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レストランにて




 クロヴィスが運転するクルマで、診療所からすぐ近くのレストランへ向かった。店には数分ほどで着き、クルマを下りてから店舗を見ると、そこそこ高級そうなレストランだった。


「――ではクロエ様、いってらっしゃいませ」


「はい。毎回クロヴィスには損な役回りをさせてしまい申し訳ないです」


「いえ、お気になさらず。クロエ様の足となれること、私にとって喜び以外の何物でもないのですから」


「そ、そうですか……。では、行ってきます――」


 俺が若干引いている傍で、ヴェロニカさんは露骨な表情で「きも……」と小さく呟いていた。


 ヴェロニカさんが同席を拒否した理由が分かった気がした。

 クロヴィスももうちょっと普通な感じだったらと思わずにはいられないな……。


 それから、俺達3人はレストランへ足を踏み入れた。

 すると、すぐにウェイトレスさんがやって来た。 


「いらっしゃいませ。3名様ですね。お席にご案内いたします」


 素早い対応、さすがは高級そうな店だ。

 しかしウェイトレスさんのレベルが無駄に高い。対応もよさそうだし、しっかりと教育が行き届いている証拠だな。


 ウェイトレスさんについていきながら、俺は店内を観察する。

 店内は落ち着いた感じの雰囲気で、居心地はとてもよさそうだった。

 あとは料理のレベルが高ければ完璧だ。まあ、そこまで味の質にこだわりはないんだけれども。


「こちらになります」


 テーブル席に案内され、俺達は各々席に座る。


「注文がお決まりになられましたらベルでお呼びください」


 そう言って、ウェイトレスさんは一礼してから去っていった。

 にしても質の高い接客だった。クロヴィスに近場の店って頼んだけれど、もしかしなくとも高級レストランだったようだ。


 ま、まあ、お金はクロヴィスから貰っているし、問題はないだろう。

 落ち着いて話せる場所だし、これはこれでいい。


「まずは腹ごしらえからにしましょうか。お話はその後でということで」


「そうだね。あ、でもいいのかな。なんだかこの店、とっても高級そうだけど……」


「大丈夫でしょ。クロヴィスが金出すって言って渡してくれたんだから。気にせず良いもの食べなよ」


 ヴェロニカさんは本当に気にした様子はなく、メニュー表を見始めた。

 他人のお金で飯が食えることの幸せは、どこの世界でも共通らしい。

 しかし、クロヴィスはいったいどこで稼いできているのだろうか。屋敷といい、土地といい、かなりの資産を持っていそうだが……。まあ、今はいいか。


「えーっと、アタシはこれと……これにしようかな」


「ゴルゴンゾーラパスタにサーモンのカルパッチョですか。いいですね」


 中々オシャレな組み合わせだな。到底俺には真似できない。

 てかゴルゴンゾーラってなんだよ。どっかの世界のラスボスにそんな名前のやつがいても違和感ないな。


「ほら、メニュー表」


「ありがとうございます」


 俺はヴェロニカさんからメニュー表を受け取り、隣に座っているエルーさんと一緒にそれを眺めた。


 どれもこれもイタリアンな感じのメニューだな。もっとこう、牛丼とかとんかつ定食とか豚骨ラーメンとか男心をくすぐる料理はないものか。――って、今の俺は女の子だった。こんな可愛い女の子の見た目をしてるのに無骨な料理を頼んだら怪しまれかねないな。ここはお上品な品を選ぶのが無難……と。


 えーっと、パスタ系にピッツァ系に……パエリア系か。なんだか聞きなれないニュアンス含む言葉が多くて目が痛いな。もっと直感的に分かりやすい料理名は……ないな。何とかと何とかの何とか煮込みとか、何とかと何とかの何とか和えとか。まあ、決まった料理名がないからこう表現するしかないんだろうけど。


