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第十八話:浮上と転落

お待たせいたしました。十八話です。


『ごめんなさいね、呉羽向こうに泊まったみたいで帰ってないのよ』

「そうですか……」


 昨日晃さんに呉羽と話すように言われ、朝起きて一番に電話したんですけど呼び出し音が聞こえるのみで一向に繋がる気配が無い為、実家であるアパートに掛けてみたのです。

 すると呉羽のお母上が出た。ここまでは自分の予想通りの展開であったのだけれど、平日にも拘わらず呉羽は居ないとのこと。

 何でも、昨日は急なバイト(お父上のお店の)が入ったらしくてそのまま帰ってこなかったらしい。


 ジーザス! なんてタイミングが悪いんでしょうか……。

 自ずとお母上に掛ける声が沈みます。

 こんな暗い声、朝っぱらから迷惑千万ですよね。


 そう思って「ありがとうございます」と礼を言って、早々に電話を切ったのでした。


 でも逆に良かったかもしれません……。

 だっていきなり呉羽が出ても、何か気まずいような気がしてうまく話せないように思うんですよ。

 会わない期間で言えば今よりもっと長期間会わない時もありましたけど、その分携帯で話したりメールしたりして、まぁ寂しい事は寂しいけれど今回程じゃなかったんですよね。

 今回は連絡を全部絶ってしまいましたから……。

 うん、やっぱり気まずいです。でも……。


 大事なのは自分の気持ち。


 晃さんはそう言っていました。

 私の気持ち、それはやはり変わらなくて……。

 呉羽が誰と会っていようと誰を好きだろうと、


 私は呉羽が好き。


 これだけは絶対です。


 この気持ち、会ってちゃんと伝えたいな。

 でも、会ったら吏緒お兄ちゃんのお仕置きだし……。

 よし、私が全力で止めよう。何なら私もお仕置きを受けます。そうすれば呉羽の受ける苦痛も半減するかもしれません。


 そんな決意を胸に熱く握り拳を作っていると、


「お、先輩!」

「ああ、斉藤先輩! おはようございます!」


 一瞬誰の事か分からずにスルーしかけました。

 危ない危ない。

 そういえば私、師匠の名前借りていました。


 私は「おはよう」と言って振り返れば、そこには後輩の元気君とみこと君が居た。

 何でしょう。こうして声を掛けてくれるという事は、私懐かれてるんでしょうか?


 コテンと首を傾げていると、みこと君が勢いよく話しかけてきた。


「そう言えば! 先輩知ってますか!?」

「はい? 何をですか?」


 頬を染め興奮したみこと君は、私よりも背が小さい事もあって上目遣いである。

 はっきり言おう。


 とっても可愛い、そんでもってナデナデしてハグしたい!


 相変わらずの小動物に匹敵する愛らしさである。

 そんなみこと君が私に訊ねてくる。


「あの噂のバカップル別れたって本当ですか!?」

「ブフゥッ!? わ、別……ど、どのバカップルの話ですか!?」


 物凄く聞き捨てならない事の様に思うんだけど?

 まさかそれってもしかしなくても……?


「どのって、この前話題にしたカップルの事じゃないですか」

「ああ、あの昼飯に重箱持って来るってゆー」

「そうそう、彼氏が派手で彼女が地味って言うデコボコカップル。名前は……」

「……如月呉羽に一ノ瀬ミカ……」


 私がみこと君の言葉に被せて呟くと、彼は嬉しそうに頷く。

 私は顔を上げ、遠くを見つめた。


 アハハー、呉羽ー私たち別れた事になってるー。

 一体全体何でそんな噂に……?


