中からゴソゴソと、私のバイブル的存在の、『オヤジ達の沈黙』を取り出す。


 フッフッフッ、今日のオヤジ達は一味違いますです! 何たって、開いたそこに書かれているのは、日本語ではなく全部英語だったりするのだ!

 何を隠そう、このオヤジ達は海外版!

 我らがオヤジ達は、はるばる海を越えた場所でも読まれているのであーる!!


 スゴイネ!!


 実はこれ、私のお祖父ちゃんが送ってきてくれました。

 私の祖父母は海外に住んでいるんですよ。

 母方の祖母は、私が生まれる前に死んじゃってるんで、あの父の両親という事です。

 あ、心配しないで下さい。至って穏やかな人たちです。

 父みたいにぶっ飛んだ性格ではありませんから。


 その祖父からこの前、



 *******


   愛しい我が孫、ミカ へ


 ミカの好きだという本を此方で見つけました。

 今の所、『スナイパーは夜明け前』というのと、

 『君を釣ったマグロ漁船』と言う物と、

 『ヒグマの鳴くコロニー』と言う三冊を手に入れる事が出来ました。

 確か其方では十巻以上出ているとか。

 他の物も見つけ次第送ります


      お祖父ちゃん より


 *******




 と言う便りと共に小包が送られてきた。


 おおーい、おじーちゃーん。何気に題名違うよー。物凄くビミョーだよー。

 多分、英語の題名をそのまま直訳したんだろうけど……。

 スナイパーは夜明け前ってのは、『夜明け前のスナイパー』だよね!? 君を釣ったマグロ漁船は、『マグロ漁船で君を釣る』だよね!?

 おまけに、ヒグマの鳴くコロニーって何!? なんか、ひ○らしの鳴く頃にのパロディっぽい題名だよね!? ってゆーか、これに関しては、何の話かさっぱり分からないんだけど!?


 なんて心の中で突っ込みを入れつつ、お祖父ちゃんの心遣いに感謝をした。

 以前、彼の前で言ったオヤジ達の話と、実は海外版も出てるらしいと言う話を覚えていてくれたようだ。


 いや~、嬉しいなぁ……。

 あ~、久しぶりに会いたいなぁ。お祖父ちゃんとお祖母ちゃんに。

 二人とも、相変わらずラブラブなのかな。

 私にとって、最終的に目指すカップルの姿だよね、あれ。


 ウンウンと頷きながら、私は本を開く。


 え? 英語読めるのかですって?

 ええ、読めますとも! 幼い頃からよく海外に連れて行ってもらって、一時的にですが住んでいた事もありますので、読み書きは勿論喋る事だって出来ますとも!


 という訳で、私はオヤジ達海外版の『夜明け前のスナイパー』を読み始める。


 え? もう既に読んだ事があるやつじゃないかって?

 まぁ、それもそうなんですが、英語に翻訳されている事によって、微妙に解釈とか違ってる事もあるので、それはそれなりに楽しみ方があるというものです。


「読書なんて余裕じゃないか、一ノ瀬ミカ。流石は学年一位。余裕だね」


 まさに読み始めようとしたその時である。私はそんな皮肉めいた言葉によって、中断させられてしまったのだ。

 それは私の隣の席から聞こえてきたもの。

 其方に目を向ければ、先程まで一心不乱に机に噛り付いて問題集を解いていた男子生徒が此方を見ている。


 彼の名前は仮屋(かりや)(まなぶ)

 その名の通り、学ぶ為に生まれて来たんでないかと思うほどに勉強熱心だ。


 因みに、私が学年一位になってしまったが為に、学年二位に落ちた方です。

 なんかもー、よく目の敵にされとります。何で隣の席になんぞなってしまったんでしょー、全く……。

 しかも、よく見れば顔も整っていて、磨けば相当もてそうであります。

 ただ、そういった事には興味がないのか、非常にかっちりしていると言うか、お固いと言うか……。所謂、隠れイケメンというものでしょうか。


 でも、そんなに嫌いじゃないんですよね、彼の事は。

 他の人が無視する中、何だかんだで結構話しかけてくれるというか……話の内容はともかく……。

 なので、私は心の中で、親しみを込めて、彼の事を“カーリー”または“ガックン”と呼んでいる。

 こういった、ネチネチと嫌味を言われている時なんかに、“カーリーカリカリしちゃ駄目よ”なんて物凄く下らないギャグを心の中で言って、気を紛らわせていたりなんかもする。


