3話 二つ目のチート[合成魔法]
僕は無事にスケルトンを召喚できて安堵していた。
自作したゲームなのだから失敗することはないだろうと思っていたが、大部分をAIで作成しているのできちんと召喚する事ができるか、若干の不安があったのだ。
「召喚できたぞ。」
「おー本当にスケルトンが出てきた!
ちなみにこいつが人を襲ったりする危険はないのかい?」
「こいつは僕の命令に忠実だし、命令しなければ動くこともしないから安全だ。」
「そうかよかった。
それなら安心だね。」
「なぁあんた、せっかく召喚したんだからちょっとそいつを働かせてるところを見せちゃくれないかい?
今なら暇だし、ゴミは少ししかでてないがそこにあるしさあ。」
「ああ、構わないぞ。
スケルトン、そのゴミのカゴを持って僕について来い。」
そう命令するとスケルトンは動き出し、ゴミの入ったカゴを持ち上げ、こちらに近づいてくる。
僕はそのままゴミ捨て場まで移動した。
解体屋の三人もその様子を興味深そうに見ている。
「ここでカゴを逆さにしてゴミを全部出せ。」
「よし、いいぞ。
では先ほどいた解体場に戻り、カゴを元あった場所に戻したら隅っこで待機しろ。
その後はゴミのカゴが埋まるたびに同じ動作を実行しろ。
ただし、進行ルートに人がいた場合はその場で立ち止まって待機だ。」
スケルトンは命令を聞くとカゴを戻しに行き解体場の隅で棒立ち状態で待機した。
「はーこれは便利なもんだねぇ。
1つ気になるんだけどさぁ?
このスケルトン1体であのカゴいっぱいになったゴミを運べるのかねぇ。」
「心配だったらもう1体出しておこう。」
そうしてもう一体のスケルトンを召喚し、1体で運べない重量の場合は2体で運ぶことを新しく命令。
僕自身はスケルトンへの命令に穴がないかのチェックのために監視を行うことを告げて待機することにした。
その後冒険者が解体場に現れ、解体が始まった。
解体の邪魔になってはいけないため、僕自身も壁に寄りかかりながらその様子を眺める。
(冒険者として活動していくなら解体の技術を学んでおいてもいいな)
そうして解体の手順やどこからどう切断していくのか、運び込まれた魔物の有効活用できる部位はどこなのかという基本知識を頭に入れながら過ごしていると大体2時間ほどが経過した。
この辺りになってくると同じ作業の繰り返しで、待機していることに飽きてきた。
僕は解体場のスケルトンの様子は問題なかったため、外でのスケルトンの活動の様子を見てくることを告げてスケルトンが外に出るタイミングで一緒に外に出た。
ゴミを所定の場所に置き待機場所に戻っていくスケルトンを眺めながら、僕はこのゴミを何かに使えないか思案し出した。
僕の二つ目のチートスキル[合成魔法]ならば、普通は使えないこのゴミも何かに使えるんじゃないかと思うのだ。
この合成魔法だが、チートスキルとして見た場合一見地味に見える。
何せ戦闘系のチートではなくRPGでいえば生産職のスキルに分類されるような力だし、生産する能力というのは一見しただけではあまり華やかさはないように思える。
しかし、この魔法こそが今回設定したチート能力の中でも最高の能力なのだ。
何せこの合成魔法はあらゆるものを合成できるうえに元の素材が持っていた能力の概念を抽出し、精製物にその概念を付与できる力を持っているのだ。
概念を抽出するというのはどういうことか?
例えば薬草だ。
薬草には傷を癒すという効果がある、それは普通に考えれば傷の治りを早くする成分が含まれているということだが、合成魔法はこの傷を癒すという概念を抽出できる。
例を一つ挙げると、剣という傷を癒すものとは全く関係がないものに薬草を合成すると
[敵を斬りつけると自分の傷を癒してくれる剣]
が作れる。
これが概念を抽出するということだ。
しかも合成できるのは物だけではない、魔物も合成可能なのだ。
とはいえこれは生ゴミかつ普通には使えない上に味も悪いために価値がないと判断された部位であるため、このゴミを使って何か強化を施すような合成はできそうにない。
「ゴミか…、使えないものを使えるようにするのは難しいな。
そうだ!それならいっそのことつかえない魔物でも生み出して、実験に使用してみるか」
「種族指定、人間。
サイズ指定、中年男性。
追記指定、四肢欠損状態。
僕に従う忠実なスケルトンをここに生成す」
まずはベース素材であるスケルトンを両腕、両足がない状態で生成した。
僕はこのスケルトンを[スケアクロウスケルトン]と名付けた。
カカシのようにそこにあるだけで動くこともできないスケルトンという意味だ。
「よし、まずは成功。
次にこれと生ゴミを合成だ。」
いよいよ合成魔法のお披露目だ。
「合成開始。
ベース指定、スケアクロウスケルトン。
合成素材指定、魔物の肉片。
概念抽出、なし。
目的設定、新たなる魔物の創造。
イメージ、スケアクロウスケルトンが複数体の魔物の死体の肉を纏いゾンビとして再誕す」
両腕に魔力を回し、それぞれの手のひらを合成素材に向け詠唱すると光輝きながらスケアクロウスケルトンと魔物の肉片が混ざっていく。
光が収まるとそこにはあらゆる肉片を纏っただけの肉ダルマとでもいうべきキメラ型のゾンビができていた。
「出来た!
