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異形の怪物




 岩肌の隙間から、魔物の雄叫びが聞こえてくる。

 ここからではわからなかったが、どうやら奥が空洞になっているらしい。洞窟のようになっているその先に、魔物が住み着いているようだ。


「みんな、警戒するんだ……!」


 ロイドさんはそう指示し、チャクラムを構えた。

 俺も刀を抜き、いつでも戦闘できる態勢を整える。

 この雰囲気、現れるのは恐らく雑魚モンスターではない。

 それがわかっているのか、アントニオさんもいつになく真剣な表情だ。

 エルーさんも、今度はしっかりと杖を握っている。


「さぁて、なにが出てくるかねェ……」


 アントニオさんがアックスを構え、臨戦態勢になった。

 そして、その直後――ソレは現れた。

 

「グオオォォォ――!」


 体長3メートルくらいで、四足歩行の怪物。

 ずんぐりむっくりした身体からは、ビリビリと電気が奔っている。

 大きな顎に、短い手足。灰色の肌は、見るからに硬そうだ。


「あれは……パラライズリザード!? どうしてこんなところに……!」


「ハッハ! この辺りに巣でもあるんじゃねェか? しかしありゃ、討伐レベル5の通常種じゃないな。身体も大きいし、何より目が完全にキマってやがる。なんであんなに興奮してんのかはわかんねえが……」


「いつの間にか囲まれてしまいましたね……」


 気づけば、周りにパラライズリザードが10体くらいいた。岩肌の隙間まで確認していなかったからわからなかったが、巣穴の入り口はそこら中にあったようだ。


 群れの親玉は最初に現れたあのデカいやつだろう。ボス以外は恐らく通常サイズのようだが、それでも討伐レベル5ということは冒険者ランクEの俺達では少々荷が重い。


 そして、困ったことにパラライズリザードの数はさらに増えていった。岩肌の隙間から現れているところを見るに、あの奥に彼らの巣があるのは間違いなさそうだ。


「に、逃げ道もないみたい……! どうしよう、クロエちゃん……!」


「これは……戦うしかなさそうですね。エルーさんは私達の後ろから援護をお願いします」


「う、うん、わかった――!」


 ロイドさんとアントニオさんの実力があれば、恐らく通常サイズのパラライズリザードには勝てるだろう。問題は数が多いのとボスがいるということ。それにこの統率力、あのボスがいるからこそのものだと推測できる。


 となれば、必然的に真っ先に狙うべきはボス個体だろう。突破口を開くにしてもこの包囲網を抜けるにしてもボスを叩くのがよさそうだ。


「こうなったら皆で一斉にあのデカいヤツを叩こう。恐らくあのデカいパラライズリザードがボスだ。ヤツを倒し、敵の統率力を奪うしかこの局面を返せる手段はない」


 俺が言いたかったことをロイドさんが代弁してくれた。

 さすがは眼鏡属性。洞察力はかなりのものだ。


「……ロイドの言う通りだな。よぅし、クロエ、エルーもいいか? デカブツ目掛けて一斉攻撃だ――!」


「はい――!」


「任せて!」


「っしゃ行くぞォ!!」


 アントニオさんを先頭に、俺達はボス個体に向かって突撃した。

 ロイドさんのチャクラムが投擲され、パラライズリザードの腹を抉る。

 そしてその隙に、アントニオさんのアックスがパラライズリザードの頭に大きな一撃を与えた。間髪入れずに俺は刀で一閃する。切れ味は大したことないが、それでも精神世界で極めに極みぬいた得物だ。硬い皮膚であろうと切り裂く自信はあった。


「グオオオォォ――!?」


 明らかに苦しそうな声を上げるパラライズリザード。

 だが、すぐに周りにいた小型のパラライズリザード達が俺達に襲い掛かってきた。


「広範囲魔術だってお手の物なんだから――!」


 エルーさんが杖をかざし、魔術を発動させる。


「【エアロ・サークル】!!」


 風の魔術が、パラライズリザード達を押し返す。

 この隙があれば、あのボス個体に止めを刺すことが出来る――!