「今まで平均点ばかり取っていた君が、よくもまぁ、一位になんてなれたよね。是非とも僕にも勉強法を教えてもらいたいものだよ。とは言っても、君の場合、人に言える勉強法なのかは怪しい所だけど……」


 フンと鼻で笑うカーリー。その目は憎々しげだ。

 つまりは、「何かズルッこしていい点取ったんだろう、この恥さらしが!」と言いたいのだろう。


 全く今日もカーリーはカリカリしてらっしゃる。

 そんなにカリカリして疲れないんでしょうか?


 そんな感じで、私は彼の事を心配してしまう。

 でも、このクラスの人達は全員、カーリーと同じ事を考えているんだろうなと思って、私はハァッと溜息をついた。

 そして、「そーですね」と適当に相槌を打って、彼の言葉を受け流す。

 その瞬間、隣からは物凄い殺気が飛んできた。

 かなり腹立たしいらしい。


 あーもうっ! こっちだっていい迷惑ですよ! 特進クラスになんかなっちゃって……。

 呉羽と……呉羽と同じクラスになりたかった……。

 確かこのクラスって希望制だったですよね!?

 私、一度だってこのクラスを希望した事ないよ?


 一度、担任の福山先生に言った所、「間違いなく一ノ瀬は特進クラスだ」と、断言されてしまった。


 しかもこの先生、私がわざと平均点とってたって何となく気付いてるっぽいんだよね。

 カーッ! これだからイケメンはっ!

 そう、何を隠そう、このクラスの担任もイケメンなんだよ、コンチクショー!

 本名は、福山 (ゆずる)。化学を担当。

 綺麗系のイケメンで、メガネを掛けている。

 しかも、お洒落メガネ第二段! でも縁無しじゃなくて銀縁だけど。

 クッソー! お洒落メガネ第一段、縁なしお洒落メガネの大空会長が卒業して、メガネイケメンに付きまとわれなくなったと思ったのに!


 福山先生のあのメガネから覗く切れ長で鋭い目は、何でもお見通しだぞと言ってるみたいでなんだか恐ろしい。

 と言うか、他の生徒からも恐れられている。

 何故ならば、この先生が人前で笑った所を見たと言う者は皆無で、それにいつも何かに怒ってるみたいに眉間に皴を寄せているのだ。

 以前女子達が、「元がいいのに、あれじゃ台無しだよねぇ」と話してるのを聞いた事を思い出した。

 確かに、あの綺麗な顔で、全く笑わないとなると、その迫力は凄まじく、近寄る者もいない。私だって極力近付きたくない。


 ああ、新学期そうそう、学園生活は波乱な予感たっぷりですよ……。


「……い……おい、一ノ瀬ミカ!」

「はい!?」


 物思いに耽っていた私は、青筋立てながら呼びかけてくるカーリーにハッと我に返る。

 彼は、眉を顰めながら、顎をしゃくって、


「君の携帯、鳴ってるみたいだけど?」


 と教えてくれる。

 確かに、私のバックの中で、携帯がヴーンヴーンと震えていた。


 おおぅ、カーリー何気に親切です……。


 私は彼に、「ありがとう御座います」と礼を言うと、携帯を開いた。


 お? 吏緒お兄ちゃんからのメールだ。

 はて、なんざましょ?


 そしてそこに書いてあったもの。


『如月呉羽が其方に向かっております。一先ず回避してください』


「何ですと!?」


 私はガタンと席を立った。

 そしてすぐさまハッとした。


 はうっ、クラスメイト達が睨んでいる。「あんたうるさい」って顔で睨んでます!


 しかしながら、メールの内容に、あたふたとしてしまう私。


 何でしょう!? 呉羽は一体何の用事で!?

 あうー、会いたい! でも駄目! 会ったら呉羽がお仕置きされちゃう!


