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第十二話:偽りのQyeen


 普通を極めれば、それはもう普通じゃない……。

 そう福山先生に告げられた私は酷く落ち込んでしまった。

 あの完璧普通だと思っていたQueen of 普通の斉藤陽子師匠でさえ、苦手得意科目があるらしいし。

 私は昨日の福山先生の話の中で彼女について言ったのだ。

 それを聞いた福山先生は頷くと、


「確かに、あの生徒ほど平凡という言葉が相応しい人間はいないだろうな。お前と違って、彼女には得意不得意がある。

 テストの成績についても、いい時と悪い時が存在するんだ。一ノ瀬、お前のように完璧さは無い。

 だからこそ上を目指そうとする欲求もあり、お前と違って注目を浴びたいと思ったりもする。そういう者こそ本当の平凡と言えるだろう」


 そう言われてドンピッシャーンと衝撃を受けましたとも。

 目立ちたいと思う事こそが普通なのだと。

 それと同時に、「流石師匠!」とも思いましたね。

 師匠はやっぱりQueen of 普通です!

 やはり私の目に狂いは無かったのですね……。


 益々持って彼女を崇拝してしまう私。


 ええ、勿論。

 普通を目指す事を諦めた訳ではないですとも!


 等と、心の中で闘志を燃やしていた私に、みこと君がポンと手を叩いて「ああ、そうだ」と、何かを思い出したようだった。


「そういえば先輩。鳥の巣クラッシャーって知ってます?」

「……え?」

「あん? 鳥の巣? 何だそれ?」


 元気君が首を傾げているのが見える。私は体が強張るのを感じた。


「去年この学校を騒がせた人物らしい。向かいの家のお兄さんがここの卒業生で教えてくれた」

「……? 何で鳥の巣クラッシャーなんだ?」

「ほら、校長先生ってカツラじゃん。しかも鳥の巣みたいな。去年そのカツラを奪った生徒が居たらしいんだよ」

「ああ! 何かこの前、鳥が戻ってきたとかって大騒ぎしてたよな!」


 そうなのだ。実は正じぃの鳥の巣の如きカツラに住まう小鳥、ピーちゃんが卒業式の日に素から解き放たれ姿を消した。

 そして暫くは気落ちしていた正じぃ。

 私たち生徒もやはり気分が落ち込んでいた矢先、新学期に入って朝礼を行った所、正じぃの元にピーちゃんは帰って来た。

 しかも彼氏を連れて。

 状況の全く分からない新入生達を除き、二年三年の私達は正じぃと共に大いに喜び騒いだものだ。


「そ、それがどうしたと?」


 極力不自然にならないように装いながらも、やはり動揺からか声がどもってしまう。


「いや、その鳥の巣クラッシャーって凄い美人らしくて、おまけに運動神経も恐ろしくいいって聞いたんですよ」

「なに!? 運動神経!? おれより凄いのか!?」

「……元気って、運動方面に関しては素早い反応だよな……」

「うん? でも美人って事は、その鳥の巣クラッシャーって女なのか?」


 やっぱり運動以外の事はワンテンポ遅れてるとかぶつぶつ言いながら、みこと君は頷き携帯を取り出す。

 そして、そこに映し出されている映像に、私はピシリと固まった。


「これ、そのお向かいのお兄さんが送ってきたその時の映像。咄嗟の事だったらしくて映像はいまいちだけど、ぼやけててもどこか美人ぽいって分かるかな」


 急いで撮ったらしくぼやけた映像。

 廊下を走っているその姿は、間違いなく私であった。


 な、ななな何と言う事でしょうか!!

 まぁ、あれだけの騒ぎになったんだから、誰か写真を撮っていたって可笑しくないけどさっ!

 でもでも、あんな映像残っちゃって、バレちゃった時ヤバクね!?


 みこと君はその映像を私に突き出し、可愛らしく小首を傾げると(おおぅ、ベリィキュート)、私に尋ねてきた。


「先輩はその時、鳥の巣クラッシャーは見たんですか? どんなでした? やっぱり絶世の美女でした?」



 隊長ー!! どうすれば!?

 適当に言って注意を逸らすのだ! 話題を変えよ!!

 イエッサー!!



