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幕間 解体屋ライクス視点

俺は冒険者ギルドで解体屋のリーダーを任せられているライクス、人間種だ。

普段は同業のテッグとエリンとともに冒険者が持ち込んでくる魔物の死骸を解体し、使える部位と使えない部位に分けることで市場に流通可能なように加工している。


テッグはドワーフ族の青年で、ドワーフとしては縦にも横にも大きい珍しい体型をしている。

パッと見は太った人間の男にしか見えないので人間に間違われることが多いという。


エリンは鬼族の女性で、肝っ玉母さんのような性格と見た目をしているが、頭に小さなたんこぶに見える角が生えている。

だが、おばさん扱いすると激怒して暴力を振ってくるので注意が必要だ。


そんな俺たちだが仕事上の悩みが2つある。

1つ目は冒険者の持ち込む魔物の数がかなり多く、3人で解体するのが厳しいということだ。

何せここは極東、人類と魔物の生存競争の最前線。

1日何十体、下手したら何百体もの魔物が持ち込まれることもある。

数十体なら解体スキル持ちの俺たち三人にかかれば何とかなるがスタンピードが近くで発生して、大量に素材が持ち込まれた時などは手が足りなくなることもしばしばだった。


2つ目の悩みは、大量に出る廃棄物の処理だ。

何十、何百と魔物を解体していれば、当然相応の数の不要な部位が出てくる。

これを俺たち3人、手が回らない時はギルド職員に応援を頼んで処理するのだが、これがまぁキツイ。

重いうえに臭い、そして運んでいる時に血や魔物から出た排泄物がくっつくこともあって心底やりたくないと思っているが、基本的にこの仕事も含めて俺たちがやらされることがほとんどだ。

冒険者に大銀貨1枚というそこそこいい報酬を提示しているが、これを受けるやつはほとんどいない。

いたとしても1回やったら次からは来なくなることが常だった。

何せここには新人冒険者はほとんど寄り付かないからだ。


ここは魔物との最前線の町、腕に覚えのある冒険者がここを目指してやってくるが、逆に言えば腕前が足りない冒険者はすぐにこの町を去るし、初心者はそもそもこの町に寄り付かない。

この町で生まれ育った子供も、ここで冒険者をやるのは危ないからという理由で親が別の町で冒険者登録するように言って聞かせているので新人冒険者が登録することは稀だ。


だが、今日は珍しいことに、その新人冒険者が登録したらしい。

受付のヴァイスの声は大きいのでここまで話し声が聞こえてくるのだ。

しかもどうやらごみ捨ての依頼を受注してくれるらしい。


「ようテッグ、エリン。

どうやら今日はごみ捨ての依頼を受注した冒険者がいるみたいだぞ」


「本当かい?

だとしたらすごく助かるね。

最近魔物が持ち込まれる数も増えてきたし、ゴミ出しが憂鬱でしょうがなかったからね」


「ホントホント、この仕事給料はいいけど忙しすぎるんだよ。

あたしみたいなか弱い乙女にはキツイ仕事さね」


「お前がか弱い?

ゲフンゲフン

い、いやなんでもない」


「その言葉の続きを言っていたらあんたを解体しなきゃならないところだったよ。

まったくただでさえ忙しいのに余計な手間を増やさせるんじゃないよ」


「お、おう気を付けるぜ」


そんな話をしていると噂の新人冒険者がやってきた。


新人の冒険者の名前はフウマというらしい。

いかにも初心者魔法使いといういで立ちで、服の裾から見える腕は細く両手に魔力ポーションを抱えているのだが、体力仕事のごみ捨てがちゃんとできるのか若干不安になったが、死霊魔法という死霊魔術スキルに似た魔法が使えるという。

死霊魔術というのは魔物や人の死体を使用してアンデットを生み出して使役する能力で、死体を使うということから忌避されている能力だ。

違いは死体を用いる必要がないということだが、最弱魔物と名高いスケルトンで何が出来るのだろうか。

エリンも同じ懸念を抱いたようだった。

フウマに死霊魔法の行使を促した。


その依頼にあっさり頷いたフウマが行使した死霊魔法は驚くべき力だった。

ほんの短い詠唱をするだけでスケルトンを召喚してみせた。

しかも、召喚されたスケルトンはフウマの指示を忠実に実行した。

襲われる心配もない指示に忠実なスケルトンを何の対価も何の素材もなく、ただ魔力だけで召喚することが可能であるということに驚きを禁じ得ない。


その後解体が始まってしばらく待機していたフウマだが、スケルトンだけで問題なくごみ捨てができることを確認した後に外に出て行った。


「この!