「ちょっと君、何してるんだよ……」

「あうっ、ベランダに逃げ込もうと……」


 私は今、窓際に座るカーリーの前を通って、窓枠に足を掛けている。


「何で逃げる必要があるんだよ……」

「諸事情により仕方なくですよぅ。あ、これ持ってて下さい」


 私は手に持ったままになっていたオヤジ達海外版を、カーリーの机に置いた。


「ちょ、何勝手に僕の机に置いてくんだよ」


 カーリーはオヤジ達海外版を手にすると、私に突き返そうとする。だけど、此方に目を向けた途端、ピシリと固まり真っ赤になって顔を逸らした。


 はて、何で真っ赤に?


 そう思ったけれど、急いで隠れないといけないので、「よいしょ」と言いながら窓枠を跨ぐと、ベランダで膝を抱えてしゃがみ込む。


「呉羽が来たら教えて下さい」

「は? くれは? それって君と恋人だとか言う如月呉羽の事? 何でさ?」

「何でもです。お願い、ガックン」

「なっ、ガッ!? ガックンって何!? もしかして僕の事!?」

「嫌ならカーリーで」

「カーリー!? どっちもやだよ!」


 カーリーとそんな言い争いをしていると、「あ……」と声を上げるのが聞こえた。

 そろっと窓から教室の中を窺うと……。


 おおぅ……呉羽がきちょります。


 呉羽は教室前方の開け放たれた扉付近に立って、中を見回している。

 そして、このクラスの異様な雰囲気にちょっとたじろいでるようにも見えた。


 まぁ、皆呉羽の存在なんか無いとでも言うように、一心不乱に机に噛り付いているんだから当然といえば当然かもしれません。私もそうでしたとも……。

 呉羽……私分かるよ。今の呉羽の気持ち物凄くよく分かるよ……。


 思わずほろりと涙が出そうになる。

 しかしながら、たじろいで見せても呉羽はめげずに私を探そうとキョロキョロとしていた。


 おっと、危ない。


 私はさっと頭を引っ込める。呉羽が此方に顔を向けた為だ。


 ムホッ、なんだかドキドキするよ? それに、呉羽が私の事を必死に探してる……うきゃ~、何だかあの時の事を思い出しちゃいます。


 それは、以前この学校の生徒会長をしていた大空会長の罠により、呉羽が副会長である美倉あやめとキスしていると勘違いして屋上に身を隠した時の事です。

 あの時、屋上からは私の事を必死になって捜している彼が見えていたんですよね。そんな彼を見ていると、嬉しくて切なくて……。


 はうっ、これがもしかして初心に返るって事でしょうか。


「おい、一ノ瀬ミカ。如月呉羽は行ったみたいだけど?」

「あうっ、もう行っちゃったんですか?」


 ひょこっと窓から顔を出して呉羽の姿を探すが、そこにはもうお馴染みの金髪サイド赤は見えない。


「何で残念そうなんだ。君から隠れたくせに」

「だって、私を必死に探してくれる彼の姿って、ドキドキしちゃうじゃないですか」

「何だそれは、くだらない。そんな事の為に隠れたのか」

「いいえ、一週間は会っちゃ駄目なんです。罰ですから」

「罰? 君、彼氏と喧嘩でもしたのか?」


 カーリーは驚いた顔をしている。彼も私たちの事をバカップルと思ってるようである。


「いえ、喧嘩というほどのものでは……」

「って、おい! 何で窓から入ってこようとしてるんだよ! ちゃんと前から入ってこいよ!」

「えー、めんどいですし、こっちの方が早いじゃないですか」

「めんどいって……君は女だろう? もうちょっと慎み持てよ!」


 カーリーは先ほどのように顔を真っ赤にして喚いている。そして時折チラチラと視線を向ける場所を見てみると、スカートが捲れ上がり、太股が露出していた。

 カーリーはそこを見て真っ赤になっていたのだ。


 ほほぅ、カーリーってば純情少年ですなぁ……。

 なんと言うか、懐かしい反応ですなぁ。最初の頃の呉羽を思い出します……。


 私はよいしょと窓枠を越え終わると、捲くれ上がったスカートを元に戻しつつ、


「イヤン、ガックンのえっち」


 一応そう言っておいた。


「なっ! えっ――!?」


 真っ赤になって、口をパクパクさせるカーリーに、私は問題集を指差し、


「ここ、間違えてますよ」


 と教えてあげると、彼はハッとして問題集に目を移し、半信半疑で私が指摘した所を見ていたが、やがて「あ……」と声を上げ、一度私の事を眉を顰めて見てから消しゴムでその箇所を消している。

