8話 ギルドマスター
1夜明けて昨日の疲れもなくなり、MPも完全回復したので、ギルドにスケルトン販売のために訪れていた。
するといつもの解体屋3人の他にエルフの女性が一緒に解体場にいた。
「おっとフウマちょうどいいところに来たな!」
ライクスが僕が来たことに気づいて声をかけてきた。
「ああ、昨日言ってたスケルトンの販売についての話をしに来たんだ。」
「その件で今、ギルドマスターと話をしていたんだ。
こちらギルドマスターのカエラさんだ」
「カエラだ、君が噂の新人冒険者フウマか?」
「は、はいそうです。
カエラさん、よろしくお願いします。」
ギルドマスターのカエラは長身でスラっとした瘦せ型の体系に長く美しい金髪とエルフ特有の長い耳、目鼻立ちの整った絶世の美女だった。
あまりの美人の登場に思わず敬語になってしまう。
「あらやだこの子緊張してるじゃないのさ。
フウマも男の子だねぇ」
「そう言ってやるなエリン。
カエラさんの美貌は初見だと男なら緊張せずにはいられないからな」
ライクスとエリンが僕をみてにやにやしている。
僕は思わず二人を睨みつける。
「ふふ、そう緊張しないでくれ。
君はみんなから生意気な口調で話す冒険者だと聞いているよ。
私にもみんなと同じ口調で話してくれないか」
カエラにそう言われたこともあり、このままおもちゃにされるのも癪だったため、なんとか平静を取り繕って返事をした。
「あ、ああ。
カエラがそれでいいのならそうさせてもらう。」
「それでいいさ。
じゃあ早速スケルトンの購入について話をさせてもらってもいいかな?
私はライクスから絶対に購入したいと直談判されていてね。
なんでも金貨1枚で永久に労働してくれるスケルトンが買えるとか。
それは本当なの?」
カエラからスケルトン購入についての話を切り出され、購入に乗り気であることが伺えて嬉しくなってくる。
「本当だ。
僕のスケルトンは命令しなければ動かず、命令には忠実だ。
さらに言えば詳細に命令して行動を覚えさせればその通りに動くから単純作業なんかは特に相性がいい。
金額も金貨1枚で構わないよ。」
「スケルトンを販売するということは君の仕事がなくなるということも意味しているんだが、その点も問題ないのかい?」
カエラの指摘はもっともで、普通の冒険者であればスケルトンを独占して、人に売ったりすることなんて考えなかっただろう。
だが、僕は自分だけでスケルトンを活用するよりも広くたくさんの人にこのスケルトンを売って活躍させた方が、金銭的にもスキル的にも自分の得になることを知っていた。
「ああ、元々金が貯まったら装備を整えて討伐系の依頼を受ける予定だったから問題ない。
それにスケルトンを販売することには僕にも大きなメリットがあるんだ。
スケルトンは命令したことを蓄積していって経験が溜まっていく。
それは全てのスケルトンが共有するから、ここで解体を覚えさせたりすれば、僕が召喚するスケルトンも解体できるようになるんだ。
スケルトンが便利になれば便利になるほど僕の成長にも繋がるってことだ。」
「なるほどキミにとっても他の人がスケルトンを使うことはメリットが大きいということか。
いいだろう、ギルドではスケルトンを10体購入しよう。
私の業務の手伝いもできそうだしね。」
即決で10体も購入してくれるという話に内心大喜びで、つい声も弾んでしまう。
「おお!10体も買ってくれるのか!
まいどあり!!」
「じゃあちょっと召喚するから待ってくれ。
既に3体いるから7体召喚するな。」
「スケルトン7体生成!
