第一話:恋は戦争
どうも、ろーりんぐです。
とうとう続編を書いてしまいました。
今まで番外編や特別編やらは書いていたのですけど……。
ピンクのフリフリ、リボンにお花。そんなメルヘンな中で、私はハートのクッションの置かれたソファーに座っている。
その手には、可愛らしいブーケを持って、ぼんやりとそこから街行く人々の姿を眺めていた。
時折、此方に向かって携帯を構える人や、ボーと惚けたように私を見ている人がいたりなんかして……。
けれども私は、そんなものは気にならず、ただ外を眺め続けていた。
はい皆さん、初めましての人もそうでない人も。どうも私、一ノ瀬ミカです。
この度私、めでたく高三に進級となりまして、気持ちも新たにと言いたい所でありますが、最初の三ヶ月という期限付きでのこのバイトも、はや半年以上も経ってしまいました。もう時期一年になってしまうやもしれませんね……。
え? 何のアルバイトかですって?
フッ、初めての人にはお教え致しましょう。
このアルバイトでありますが、ある日私の姉によって頼まれたものであります。
それは、姉の店のショーウィンドウでマネキンをしてくれないかという、非常に普通とはかけ離れたものでありました。
私、一ノ瀬ミカは普通が大好き。
普通であるために、日頃から努力を惜しまぬ程でありますが、私のバイブル的存在である小説、「オヤジ達の沈黙シリーズ」を買うお金を稼ぐために、血の涙を流しながら姉の頼みをきいたのであります。
何より姉の店というのが曲者で、何とロリータのお店なんですことよ、皆さん!
まぁ、そんこんなでバイトをしていた私、大嫌いなイケメンに一目惚れされたり、気に入られたり、時に求婚されたりと色々と紆余曲折がありまして、今では如月呉羽というステキングな彼氏も出来て、とても幸せな毎日を過ごしております。
今こうしてバイトに勤しんでいるのも、全て彼とのデート資金を稼ぐため。あ、別に呉羽に甲斐性が無いという訳ではありませんよ。
彼もちゃんとバイトしてますからね。それも自分のお父上のお店です。呉羽はお父上が嫌いなんですよ。
それなのに、私の為に頭を下げてバイトをさせてもらってるんです。
はうっ、私愛されてます……。
でもでも、頼るばっかりの彼女にはなりたくないですもん! 時に頼り頼られる、そんなカップルに私はなりたいんです!
だから私も、目立つの嫌ですけど頑張ってバイトしますよ!
いつもであれば、このショーウィンドウ内にいる間は現実逃避に「オヤジ達の沈黙」を読んでいるん ですけど、今日は何だかそちらには集中出来ません。
何故なら、今日呉羽がお店の前を通るかもしれないからです。
「お袋の仕事の手伝いでさ、近くに行くかもしれないから、様子見に行ってやるよ」
そんな事を言っていた呉羽。正直恥ずかしくて、嫌ですと拒んだのだけれど、それでも予定外の時間に会えるというのは少なからず嬉しい事。
私は彼を、今か今かと待っていたのだった。
はうっ、どうしたんでしょうか? 呉羽が来ません。
いつまで待っても呉羽は来なかった。
拒んだから遠慮して来ないんでしょうか……。
そんな事を思っていると、私の傍らに置いてある携帯が鳴った。
いつもは電源をオフにしているんですけど、今日は特別に姉にO.Kを貰っています。
「えぇー!? 呉羽君が来る? いやーん、ショーウィンドウ越しに愛を語らうなんてメルヘン!」
なんて言ってキャイキャイはしゃいでいた。
お陰で私の携帯は、姉によりロリータ仕様に改造されてしまった訳で……。
何と言うか、とにかくゴテゴテきらきら。
極め付けはゴッチャリと付けられた可愛い系のストラップの数々……。
「大丈夫よ! すぐに取り外せるようになってるから!」
と姉は言っていたが、これを使わなくてはいけないという、私の心のストレスはそう簡単には取り外しなど出来ないのだ!
