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決心




 その後、病室を後にした俺とエルーさん。

 レアさんのことで会話を交わしながら、廊下を歩いていた。


 レアさんは、目を覚ましたはいいがしばらくは安静にしておくようにと診療所の先生に指示されたらしい。あと3日程は病室のベッドにいなければならないとのことだった。それもそうだ。生きているのが不思議なくらい生命力を吸われていたようだしな。ハイエルフという種族じゃなければ、途中で死んでいただろう。


「お姉ちゃん、目を覚ましたばっかりなのにご飯はたくさん食べてたね。あれだけいっぱい食べれれば、すぐ元気になりそう」


「ですね。食欲があるのはいいことです」


 栄養を補充し、体力を回復させることが元気になる近道だろう。

 本当にきついときは食事がのどを通らないものだ。社畜事態にそういう経験があるからわかる。そんな時にはゼリー系のものを食べたりしていたが、こっちの世界にもあるだろうか。


「体力つけて、冒険者としての活動を再開できればいいんだけどねぇ。ブランクもあるだろうし、さすがにすぐにとはいかないだろうけど。――まあでも、目を覚ましてくれてよかったよかった」


 エルーさんは本当に安心したような表情だ。

 レアさんはコクマーから解放されてから1週間以上眠っていた。そりゃ心配で心配で震えるというものだ。妹ならなおさらだな。


「だけど急に目を覚ましたから先生も驚いてたね。昨日までは目覚める気配無かったから、あたしもびっくりしちゃった」


「きっと、エルーさんの想いが届いたんですよ」


「そうかな……? でも、そうだといいな」


 嬉しそうに言うエルーさん。

 これは昨日の白い少女のことは言わない方がいいか。といっても、説明しても信じてもらえないだろうが。そもそも俺にだってあのひとが何者かは正確に分かっていないわけだし、説明しようにもできない。


「――あれ、あの人は……」


 エルーさんが目の前を見ながらぽつりと言った。

 正面を見ると、一階の広間の壁を背にしてヴェロニカさんが立っていた。気配は感じたので来ていたことは知っていたが……。結局、二階にあるレアさんの病室には顔を出さずに、俺達がここに戻ってくるのを待っていたのだろうか。


「ヴェロニカさん」


 俺は声をかけた。すると、ヴェロニカさんはこちらにやってきた。


「レアさん、目を覚ましましたよ」


「知ってる。ひとまずは元気そうで安心したよ」


「あ、あの、お姉ちゃん、ヴェロニカさんに会いたがっていました。いっぱいお話ししたいことがあるんだって。よければ、今からでも会ってあげてくれませんか?」


 エルーさんがヴェロニカさんにお願いした。

 しかし、ヴェロニカさんは逡巡した後、


「ごめん。それはできない」


 キッパリと断った。


「そ、そうですよね……。もう時間も遅いし、明日にでもゆっくり……」


「エルー。アタシはもう、レアには会えない」


「え……?」


 ヴェロニカさんの言葉に、エルーさんは動揺した。

 かくいう俺も驚いている。毎日レアさんのお見舞いに来ていたのに、会うこともしないとはどういうことだろうか。


「ど、どうしてですか……? もしかして、あたしがいるから……?」


「エルーは関係ないよ。どっちかというと、アタシの問題かな。今のままの状態でレアに会ったら、決心が揺らぎそうだったから」


 そうエルーさんに言って、ヴェロニカさんは俺の方を見た。

 そこで俺は悟った。ヴェロニカさんは決めてくれたのだろう。もう一度使徒として魔神と共にあることを。


 きっと、今この場でそれをヴェロニカさんに聞くのは無粋だ。

 俺は彼女を信じて、彼女の思う通りに行動しよう。


「クロエの友人ならエルーには知る権利がある。というか、知ってなきゃダメだと思う。クロエが何者なのか、そして、アタシとどういう関係なのか。――でしょ、クロエ?」


「はい。どのみちエルーさん達には説明する気でいました。友人に隠し事するのは私もいい気分ではないので」


「そういうわけだから――っと、説明するにしてもここじゃ何だし、場所を変えた方がいいか」


「そうですね。立ち話でするものでもないでしょうし。丁度クロヴィスも来てるので、お話がてら夕飯にでも行きましょうか。クルマで行けばお店まですぐですからね」


「クロヴィスは同席させないで欲しいんだけど……」


 と、ヴェロニカさんが露骨に嫌そうな顔をした。

 まあ、こういう話の場に関係のない人物がいてはやりにくいことは俺にもわかっている。クロヴィスには申し訳ないが、もう一度待機していてもらおう。


「もちろん、クロヴィスには待機しててらもいますよ。エルーさんも、知らない男がいたら落ち着かないですよね」


「そ、それは……うん、そうかも」


 エルーさんは遠慮がちに言った。

 まだどこか困惑している様子だ。キッチリと説明して、理解を得られればいいのだが果たしてどうなることやら。とは言いつつも、俺はエルーさんならば大丈夫だと確信していた。


「――それじゃ、行こうか」


 こうして俺達は診療所を後にして、近くのレストランへ向かうのだった。


 

 



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