服従の腕輪10個生成!」
「すごいものだな一瞬のうちにスケルトンをこんなに生成するなんて、キミのMPは相当多いんだろうな」
カエラが褒めてくれたことに気を良くした僕は、流暢に説明を始めた。
「そうだな、僕のステータスはMPに特化してるからな。
ほい、この服従の腕輪を受け取ってくれ。
これはスケルトンに命令できる腕輪だ。
ここにいる10体にしか指示は出せないが、僕が命令しなくてもこの腕輪をしている人なら命令できるようになる。
昨日のスタンピードでレベルアップして覚えたばかりのスキルだ。
一体一体に名前と目印をつけると命令しやすくなると思うぞ」
「確かに受け取った。
では、こちらがスケルトン10体分の料金、大金貨1枚だ。」
約100万円の価値がある大金貨を受け取る。
「ありがとう。
大金貨なんて初めてみたな。」
「スケルトンの名称と目印については後で職員で考えておくよ。
今日はありがとう。
とても有意義な取引だった。」
「こちらこそお買い上げありがとうございました。
それじゃ僕はこの後アリエスのところに行かなきゃいけないからこれで失礼する。」
昨日のアリエスとの約束があったため、これでギルドを出たが僕の頭の中はアイテムを色々買って、合成をしまくろうという考えが頭を占めていた。
合成に使用するために準備をしようと僕は、一旦ゴミ捨て場に行き残っているゴミ全てを収納空間に格納して、マナスライムから魔力回復ポーションを補充。
いつもはゴミ捨て場に置いて行っていたマナスライムも一緒に連れてアリエスの家に向かった。
アリエスの家は煉瓦造りの一軒家で、幸いなことに畑から少し離れていたこともあって無事だった。
「アリエスいるかー」
玄関でアリエスに呼びかける。
「フウマか?
ちょっと待っててくれ。」
「お待たせ、早速昨日言ってたスケルトンを4体貸してくれるのか?」
「ああ、そうだ。
ちょっと待ってな。
服従の腕輪1個生成!」
僕は服従の腕輪を1つ生成し、スケルトン4体を収納領域から取り出した。
「ほい、この腕輪つけてれば、この4体のスケルトンに命令できるようになるから好きに使ってくれ。
もし気に入ったら1体につき金貨1枚で譲るから検討しておいてくれ。」
「ああ助かるよ。
流石にあの穴がぼこぼこ空いた状況を人力でどうにかするのは大変だったからな。」
「その節は本当にすまない。」
「いやいやいいんだ。
スタンピードから助けてもらったし、こうしてスケルトンも貸してくれてるしな。」
「そう言ってもらえると助かるよ。
じゃあ僕はこれで失礼する。」
「ああ、ありがとうな。
またな!」
さて、アリエスにスケルトンをレンタルする用事も終わったことだし、スキルの実験に移るとしよう。
お金も入ったことだしポーション類や装備を購入してもいいだろう。
おっと、あとは新しい宿も探さないとな。
僕はポーション屋に向かう途中にある大通りで中古の装備を販売している露天商から錆びた剣と盾を購入した。
剣や盾の相場は大銀貨8枚以上と言ったところだが、錆びた中古品ってことで二つ合わせて大銀貨4枚で購入出来た。
剣は反りの大きくない刀に近いカットラス。
盾はデザインのない鉄板のようなヒーターシールドだった。
通りの鍛冶屋で研ぎ石を二つ購入してポーション屋に向かう。
「じいさん起きてるかー?」
「んあ?
なんじゃ客か?
この前の坊主じゃないか」
「大金が手に入ったんで魔力回復ポーション以外の全てのポーションを1ℓずつもらえるか?」
「大人買いとは剛気なことじゃの
経験値ポーションも必要なのか?」
「ああ、試しにどんなもんか使ってみようと思ってな」
「あんまり無駄遣いせんようにな。
ほれ、お望みのポーションじゃ。
ビンも一つ銀貨1枚じゃからな」
「問題ない、これからもっと稼ぐ予定だからな」
ポーションを購入した僕はポーション屋のじいさんに、ここら辺で雰囲気の良い宿は無いかを聞き、その宿に向かった。
宿の名前はクルミ亭、宿泊料金に朝飯と夕飯がついている宿で、恰幅の良い女将さんと江戸っ子のように溌溂とした亭主の二人で切り盛りしているお店だ。
宿としてだけではなく酒場としても営業を行っている為、ご飯にはかなり期待が持てそうだ。
宿泊料金は1泊大銀貨1枚と良いお値段だが、前まで泊まっていた宿に比べると天と地ほどの差があるいい店だった。
チェックインして一旦少ない荷物を部屋に置くと、僕はスキル実験のために人気のない開けた場所がないか探しに宿をでた。