2話 一つ目のチート[死霊魔法]
僕はとうとうアナザーワールドの世界に降り立った。
思い描いていた中世ヨーロッパ風のファンタジー世界が目の前に広がっている。
でかいトカゲみたいな魔物が引いている馬車のようなものや獣人、エルフにドワーフまで多岐にわたる種族が人間と共に生活していた。
ここは辺境の街アプルラ。
ナビ妖精ナビリルの説明によると人類の生存領域の中で最も東に位置する街で、この街からさらに東に向かうとそこには大量のダンジョンが乱立し、そこら中で発生したスタンピードで魔物が氾濫している魔境になっているとのことだ。
スタンピードとは放置され続けたダンジョンから魔物が溢れ出す現象だが、人の立ち入らない領域ではこれが頻発し、周辺環境を魔物の楽園へと変えてしまうのだ。
街自体はその魔物たちを退治して生計を立てる冒険者たちが集っており、多種多様な種族が集まるダイバーシティとなっているため、チート能力者が活躍して名を上げるにはうってつけの場所。
僕は早速冒険者ギルドに足を運び、冒険者登録をすることにした。
今の装備は革の靴にダボダボの黒い布のズボン、黒色のTシャツに全身を覆い隠せるほど大きい灰色のローブ。
それに初級魔法使いの短杖といった出立ちだ。
いかにも貧乏臭い初級魔法使いという見た目のせいか冒険者ギルドに入っても、よくあるテンプレのように冒険者の荒くれ者に絡まれることはなかった。
受付に到達し、元冒険者という感じのイカツイおっさんが座っているカウンターへ足を運んだ。
「いらっしゃい、何のようだ?
依頼か依頼達成報告か、それともそれ以外か。」
「それ以外だ。
冒険者登録をしたくてきたんだが、ここで登録は可能か?」
僕は生意気な新人冒険者というロールでプレイすることにして、口調を若干荒っぽくして話した。
「おっとニュービーの登場か。
この街では珍しいな。
ああここで登録の受付もやってるぜ。」
受付のおっさんは特に気にも留めずに話を進めてくれるが、少し気になることを言っている。
「? なんでここで登録する人って少ないんだ。」
「そらお前、ここが人と魔物との生存競争の最前線だからよ。
腕を鳴らした冒険者ならともかく新人じゃあすぐに死んじまうくらい苛酷だからな。
坊主もよく考えた方がいいぜ、ここよりも初心者に向いた街なんざいくらでもあるんだからな。」
「あーなるほど、そういうことか。
でも大丈夫だ。
僕は魔法使いだし、初めのうちは戦闘系の依頼じゃなくて雑用系の依頼をしてお金を貯めるつもりだからな。」
「そうかい、それならいいんだけどよ。
じゃあまずここに名前を書いてくれ。
特技なんかもあればここに追記してくれてもいいぞ。
追記しなくてもいいがその分稼ぎがしょっぱくなると思ってくれ。」
「わかった。
これでいいか?」
「どれどれ」
――――
名前:フウマ
特技:死霊魔法
――――
僕は風間という名字からもじったフウマという名前とチートスキルの一つを記載した。
フウマは動画サイトのアカウント名やゲーム名でよくつけていたので、動画配信することも考えて本名ではなくこちらの名前を使用したのだ。
「死霊魔法とは珍しい。
聞いたことが無い魔法だがこの魔法は一体何ができるんだ?」
「死霊魔法は死体を使わずにスケルトンやレイスといったアンデット系魔物を魔力で生成して使役できる魔法だな。
僕が使える初級魔法ではスケルトン1体を生成して使役するだけの能力だ。
知っての通りスケルトンは雑魚魔物の代表格であるゴブリンにすら劣る最弱クラスの魔物。
だが、力はそこそこ強く何より永久に働かせることができるから雑用や荷物の運搬なんかをさせるにはもってこいの魔物なんだ」
そうこの[死霊魔法]こそが僕が最初に取得したチートだ。
何せこの魔法にはあらゆる可能性が内包されているのだから。
僕は死霊魔法を使ってのお金儲けから、大量展開による1人軍隊の形成、無限の労働力を活用した開墾や農作業など、あらゆることに応用が可能なこの力を使い倒して異世界生活を満喫する気でいるのだ。
「なるほどな、それで最初は雑用で稼ぐっていってたのか。
いいだろうお前に見合った依頼を見繕ってやる」
「それは助かるな。
ありがとう。」
「おう、いいってことよ。
ほらこれなんかどうだ?
