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魔術ひとつで




「――話は済んだ?」


 ヴェロニカさんに声をかけられ、俺は頷いた。

 依然としてコクマーは俺のシールドを突破しようと触手とその大きな手で攻撃を加えている最中だ。


「クロエ、アンタ神聖属性の魔術は……?」


「残念ながら、純粋なものは扱えませんね」


「そっか。でも、ミレーヌがエリックに足止めされてる今、あのコクマーはアタシらで倒すしかない。アンタのシールドのおかげでひとまずは無傷だけど、ずっとこのままってわけにもいかないよ」


「もちろんです。皆さんもいますし、コクマーから目を逸らすことは出来ません。そこで一つお願いがあるんですが、その神聖粉の残りを頂くことはできますか?」


「神聖粉を? それは構わないけどさ、こんだけの量じゃ武器に属性付与はできないよ?」


「完全に属性を与えることは出来なくとも、多少は神聖属性の加護を得られないかなって思いまして」


「……まあ、多少なりとも神聖属性は働くと思うけど……。それであのコクマーを倒せるかどうかはわからないね」


「なら、ものは試しですね」


「確かに、試すだけならタダか。それじゃ……はい、コレ。2代目の力、見せてもらうから」


 俺は頷いてヴェロニカさんから瓶を受け取った。

 瓶の中に入っている神聖粉を、黒曜丸の刀身に振りかける。だが、思った通り刀身全てに神聖粉をまぶすことは出来なかった。


「……なるほど、少ないながらも効果は期待できそうです」


「そうなの? まあ、アンタがそう言うのならそうなのかもしんないけどさ」


「とりあえず、試し斬りしてきます」


 俺はそう告げて、シールドの外へ出た。

 黒曜丸の刀身は、先の戦い時のヴェロニカさんの短剣のようには光っていない。だが、微かに神聖属性の恩恵を感じる。これなら、ダメージは与えられる気がするな。


「▼$▲※※△☆#◎★●$――!」


 シールドから出た俺に、コクマーはすぐさま喰らいついてきた。

 数多の触手が一斉に襲い掛かってくる。


「触手は斬れるから怖くないよ……!」


 無数の触手を、黒曜丸で八つ裂きにする。

 コクマーの攻撃手段自体は何ら問題はない。問題だったのは、本体に対して俺の攻撃が通らなかったことだ。とは言うものの、手立てはあった。とどのつまり。メインウェポンである攻撃手段が無効化されていただけだ。


「よ……っ!」


 触手を斬り落とされたコクマーが、再び触手を復活させる。

 その再生の途中に、俺は黒曜丸で斬り下ろした。


「△☆#◎★●$▼$▲※※△☆#◎――!?」


 今度はしっかりとダメージが通っているようだ。

 やっぱり少量の神聖粉でも効果はあるみたいだな。


「――っと、また黒い霧を生み出すつもりか」


 コクマーの腹から、黒い霧が発生し始めた。

 辺りに充満すると面倒なので、すぐに大きめの【ネビュラ・ホール】をコクマーの腹に放り込んでみた。すると、案の定【ネビュラ・ホール】は吸い込まれていったが、黒い霧の発生は収まった。どうやら中で術が機能しているようだ。


「おお、しかも中できいてるみたいだ」


 予想外にも、腹の中の【ネビュラ・ホール】がコクマーの魔力を吸い上げているようだった。そういえば、邪神の眷属は魔力によって生まれるとかなんとな言っていたな。もしかして、その根源を内側から吸い尽くせばこの怪物も機能停止するのではなかろうか。もっとたくさん【ネビュラ・ホール】をコクマーに喰わせてやれば勝手に自滅してくれないかな。


「よいしょ、と」


 俺は小さな【ネビュラ・ホール】をたくさん生成し、コクマーの腹の中に放り込んだ。


「◎★●$▼$▲※※△☆#◎――!?」


「おお、良い感じに苦しんでる。最初からこうすればよかったのか」


 とはいえ、さすがに腹の中に【ネビュラ・ホール】をぶち込むなんて方法、すぐには思いつかないよなぁ。今回は咄嗟に黒い霧の発生源を止めようとしてやったことだし。完全にマグレだな。