「あ、それじゃあたしはこれにしようかな」


 エルーさんがメニューを差した。

 チーズパエリアだ。まだ聞きなれた名前なのでどんな料理かも大体想像がつく。


「じゃあ、私はこれにします」


 そう言って俺が差したメニューは、無難にミックスピザだった。

 なんか色々書いてあって最後にピッツァって表記になってるが、俺からしたらミックスピザにしか見えない。というか、面倒だからもうミックスピザでいいのだ。


「決まったね――」


 ヴェロニカさんは早速机に置いてあったベルを手に取り、ウェイトレスさんを呼んだ。


 程なくしてウェイトレスさんが注文を取りに来てくれた。

 俺達はそれぞれ決めたメニューを注文する。ウェイトレスさんは注文を受けてから厨房の方へ歩いていった。その所作も一々美しかった。


「――そういえば、ヴェロニカさんはレアさんとどうやって出会ったんですか?」


 なんとなく、俺はヴェロニカさんに尋ねていた。


「アタシとレア? う~ん、話すほどでもないと思うけど――」


「二人の馴れ初め……私も聞きたいかもです」


 遠慮がちに言うが、エルーさんも興味はあるようだ。


「いや馴れ初めって……。アタシとレアはそういう関係じゃないんだけど。――……まあ、いいか」


 ヴェロニカさんは嘆息しつつも、レアさんとの出会いについて話し始めた。


 小さな町で、無知なヴェロニカさんが商人に足元を見られていた時に、レアさんが横やりを入れてきたのがきっかけだったらしい。何となく感じていたが、レアさんは正義感が強い人のようだ。そして、そんなレアさんにヴェロニカさんは惹かれて一緒に行動するようになった、と。


「――特に面白くもない普通の話だったでしょ。ま、レアがいなかったらアタシがこうして生きていられたかはわからない。だから、レアには感謝してるよ」


「友人というのは些細なきっかけで出来るものですよね。運命的な何かがなくとも、縁というのは結ばれていくんだと私は思います」


 繋がりが、その人の存在を強固なものにしていく。

 生前の俺は、そんな些細なきっかけにすら恵まれなかった。

 いや、もしかしたら自分から閉ざしていたのかもしれない。

 どこかで殻を被っていたのだ。誰かとの繋がりを持つことを恐れていた。

 助けを求める相手もおらず、誰かに助けを求められることもない。

 それはきっと、人としてつまらない人生だったように思える。

 今更悔やんでも仕方のないことだが、過去の過ちは今に活かさなければ。


「――お待たせいたしました」


 と、ウェイトレスさんがワゴンで食事を運んできた。

 それから丁寧にテーブルに並べて、一礼した後去っていった。


「じゃ、食べようか。いただきます」


「「いただきます」」


 手を合わせ、頂きますをする俺達。

 それからみんなの口数は減り、食べることに重点を置きながら時が流れた。美味しいイタリアンな料理に舌鼓を打ちながら、これが美味しいだのあれが美味しいだの、他愛もない食事トークを交わしながら楽しい時間は過ぎていった。


 料理は、お店の高級感に負けず劣らず美味であった。

 とはいうものの、俺は食に理解のある人種ではないので、直感的な感想しか述べられないのだが。美味しいものは美味しいと言うだけである。


 エルーさんも満足したのか、俺の横の席で「はぁ~……美味しかった……」と言葉を漏らしている。


 ヴェロニカさんも同様に、美味しそうに食事をしていた。

 なんだか懐かしむような表情でカルパッチョを見ていたことだけは気になったが。


「ごちそうさまでした」


 俺は食後のあいさつを言った後、ペーパーで口を拭いた。

 どうやら食べ終わるのが一番遅かったのは俺のようだ。


 この身体になってから、食べる速度が落ちたように思う。というか口が小さいから、一気に料理を頬張れないのが要因か。あと胃袋も小さくてすぐにお腹いっぱいになってしまう。たくさん食べたいときは不便だが、すぐにお腹を満たせるのは利点……かもしれない。


「さてと、食事も終わったことだし、本題に入ろうか」


 ヴェロニカさんがそう言うと、食事で緩んでいたエルーさんの表情が引き締まった。


 ヴェロニカさんがレアさんに会えないと言った理由。

 そして、俺とヴェロニカさんがどういう存在なのか――。


「では、私の方から説明しますね――」


 そうして、俺は言葉を紡ぎ始めるのだった。

 


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