 ついでに他の箇所にも間違えている部分を見つけ、それを指摘すると、私はカーリーにキッと睨みつけられた。


 はうっ、な、何故に!? 間違ってる所を教えてあげたのに……。


 するとカーリーは睨みつけながらも何処か悔しそうに、


「一ノ瀬ミカ……君は本当は物凄く出来るんじゃないか? この問題集、T大の入試問題だぞ? それを、一瞬見ただけで、間違いを指摘するなんて……」

「えっと……確かに難しそうな問題解いてるなとは思ってたけど……頑張ってるカーリー見てたらつい……」


 流石に不味かったかなと、しょんぼりとして答える私。


「だから、何なんだよ、その呼び名!」


 彼は怒鳴りつけながらも、更にオヤジ達海外版を突き出し、


「それに君は、いつもこんなの読んでたのか?」

「っ! こんなのって酷いですね。オヤジ達をこんなの呼ばわりするなんて、オヤジ達に謝ってください」


 プリプリと怒りながら、彼からオヤジ達を受け取ると、カーリーに何故だか物凄く疲れたように溜息をつかれてしまった。


「君と話してると疲れる。全く話が噛み合わない……」

「……でも、私はこのクラスの皆さん嫌いじゃないですよ。目的に向かって頑張ってる人は寧ろ好きですし。私も目指してるものがあるので、なんかもう、同志って感じで仲間意識が芽生えますね」


 何気に私がそう言うと、カーリーは私をチラリと見て、


「君が目指してるものって何?」


 と訊ねてくるので、私はポッと頬を赤らめながらモジモジとして答えた。


「えっと……普通に可愛い呉羽のお嫁さんですぅ」


 するとカーリーが眉間を押さえて、最大級の溜息をついたのだ。


「……聞いた僕が馬鹿だった……疲れる……本当に疲れる……」


 その時、今までカリカリとお勉強に勤しんでいたクラスメイト達が此方を睨みつけながら、


「お前らうるさい! 集中できないだろ!」

「そうよ! 静かに出来ないなら、教室の外に行きなさいよ!」


 等と怒鳴りつけてくる。他の生徒も「そーだ,そーだ」と皆で私たちを非難する。


 うおぅ! ガクブルガクブル……。皆に睨み付けられてるよぅ。

 うー……あれ? でも、今まで無視し続けてきたクラスメイトさん達が、怒っているとは言え、話し掛けてくれている……。

 なんだろ、ちょびっと嬉しいかも……。


「ちょっ? 何君笑ってんのさ!?」


 思わずにやけてしまった私に皆が引いている。


「エヘヘー、無関心から卒業ですねぇ。このまま行けば、マブだちになれるのも時間の問題かも……」


 皆が何言ってんだこいつという顔をする中、私は自分の席に座る。

 クラスメイト達も、釈然としないながらも勉強を再開しだした。

 そしてその時、またもや私の携帯が鳴った。

 見れば、それは呉羽からのメールで、私はどきんとする。


 く、呉羽!? もしかして、さっきの事で何か?


 そう思って、メールを読んだ私は、


「何ですとぅ!?」


 と叫んで席を立っていた。


 またもや睨まれたのは、言うまでのないのであった。





 今回早速出てきた新しいキャラ、カーリー登場。彼はがり勉君。

 他の生徒が無視する中で、何だかんだで結構構ってくれるいい奴です。


 そして名前だけ出てきた担任教師。彼は白衣を着ています。


 ちょっとだけ出てきたミカの祖父母の存在。

 作中でも書いてあったとおり、とても穏やかな人たちです。


 それからオヤジ達。海外版も出てたんだね。

 ちょっと遊んでしまった。何だよヒグマの鳴くコロニーって……。


 てな訳で、今回は如何でしたでしょうか?

 次回は福山先生登場だよ。お楽しみに!

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