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30話 竜の巣ダンジョン⑥ スケルトン教団

「それで、キリエさんのことだけどどうする?

明らかに様子がおかしかったけど。」


「そうだね、誰かに救われたと言っていたが、だからと言っていきなり自分の命を捨ててもいいみたいなレベルで信仰心に目覚めているのはどうもおかしい。」


「そうですわね。

森羅教にも誰かを救うためなら命を捧げてもいいと考える方たちはいらっしゃいますが、それは長年の信仰心の積み上げと献身があって初めて到達できる境地ですし、むしろそういう方たちは無暗に命を浪費しようとは思われません。

彼女は自分の命を軽く見積もりすぎておりますし、これではまるであの邪教の信者のようです…」


「邪教って何?」


僕は邪教というものが何なのか知らなかったためマリアーナに尋ねてみた。


「そう、ですわね…

この件はフウマ様も無関係ではいられない問題ですので、お教え致しますわ。」

「私が邪教と呼ぶ宗教団体、名をハピネスリボーン教。

通称は骸教団、スケルトン教団とも呼ばれています。」


「スケルトン教団?」


「ええ、この教団の教祖は死霊魔術の使い手で、スケルトンを使役しているので、一般人からみたらスケルトンの教団だということでそのように呼ばれているんです。」

「フウマ様が無関係でいられないと思うのもこの死霊魔術を使う教祖が関係しています。

死霊魔術はフウマ様の使用する死霊魔法とは違って死体をスケルトンに変える術です。

つまり術の行使には死体が必要になるということ。

これを彼らは教えによって実に効率よく集めているのです。」

「その教えとは…」


マリアーナが語ってくれたスケルトン教団の教義は大体以下のような感じだった。


人間は生まれながらにして神の試練を与えられて生きている。

その試練とは痛みであり、苦しみであり、怒りであり、悲しみだ。

その試練は死した後にも続く。

悪霊と呼ばれる者たちはこの試練を乗り越えることができずに苦しみ続けているものたちだ。

とはいえ生きている限りこの試練は永久に続くものであることもまた事実。

だが、この試練を乗り越える術を神は我らに与えたもうた。

それこそが教祖ドゥー様のお使いになる神の御業、死霊魔術である。

死霊魔術によって死した後にスケルトンに転生することで、あなたの苦しみは全て取り払われる。

ただし、スケルトンになれるのは神の試練を乗り越えるために懸命に生きた者たちだけだ。

そうでない者たちはスケルトン転生の祝福を得られずに悪霊として長い時を苦しみ続けるか、転生できずに消滅してしまうだろう。

スケルトンになれば痛みも苦しみも怒りも悲しみもなくなり、幸福な気持ちで人々に奉仕する生活が送れるようになる。

あなたもスケルトンに転生して幸せになれるように努力しましょう。

伴侶を得て、友人を得て、子供を無事に育て上げ、教団全体で助け合うためにお金を寄付することであなたをスケルトンに転生させてあげられます。

さぁスケルトンに転生して試練を乗り越えるために私たちと一緒に頑張りましょう。


まぁ有り体にいって、スケルトンにする素材集めとお金集めを効率よく行うために作られた宗教といった感じだった。


「そのような世界観を持つ宗教ですので、世界は魂も含めて循環するものでそれを歪めてはならないとする森羅教とは真っ向から対立しているのです。」


「なるほど、それで僕とその教団がどうかかわる可能性があるの?」


「あくまで憶測なのですが、フウマ様の死霊魔法は魔力からスケルトンを生成しています。

彼らの世界観からするとこれはおかしなことで、スケルトンは試練を乗り越えた人がたどり着く境地ということなのに無からスケルトンを生み出しているように見えるフウマ様の術は、肉体を消失して魂だけになった存在を救済していく聖者様ととらえられるか、教祖の存在を脅かす怨敵ととらえられるかどちらかじゃないかと。」