「何かここ数日一緒に居る所を見ないとか、今までがべったりだったのにそんな事になったんで、皆が喧嘩別れしちゃったんじゃないかって」

「ふーん?」

「………」


 私の心の疑問に答えるが如くのみこと君。そしてあまり分かってなさそうな元気君。

 私はというと無言のままである。


 ただの噂とはいえ、改めてそんな事を聞くと、胸に突き刺さるものがあります。

 今、声を大にして言いたい。

 私たちは別れていないと。ただちょっと擦れ違っちゃてるだけなんだと。


「ねぇ先輩! 真相はどうなんですか? 実際そんな風に見えます?」


 みこと君が無邪気に訊いてくる事が余計に胸に突き刺さります。


 あうっ、そんな顔も可愛いね……実年齢よりも幼く見えるよ。

 そんな顔されたんじゃお姉さん答えなきゃね……。


「うん、どうだろ? 喧嘩と言うより擦れ違いかな。少なくとも彼女の方は彼氏の事想ってるよ」

「え? そうなんですか? てっきり彼氏の方の浮気がばれて、彼女が怒っちゃたとかかなと思ったんですけど……」

「っ………」

「あっ、もしくは彼氏が飽きちゃったとか?」

「っ!!」


 飽くまでみこと君は噂話をしているだけ。

 でも彼の憶測は、私の心を容赦なく抉る。


 い、痛いです……。心当たりもありますし……。


 私はグッと胸を押さえる。少々足元もおぼつかなくてフラフラとしてしまう。


「おっと、大丈夫か先輩。何かフラフラしてっぞ?」

「げ、元気君。だ、大丈夫です」

「本当ですか? 顔色も悪いように見えますけど……」


 ふらつく私を支えてくれる元気君。そして私をのぞき込むようにして様子を窺うみこと君。

 二人共、凄く心配そうである。


 うぅっ、いい子達なんだよなぁ。悪気とかこれっぽっちもないんだよなぁ。

 私がその噂の彼女だと知ったら、この子達はどんな反応を示すんでしょう……。

 ああ、今更言えないもんなぁ……。


 私は彼らに向かって大丈夫だと笑ってみせる。

 しかし、全く予想していなかった方向から爆弾が投下される。


「あー、先輩あの日かー」

「ぶっ! げ、元気!?」

「うちの姉貴もあの日になると貧血ひどいからなぁ」


 真っ赤になってあわあわしているみこと君に対して、元気君はケロッとしたもの。

 元気君って爽やかそう見えて、結構女慣れしてたりする?



 隊長ー! 全く安全だと思われていた少年が、爆弾装備の危険人物でありました!!

 うぅむ……しかしながらまだそれを爆弾だと知らずに所持していた恐れもある。しっかりと見極めるのだ!!

 イエッサー!



「え、えっと……元気君? その、あの日って……」

「えっ!? もしかして先輩も知んないのか?」

「あれ? 元気、先輩もって?」

「いやさ、毎月姉貴が言うんだけどさ、あの日って何なのか訊いても毎回はぐらかされるんだよ。唯一女の子の日ってのは聞けたんだけど、桃の節句とは違うっぽいし……先輩は知らないのか?」


 その言葉を聞いて、私もみこと君もホッと胸を撫で下ろした。

 そして私は、みこと君と顔を見合わせた後、うんと頷くと声を揃えて言った。


『君は(元気は)いつまでもそのままで……』


 元気君は「えー」とか言っていたけど、私たちはスルーしたのでした。

 彼のお陰で沈んでいた気持ちがいくらか浮上したように感じる。

 そう、彼のその名前の如くだ。

 ありがとう元気君。




 〜一方その頃……〜




 前回、修行だ山ごもりだと正じぃに引きずられる呉羽。

 そうしながらもミカの事を考えると、咲の言葉もあり強くなる為と意気込んだ。


 筈だった。


「んぎゃぁぁぁぁっ!!」

「あ〜……だしがねせいりょく!!」


 呉羽は早くもくじけそうになっていた。

 修行だと言われ連れてこられた場所は、宣言通り山の中。

 そして、あれよあれよという間にロープで体を縛られ、崖の上に立たされたと思ったら正じぃに突き落とされたのだ。


「出汁が精力ってどういう事だぁぁぁぁ!!」


 崖から落ちていきながらも、しっかりと正じぃの言葉は聞いていた呉羽。そしてつっこみを忘れない。

 まるで熟練の漫才師のつっこみ担当の如くである。

 そう、彼等はどんな時でも笑いをとる為に肉食獣のような貪欲さでいつでもチャンスを窺っている……いわば呉羽は、そんなつっこみ師達の鑑。

 日頃つっこみどころ満載の個性派達と付き合っている為に身についたものであろう。

 そっち方面ではかなりのレベルにきている呉羽であった。


 しかしそれが仇になった。


 まだ余裕があると見なされた彼は、こんなバンジーはまだまだ序の口と思われるような過酷な修行の道へと足を踏み入れる事となる。

 証拠に、正じぃの顔がやばい位に満足気である。

 そして何故か、正じぃの頭の上にいるピーちゃん達も満足気である。

 しかしながら、呉羽は崖の下にロープでぶら下がっている為、その顔を見る事は叶わなかった。

 見ていたら恐らく「何でやねん!」位は言っていたかもしれない。

 色んな意味で「ご愁傷様」と言わざるを得ない。


 頑張れ呉羽! 負けるな呉羽! 乗り越えた先にきっとおいしい何かが待っている……筈?




※因みにさっきの正じぃの言葉は、『男子たるもの鋼のような精神力を持つべし!!』である。




念の為。

崖からバンジー、よい子は真似しちゃいけません。

これは、正じぃの監修監督の元、安全を保証されています。

例え紐が切れても、正じぃなら崖をかけ降り、見事地上で呉羽をキャッチする事でしょう。←え?

なので、身近に正じぃの居ない人は絶対に真似をしてはいけません。


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