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記憶の中の美少年



(と、とにかく、真実味のあるレオナルド様が納得する様な出会いのエピソードを……)


シャルロッテは、打ち明けるのが恥ずかしいのだと言わんばかりに、両頬に手を添えて俯きながら、必死に記憶の糸を辿る。


そもそも、レオナルド様とわたくしは年齢が4つほど離れているので、確かに現在接点は無い。

現在どころか今までも接点なんて無い……。


ゲシェンク家の嫡男の方なら流石に何度か面識があるけれど、この貴族社会ではよほど親しく家族ぐるみでの交流がない限り、次男三男はそれほど重要視されないものだ。


でも、レオナルド様を調査した時には、病気がちで領地に引き籠もり、貴族同士の交流が無かったなどの特筆すべき点は無かった。


それならば、幼少期なら同じ派閥である以上、母親に連れられて絶対我が公爵家の子供向けのお茶会やパーティーに参加していたはずよね、顔見せに。


わたくしは公爵家の一人娘として、きっと挨拶を受けてる……。


(そうよ……、幼少期だわ!!

シャルロッテは幼少期に出会った「初恋の君」が忘れられず、ずっと想っていた。

そんな感じで……。


それに幼少期なら多少エピソードを盛ったとしても、レオナルド様だって記憶が曖昧なはずだわ)


つまり、ここで押すべきは幼少期の初恋パターン。


(……いける、いけるわ! 押し切れる気がする……神様、閃きをありがとうございます!)


青年である今でもこの美貌なのだから、少年時代はさぞかし天使のように可愛らしく、注目の的だったと思われる。


(頑張ってシャルロッテ! 記憶の中から思い出すのよ、眩い光を放つ金髪にサファイアブルーの瞳を持つ美少年を……!!)


レオナルド様は御年21歳、つまり10歳くらい幼くした姿を思い浮かべれば、すぐ思い当たるだろう。


(伯爵家伯爵家伯爵家……金髪金髪金髪……)


伯爵家で金髪……あ、そう言えばハモンズの新茶を楽しむ会で、裏庭の池に落ちた金髪の令息がいらしたような……


でも思い出した姿は、特別整ったお顔ではなかった。確かチャレフ伯爵家のご子息だったと記憶が蘇る。


他にも何人か金髪の少年が思い浮かぶが、どれもレオナルド様では無さそうだった。


(どうしましょう……。お願いよ、 出て来て!

伯爵家の金髪美少年!!伯爵家の金髪の美少年、金髪美少年…………あら、もう思い当たる方がいらっしゃらない?


嘘でしょう…………?)


わが公爵家派閥の家門の一つとは言え、ゲシェンク伯爵家はそれほど有力な家門では無いので、幼少期に初恋エピソードがあるほど親しく交流はしていない。

交流してはいないけれど……。


(…………でも誰もが見惚れるような美しい容貌の美少年を、少しも思い出せないなんてあるかしら……?)


公爵家令嬢として、お茶会や誕生会では毎年沢山の挨拶を受けるけれど、幼い頃から家門と家族構成や顔が結びつくよう努力してきた自分が、少しも思い出せない事に唖然とする……。


「……ご令嬢?」


さすがにしびれを切らしたレオナルド様から、声を掛けられてしまった。

時間切れに思わず瞳が潤んでくるが、泣いてる場合ではない。


(絶体絶命だわ……!!)


まさか、このまま黙っている訳にもいかず、仕方がないので何か話しながら引き延ばそうと、思い切って口を開く。


「その……。レオナルド様がまだお小さかった頃のお話で……覚えていらっしゃらないかと思いますが…………」



のろのろと話し始めて、こちらを見つめる不審と不安の混ざったような、それでいて澄んだサファイアブルーの瞳と視線が交差した瞬間_____


(…………あああ、あった! あったわ!!)


わたくしはその瞳にデジャヴを感じて、まるでピカカッと稲光が走ったかのように思い出したのだった。


天使の光輪のように金髪を輝かせ、宝石のようなサファイアブルーの瞳をした麗しき少年の姿を……!