おっと、こんな事を考えている場合じゃなかった。
私は鳴り続ける携帯を開き、画面に出ている名前に心を弾ませる。
ピッと通話ボタンを押すと、
「もしもし、呉羽ですか!?」
自然と声が明るくなる。
もし私に犬の尻尾が付いていたら、間違いなくブンブンと振れていた事だろう。
すると、低く聞き慣れた彼の声が私の耳に届いた。
『ああ、ミカ?』
うわーい、呉羽の声だー♪
「はい! どうしたんですか? 呉羽、見に来るって言ってたのに……」
『フッ、何だよ。あんなに嫌がってたくせに』
「そうですけど……でもでも、やっぱりどんな時でも会いたいですもん。クラス別々になっちゃって、凄く淋しいんですよ……」
そうなのだ。三年になって、クラス替えの貼り紙を見て、私はその瞬間奈落に突き落とされた。
呉羽も、私のお友達の乙女ちゃんも、最近その彼氏になった日向君も、別のクラスとなってしまったのだ。
『ああ、そうだよな……でもそれって……』
「あうっ! 皆まで言わずとも分かりますよぅ。全部私が悪いんです!」
そう、これは私の責任……。
え? クラス替えなんて生徒個人の意志でどうこうできるものでもないだろうって?
ところがどっこい、聞いておくんなましや奥さま! 私ってば、特進クラスに入ってしまいましてのことよ!
なんてこったい、うっかりテストでいい点とってしまったが為に……。
そんないい大学なんて行くつもりは無かったのに……。
あの時風邪さえひいていなければ……。
「ううっ、熱でうまく頭が働かなかったばっかりに……うっかり全問解いてしまって……気付いた時にはもう遅く、慌てて最後のあがきで間違ってみたんだけど、一問しか間違えられなくてうっかり学年一位になんぞなってしまい……」
『いや、なんかそれ変じゃね?』
「あうっ、ごめんね呉羽。バッチリの体調であれば、楽勝で平均点採れてたのに」
『……あの、だからさ、ミカのその台詞ちょっと違くね? 普通逆じゃあ……』
「えぇ!? でも大変なんですよ、平均点採るの! 前もって全生徒の学力をリサーチして、平均点は多分これ位だろうと把握した上でテストに望み、一応全問埋めてみましたけどいくつかは間違っていました的な感じで、しかも間違え方にも色々とバリエーションがありまして──……」
『……そっか、それは大変だな……』
おおうっ、分かってくれましたか! なんか言葉に気持ちが籠もってないように思わなくもないですが、とにかく分かってくれて嬉しいであります!
『あー、それでだな。今日ちょっとそっちには行けなくなって……』
「何ですと!? 何か不足の事態でも!?」
『うん、まー……お袋の担当してる雑誌の専属モデルがなんつーか我儘でさ……ちょっと撮影に手間取ってて……』
「モデルさんがですか? それは大変そうですね」
彼のお母上は出版会社に勤めていて、以前そこのロリータ専門の雑誌にモデルとして出た事がある。
実を言うと、その写真を撮った日に、呉羽と初チューをしました! いやーん、嬉し恥ずかしな記念日ですぅ!
思い出して、体をくねらせてしまった私。
ハッ、やばい! 見られてた!
私の目の前には、薄ら笑いを浮かべつつ生温かい視線を送ってくる通行人が……。
私は慌てて気を引き締めた。
『じゃあ、そういう事だから悪い──』
『あー、こんな所に居たの呉羽! 私、もー待ちくたびれちゃったぁ』
『うおっ!? ちょっ、今はっ!』
「………」
やけに甘ったるく鼻に掛かった声が聞こえてきた。
もしかして、この声の主が今呉羽が言っていたモデルなんだろうか。
『この私を待たせるなんて、なんて身のほど知らずって言いたいところだけど、呉羽だったら許しちゃう。だってあなたは私の恋人――』
『わー!! 言うな! 今それ言うな──』
「………」
プチッ。
私は無言で携帯を切った。
フー溜息をついて外を見やる。
人々は行き交い、車やバスが道路を通り過ぎていった。
その時、私の頭の中では、爆撃と空襲警報が鳴り響いていた。
敵が、敵が攻めてきたぞっ!! ゲリラだ!! 敵襲だ!!