スケルトン!

かなり使えるな」


俺は解体しながら二人に話かけた。


「そう!

だね!

普通に冒険者を雇うよりも実質2人分の仕事を何の文句も言わずにやってくれるから大助かりだよ」


「ゴミ捨て場で!

なんかしてる!

みたいだけど!

スケルトンがこんなに優秀なら!

関係ないしねぇ」


「ふぅー、このスケルトンだけ譲り受けることってできねぇかなぁ」


「さすがに無理じゃない?

自分の飯のタネだしね」


「でもあの子もいつまでもこの仕事を受けてくれるわけじゃないだろうしねぇ。

相談してみるのもありかもしれないわよ」


話をしているとだんだん冒険者が魔物を持ち込んでくる量が増えてきた。

日も落ちてきて、そろそろピークの時間になる。

フウマは外に出た切り戻ってくる気配がないが、ゴミが増える量がごみ捨てをする速度を上回り始めてきた。

これはいつものことで、たいていごみを処理しきれなくなって、そこら中にごみが散乱しだす。

このころになると俺たちも忙しさで余裕がなくなってくるため、フウマも戻ってきて手伝えと思わずにはいられない精神状態になっていた。


しばらく経つとフウマが解体場に顔を出した。


「なぁライクス、今忙しすぎてスケルトン2体じゃ手が足りなくなっているように見えるんだが」


「ああん!?

そんなの!

見れば!

分かるだろう。

こっちはピーク時間で余裕が無いんだ!

話かけんじゃねぇ!」


忙しくイライラしていたためつい怒鳴ってしまう。


「すまないな、手が足りていないようだったので、スケルトンを追加しようと思ったんだ。

不要だったか?」


「いや、そら追加出来るなら追加して欲しいけどよ

行けるのか?」


「ああ、あと1体ならなんとかな。

スケルトン召喚!」


なんとフウマは先ほどの詠唱を省いて召喚を宣言するだけでスケルトンを呼び出してみせた。


「スケルトン!

先にいた2体のスケルトンと同じようにゴミが貯まったら、外のゴミ捨て場にごみを捨ててこい。

一度一体のスケルトンがごみ捨てするところを確認して同じように行動せよ。

また、三体のスケルトンに追加命令だ、ごみが貯まっていない時は床に落ちている生ごみを回収してゴミの入れてあるかごへ運べ」


そういうと床に散らばっている肉片や骨をスケルトンたちが回収して集め始める。

これは最後の掃除もだいぶ楽になりそうだと思い、心に余裕が戻る。


心に余裕が戻ると、先ほど怒鳴ったことが少し申し訳なくなってきた。

後で謝っておかなければならないなと考えつつ解体を進めるのだった。


夜もふけていき、魔物解体を依頼する冒険者がいなくなったため、先ほどの件をフウマに謝罪した。

だが、フウマはまったく気にした様子もなく、いかにも自分も経験があるような口調で喋っていた。

実家にいた時にめちゃくちゃ働かされていたとかだろうか?

