幕間 シスター・マリアーナ視点①
わたくしはネイスチャー王国第三王女として生を受けたマリアーナ・レグニア・クルスニスと申します。
Aランク冒険者パーティーの王救の探索者でヒーラーを担当しております。
わたくしは幼少のみぎり、回復や補助系統の魔法に適性があることが分かり、森羅教の教会に入れられることが決まりました。
この国の宗教である森羅教はこの世にあるあらゆるもの、自然には神や精霊が宿り、人もその一部として世界の循環の中にあるものだから、自然を敬い、大切にしながら生きましょうという教えの多神教です。
そのため、教会では自給自足が推奨されていて、全員が何かしらの植物を育てているのです。
それにわたくしたちの回復魔法や補助魔法を日々植物に使うことで植物を元気に保つとともに、その力も育んでいくという意図があるようです。
教会に入れられたわたくしは、自分で言うのも憚られるのですが、才に恵まれており、頭角をめきめきと現していきました。
教会は回復魔法を使用した治療を行なっており、多数の病気や怪我を治していき、聖女だと持て囃されるまでになったのです。
そんな順風満帆だったわたくしですが12歳の時に初めての挫折を味わいました。
父上が倒れられたのです。
当然国王の容体悪化は、国家の危機。
最優先事項として対処されるものですので、わたくしだけでなく回復魔法使いとしては最高の評価を受けていた教皇も回復魔法を行使したのですが、一時的に良くなるもののすぐに体調は悪化するということを繰り返しておりました。
わたくしは教皇が回復を担当出来ない時に、お父様に回復魔法をかけさせてもらいました。
わたくしが魔法をかけるとお父様は優しく、楽になったとほほ笑んで頭を撫でてくれるのですが、わたくしの目には父上がやせ我慢をしているように映ってしまうのです。
そして何度魔法をかけても良くならないお父様を見て、自分の無力さに打ちひしがれてしまいました。
お父様が大好きだったわたくしは、日に日に弱っていくお父様を見ていられず、夜は泣きはらして過ごす日々を送っておりました。
そんな時にマルクスお兄様が冒険者になって伝説の霊薬であるエリクサーを探すと言い出します。
第三王子とはいえ一国の王子が冒険者になるなんて前代未聞。
父上自身も含めて周囲の者は必死に引き留めようとしましたが、マルクス兄様の意志は固く、一人でも出ていこうとされておりました。
それを見てわたくしの回復魔法も冒険者のようにレベルを上げていけば、今よりも強い魔法が使えるんじゃないかと考え、お兄様と一緒に行くことを宣言。
わたくしにも考え直すように言ってくれる方々はたくさんおりましたが、わたくしたちの意志が変わらないことを見て、諦めて送り出して下さったのです。
送り出す段になって、お兄様の婚約者と側室候補だったフィーリアさんとフレンダさんが一緒に行ってくれることになりました。
フィーリアさんは魔法使いの天才として有名な方で、フレンダさんも近衛騎士の一家の娘で小さいころから兄に交じって剣を振っていたことからかなり剣技に精通していらっしる方で、とても心強く思ったことを覚えております。
最初はこの4人で冒険を行っておりました。
自分でもびっくりですが、この冒険者家業は非常に楽しく、わたくしたちのパーティー全員がそれぞれに優秀な分野を持っていたということで、順調にランクを上げられたのも大きかったと思います。
半年が過ぎ、異例の速さでBランクになったころ、まだ未探索の領域が多く残されている東の果て。
魔物と人間との生存競争の最前線であるアプルラの町に、エリクサーを求めて向かうことになりました。
その道中にある町の教会が、暗殺者組織と裏でつながるという悪事を見つけてしまったわたくしたちは、暗殺者組織を壊滅させて、そこで囚われていた子供たちを解放するということを行いました。
その時に暗殺者組織で教育を受けさせられていたレイちゃんがわたくしたちに恩義を感じてパーティーに合流してくれるようになります。
それによってパーティーとしての実力はさらに上がることになり、アプルラの町に着いた時も順調に活躍を重ねてAランクパーティーになることが出来ました。
ですが、わたくしたちが冒険者になってから1年が経過しても父上の病をどうにかする手段は一向に見つけることが出来ておりません。
わたくしたちは次第に焦りと苛立ちを覚えるようになっていきました。
ですが、そんな時に一人の少年と出会うのです。
彼の名前はフウマと言って、つい最近冒険者に登録したばかりの新人冒険者でした。
わたくしたちは彼が冒険者崩れに絡まれているところに偶然遭遇しました。
最初に彼を見たわたくしの第一印象は同い年くらいのかわいい新人冒険者さんといった感じでした。
面倒見がよく相応の正義感を持ち合わせているフィーリアさんが、そんな新人冒険者が絡まれているのを見て黙っていられるはずもなく、マルクスお兄様とともに彼を助けるべく率先して動かれました。
幸い争いに発展することはなく、わたくしたちの名前に委縮した彼らが身を引くことで事なきを得ることができました。
わたくしはそれで終わりだと思っていたのですが、彼がわたくしたちに恩を感じて、お礼をしてくれるという話になったことで、彼の異常性を知ることになるのです。
彼のスキルについてわたくしたちが把握しているだけでも合成魔法、死霊魔法、収納領域という超級のスキルをいくつも持っていました。
これでもわたくしとお兄様は王族であり、あらゆる情報が集まってくる立場におります。
フィーリアさんとフレンダさんだって上級貴族に属する方たちですので一般の貴族よりもはるかに情報を持っておりますし、レイさんだって以前の仕事柄、わたくしたちが知らないような裏の事情に精通しているため、このパーティーは情報という意味において国内でも屈指のものを持っているはずです。
そんなわたくしたちですら、フウマ様のどのスキルをとっても、『持っていると噂される』人物の情報すらありませんでした。
わたくしは危機感を覚え、彼を観察することに決めました。
彼はお礼としてわたくしたちの武器に魔法の武器のような効果を付与してくれたのですが、この能力が強力すぎたこと、彼が殊更その能力を隠匿しようとはしていないことが疑念が深まった理由です。
彼のように公にその能力を使っていたのなら、わたくしたちの誰も彼の存在を掴めていなかったことが不自然ですから。
その後、彼が見せてくれたスケルトンを生み出す術についてもその強力さに驚きを禁じえませんでした。
スケルトンを生み出す術というものは存在します。
わたくしに取っては忌むべき術法である『死霊魔術』がそれにあたります。
この魔術は自然の循環を教え伝える森羅教の教えに真っ向から対立する邪教が用いる術法で、死者の肉体を魔物化したうえで蘇らせ、意のままに使役するという悍ましいものです。
この術法に近い力を使うことも彼に対する疑念を深める一因となりました。
ですが、彼の使う死霊魔法は死体を使わず魔力からスケルトンを生成するという死霊魔術とは似ていても根本が大きく違うものだったため、疑念は表に出さずあくまで友好的に接するにとどめました。
彼の提案で、彼が作り出したストーンスケルトンにわたくしたちの荷物を運んでもらい、初心者向けと言われてこの町の冒険者があまり近寄らないダンジョンを攻略しようという話になるのですが、そこでもわたくしたちは彼の異常性をまざまざと見せつけられたのです。