「$▼$▲※※△☆#◎●$▼$▲※※△――!?」


 あとは勝手に消滅してくれそうなので、俺はミレーヌさんの助太刀にでも行くとするか。


 と、思っていたら……。


「――チィ! このシスターだけだと思っていたが、向こうにもコクマーと戦える程の実力者がいたか……! 想定外ではあったが、まだやりようはある――!」


 どうやらエリックにコクマーが呆気なく倒されそうなことがバレてしまったようだ。


 エリックはすぐにミレーヌさんとの戦闘から一時離脱し、コクマーの方へ瞬間移動した。


「そこの小さいのも、コクマーの餌にしてやろう――!!」


 そしてエリックはコクマーの肩に乗り、すぐさま魔術を発動する。

 大きな魔法陣がコクマーの足元に展開して、魔力圧が周囲に広がった。


 ……というか、さっきエリックが言った小さいのって俺のことか。確かに背は低いけども、なんかアイツにそう呼ばれるのは不愉快だな。


「ククク……これでエルドラもお終いだ……!」


「何をするつもりです……っ!?」


 ミレーヌさんが叫んだ。

 しかしこの魔法陣、すっごく禍々しい。これが邪神の力なのか。


「お遊びはここまでだということだ。このコクマーはまだ、完全体とは程遠い存在。俺はカーリー様のお力によって、人知を超えた魔術を行使することが出来る。そして蓄えた魔力も充分に残っている。つまり、その術と魔力で、コクマーをより完全体に近づけることが出来るというわけだ……!」


 そう言って、エリックは魔術を発動させた。

 直後、コクマーは再び黒い霧に包まれた。

 そして――


「●$▼$▲※※△☆#※※△☆――!!」


 そこには、先程までとは見違えるほど巨大なコクマーが誕生していた。

 大きさはおよそ従来の3倍程はある。もはや大きく見上げなければ顔も確認できない程だ。ビルとでも対峙しているかのようだった。


「アーッハハハハハハ!! これでお前達は終わりだ! そのついでにエルドラの人間どもの魔力も吸い尽くしてやろう!! これでカーリー様完全復活に近づくというもの――!!」


 高笑いするエリック。

 確かに、これ程までの力を持った怪物を手にすれば、気分が高揚し非現実的な発言もしたくなるというものだ。ただまあ、このコクマーがいれば、エルドラが壊滅しても何らおかしくなさそうなのは非常に笑えないが。


「これは……完全体と遜色ない程の力です……! 仕方がありません……。聖王様、私にアレを使うことをお許しください――!」


 と、ミレーヌさんが何かを取り出した。

 それはロザリオだった。ただ何となく、アレをミレーヌさんに使わせてはいけないような気がした。とても嫌な予感がしたのだ。


 なので俺は、ミレーヌさんがロザリオの力を行使する前に――


「……【カオス・ロアー】」


 ちゃっかりと、混沌属性の魔術を発動させた。

 相手が相手なので、そこそこの魔力を込めてその一撃を放った。魔力の量的に言えば、恐らく【ゾラ・エクレール】並だ。つまり、かなりの威力があると言える。


 【カオス・ロアー】は神聖属性と暗黒属性の融合した魔術。その混沌の波動は、白と黒が混ざり合いながらコクマーに直撃した。


 そして、想像以上にその魔術は効果てきめんだった。

 コクマーは断末魔を上げる間もなく、あっさりと霧散してしまった。


「…………は?」


 エリックが素っ頓狂な声を上げる。

 それもそうだろう。あれだけ自信満々に終わりだなんだと言い放って造り上げた怪物が、たかだか魔術一つで消滅してしまったのだから。


 というか、こんなに簡単に倒せるのなら最初から【カオス・ロアー】を使っておけばよかったな。混ざりものの魔術だから、効果が薄いと思ったけど全然大丈夫だった。咄嗟の選択にしてはアタリだったようだ。


「な……な、なにが……起こった……?」


 状況を理解できずに、エリックはただ狼狽えていた。

 きっと今の彼は情緒が不安定になっていることだろう。あんなに昂っていたというのに、急にその要因が消え去ったというのだから。


 というか、後ろにいるみんなも口をポカンと開けて呆けていた。

 ただ一人、魔神の力を知るヴェロニカさんだけは苦笑いしていたが。


 とにかく、これでコクマーは完全に消滅したはずだ。

 これで、敵は本当にエリック一人だけになった。

 教団との戦いも、そろそろ終わりが近づいてきたようだ。

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