悶絶少女
新米冒険者のエルー・ミュールは、宿の自室で悶絶していた。
もう眠らないといけない時間だというのに、とある女の子のことが頭から離れないのだ。エルーにとって、凛々しく戦うあの少女はまるで王子様のようだった。
「うぅ……まさか女の子にときめいちゃうだなんて……」
ベッドの中で、エルーは頭を抱えた。
エルフ族はその性質として同性を恋愛対象に見ることが多い種族だ。
森の里でも、同性でよろしくやっているカップルは腐る程いた。
だがまさか自分がそっちのタイプだとは思っていなかったエルーは、想像以上の衝撃に頭を金づちで殴られたかのようだった。
「しかも年下の女の子だよ……? ありえないってぇ!」
ベッドの上をゴロゴロと転がりながら、エルーは悶えた。
思い出すのは、小さい身体で巨大な魔物に立ち向かう勇敢な姿。
片目だけ赤いという、見た目が若干ミステリアスな女の子。
名は、クロエ・ノル・アートルム。
「もうほんと、かっこいいのか可愛いのかわからなくなっちゃった……」
見た目はとても可愛らしい。それは間違いない。
それでいて刀を持って戦うさまはまさに王子様。
強敵相手に恐れも怯みもせず自分を守ってくれた少女に、エルーはドキドキさせられてしまっているのだ。
「はぁ……。でも、最後らへんは緊張しっぱなしで冷たい態度取っちゃったなぁ。というより、上手く喋れなかったというか……。クロエちゃん、優しいからきっと気にしてるよね……。ああもう、あたしのバカバカバカ! なんでもっと平静を保てなかったんだっ」
クロエが自分に気を使ってくれていたのは見て取れた。
だというのに、エルーは勝手にときめき1人緊張しっぱなしなだけだった。よくあの精神状態でまともにクルマを運転出来たなと、あの時の自分を褒めてあげたいくらいだ。そこの一点だけに尽きるが。
「ちゃんとお礼を言わないと……。いくら嫌われても、これだけは言わないと、だよね……」
冒険者資格取得試験の時も、初の仕事の時も、クロエがいなかったら上手くやれていなかったのは火を見るよりも明らかだ。
今思えば、最終試験の時のクロエも凄かった。
だが、巨大ムカデと戦っていた時の方がもっと凄かったように思える。
もしかしたら、彼女はまだ力の全てを出していないのかもしれない。
なんとなく、エルーはそう思った。クロエの本当の実力は、あんなものではないのだと。
「何者なんだろう、クロエちゃん……。気になる。気になるけど、今はそれ以上に感情の整理をしないと……」
このままでは次にクロエと顔を合わせた時に、咄嗟に逃げ出しかねない。
もしまた同じような事があったら、もう二度と一緒に仕事を出来ないかもしれない。それは嫌だと、エルーは強く思った。
「せっかく友達になれたのに、これっきりなんて嫌だな……」
エルーは純粋に、クロエという少女との繋がりが絶たれるのが怖かった。
特別な関係になりたいだとか、そういうのではなくただ普通に友達として、冒険者の仲間としてこれからも付き合っていきたい。
月明かりが差し込む部屋の中で、エルーは毛布を顔まで被った。
鳴りやまぬ鼓動を無理やり鎮め、明日また冒険者ギルドへ行こうと決心するのだった。