「そ、そんな大した程じゃありませんって! こういうのは後々話が大げさに大きくなるものだからね。それに、それほどの美人であれば、正体も今頃判っていても可笑しくないんじゃないかな!」

「うーん、それもそうですよねぇ。それほどの美人だったら、絶対有名人になってるはずですもんねぇ。先輩、そういう女生徒は居ないんですよね?」

「ええ、そう。そうです! そのとおり! 今だ正体が分かっていないのがその証拠! だから、この話はもう……。別の話をしましょう! んねっ!」


 無理矢理な感は否めないが、早い所話題を変えたくて私はみこと君にそう促す。 

 するとみこと君は、さっきのように、ポンと手を打ってこう言った。


「そうそう、そう言えば! 三年で名物のバカップルがいるって聞いたんですけど先輩分かります?」

「へ?」


 バカップル? そんな人たち居ましたっけ?

 名物になるくらいなんだから相当なんだろうなぁ……。

 誰だろ?


「さっきも言った近所のお兄さんが、そんな事を言ってたもんで……。何か、一見の価値あり! って言ってたんですよね」

「そんなに?」

「名物バカップルって……何がだ?」

「うーん、何か凄いラブラブって話。毎日彼女がお弁当作ってくるんだけど、それが重箱でだってさ。それだけでも凄いのは勿論なんだけど、その周りに居る人達も何か凄いんだって」


 お弁当? 重箱? あれ?

 それに、周りに居る人たち?


「お嬢様とか執事とか、あと物凄いイケメンの人とか……」

「………」


 ……あれ?


「あと、前の生徒会長が物凄くその彼女にご執心でね、毎日のように言い寄ってたらしいよ。あっ、その生徒会長ってのもイケメンだったって」

「………」


 ……あれあれ?


「この学校、お嬢様と執事がいるのか?」

「ほら、朝礼の時、一人だけ優雅に座ってた人いただろ? その隣で立ってた金髪の外人って執事だよあれ」

「わり、おれ校長の頭ばっか見てて分かんね」

「まぁ、あれは強烈だもんな。鳥まで乗ってるし。そっちばかり気がいって、お嬢様と執事の存在には割と気付かない人が多いかもな」

「………」


 それって乙女ちゃんと吏緒お兄ちゃんだよね?

 って事は、あれあれ?


「それでさ、そのカップルなんだけど、その組み合わせも変わっててさ。彼氏の方は物凄く派手な格好で前髪が金髪の両サイドは赤って言うロックな外見でさ。ピアスとかアクセサリもジャラジャラつけてて、でもやっぱりその人もイケメンなんだって」

「………」


 そ、それって呉羽?


「それで彼女の方は、物凄くじみーで普通の人なんだそうだよ」


 私はその言葉に完全に固まってしまった。


 そ、それって……。


「地味で普通って言えば、先輩も見た目地味で普通じゃね?」


 私はぎくりと身体を震わせる。

 元気君が、私をまじまじと見下ろしていた。


「ちょっ、元気!? 面と向かってそれは失礼なんじゃ……」


 みこと君が、私をチラチラと見ながら元気君に注意する。


 いえいえ、地味に普通は私にとって最大の賛辞ですぞ!


 しかしながら、私は何の反応も返せないでいた。

 本来ならば礼を言うべき所。けれどここで認めると、私がその噂のバカップルに非常に近い存在となってしまう……。


 いや、それよりも、今日はお弁当もって来て無くてよかったです。

 何か昨日言われた先生の言葉がショックで、ずっとボーっとしてましたからねぇ……。

 不幸中の幸いという事でしょうか。

 と言うか、私達バカップルですか!?

 いや、時々自分でもそう思う時はあったけどね? でも、そんな噂になるほどって……。

 は、恥ずかしーですぅ!

 でもそんな恥ずかしがってる場合じゃない! 何とか誤魔化さなくては!


 グッと心の中で拳を握っていると、またもや元気君は言った。


「でも、運動神経は凄いよな。何たっておれより足が速いもんな! 地味だけどそっちはすげーよ!」


 ハッ! そうです! その通りですよ! だから、そのバカップルじゃありませんよ!