隊長! 隊長戻ってきてください!
我々には、これを止める手立てはありません!! 隊長ー!!
「アレ? ミカちゃんどうしたの?」
「あは☆ まだ休憩じゃないぞ?」
「ゲリラです!」
『は?』
姉と従業員である杏ちゃんが、此方を真ん丸い目で見ている。
「呉羽に敵がっ、空襲でっ、隊長が居なくてどうしたらっ!!」
頭の中がゴチャゴチャで、何を言っているのか支離滅裂であった。
そして、私のパニックが伝染した姉は、あわわわと慌てふためいている。
「ミミミミカちゃん! と、とにかく落ち着いて! お姉ちゃんにも解るように喋って!」
「うわー、何か前にもこんなシーンがあったかも。なっつかしぃ」
「ふーん、そっか……同志に謎の女の影ねぇ……」
「謎というか、恐らく呉羽が言っていた我儘なモデルさんだと思います……」
ここは控え室。
グスッと鼻を啜る私の前には、杏ちゃんの格好の天塚杏也さんが居る。
彼、杏也さんは何を隠そう、鬼畜おかま変態な、しかも姉の彼氏という、将来私の義理の兄最有力候補な人間なのだ。因みに、ロリータを脱いだ彼は、甘いマスクの遊び人風のイケメンである。もひとつおまけに泣き顔フェチである。
姉はと言うと、私と一緒になってパニックになると、話が聞きだせないからと一人お店の方に居ます。
「でもさ、同志の恋人とかって言ったんだろ? その電話の女はさ……」
杏也さんの言葉に、胸がズキンと痛んだ。
チラッと携帯に目をやると、今は電源がオフになっている。
先程一度、携帯が鳴りましたけど、呉羽からだと確認した私は、姉たちの前で「えい!」と言って電源を切ったのでした。
目がジワリと熱くなる。ポタリと雫が落ちた。
「電話の人が恋人って事は、私はもう呉羽の恋人じゃないんですか? く、呉羽と別れなくちゃいけないんですか?」
ギュッと手を握り締める。
そんなの嫌です! この先もずっと、呉羽の恋人でいたいです!
「ミカはさ、どう思ってる訳? やっぱり同志が浮気とかしてると思ってる?」
「そんなっ! そんなの……呉羽が浮気なんかする筈ありません!」
純情少年の呉羽ですよ!? 真面目人間の呉羽ですよ!? 優しくてお母上や弟君想いなあの呉羽ですよ!?
