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霧中の再会




 異形の怪物は、コオオォォォォォという不気味な音を奏でながら俺達の方を見ている。まるで何かを吟味するかのようだ。 


「――オイオイオイオイクロエ! 下がってろって言うが、アイツと一人で戦うつもりか!?」


 アントニオさんが狼狽えながら叫ぶ。

 

「はい。アレはどう見ても普通の魔物じゃありません。ここは私に任せて皆さんは退いてください――!」


「私に任せてって……あんなバケモン、さすがのお前でもどうにもならないだろ――!?」


 アントニオさんが叫ぶと、異形の怪物から触手が伸びてきた。

 先ほどパラライズリザードを捕食したあれだ。先端が鋭い爪になっていて、得物を一突きし仕留める。凶悪な攻撃手段だ。


 異形の触手の先にいたのはエルーさんだった。

 まだパラライズリザード達がいる状況で、彼女を狙ってきた……?

 無差別なのか、それともエルーさんに何かあるのか、それはわからない。

 とにかく、エルーさんをやらせるわけにはいかない。

 

「――ッ!」


 咄嗟に【黒曜丸】を召喚し、エルーさんに襲い掛かろうとした触手の1本を斬り落とした。直径約30cmはあろうかという図太さに違わぬ硬さだ。やってみないと分からないが、普通の刀では斬り落とせなかったかもしれない。


「クロエちゃん……っ」


「大丈夫ですか、エルーさん!」


「あ、アタシは大丈夫……。――!? クロエちゃん、また触手が――!」


「――ッ!」


 再び異形の触手はエルーさんを狙って飛んできた。しかも今度は1本じゃない。


 俺は次々とその触手を斬り落とす。にしてもいったい何本の触手があの異形の腹の中には備わっているんだ。もしかして無限に湧くタイプの触手じゃないだろうな……!


「仕方ない……! 【ラ・エクレール】!!」


 触手の猛攻が止んだその一瞬の隙に、俺は黒雷を異形目掛けて放った。

 雷が落ちたかのような轟音を響かせ、俺の魔術は異形の直撃した。

 【ラ・エクレール】は邪竜ですら一撃で倒せる威力を誇っている。その火力をモロに喰らったのだ。倒せないにしてもダメージは入っているはず……。


「――! きいていない……!?」


 異形の怪物は【ラ・エクレール】を喰らってなお無傷だった。

 やはり、普通の魔物ではない。もしや、魔術を無効化する能力でも備わっているのか。


「○▼$※△☆#▲※◎★●――!!」


 異形は不気味な呪文のようなものを唱え始めた。

 まさか、魔術まで行使できるというのか。

 範囲攻撃が飛んでくるとしたら、みんなを守るにはシールドを張るしかないが――。


「§ΘΩΠЖДμζ――!!」


 異形の怪物は、呪文を唱え終え――

 どす黒い霧のようなものを辺りにまき散らした。

 おかげで視界が悪い。相手の位置すら把握しづらくなってしまった。


「こうなっては上手く守れない……。なら、シールドをみんなに……!」


 俺はドーム型のシールドを展開し、みんなを囲った。

 強度もかなり上げて作ったシールドだから、これでひとまず触手攻撃は大丈夫なはずだ。


 あとはこの黒い霧をどうにかしなければ。

 魔術によって作られた霧ならば、【ネビュラ・ホール】で吸い込めるかもしれない。そう思い、俺はすぐに【ネビュラ・ホール】を生み出した。


 だが、黒い霧は一向に収まる気配がない。

 【ネビュラ・ホール】はしっかりと霧を吸い込んでいる。

 となると考えられるのは……。


「継続的に霧を発生させているのか……?」


 一時的な魔術ではなく、この場に付与する系の魔術のようだ。

 この視界の悪さであの速度の触手攻撃なんて飛んできたら、エルーさんを守ることは困難だった。先にシールドを展開しておいてよかった。


 この黒い霧がいかに厄介だろうとも、俺に向かってくる攻撃ならば何の問題もない。目で見えないのなら音を聞けばいい。音も聞こえないなら殺気や魔力の波動を感じればいい。エリーゼさんから教わったことだが、本当にどういう状況になるか分からないから習っておいてよかった。