スケルトンが大いに役立ったことと明日も手伝って欲しいことを伝えて今日はお開きとなった。


次の日、約束通りフウマはまたゴミ捨ての依頼を受注してくれた。

さらに今回は俺たちの命令を聞くように指示してくれたため、昨日よりもさらにスムーズにゴミ捨てが行えている。


ふと、このスケルトン達に解体をさせてみたらどうだろうかと思い付いた。


俺は早速同じ種類の魔物を並べ、スケルトンに予備の解体用ナイフを持たせて自分の真似をして解体するように指示してみた。


するとスケルトンは難無く解体を行うことが出来たのだ。

これはある種の革命だった。

俺達の大きな悩みだったゴミ捨てと人手不足がこのスケルトンで解決可能だと分かり、テンションが爆上がりする。


だが、そんな俺を戒めるかのように事件が起きた。

スタンピードだ。


スケルトンが、怪我をして最近は農業だけをやっていた兵士のアリエスを連れてきた。


彼の話では最近来たばかりであった獣人の冒険者ヤスランが100体以上の魔物のスタンピードを引き連れて来たとのこと。

召喚したスケルトンで農作業を手伝ってくれた冒険者が自分を逃してくれて、足止めまでしてくれていることを伝え、冒険者の援軍を依頼した。

先に道中にいた兵士に応援の依頼をしたので父親の兵隊長にも伝わっていることを話していた。

解体場までそんな話が聞こえてきて、俺は居ても立っても居られなくなってしまった。


「なぁ、今の話が本当なら、フウマのやつヤバくねえか?」


「そうだよね。

僕たちみたいにこの街に慣れた人ならともかく、フウマはまだ討伐依頼も受けたことがない駆け出しの新人だし…」


「これは不味いかも知れないねぇ。

早急に援軍を送らなきゃ、死んじまうかも知れないよ」


俺達がフウマを心配していると、フロントでは、案内と兵隊長への説明も兼ねてアリエスに着いてきて欲しいという話になっていた。

だが、アリエスは足の骨を折っていて速くは移動出来ないため、どうするかという話をしている。


「ちょっと俺、フロントに行ってスケルトンを1体貸し出すことを伝えてくるわ。」


「うん、お願い。」


「それがいいだろうねぇ。

頼んだよ。」


俺はフロントに駆け出すと集まっている冒険者達に向かって話しかけた。


「なあおい、フウマのピンチなんだろ?

アイツが残してくれたスケルトン1体を貸すから、早いところアイツの救援に向かっちゃくれねえか?」


スケルトンを貸し出す旨を伝えるとアリエスは即座に頷き、冒険者達を引き連れて救援に向かってくれた。


(無事でいてくれよフウマ…)


数時間が経ち、解体場のピークを迎えるころにスケルトンが1体解体場までやってきてゴミ捨ての手伝いを始めた。


これはフウマが無事を知らせるために送ってきたスケルトンに違いない!

俺たちは嬉しくなって仕事にもいっそう気合いを入れて取り組んでいった。


解体場が落ち着いてきた頃に、ようやくフウマが顔を出した。


俺たちが心配していたことを伝えると若干照れくさそうにしているのがなんだか可愛い。


おっとそんな事を考えている場合じゃない。

フウマに相談しなければならないことがあったんだった。


俺はフウマにスケルトン販売の打診をしてみた。

今日のことで、よりスケルトンの有用性を理解したし、たった二日だが俺たちは既にスケルトンのサポートがなくてはならないものになっていたからだ。


フウマは俺の打診を二つ返事で快諾してくれた。

もともと販売する予定で、それに有用なスキルも手に入ったという。

しかも価格はなんと金貨1枚!

フウマが10日間働いた程度の金額でしかない。

スケルトンは永久に働かせられることを考えると破格の金額と言っていい。

どうやらフウマの側にもスケルトンを販売する利点がありそうだ。


販売は明日にしたいと言う話だったが、正直それはこちらにも渡りに船の提案だった。

スケルトンはすぐに欲しいがギルドを通す関係上、ギルドマスターを説得する必要があるからだ。


スケルトンを正式に購入したら解体作業も仕込んで俺たちも楽ができるようになるかもしれない。

今から本当に楽しみだ。


フウマの下にはスケルトンの購入依頼が殺到することになるだろう。

それはつまり大量のお金を稼げるということだ。


そこで稼いだ資金を使ってどのように活躍していくのか、どのような冒険者に成長していくのか、これほど先が気になる冒険者は久々だ。

俺は彼の今後に思いを馳せ、知らず心を高鳴らせるのであった。

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