「ハッ、でも呉羽は優しいので私に中々言えないのかも……」
途端に不安な気持ちに苛まれる私に、杏也さんはハァと溜息をついた。
「全く……信じてんだか、そうでないんだか……」
「ううっ……」
「あのさぁ、俺が思うにそれはないと思うぜ?」
「何でですか?」
私が首を傾げると、杏也さんはニッと笑って此方に顔を近付けてくる。
「同志はミカにベタ惚れだぜ? 恐らくこの先、生涯を捧げる覚悟も出来てる位にはさ……。そんな男が、例え一時の気の迷いであれ、別の女と出来たんだとしても、必ずミカの所に戻ってくるとみた」
私は暫し、彼の顔をじっと見た。
前半部分は感動さえ覚えるものであったが、後半部分は……後半部分は……。
目の前で杏也さんが意地悪く笑っている。
「うわーん、それ何のフォローにもなってませーん!!」
すると、扉がいきなり開いたかと思うと、
「ちょっと杏也君! 何でミカちゃん泣いてるの!?」
姉が控え室に入ってきた。そして、わんわんと泣いている私をギュッと抱き締め杏也さんから遠ざける。
「あれ? マリ、お店は?」
「もー、ミカちゃん泣いてるのにそんな場合じゃないわ! お店は今日はもう閉めました! それで何があったの?」
そうして杏也さんから話を聞いた姉は、励ますように私を抱き締める力を強め、
「大丈夫よミカちゃん! 呉羽君は浮気なんかしないわ!」
「本当?」
グスッと涙目で姉をじっと見上げると、何故か姉は頬を染め、キャーンと変な声を上げたかと思うと、思い切り頬摺りしてきた。
「んもー、当然じゃない! こんなラブリィかつプリティなミカちゃんを前にしたら、他の女なんて目に入る筈無いじゃない! もう、らぁぶ! 堪んない! そんな顔されたらお姉ちゃん堪んないから!」
むちゅーと頬っぺたにキスをされた。
非常に寒気を覚えたので、私は拳を前に突き出した。拳は見事姉の鳩尾へとめり込み、姉はその場に崩れ落ちた。
「あららら。マリ、大丈夫?」
杏也さんは困ったように笑いながら姉を助け起こす。
そして、真っ白になった姉を椅子に座らせた。
「もういいです! こうなったら勇気を振り絞って呉羽に訊いてみます!」
そう言って、携帯のボタンを押そうとした時、杏也さんがそれを阻んだ。
「まぁ待ってって、ミカに良い事教えてやるよ」
「良い事?」
私は胡散臭げに彼を見上げる。
なんか杏也さんが、お伽話に出てくる主人公に甘い言葉を言って悪の道に誘い込もうとする悪い魔法使いに見えてくる。
しかし、
「うまくすれば同志はミカをもっと好きになること間違いなしだ」
「っ!! 本当ですか!?」
私はその甘い言葉にすぐ様飛び付いた。
呉羽がもっと私を好きになる!? そんな素敵魔法がありますのかな!?
ああ、どうやら私は悪の道に染まってしまいそうです。
こうして私は、杏也さんの言葉を真剣な顔で聞く事に。
「恋っていうのは駆け引きなんだぜ?」
「はい? か、駆け引きですか?」
「そう、駆け引き……」
何だそれはと思っていると、杏也さんはニッコリと笑う。
「同志を引き止めておきたいのなら、そういう事も覚えておかないとな。時には引いて、時には押す」
「引いて、押す、ですか?」
「ああ、甘いだけなんて飽きちゃうだろ? スパイスも利かせなくちゃな」
「甘く、スパイスも、ですか?」
料理を得意とする私にもちょいと難解な言葉。
しかし、杏也さんの次の言葉に、ドンピッシャーン!と私の中で衝撃が走った。
「どちらが主導権を握るか、ある意味戦争なんだぜ? 恋愛ってのは」
「っ!!」
せ、戦争でありますかー!!
その時、私の中でファンファーレが流れだす。そして、ずっと不在であったあの人が現れたのだ。
戦争と言われれば、私が出ない訳には行くまい!
おおー! 隊長ー!!
隊長が戻ってきたぞー!!
さぁ、反撃開始だお前達!!
イィーエッサァー!!
こうして私の中で隊長は復活した。
私自身も闘志をメラメラと燃やす。
なのでその時、杏也さんがボソリと、
「同志には悪いけど、より面白くなるようにしといたぜ……」
こんな独り言を言っている事には気付かなかったのでありました。
うおー!! 隊長ばんざーい!!
隊長お帰りなさい!!
ハッハッハッ、止めないかお前達!
ばんざーい、ばんざーい!!(胴上げ)
と言うわけで、隊長復活しました。
前作同様、行き当たりばったりになるかもしれません。
新しい登場人物も次回から続々出して行けたらなぁと思っております。
予定では、同じクラスのがり勉君や、先生、後輩、モデルさんなんかが主でしょうか……。
お馴染みのキャラも勿論活躍する予定です。
では、ご意見ご感想がありましたら、随時受け付けます。




