電車ガタゴト
いつの間にか、すっかり日が昇っている。
時刻は午前10時、モートとレッカは電車に乗っている。
モルドはレッカのカバンに入って抱えられていた。
息苦しくならないようにチャックは開けているが、カバンにすっぽりと入っており、窓から流れる景色を見ることは叶わない。
だが、ガタン、ゴトンという揺れが足を通して伝わってくる。
普段電車に乗ることなど無いから、揺れを感じるだけでも胸が踊る。
些細なことであれども、新鮮な体験はワクワクをもたらしてくれるのだ。
さて、ここらでプログシティについて話すとしよう。
人口は約300万人、広さは約1300平方キロメートル。
1000年もの歴史を誇る都市である。
住みやすく災害などが殆どないが、治安が悪く、貧困が激しい。
この2つの問題は都市が生まれてからずっと続いてきた問題であり、今も未だ解決されていない。
また、他の都市からのアクセスが非常に悪いということでも有名だ。
周りには岩だらけの荒野が広がっており、他の都市からの距離は200キロほど。その間には道路が一本通っているだけで、電車などもない。
その交通の便の悪さは、陸の孤島、と揶揄される程である。
そんなプログシティは25の地区から出来ている。
最初は13だった地区が、分裂したり新しく開拓されたりして、今のようになったと言われている。
ヒーロー協会の基地は、基本的に1地区につき一つ配置されている。
そんな中で、レッカ達が住むのは第18地区だ。
1区から分裂してできた地区の一つであり、他の地区と比べて治安もそこそこ良い。(犯罪が少ないということではないが)
そして今向かっているのは21地区。
治安は良いが貧富差が激しく、場所によっては道路の整備もまともにされていない。
住人の数はかなり多く、約40万人もの人が住んでいる。
さて、そんな21地区に向かうのには車を使うという手もあった。
基地には専用のマイクロバスなどもあるのだが、今回はあまりそういった物も使えない。今回の任務上、もしマイクロバスが調べられ、協会が調査に乗り出していると相手に知られる訳にはいかないのだ。
そして、この理由が一番大きな問題となるのだが…誰も運転ができない。
体格が論外なモルドはもちろん、ギリギリ年齢的には免許を取ることはできるが、ハンシも記憶喪失なので無理。
残ったレッカはというと、運転免許試験に5回連続で落ちるほど運転が下手だ。免許はもちろん持っていない。
因みにこの話を聞いたハンシは張り切って運転免許を取る方法を調べていた。
そして今日、誰も免許を持っていないということで留守番のハンシを置いて二人で電車に揺られる事となったのだ。
だが、モルドはその体質から、あまり人目につきたくない。
だからとりあえずカバンに隠れている、という訳だ。
ガタン、ゴトン。
電車が走る。通勤ラッシュはもう終わっていて、人は多くない。
その内、目的地の近くの駅へ到着した。
到着のアナウンスが流れた。
レッカはモルドを呼ぶ。
「おい、もう着くぞ。外出てこい。」
「…」
返事はない。
「おい」
また呼ぶが、返事はない。
仕方なく鞄の中身を覗き見ると、すやすやとモルドは眠っていた。
気持ちよさそうな寝顔をしている。
「……ったく、夜更かしするからだぞ。」
目的地の近くで起こせば良いか。
そう考え、カバンを閉め、電車を降りた。
ちょっと短めです
次から頑張ります(フラグ)