「そこか――!」


 俺を狙っていた触手を斬り落とす。

 飛んできた方向的に、西の方角に敵はまだいるようだ。

 俺はその方向へ再度【ラ・エクレール】を放った。

 雷撃の衝撃で一瞬黒い霧が晴れる。

 おかげで目視でも異形の怪物を確認できた。


「魔術がダメなら物理的ダメージを与えるまで――!」


 俺は【黒曜丸】を手に、異形へと肉薄した。

 黒い霧が再び敵を包み込むその前に、俺の刀身が異形の首筋に届く。

 手応えはあった。異形の首筋に俺の攻撃は届いていた。

 だが、異形の怪物はダメージを負っているようには見えなかった。


「物理的攻撃もきかないのか……」


 俺は一度異形の怪物から距離を取る。

 辺りは依然として黒い霧のせいで視界が悪い。

 シールドを展開したので、エルーさん達は無事だとは思うが、直に確認できていないので心配だ。


 こうなったら色々な手段を片っ端から試してみるしかない。

 とりあえず、黒雷と刀による攻撃はきかないことがわかった。

 先に【サード・アイ】のアナライズ機能で異形の弱点を調べる方がよさそうだ。となると問題はこの黒い霧だな。【サード・アイ】は視界に頼る魔術だから、こうも視野が狭いと役に立たない。


 となると、やはり大型の【ネビュラ・ホール】を作り、黒い霧を無効化し続ける方が良いだろう。打つ手はまだいくらでもあるが、一個一個試していたらキリがないからな。


「この手の敵は初めてだから、やりづらいな……」


 邪竜のように【ラ・エクレール】で片がつけば楽なのだが。

 この世界にも色々な魔物や怪物はいるということか。あれが生物かどうかは甚だ疑問だが。


「さてと、やりますか――」


 と、俺がそう呟いた瞬間。

 何かが俺の横を高速で走り抜けていった。

 エルーさん達はシールドの中だから違うだろう。

 となると、いったいさっきのは何者なのか――。


「☆#▲※◎★●――!?」


 異形の怪物から悲鳴のようなものが聞こえてきた。

 俺の攻撃を喰らってもなんともなかったのに、いったいこの一瞬で何が起きたというのか。


「誰かいるんですか――!?」


 俺は叫んだ。

 黒い霧のせいでその何者かが確認できない。

 動きの感じ的に、恐らく人のはずだが……。


「――まさか、アンタが巻き込まれてたとはね」


「――!?」


 薄暗い霧の中から現れたのは、なんとヴェロニカさんだった。

 早朝ギルドで会ったばかりだったが、こんなところで再開するとは想定外だ。


 戦闘時だからか、ギルドの時とは違い、ヴェロニカさんはフードを脱ぎ、顔を露わにしている。ミディアム系の紫髪とクールな表情がとても印象的だ。


「ど、どうしてここにヴェロニカさんが……」


「その話は後。今はあいつを倒すことが先決でしょ」


「わ、わかりました。ですが、あの異形の怪物、攻撃が通らないんです。【サード・アイ】のアナライズ能力で弱点を探りたくとも視界が悪いと効力が薄いのでまずはこの霧をどうにかしようと思っていますが――。……ヴェロニカさんは何か知っていますか?」


「知ってる。アレには普通の攻撃はきかない。唯一ダメージを与えられるのは――」


 と、ヴェロニカさんが話している途中で異形の触手がこちらに襲い掛かってきた。


 俺は咄嗟に【黒曜丸】で触手を斬り落とした。

 どうやらヴェロニカさんはさっきの攻撃に対して反応できていなかったようだ。ビクっと身体を震わせることしか出来ていなかった。


「た、助かったよ……。今のアタシじゃ、この視界であの攻撃は避けれないから……」


「いえ、ヴェロニカさんが無事でよかったです。それで、異形への攻撃手段は――」


「これ。神聖属性の攻撃ならあいつにダメージを与えられる」


 ヴェロニカさんが見せてきたのは、真っ白な粉だった。

 瓶の中に大量に入っており、まるで塩や砂糖のようだった。


「神聖粉って言ってね、コレを武器に付着させることで神聖属性を付与することが出来るんだ。ま、残念ながら使用回数は限られてるけど。さっき見てたと思うけどその分、あの異形……コクマーには効果絶大だよ」


「さっきの異形の雄叫びは神聖属性による攻撃で……。というか、あの異形の怪物の名前ってコクマーって言うんですね」


 名前があったとは驚きだ。

 まだまだこの世界には色んな謎があるな。


「アタシはずっと前からアレを追っていた。エルドラに来たのもそのため。出来うる限り情報は集めたし、対抗策も見つけだした。あのコクマーを倒すために、全てを費やしてきた」


「どうしてそこまで……。いったい、あの異形に何が――」


「――必ず助けるって決めたから」


 そう言って、ヴェロニカさんは自身の短剣に神聖粉をまぶした。

 すると、短剣は白く光り出した。神聖属性を付与出来た証拠だろう。


「……これはアタシの意地。だから、アンタは手を出さないで。コクマーは……ここでアタシが倒す――!」


「ヴェロニカさん――!!」


 暗闇の中に、ヴェロニカさんは消えていった。

 あの怪物に、一人で立ち向かおうというのか。

 しかし、コクマーという名前を知っているということは、あの異形の怪物がどういったものなのかをヴェロニカさんは知っているということだろう。浅からぬ因縁があるようだが、いったい彼女に何があったのだろうか――。



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