しっかしこれは気持ち悪いな…
悍ましすぎるだろこれ。
ダストゾンビとでも名付けておくか。
うわ、しかもこいつ使役の効果がのってないから、敵性の魔物になってるじゃねーか。
やっぱ四肢欠損状態で作ってみてよかったな。」
「とりあえず実験もできたし、こいつを処分するか。
ただこいつに触りたくないんだよなぁ。
仕方ない棍棒でも合成して殴り殺すか」
僕はそこらへんに落ちていた木の枝と大きめの石で合成を開始した。
「合成開始。
ベース指定、木の棒。
合成素材指定、石。
概念抽出、なし。
目的設定、武器の創造。
イメージ、まっすぐな棒を石でコーティングした棍棒をここに生成す」
「よしよしとりあえず棍棒は出来たか。
とりあえずこいつを殴り殺してみるか。」
だが、僕の目論見は甘かったと言わざるを得ない。
数十回棍棒で叩いてみたが、このダストゾンビはびくともしなかったのだ。
「はぁはぁ、固すぎだろこいつ。
使えない部位とはいえレベル1の僕じゃあ倒せない魔物を素材に作ったやつだもんなぁ。
そりゃ硬くもなるか、ホントに四肢欠損状態で作ってよかった。
そうじゃなきゃ襲われてゲームオーバーだったわ。」
「とりあえず、スケルトンにでも殴らせておくか。」
僕は魔力回復ポーションを半分ほど飲んで魔力を回復させると通常のスケルトンを生成し、棍棒を渡して殴り続けるように命じた。
スケルトンは敵の攻撃に対しては脆くすぐに体が崩れるために最弱魔物と言われているが、力はかなり強いため殴り殺すことくらいはできるだろう。
「お、倒せたか。」
数十発ほど殴り続けていたスケルトンだが、うまい具合に一撃がダストゾンビの首の骨を折ることに成功したようだ。
だが、倒した瞬間に大量のシステムメッセージが送られてきた。
「レベルアップしました。
レベルアップしました。
レベルアップしました。
レベルアップしました。
レベルアップしました。
レベルアップしました。
死霊魔法のレベルが上昇し、感覚共有を覚えました。
感覚共有は使役中の死霊からの視覚と聴覚情報を取得できる能力です。
死霊魔法のレベルが上昇し、ショートカットを覚えました。
ショートカットは過去に生成したことのある死霊であれば名称をつけることで、同じ設定で生成することができるようになる能力です。
合成魔法のレベルが上昇し、収納領域を覚えました。
収納領域は、意志のない素材や生成物を収納して置ける能力です。
合成魔法のレベルが上昇し、ショートカットを覚えました。
ショートカットは過去に生成したことのある物であれば名称をつけることで、同じ素材を同じ分量、同じ設定で生成することができるようになる能力です。」
「うわうわうわ、なんか一気にレベルアップした!?!?!
え?何一気に6レベルも上がったの?
ダストゾンビってそんなに強かったのかよ。
というか自分が生み出した魔物を倒してレベルアップできるとかチートやん!
あ、チート能力だから当然ちゃ当然なのか。」
「というか死霊魔法と合成魔法のレベルも上がったみたいだし、これはやばいレベルアップ方法見つけちゃったな。
僕の能力構成って最初はめちゃくちゃ弱いからどうやってレベルを上げるか悩んでたけど、これなら安全にレベル上げができるな!」
ひとしきり混乱した後に我に返った僕は自分のチート能力の凄さに改めて感動に打ち震えるのだった。
「そういえばまだ冒険にも出てなかったからステータスって一度も見たことなかったな。
この機会に確認しておいた方がいいな。」