 私はウンウンと頷こうとした時、みこと君が元気君の言った地味と言う言葉を私が気にしているとか思ったのか、気を使ってこんな事を言い出した。


「そ、そんな事より、そのカップルなんですけど。確か名前が、彼氏の方が如月呉羽で、彼女が一ノ瀬ミカって言うんですよ! 先輩、分かりますか!?」


 私はアガッと口を開けて動けなくなってしまった。

 おまけに、元気君が追い討ちをかけるようにポンと手を打って私を見やる。


「そうだ! 名前って言えばおれ、先輩の名前まだ知らなかった!」

「はぁ!? ちょっとそこは普通最初に聞くべき事じゃないの!? って言うか、知らないでこんなに親しく話してたのかよ!」


 バシッと背丈の差の為か元気君の腰の辺りをど突くみこと君。見事な突っ込みである。

 元気君は「うおっ!」と叫び声を上げ、前につんのめる。

 大して強く叩いていなさそうだったけど、この大きな元気君をよろけさせるほどの力が入っていたようだ。

 小さくか弱い容姿見合わず、以外にもみこと君は力が強いのかもしれないなと何となく思ってしまう。


 と言うか、こんな事を考えている場合じゃありません!

 この状況はちょっとヤバイのでは!?


 このままだと私は、彼らに自分が今話題に上った一ノ瀬ミカですと名乗らねばならない。



 隊長ー! このままでは、噂の張本人だとばれてしまいます!

 ううぬっ! 少しばかり気が引けるが、ここはあの人物の力を借りようではないか!!

 ハッ! あの人物! あの人物でありますか!?

 イエッサー!!



 私は意を決して顔を上げる。

 ど突き漫才のような遣り取りをしていた後輩2人も、私から名前を聞こうと此方に注目していた。

 私はコホンと一つ咳をすると、少しばかり緊張した面持ちでこう答える。


「私の名前は、斉藤陽子です!」


 そう、あの人物と言うのは、何を隠そう、私の尊敬すべき師匠で、普通の中の普通、Qyeen of 普通こと斉藤陽子さんである。


 師匠! 名前を勝手に使ってすみません!

 緊 急 事 態 なんです!! 大目に見ておくんなまし!


 私はドキドキとしながら、元気君とみこと君を見やる。

 2人は別段怪しがる様子も無く、素直に納得して頷いていた。


「斉藤先輩ですか。分かりました。改めて宜しくお願いします」

「ふぅん。なんか思いっきし普通な名前だよな……あだっ!」

「こら! んなこと言うなよ! 失礼だろ!」


 またもや思いっきり元気君をど突くみこと君。


 ほぅっ……よかったです。二人とも信じてます。


「元気の奴がすみません」

「いや、別にみこと君が謝る事じゃないし、私は全然気にしていないから」


 すまなそうな顔をするみこと君に、私はそう答える。

 最初疑わしそうに私の顔を覗き込むみこと君だったが、私は本当に気にしていないし、寧ろ普通と言われるのは喜ばしい事だったし、本来この名前はQyeenのものだったしで平然としていたので信じてくれたようである。


「それで先輩。如何なんです? そのカップルの事……」


 何か知らないかと此方を窺うみこと君。

 私はギクッと体を強張らせ、でもここは頷いておく。


 否定よりも肯定的な方が、不自然ではないでしょうからね。

 と言う訳で……。


「はい、知ってますよ、その二人の事は。ゆ、有名ですよね~」


 あははーと笑いながら私はそう言った。


 ハァ……有名……。

 自分で言っといてなんですが、とても不本意であります……。


 と、その時である。

 私のとあるセンサーがキュピーンと反応した。と言うか、目にも鮮やかなのですぐに目に入った。

 私の前方に、他の路地から入ってくる、とても見覚えある金髪サイド赤。

 そう、呉羽である。


 呉羽は此方の路地に入ってくる際、私の存在に気付いたのか、私とばっちり目があった。

 ドキンと胸が高鳴り、嬉しい気持ちで一杯になる。


 おおぅ、呉羽ー。呉羽だよー。

 大きく手をふって今直ぐ駆けて行きたいよー。


 でも駄目であります!


 吏緒お兄ちゃんの監視がー。

 それとみこと君達の目がー。


 私が一ノ瀬ミカだとバレてしまふ!


