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パーティ結成




「――ありがとうございました」


 俺はカウンターのお姉さんにお礼を言い、ミルクの容器を返却した。

 ヴェロニカさんとの初めての会話は、そこそこの手応えがあった。

 我ながら、頑張った。今は自分を褒めてあげたいね。


「でも、やり残したことってなんだろう……」


 ヴェロニカさんは真剣だった。

 冒険者としてのヴェロニカさんがやり残したことだから、きっと力を取り戻してからではダメなんだろう。


「ま、まあ、今は大人しく待っておこう。というより――」


 今日の本題はこっちだ。

 エルーさんとの仲直りである。

 急な接触で驚きはしたものの、こっちの問題は何一つ解決していない。


「――いたいた。クロエだな。ちょっといいか」


 ミルクをカウンターのお姉さんに返した後、どうしたものかと考えながらギルド内を歩いていると、不意に声をかけられた。


「あなたは――レイラさん? どうしてここに?」


 声をかけてきたのは、冒険者資格取得試験の時の試験官であるレイラ・デュランさんだった。当たり前だが今日は冒険者らしい格好で、試験官の制服ではない。


「私がここにいたらおかしいか? 一応私も冒険者なんだ。冒険者協会に務めているとはいえ、本業はこっちだよ」


「あ、いえ……そういうつもりでは。――それで、要件は何でしょう?」


「それなんだが、ちょっとお前に頼みたい仕事があってな。掲示板には載っていないんだが……っと、これだ」


 そう言って、レイラさんは依頼書を取り出した。


「ただの採取依頼だ。納期が明日までなんだが、急に協会の仕事が入ってしまってな。誰かに頼めないかと探していたところお前がいたというわけさ」


「採取依頼……」


 今日に限ってなかった採取依頼。俺が今求めていた採取依頼。 

 まさか、こんな棚から牡丹餅な展開が起ころうとは。

 俺はレイラさんから依頼書を受け取り、中身を確認する。

 どうやら普通の採取依頼のようだ。これなら問題ないだろう。


「内容は見ての通り、薬草を取ってくるだけでいい。場所は依頼書にも記載があるが、西の外れにある森だ。ここからそう離れていないし、今日中に納品できるだろう」


「内容はわかりました。ですが、どうしてこれを私に?」


 タイミングが良すぎて勘繰っちゃうな。

 いやまあ、たまたまだろうけども。


「採取依頼だからな。新人向けだと思ったんだ。お前がEランクだということも知っていたし、丁度いいと思ったんだが……。どうだ、引き受けてくれるか?」


「そういうことでしたら……わかりました。私も丁度採取の依頼を探していたのでありがたく受けさせていただきますね」


「ありがとう、助かった。あと、報告と納品は従来通りギルドの受付にしてくれて構わない。それじゃあ頼んだぞ」


 レイラさんはそのままどこかへ行ってしまった。

 さて、これからどうしようか。せっかく簡単そうな依頼も見つかったことだし、エルーさんが今日もギルドに来てくれるといいんだけどな。


 今後のことを考えつつギルドを見渡していると、見覚えのあるスキンヘッドが目に入ってきた。あの世紀末感、アントニオさんで間違いない。


 俺が声をかけようと近づくと、先にあちらが気づいて手を振ってきた。


「よお! クロエじゃないか! 当たり前だがお前さんも合格してたんだな!」


「はい。おかげさまでなんとか。Eランクですけどね」


「ダッハッハ! いいじゃねぇかEランク! ま、かくいう俺様もEランクだがな!」


 言いながら、俺の背中をボンボン叩いてくる。

 無駄に筋肉があるからか、一々痛い。


「っと、そういやさっきから気になってたんだが、その手にあるのは依頼書か?」


「ええ。レイラさんから頼まれたんです。ただの薬草採取クエストですけどね」


「ほほう。採取依頼か。だがなクロエ、たかが採取クエストだと舐めてかかっちゃいけないぞ。いつどこでどんな魔物と遭遇するか分からないからな。特に採取系の依頼は新米が好んで受けるから死人が一番多いんだ。調子に乗って深入りした結果、ヌシとばったり出会って殺される。そんな話はそこいら中でよく聞くぜ?」


「は、はぁ……」


 急に真顔で真面目な話をし始めたぞこの人。

 油断したら危ないというのは、この前の仕事でも理解した。

 新米冒険者は経験が浅いから、どこまで踏み込んでいいのかわからないのだろう。弱い魔物ばかり倒していると、自分の実力を勘違いしてしまう。そうして自分の腕を測り間違え、そういった事故が起こる。アントニオさんが言わんとしていることはよく分かる。


「とまあ、そういうわけだからその仕事、俺も一緒に行くぜ。構わねえよな?」


「えと、それは……」


 本当はエルーさんと行きたいが……。

 そもそも、今日もエルーさんがギルドに来るとは限らない。

 昼前くらいまで待ってから仕事に行こうと思っていたけど、今回はアントニオさんと依頼をこなしてもいいか。


「わかりました。一緒に行きましょう」


「よっし! そうこなくっちゃな! おい、そこのお前も一緒にどうだ?」


 と、アントニオさんが声をかけた先にいたのは、眼鏡をかけたチャクラム使いの冒険者、ロイドさんだった。細身で優男という印象だ。彼は最終試験の時に一緒に戦ったのでよく覚えている。


「また君か……。というかだね、僕にはロイドという名前があるんだ。試験の時も言っただろう」


 言いつつ、眼鏡クイっするロイドさん。

 あれ癖なのかな。どうでもいいけど。


「ああ、ロイドだったかすまんすまん。それで、お前さんも冒険者になりたてなら簡単な依頼からやりたいよな? どうだ? 俺とクロエのクエストに一緒に行かないか?」


「ふむ……。内容は?」


「採取依頼さ。それも薬草だ。初心者にはうってつけだと思うが」


「確かにうってつけだ。それに、君達の実力は試験の時に見ているから信頼できる、か。――わかった。僕も同行しよう」


「おーっし、そうこなくっちゃな! これで3人か。あとはあの魔法使いの嬢ちゃんでもいれば完璧なんだが……」


 言いつつ、アントニオさんはギルド内を見渡した。

 魔法使いの嬢ちゃんとは十中八九エルーさんのことだろう。

 だが、あの大きな帽子を被ったエルーさんは見当たらない。


「ま、そんなタイミング良くもいかねえか。クランでも結成すりゃ話は別だろうがな」


「なら、今回はこの3人で仕事をするわけだね。まあ、薬草の採取に3人もいるのかは疑問だけど……」


「なーに、人数が多いってのはいいことだ。なにはともあれ、これでパーティ結成完了だな。報酬は山分けになっちまうが初めてなら丁度いいだろう!」


 ダッハッハと笑いながら、アントニオさんはいつものペースでパーティをまとめていく。なんかこの人リーダー適正高そうだな。そういうところは見習っていかなければならないか。性格は真似したくはないが。


 そんなこんなで、俺、アントニオさん、ロイドさんの3人で、採取依頼へ赴くことになるのだった。

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