「うっわなんだその迷惑な話。

その宗教の信者と今のキリエの様子が似てるっていうのか?」


「はい、正確にいうとそのスケルトン教団の執行者と呼ばれる者たちと同じ雰囲気を感じるんです。

スケルトン教団には教祖の他にも死霊魔術を伝えられた代行者という人たちがいて、この人たちが大司教や司教のような偉い地位にいます。

執行者とはその代行者たちに見いだされた者たちで、頭にターバンのようなものを巻いていて、代行者の補助を行っています。

この人たちは狂信的な言動をする人が多いのです。」


そんな話をしているとキリエが目を覚ました。


「ぐっ、ここは…

あ、これはどうやら捕まってしまったようですね。

私としたことが失態です。

負けるのなら死ななくてはならなかったのに…

いえ、今から死ねば問題ありませんね。」


そう言うとキリエはいきなり舌を嚙みちぎった。


「これは流石に狂信者すぎるな。

レインボースライム!

回復させて死なせるな。」


僕はレインボースライムに魔力を注ぎ、キリエを回復させて自殺を止める。


「スライムゴルボル!

触手を口に突っ込んで舌を噛み切ったり魔法で逃げたり出来ないようにしろ。」


「むぐっ」


僕はキリエの口に触手を突っ込ませて舌を噛み切ることも詠唱を唱えて転移魔法を使わせることも出来ないようにした。


「いやいや、いきなり何の躊躇もなく舌を噛みちぎるとか異常者すぎるでしょ。

こんな子どうやって連れて帰るのよ。」


フィーリアはかなり困惑した顔を浮かべている。


「ボクは一つ気になっていることがあるんだ。

彼女の額にあるピンクの石についてなんだけど、これが彼女の信仰心を高めていたりしないかな?

というのもアースドラゴンもこの石を額につけていたでしょ。

最初はキリエ嬢を守るようにして一緒に寝ているくらい仲が良かったのに、クロムの黒雷で石が割れてからはキリエを襲うようにしていた。

これってその石に操られていたみたいに見えるんだがどうだろうか。」


「あり得るわね。

あたしもその可能性があると思うわ。」


「いっかいその石を取ってみたらどうだぁ?

なんなら俺の黒雷を石にだけ当てて砕いてやってもいいぜぇ。」


「そうだね。

試してみる価値はあるだろう。

フウマ、悪いけど彼女が死なないように回復し続けてくれないか?」


「了解、いつでもいいよ。」


僕たちがそんな話をしているとキリエは目に見えて慌てだした。

さっきまでは余裕綽々で泰然としていたのに、今はなんとかスライムゴルボルの拘束から逃れようと必死にもがいている。


「こりゃぁ当たりっぽいな。

ま、ちょいと痛いが我慢してくれや。」


右手に黒雷を貯めて指パッチンをするようなしぐさで石に向かって黒雷を放つ。

黒雷は狙い過たず額の石にぶつかって石を破壊する。


石を破壊した瞬間キリエの身体はびくっと跳ね、口から泡を吹いて地面に倒れ伏した。

倒れ伏したあともびくびくと体を痙攣させている。

回復をし続けていたからこの程度で済んでいるが回復をし続けていなければ死んでいてもおかしくなかったんじゃないかと思うような劇的な反応をしており、心底不安になった。


しばらく様子を見ているとキリエが目を覚ました。

正常に戻っているかもしれないので一旦触手を口から外してみる。

もちろん詠唱しようとしたり、舌を噛みちぎったら即座に口に触手を突っ込むように指示を出した。


「みなさん、ご迷惑をおかけして本当に申し訳ございませんでした。

また、こんな私を助けてくださり、誠にありがとうございます。」


正気に戻ったのだろうか。

先ほどまでの狂信的な雰囲気は感じない。

だが、すぐに開放して実は演技でしたじゃ取り返しがつかないのでスライムゴルボルには拘束させたままにしている。


「キリエ嬢、君が正気に戻ったというのなら。

何があったのかボクたちに教えてくれないかい。」


「はい、私がアースドラゴンに石化を解除してもらったという話はしましたよね。

そこまでは本当です。

そして私を助けた人は…」

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