「アントニオさん、ロイドさん!」


「わかっている! このチャンスを逃すわけにはいかない!」


「もちろんだぜ! さっきの攻撃だけじゃ致命傷は与えられなかったみたいだからな。もう一度叩き込んでやるよ!」


 ロイドさんのチャクラム攻撃、魔術攻撃に合わせ、アントニオさんもアックスを大振りで振り下ろした。脳天直撃。パラライズリザードはよろめいた。


 そして、俺は大きく跳躍し、さらに敵の頭に刀を突き刺した。

 アントニオさんのバカ力からの一撃に、ダメ押しの追撃をした形だ。さすがのボス個体でも、これは致命傷だろう。


 すぐに飛び退き、パラライズリザードの様子を伺う。

 すると、身体を揺らし……パラライズリザードは倒れた。


「やったか……?」


 ロイドさんがフラグが立ちそうな危ない発言をしているが、ボス個体は起き上がってくる様子は無い。さすがのセリフも、ここでは効果を持たないか。


「ボスは倒せたみたいだな。――……しかし妙だ。周りのパラライズリザード達、なんだか様子がおかしくねェか? なんつーか、怯えてる……みたいな感じだぜ」


 アントニオさんに言われて周りのパラライズリザード達を見ると、確かになんだか様子が変だった。エルーさんの【エアロ・サークル】で一時的に弾かれたとしても、もっと攻勢に転じていてもおかしくなかったはず。おかげで楽にボス個体を倒せたのだが、なんだか釈然としないな。


「ちょ……! パラライズリザード達が――!」


 エルーさんが叫ぶ。

 パラライズリザード達が巣穴から逃げ出してきた。

 そして、俺達を囲んでいたやつらも、何故か巣穴とは逆の方へと逃げていく。


「どうなっているんだ……? ボスを倒されたのに報復するでもなく僕達から逃げるなんて……。それに、何故巣穴からパラライズリザード達が逃げ出してくる? あの中で何が……」


 と、岩陰からさらにもう一体パラライズリザード達が出てきた。

 が、その個体は突然宙に浮き、そして消えてしまった。

 何かに貫かれたように見えたがいったい……。


「み、見ろ……! 何か出てくるぞ――!!」


 岩陰から新たに表れたのは、異形の怪物だった。

 俺達がさっき倒したボス個体よりもでかい異形。まるでローブを着た老魔術師のような佇まいで、不気味を体現したかのような姿だった。極めつけには人間のような顔をしていて、気持ち悪くおぞましい。見るだけで背筋が凍るようだ。さらに、異様に手と爪が大きく、アンバランスな体躯だった。さっきのパラライズリザードはあのデカい爪で串刺しにされ、宙に浮いたようだ。


「オイオイオイ……。あんなのがいるなんて聞いてねェぞ……!」


「あれは明らかにヤバすぎる……! というより、魔物なのかアレは!? あんな異形、見たことも聞いたこともない!」


 ロイドさんとアントニオさんは狼狽えている。

 しかしそれ以上に、エルーさんお様子がおかしい。

 さっきから顔をゆがませて異形の怪物を見つめている。


「――う、うそ……。お、お姉ちゃん……? どうしてアレからお姉ちゃんを感じるの……?」


 エルーさんは顔面蒼白になり、わなわなと震えていた。

 あの異形に向かって「お姉ちゃん」と言っているのが気になるが、今は聞いている余裕はなさそうだ。


 とにもかくにも、まずはあの異形の怪物を打倒する方が先だ。

 アレは明らかに普通じゃない。魔物のヌシとか、そういう次元を超えている。周りに合わせて戦うとか、そんな悠長なことをしている余裕はなさそうだ。


「――○%×$☆♭#▲?※!!」


 異形は、言葉にならない声を発し何かを身体がから伸ばした。

 それは触手なようなもので、パラライズリザードを捉えた。

 そして、パラライズリザードは異形の元へ引き込まれ、その腹の中に消えてしまった。


「魔物を食った……?」


 一見して、そうとしか見えない行為。

 しかし、食べたというよりかは取り込んだと言った方が正しいかもしれない。咀嚼するような音もしなかったし、何より吸い込まれていったのは腹だ。口じゃない。


 異形はこちらを向いた。

 正面から異形を見ると、腹には大きな穴が開いていた。その中は真っ黒で、まるでブラックホールのようだ。あの中に魔物を取り込んで力を蓄えているとでもいうのだろうか。


「これは、まずいかもしれないな……。恥ずかしい話だが、足が動かないんだ。僕としたことが、怖くて動けなくなってしまったらしい」


「いや、あれはヤバイ。ヤバすぎる。俺様でさえもビビッて戦おうという気にすらならねェ。というか、そもそもまともに戦うことが出来るのかも怪しいぞ……」


「あ、ああ……どうして……――」


「……っ」


 みんな戦意喪失してしまっている。

 あの異形は、それだけ異質だということか。


 アレは、洞窟の巨大ムカデとは違う。

 加減は出来ない。少しでも油断したら、仲間がやられてしまうかもしれない。


 せっかくエルーさんと仲直りできたけど、それでも、俺は皆を守りたい。

 軽蔑されてもいい。嘘つきだと罵られようと、みんなが無事ならそれでいい。見殺しにする方がもっと嫌だ。


「……皆さん、下がっていてください」


 そう言って、俺は異形の前に出た。

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