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仲間とは良いものだ、特に自分に料理ができない時は。

病院から出たモルドは人通りの多すぎない道を選び、ヒーロー基地へと戻る。

レッカとモルド、彼ら二人はヒーローである。


職業、ヒーロー。

警察などに対応が難しい事件やヴィランなどの対処、捜査、その他色々。

『変身』という特殊能力を持った人員が集まる組織である。


日夜人々を助け、悪しきをくじく、それがヒーロー。

そんな職業で子供たちの将来の夢ランキングでも上位ではあるのだが、あまり人はいない。


まず、誰でもなれる訳でない。

人口が数百万人以上が住むこの都市でも百数十人程しかいない。

また、変身能力を持つ者が必ずヒーローになるというわけでもない。

普通の人として過ごしたり、場合によってはヴィランになっていたりもする。

そして、たとえヒーローであったとしても事故にあったり、ヴィランに殺されたり、かなり危険な仕事である。その分収入はウマい。


ヴィラン。ヒーローの敵、と説明するのは少々乱暴がすぎるが、この変身能力やその他の能力などを悪用し、悪事を働く犯罪者のことを指す。

ヒーロー達は日夜彼らの対応に追われている。

十年前この都市、プログシティがヴィランによって壊滅状態になった時は、ヒーロー協会のヒーローも十数人ほどまで減ってしまったそうだ。

かなり凄惨な時期を経てプログシティは復興し、治安も元に戻りつつある。


レッカとモルドの先輩にあたるヒーロー二人は1年前、大怪我をしてヒーローを引退した。今では自分達の基地である18号基地には二人だけだ。





そしてモルドは悩んでいた。とてもとても、という訳では無いが悩んでいた。

自分は料理ができない。自分と同じぐらいの大きさのフライパンを使うのは腕力のない彼にとって厳しいものである。

一度作ったのだが、美味しくなかった。言い換えれば不味いとも言う。


だが外食は、その見た目故に人の目を集めることが多いモルドが苦手とするものだ。もう慣れているが、この小さい体を物珍しく見る視線は好きではない。

だから彼はヒーロー活動以外で外に出ることはあまりない。つまり外食もナシだ。


料理は普段はレッカが作ってくれていたが、今はいない。

基地の冷凍庫に冷凍食品などが入っていれば良いのだが。

レッカがだいたい作ってくれるので、冷凍食品は入っていないはずだ。

こうなることを考えて少しでも買っておくべきだったかもしれない…


「適当に果物でも食べるか、非常食…は流石に駄目かぁ。」


影が少しずつ長くなる。黒い羽は光を吸い込み、その姿は影絵のようである。

考えていると、ヴヴッとカバンが震えた。

カバンから端末を取り出し、操作する。


眼の前に画面が現れ、狐の獣人が映る。

少し年を食ったような印象を感じさせる風貌をしている。

黄金色というほどではないが、小綺麗に整えた毛並みとスーツに何故かマントと片眼鏡、変わった雰囲気を醸し出す。


『やあやあモルド君、元気かい?私は元気だよ。』


「はい、元気ですよ。」


『それは良かった。健康は君たちにとってとても大事だ。会長たる私も健康を意識しようとは思ってはいるのだがね。ところで、レッカ君はどうだい?』


「ピンピンしてますよ。」

『そうか、大した怪我はないようだね。ところで、だ。』

少しヨレっとしたスーツを着た狐の獣人は話を切り出す。


『今、時間は空いているかな?』





「失礼しまーす」


薄暗くなってきた空の下、ヒーロー協会本部のビルに足を踏み入れたモルドは受付のお姉さんに挨拶する。

そう何度も来たことがある場所ではないが、このお姉さん以外が働いているところを見たことがない。暇な業務ではないはずだが。


「あら、こんにちは。今日はどのようなご要件で?」


「会長に呼ばれて来ました。」


「えーっとね、会長室…これだ! はい鍵、落とさないでくださいね。」


「ありがとうございます。」



エレベーターに乗って上へのボタンを押す。

当然手は届かないのでリュックサックから出てきたアームに任せる。

便利なものだ。

エレベーターの扉が閉まる。

もう夜の始まりということもあり、人はいない。

しんとした静寂、ではない。エレベーターの駆動音がかすかに聞こえる。

だが、それ以外の音は無い。

浮遊感を感じているこのときはまるで異界に迷い込んだかのようだ。

そんな事を考えながら、壁に貼ってある体操教室のポスターを眺めていると、

ポーン、と音がして扉が開いた。


一度だけ来たことがある廊下だ。

ヒーローに認定されたときに本部まで来たことを思い出す。

廊下の奥に『会長室』とプレートが貼り付けられたドアがある。

そのドアノブを回し、静かにドアを開けた。



「やあ、よく来てくれたね、待っていたよ。さあさ、座りたまえ。」


失礼するよ、そう言ってヒーロー協会の会長、ギブ会長はモルドを持ち上げ、ソファに座らせた。

部屋の中を見渡す。

大きいデスクに、来客を迎えるためであろう机、自分が座っているソファと向かい側のソファ。

モルドは自分が通っていた学校にあった校長室を思い出す。

よく似ている内装だ。壁に表彰状が飾ってあるところなどもそっくりである。


向かい側のソファにギブ会長は腰を下ろすとコホン、と咳払いをしてから話し始めた。


「さて、世間話の一つや二つしたいところだが、もう遅い時間だ。早速本題に入ろう。ここに来てもらった経緯だが、君の相棒、レッカ君が今日の昼、帰還中に事故にあった。」


「はい、そうですね。無事みたいですけど。」