この冒険者ギルドで出た廃棄物をゴミ捨て場まで運ぶ仕事だ。
受けるやつがいないとギルド職員がやらされるんだが、このギルドの廃棄品っていうのはつまり魔物の死骸からでた使い物にならない部位のことだからな。
臭いは、量が多くて重いはで誰もやりたがらねぇ。
お前が問題なければ受けてくれねぇか?
報酬は1日で大銀貨1枚だ」
僕はナビからこの世界の貨幣価値についても聞いていたからわかるがこの世界で新人が1日で大銀貨1枚稼げるならかなり割がいい仕事だ。
貨幣自体は魔物のドロップから産出されるものを使用していて、これは世界共通。
ちなみに言語もゲーム機本体で設定した言語で統一されている。
貨幣価値は以下の通り
小銅貨1枚=1円
銅貨1枚=10円
大銅貨1枚=100円
銀貨1枚=1000円
大銀貨1枚=1万円
金貨1枚=10万円
大金貨1枚=100万円
白金貨1枚=1000万円
大白金貨1枚=1億円
「ニュービーが1日で大銀貨1枚(1万円)とはかなり割がいい仕事だな。
ぜひ受けさせてもらいたい。」
「おう、よろしく頼むぜ。
朝は暇だしゴミも出てねぇからレックからごみ捨てのルールと場所を聞いたら昼から来てくれ」
「了解した、ところでレックというのはどいつだ?
あとついでにあんたの名前も教えてくれ。」
「おっと悪かった。
俺はギルド受付担当のヴァイスだ。
よろしくな、フウマ。
レックっていうのはあそこで依頼の紙を貼りだしてる髭の生えたおっさんだ。」
「ああ、よろしく頼む。
色々助かった。
また後でな。」
「おう、頑張ってこい」
僕はさっそく依頼書を貼り終えてバックヤードに戻ろうとしているレックに話かけた。
「すまない、ちょっといいか?」
「あん?
なんだ坊主。
俺になんか用か?」
「ああ、僕はフウマというんだが、今日ギルドのごみ捨ての依頼を受けてな。
ごみ捨てのルールや捨てる場所を教えてくれ。」
「お!今日はごみ捨て担当がいるのか。
今日は楽が出来そうでうれしいねぇ。
俺はレックだ、よろしくな。
よし、こっちだついてこい」
そういってレックは僕を解体場まで連れて行った。
「ここが解体場だ。
ここで出たごみはそこのかごの中に入れられるから、かごをあっちの森の中にあるゴミ捨て場までもっていってくれ。」
「結構近くにゴミ捨て場があるんだな。」
「あんまり遠くだと運搬が大変すぎるからな。
ギルドの近くにゴミ捨て場が作られることになってんだ。」
「捨てられたごみはそのうち近くのスライムが食べてくれるからこの近くに現れるスライムは倒すなよ。」
「他は特にルールとかねぇから、お昼くらいからきて適宜ゴミ出しを頼むわ。」
「了解した。
じゃあ僕は一旦ここを離れてお昼ごろにまた来る。」
「お昼は食べてから来いよ。
休み時間とかないからよ。」
「ああ、そうさせてもらう」
そういって僕は冒険者ギルドを離れた。
僕の今の所持金は初期金額として設定されている大銀貨1枚だけだ。
これを使って泊まる場所と飯、MP回復ポーションなんかを買わないといけないからかなりカツカツになりそうだ。
ナビリルから教えられていた初心者おすすめの宿に行きチェックインする。
価格は1泊銀貨3枚(3000円)で、手持ちから考えるとかなりきついが宿泊施設と考えたら安い方だ。
布団はあるが寝泊りができるだけの宿で、体を清める場合は近くの井戸から自分で汲んできて自前の布で拭く必要があるという現代では考えられないサービスだった。
まぁ、駆け出し冒険者が泊まる宿としてはこんなものだろう。
とりあえず2泊分支払い宿をでた。
この宿は飯は出ないので適当に散策して食べることにした。
大通りを歩いていると肉を焼くいい匂いが漂ってくる。
僕は匂いに誘われるままに焼き串屋に行き、焼き串1本大銅貨1枚(100円)のものを10本購入し、食べながらポーションを販売してくれる店を探す。
「異世界初の食べ物だ!
