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ヴェロニカの過去③




 クラン・ルクステラを結成してから数ヶ月が経った。

 相変わらずヴェロニカはレアと共に冒険者として活動を続けている。

 ギルドでは、レアが近くにいれば魔族だなんだと絡まれることも少なくなった。それも彼女の冒険者ランクがBになったおかげだ。強者の仲間というだけで周りからの見方も変わる。とはいえ、身を隠すためのフードは一応被っていた。冒険者という誉れ高い職業に、魔族が属していること自体を嫌う人間もいるからだ。絡まれることも不愉快だし、面倒事は極力避けていきたいとヴェロニカは常日頃から考えている。


 そしてそんなある日、ギルドで二人に声をかけてきた者がいた。


「――なぁアンタら、邪神教団って知ってるか? 実は――」


 声をかけてきたのは、ヴェロニカたちと同じギルドで活動しているエリックという冒険者だった。あまり目立たない影の薄い青年で、何度か会話を交わしたことはあったが、そこまで親しい仲とは言えない。


 そして、ヴェロニカとレアの前で、エリックは話し始めた。


 エリック曰く、邪神教団とは邪神カーリーを崇拝する組織で、邪神の復活を目論むロクでもない連中らしかった。そんなことに興味のないヴェロニカは、エリックの言葉を話半分に聞き流していた。


「――で、その邪神教団のアジトが隣街のエルドラの近くにあるらしいんだよ。これはまだオフレコだが、数日中に冒険者協会から正式に教団を退治する内容の依頼が張り出されるらしいぞ」


「…………ふ~ん」


 エリックの熱弁に対し、ヴェロニカは興味なさそうにミルクを飲んでいた。邪神教団という名前、明らかに底辺の組織なようで鼻で笑いたいくらいだ。どうせしょうもないことをやってる連中なのだろうと、ヴェロニカは気にもとめなかった。


 だが、レアは興味津々だった。

 元々正義感の強いレアは、こういう悪者退治系の仕事は大好物なのだ。恐らく今回もヴェロニカの反対を押しのけて一人で参加する気だろう。一応止める気ではいるが、その行為は無駄であることをヴェロニカは理解していた。


「邪神教団! ねぇ行こうよヴェロニカ! 悪者退治!」


「アタシはパス。そんな明らかに三下みたいな宗教団体、街の衛兵にでも任せとけばいいんだ。どうせくだらないことしてるだけに決まってる」


「ええ~、邪神だよ? 教団だよ? 絶対すごい悪いことしてるわよ? 冒険者として倒さなきゃ名折れじゃない?」


「そう思うのはレアだけだよ。その依頼に喰いつくのがいったいこのギルドに何人いることやら。ハイドウルフでも見つけて倒してた方が稼ぎとしては絶対効率いいって」


「まーたヴェロニカはそういうこと言う! 効率ばっかり気にしてたら立派な冒険者にはなれないわよ? とにかく、私は行くからね。悪者退治!」


「はいはい。勝手にどうぞ。Bランク冒険者様がいればそのなんちゃら教団も簡単に壊滅するでしょ。アタシみたいなDランクは足手まといだから大人しくしとくよ」


「む~、相変わらずウチの唯一のクラメンはノリが悪いわね。――ま、いいか。ヴェロニカがこの手の依頼を渋るのはいつものことだし」


「さすがわかってるじゃん。伊達に長年一緒にやってきただけある」


「まあね。――それでエリック、あなたはその依頼に参加するの?」


 レアは声をかけてきたエリックに問うた。


「ああ、もちろん。それと、ここを拠点にしているBランクの冒険者達全員に声をかけてみるつもりさ」


「それは素敵だわ! みんなで悪者を一網打尽ね!」


 嬉しそうに言うレアを見ながら、ヴェロニカは嘆息した。

 しかし、依頼を受けるのは個人の自由だ。同じクランに在籍しているとはいえ、それをどうこうする権利はない。レアがやりたいというのなら、ヴェロニカに止める理由はなかった。


「邪神教団、ねぇ……」


 この世界にも、様々な人たちがいる。

 邪神カーリーに関する歴史も図書館に行けば調べることは出来るだろう。事前にそういう下調べをレアがするとは思えないが。


 大陸にはラーシバル聖国という宗教国家もある。聖王マリアを神と崇め、彼女を中心に動く国だ。ある意味では、あの国も教団のようなものなのかもしれない。大きな違いは、邪神カーリーは現世に存在しない偶像だが、聖王マリアは実際にこの世に存在しているということだろう。


 何かに縋り、奉ること。

 誰かを頼り、寄り添うこと。

 似ているようで、やはりどこか違うのだ。

 きっと魔界でのヴェロニカたちは後者だったように思う。縋るわけでもなく奉るわけでもない。黒の魔神という大きな柱を頼り、みんなで寄り添ったからこそ最悪な世界で戦ってこれた。そういう風に誰しもがなれたのなら、戦争なんてものはなかったのかもしれない。


「それじゃあ、アタシはそろそろ宿に戻るよ」


 そう言って、ヴェロニカは席を立った。

 もう外は真っ暗だ。もうすぐギルド内はうるさい連中の宴会会場になる。ヴェロニカはそういう浮ついた空間が苦手なので、いつも一人早く退散していた。


「わかったわ。私はもうちょっとだけギルドで情報収集しておくわね」


「うん。レアも程々にして帰りなよ」


「わかってるって。それじゃあ少し早いかもだけど、おやすみなさい」


「おやすみ」


 そうして、ヴェロニカはその日、一足先にギルドを後にするのだった。


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