「その事故について、話があってね。おーい、入っておいで。」


すると、入ってきた扉とは違う、おそらく隣の部屋とつながっているであろう扉が開き、兎の少年がすたすたと入ってきた。

TシャツにGパンと、軽い上着を来ており、ラフな印象を受ける。

少年はすたすたとソファまで歩いてくると…



「かわいー!」


「!?」


目を輝かせてモルドを抱きしめた。


「羽がすべすべッスね〜」


もふもふもふもふもふもふ。

唐突にモフられ、モルドは硬直した。


「うえっ?あ、ちょっと」


まだまだモフろうとする少年をギブ会長が止める。


「どうどうどう、待ちたまえ。あまり気軽に他人に触るというのは良いことではないぞ。」


「あ、スイマセン、つい…お兄さんもスイマセン!」


「ふう…大丈夫だよ、それより会長、話の続きは…」


と話を戻す。

結構気持ちよかったが、内緒だ。恥ずかしい。



「ああ、話を戻そう。あの事故は不審な点がいくつかあってね。」


とギブ会長が話を戻す。

「まず、運転手が見当たらなかった、これが1つ目だ。」


「運転手が…?」


「ああ、そうだ。運転席に人が座っていた痕跡が見当たらず、監視カメラでも運転席に人は見当たらなかった。」



一息つくと、話を続ける。外はすっかり暗くなっていた。

「2つ目が、そこの君だ。」


「どうも、ハンシっていいます!」


勢いよく少年が名乗る。

「いい返事だね、そう、ハンシ君だ。後部座席に置いてあったトランクケースの中から彼が発見されたんだ。」


「誘拐ってことですか?」


「そうかもしれない、そうじゃないかもしれない。分からない。現状、彼の身元を確認できていない。さらに…」


「…記憶がない…ッスね。」


「…そうだ、ハンシ君が…記憶喪失という状況がまた厄介だ。」


ハンシは少し気まずそうに目を泳がせる。白い顔の赤い目が左、右、左。



「コホン、それで君に頼みがあるんだ、モート君。」


「預かってほしい…ですか?」


なんとなく察したことを聞くと、ギブ会長は安心したように顔を崩した。


「そう!そうだ、君達の18号基地で預かってほしい。それで、彼を基地職員として雇おうと思う。いいかな?」


「良いですよ、もちろん。というかそれ俺が決めることじゃないでしょう。」


「まあ、そうだね…それじゃあ、彼を連れて帰ってくれるかな?諸々の手続きはもう済ませてあるから、今日から基地職員として働けるよ。」


「決定ッスか?イエーイ!」


喜んでギブ会長とハイタッチするハンシを横目に見ながら、モルドはあることを思い出し、カバンからあるものを取り出した。


「パイナップルです、どうぞ。」




「喜んでもらえたッスね、良かったじゃないスか。」


「うん、後で桃食べるかい?」


「はい!」


二人は夜の街を歩く。正確には歩いているのは一人だ。

ハンシの頭の上に乗った(乗らされた)モルドは、いつもより高い視界で寛いでいた。


あの後、喜んでくれたギブ会長に別れを告げ、協会本部を出た。

本部をでてビルを見上げると、会長が手を振っているのが見え、少し手を振り返して脇道に入った。

ネオンライトの光があまり届かない道を二人は喋りながら進む。


「そういえば大事なことを聞き忘れてた。料理は得意?」


「…分かんないッス。まあ、やってみましょう!」


「そうか、ありがとう。そうだ、これも食べるかな、ヤシの実。」


「それ、お土産にしないほうがいいのでは…?ジュースにして飲もうかな…

そういえば聞きたいことがあったんでした。あの、会長?なんであんな服装を?」


「本人の趣味じゃないかな。前にシルクハットとステッキも持ってるのを見たし、そのうち紅茶を買い出すかも。」


空に浮かぶ月が今日は一際煌々と光っている。太陽の光ということを感じさせないその光は、強くなくとも二人を照らす。


しばらく歩いていた二人は、とある門の前に辿り着いた。

ペンキが剥がれ、錆が所々に浮き出ているその門は、横に付いている鍵穴に鍵を刺して回すとガタッガタッと、そしてぎぃ、と音を立てながら開く。


「手動じゃないんだコレ。防犯意識、二重丸ッスね。」


そして、その向こうにある建物。

外観はやや粗末。お世辞でもデザインを褒めるなら無骨な雰囲気ですね、ということになるであろう。

2、3階ほどのコンクリートで出来た建物がいくつか隣り合っている。そう表現できる。


モルドはハンシの頭の上から飛び降りると、背負ったカバンから星の形をした光が飛び出し、ふわりと彼は浮かぶ。

そしてハンシと向き合い、改めて挨拶をする。


「ということで、ここが18号基地。俺達の家だ。今日からハンシの家でもあるぞ。そして俺はここの基地のヒーロー、【創造のモルド】だ。よろしくな。」


「うおおお、カッケーッ!はいッ、よろしくお願いします!ねえねえそれ、どうなってるんッスか?見せて見せて!」


幼い子供のようにはしゃぐハンシをモルドは苦笑しながら見守る。

ホップ・ステップ・ジャンプ。興奮しすぎて走り出した大はしゃぎはそれで終わり、少し落ち着いたようだ。まだ興奮冷めやらぬといった様子ではあるようだが。


「とりあえず、お腹も空いたし中に入ろうか。」


「ウマいご飯を作ってみせますよ、任せてくださいッ!」


二人は基地の中に入っていき、窓から光が漏れ出した。

やがていい匂いが漂い始め、夜がより深くなる頃、光が消えた。

空の下、月が雲に隠れ夜はより暗闇へと近づく。

夢を見る街を、まだ雲に隠れようとしない星々が見下ろしていた。

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