「わたくしの、6歳のお誕生日会!!


お誕生日会で! レオナルド様とお会いしましたわ!!」


何とか記憶を捻り出せた事に興奮し、公爵令嬢としては不本意な大声を上げてしまう。


「コホン……申し訳ございません、お伝えするのが恥ずかしくて……。勇気が必要だったものですから、わたくしったらつい大きな声を……」


気を取り直してレオナルド様の表情を窺うと、その瞳に浮かんでいたあの不審そうな色が少し薄まっているように感じる。


(よ、良かったわ……。取り敢えず出会いの場面を思い出せて……)


何とか危機を脱したのだと体が安堵してしまったらしく、ほんの少しふらついたところに、レオナルド様が手を差し出して支えて下さった。


その紳士的な身のこなしや手付きには馴れ馴れしさも嫌らしさも一切無く、浮き名を流してはいても、その美貌で黙っていても女性があちらから寄ってくる方はレベルが違うのだと妙に感心してしまう。


「いや、こちらこそ不躾な質問を申し訳ありません。しかもこのような場所で長く立ち話など、配慮が足りませんでした……どうぞこちらへ」


そう言ってレオナルド様から近くのガゼボへとエスコートされると、すぐさま少し離れた所で控えていた侍女達が紅茶とお菓子を運んできてくれる。


(教育の行き届いた洗練された侍女達……、伯爵夫人の手腕は噂通りね。幾人かの侍女がレオナルド様のお手付きらしいけれど……さすがにこの場にはそのお相手はいないかしら……)


さり気なく様子を窺いながら、薫り高い紅茶で喉を潤す。


「……ご令嬢、先程は失礼をしました。お疲れではありませんか」


「どうぞお気になさらないで。わたくしこそ、恥ずかしさからレオナルド様を長くお待たせしてしまって……申し訳ありませんでした」


「いいえ。……確かに子供時代に、ご令嬢のお誕生日会にお招き頂いたと記憶しております」


「……レオナルド様も覚えていて下さったのですね。それなら、最初に言って下されば良かったのに……」


( わたくし寿命が三年くらい縮んでしまったわよ、絶対……!)


「すみません、ご令嬢はまだ幼くて、まさかあの日の事を覚えていらっしゃると思っていなかったものですから」


(危なかったわ……、記憶を思い出せた自分を褒めたいくらいよ。適当なことを言ってたら、どうなっていたか……)


先程お会いしてから何一つ想定通りに進まず、翻弄されている事に胸がモヤモヤしてくる。


享楽的で女遊びに明け暮れ散財三昧……そんな放蕩息子なら、こんな甘い蜜を吸いまくれる婚約話、すぐに飛び付いてくれると思っていたのに……。


もしかしたら突然の好条件な婚約申し出に、裏があるのではと警戒なさっているのかもしれない。


「それにお目にかかったのは一度きりでしたし、特別お心に留めて頂くような事は何も無かったかと。

それなのに、何故私などに……?」


流石にしつこくは聞き出し辛いのだろう。でも、どうやらレオナルド様は一目惚れでは納得がいかず、わたくしが恋をしたきっかけをお知りになりたいようだった。


食い付いてこないのは、年下の令嬢に興味が無い可能性もあるけれど……。どっちみちレオナルド様にとって仮初の夫婦になるので、そこは金銀財宝の為に目を瞑って欲しい。


(ここはやっぱり、出会いの記憶を少しばかり盛り付けて初恋仕様にするべきね…。

恋する理由に納得して下されば、すんなり婚約話が纏まるかもしれないもの……!)


「……レオナルド様にとってあの日の事は、些末な出来事だったのかもしれませんわね」


そう言って、わたくしは少し悲しそうに目を伏せると、たった今、思い付いたばかりの「シャルロッテ初恋物語」を語り出したのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] しょっぱなから、ヒロインが話に苦労していますが、ふたりの性格が、会話と行動でだんだんわかってきました。 [一言] どんな展開になるのか楽しみです。 次話も楽しみにお待ちしています。
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