「あっ! あれってもしかして、今言ってた噂のカップルの彼氏の方じゃ……」

「お? なんか派手だな……つーか、なんかこっち見てねぇ?」

「そう?」


 呉羽は私の事をじっと見ていたけど、何故か一瞬辛そうな顔をしたかと思うと、ふいと前を向いて早足に歩いて行ってしまう。


 あう? 何でそんな顔を?

 まぁ、今は知らん振りしてもらった方が助かるけど……でもそんな顔をされると物凄く寂しくなっちゃうよ?


 キュウッと胸が痛くなって、しゅんと落ち込んでしまう私。


「先輩、ねぇそうですよね? あの人が如月呉羽って人ですよね?」

「え? あ、ああ……そうだね……」

「やっぱり! 噂どおりの人ですね!」

「ん? でも、なんか先輩落ち込んでないか?」

「へっ!? そ、そんなこと無いよ? ぜ、全然大丈夫」


 ブンブンと首を振る私に、みこと君は「そうですか?」と若干気にしながらも頷いてくれた。



 そんなこんなで、一番の山場は脱したかに見えた。

 しかし、山を越えたと思ったら、また新たな山の出現に、私は慌てふためく。


「あ、外人だ……」


 元気君がポツリと言った。


「あ、あれって噂の執事!」


 そう、そこにいたのは金髪執事。

 ある時はスナイパー渋沢。

 ある時は暗黒執事リオデストロイ。

 その実体は、乙女ちゃんの専属執事の杜若吏緒その人である。


 吏緒お兄ちゃんは、誰かを待つようにひっそりと道の端に佇んでいた。

 しかしながら、例え控えめに立ってたとしても、その容姿から彼は目立ちまくって仕方が無い。

 私はハッとなる。

 彼がいるという事は、彼が仕える主人の乙女ちゃんもいるという事になる筈だ。

 という事は、


『お姉さま~、ご機嫌麗しゅう~』


 とか言って駆け寄ってきそうである。


 アカンアカン!

 そんな事になったら、折角誤魔化したのに、私が一ノ瀬ミカだとばれてしまふ!


 そんな事を考えている内に、吏緒お兄ちゃんが私の存在に気付いた。

 途端に、パァッと笑顔になって、『ミカお嬢様』と口が動くのが見えた。


 あうっ、どうしましょう!

 まだ、声が聞こえるほど近くじゃないからいいけど……。

 不味い……この状況、不味いですよ!!


「あれ? 執事の人こっち見てない?」

「ん? そーか?」

「………」


 私は歩調を弱め、二人の後ろから吏緒お兄ちゃんに向かって、ブンブンと首を振り、手を交差して、言外にダメだという事を知らせる。

 それを見て、訝しげな顔をするお兄ちゃん。

 けれど、流石は吏緒お兄ちゃんである。

 そこから私の願いを汲み取ったのか、それ以上は此方に注意を向けるような事は無く、一先ずホッとする私。

 そして、どうやら乙女ちゃんも居ないようで、更にホッと胸を撫で下ろす次第である。


 あれ? だとしたらお兄ちゃんは何でここに?


 私の疑問を余所に、理緒お兄ちゃんはその場を動かず、私達とすれ違う。

 後輩二人は、興味津々でお兄ちゃんの事を見ているけど、私はチラリと其方に目を向けるだけ。

 何事も無くその場をやり過ごす事に成功した。


 しかしながら、また新たなる山がそびえ立っている事に、この時の私は気付く事も出来なかったのである。




 いやぁ何とか無事更新できました。

 私自身ちょっとスランプ気味なんですけどね。

 中々筆が進まんのです……。

 気分的に沈み込む事が続けざまにありまして……。


 まぁ、何はともあれ十二話目です。

 後輩達に偽りの名前を伝えてしまったミカですが、はてさてどうなる事やら。

 いつばれるんでしょうかね。私にもまだ分かりません。

 次回は呉羽目線から始まるかな。

 二人のすれ違いはいつ修復を見せるのでしょうか。

 早くバカップルに戻って砂はきっぷりを再開させたいところですが、他のキャラとも絡ませたい所。

 あーでもないこーでもないと悩みまくっております。


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