いただきます。」
悪くない味だ。
多少臭みを感じるが、昔社員旅行で行った沖縄で食べたイノシシ肉のような味で、野性味溢れる焼き串を平らげた。
「人によっては臭みが無理って人もいるだろうが僕はウマいと感じたな。
というかゲームの中でもしっかり味覚を感じられるのすごすぎ。
ダイエットにも使えそうだし、ゲームが好きじゃなくてもグルメ好きな人もこのゲーム買って損ないぞ」
動画用の食レポをしつつ少し歩くとポーションビンのマークの描かれた看板の店を発見。
おそらくポーション関連の店で間違いないだろうとその店に入った。
店に入るとカウンターに肘を乗せてうたた寝しているおじいさんの姿が目に入った。
「すまんが起きてくれないか?
ポーションを購入したいんだが。」
「んあ?
おーお客か。
すまんすまん、ちょいとまっとくれ。
んんん、んー」
そういって起きた店員は大きく伸びをしてこちらに問いかけた。
「それでどのポーションをご所望だい?」
「ああ、初めてポーション屋を利用するんでどんなものがいくらで置いてあるか知らないんだ。
教えてくれないか?」
「メニュー表なら作ってあるよ。
これをみな。」
――――
傷直しポーション 1ℓ=大銅貨1枚(100円)
体力回復ポーション 1ℓ=大銅貨2枚(200円)
毒消しポーション 1ℓ=大銅貨5枚(500円)
魔力回復ポーション 1ℓ=銀貨1枚(1000円)
経験値ポーション 1ℓ=金貨1枚(10万円)
――――
「経験値ポーションってかなり高いんだな。
そんなに効果があるのか?」
「いんや、微々たるもんさ。
だが貴族連中や商人なんかが良く買っていくんだよ。
連中に言わせれば魔物を刈って経験値を稼ぐ時間をお金で短縮してるんだそうだよ。
だから大した効果もないのに高いってわけさね。」
「なるほど、そういうわけだったのか。
まぁ今の僕には関係ない世界の話だな。
じゃあ魔力ポーションを1ℓ分くれ。」
「まいどどうもね。
このビンは初回サービスだよ。
次からは有料になるから気を付けておくれ。」
「それは助かる。
ありがとう、また利用させてもらう。」
僕はそう言って店を出てポーションを持ちながら冒険者ギルドに向かった。
アイテムボックスなんてものは無いので仕方がないが、両手がポーションで埋まっているのは早急にどうにかしたい問題だ。
冒険者ギルドにつき、解体場に行くと3人の解体屋が冒険者が獲物を運んでくるのを待っていた。
「あん?
どうした坊主こんなところに来て、なんか解体して欲しいもんでもあるのか?」
一人魔物の血で赤黒い染みがついたエプロンを付けた解体屋のおやじが話しかけてきた。
「いや、ごみ運搬の依頼を受けた冒険者だ。
僕はフウマ、見ての通りニュービーだがよろしく頼む。」
「ライクスだ。
大変かもしれんが頑張れよ。
あーちなみにこっちのふっくらした男がテッグで、こっちのおば」
「あたしはこの解体場の紅一点、エリンってもんさ。
こいつみたいにふざけたことを言おうもんならただじゃおかないよ?」
「あ、ああ。
ライクス、テッグ、エリン今日はよろしく頼む。」
「しかし君、ポーションなんて持って仕事できるのかい?」
テッグから当然の疑問が投げかけられた。
「ああ、僕は死霊魔法っていう特殊な魔法が使えてな。
仕事をするのはこの死霊魔法で呼び出したスケルトンたちだから気にしなくていい。」
「へーあんたテイマーみたいなことが出来るんだねぇ。
ちょっとやって見せておくれよ。」
「そうだな忙しくなる前にスケルトンを作っておかないといけないし、今ここで作って見せよう。」
そう言うと僕は魔法を発動させるイメージをしながら体に力を入れる。
するとお腹のあたりが熱くなり全身に熱が巡っていく感覚がする。
「種族指定、人間。
サイズ指定、中年男性。
僕に従う忠実なスケルトンをここに生成す。」
詠唱が完了すると体をめぐっていた熱が手から抜けていき
目の前に光の粒子をまとって徐々に輪郭が形成されていく。
そして1秒後にはスケルトンがそこに現れていた。