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初仕事




 ――数日後。


 冒険者証を無事にゲットした俺は、試しに依頼を受けるべく再び冒険者ギルドへやって来ていた。登録されたランクもEランクで、Dランクのヴェロニカさんと近い。これなら一緒に依頼をこなしましょうってお誘いも出来るはずだ。あとは俺のコミュニケーション能力にかかっている。


「ヴェロニカさんに声をかける前に、冒険者について色々と知っておかないといけないよねってことで――」


 いきなり声をかけるより、冒険者として軽く活動をしてからの方が相手との距離も近くなるだろう。時間はたっぷりとあるのだ。焦らずに外堀から埋めていくこととがお近づきへの第一歩のはずだ。


「Eランクでも受けれる依頼は――」


 掲示板を眺めつつ、依頼の内容を確認していく。

 多いのは、採取系の依頼だ。それも、魔物の素材とかではなく薬草とか鉱石とかそんなのばかりだった。Eランクだから仕方がないが、地味な仕事ばかりだと思った。


「これが下積み時代か……。いやまあ、別に冒険者で一花咲かせようってわけじゃないからいいけどさ……」


 ぶつぶつと一人怪しく呟きながら、俺は掲示板を吟味する。

 すると、唐突に肩を叩かれた。

 振り向くと、そこにはエルーさんが立っていた。

 今日もトレードマークである大きな魔女帽子を被っている。


「やあやあ数日ぶりだねクロエちゃん。早速冒険者としての仕事探しかな?」


「エルーさんでしたか。ええ。せっかく冒険者証を手に入れたので、仕事をしようかなと」


 どうせ屋敷にいても暇なだけだからな。

 まあ、平和なのはいいことなんだろうが、今の俺にはヴェロニカさんに近づくという目的がある。冒険者になってどれくらい距離を縮めれるかはわからないが、何もしないで待つよりかはこうやって行動していた方がいいはずだ。


「それはいい心がけだね。それはそうと、実はあたしも今日が初めてなんだ。どうかな、一緒にお仕事しない?」


「もちろんいいですよ。協力して依頼をこなせるのが冒険者の醍醐味らしいですし。まあ、報酬は山分けが基本みたいですけどね」


「冒険者として生計を立ててる人はそこらへんシビアだろうねぇ。あ、クロエちゃんもまさかそういう感じだったり?」


「いえ、私は生業にするつもりで冒険者の資格を取ったわけではないので……」


「副業的な感じかな? まあでも、色んな人が冒険者やってるからそれぞれの事情があるよね。かくいうあたしもとある目的のためになったわけだし……。とまあ、それはいいとして。どの依頼を受けようか?」


 エルーさんも一緒に掲示板を覗く。

 ここは低ランク用の掲示板なので、簡単な依頼ばかりだ。

 きっと奥にある掲示板には難しい依頼がたくさんあるのだろう。無論、その分報酬もいいだろうけど。


「あ、これなんてどう? ヨルノ鉱石の納品だって。採取場所もそう遠くないし、日帰り出来そうだしどうかな?」


「そうですね……。えーっと、場所はエルドラ南部の洞窟みたいですね。距離も近いしこれならすぐに戻ってこれそうです。うん、これにしましょう」


「決まりだね!」


「そうと決まれば早速――」


 俺は依頼書を手に取り、エルーさんと共に受付へ。

 依頼は受理されて初めて仕事になるのである。


「あの、依頼を受けたいんですが……」


 俺は受付嬢に声をかけた。


「依頼ですね。こちらで受理しますので依頼書を――っと、あなたはあの時の!」


 と、急に受付嬢の眼がキラキラと輝いた。

 この前のお姉さんだ。めっちゃ俺に絡んできた人なので覚えている。


「あなたこの前初めて見たから違う街の冒険者かと思ってたけど、エルドラで活動してたのね!」


「はい。というか、最近資格を取ったんですけどね」


「あら、そうだったの! ということはこれが初めての仕事かな?」


「ええ。初めてなのでまだ右も左もわからない状態なので、色々と教えてくれると嬉しいです」


「もちろんよ! お姉さんに任せなさい! あっ! そういえば名前言ってなかったわね。私は見ての通り受付嬢をやってるカレンよ。そちらのお嬢さんもよろしくね」


「はい! よろしくお願いします! あ、私はエルーって言います!」


 エルーさんは元気よく自己紹介をした。


「私はクロエです。よろしくお願いしますね」


「ええ! クロエちゃんにエルーちゃんね。覚えたわ! これから遠慮なく依頼を受けていってね! ――っと、まずはこれの受理からしましょうか。えーっと、期限はなし、内容はヨルノ鉱石の納品っと。初心者向けの依頼だし、大丈夫そうだけど20kgの鉱石だから女の子二人じゃ運搬が大変かもしれないわねぇ。一応荷台車がギルドの裏手にあるから、それを貸し出せるけど、運転出来るかしら?」


 クルマの運転か。俺は無理だからエルーさんが出来なければ他の方法を考えなければならないが――。


「ええっと、一応免許は持ってます……」


 若干自信なさげに言うエルーさん。

 これはあれだな。ペーパードライバーっぽいな。


「エルーちゃん大丈夫? なんだかあまり自信なさそうだけど」


「は、はい! なんとかなる……と思います!」


「ま、まあ、免許を持っているのなら問題はないでしょう。安全運転でお願いね」


 そう言って、カレンさんはエルーさんにクルマのキーを渡した。

 それから依頼を受理してもらい、晴れてお仕事開始だ。


「これでよし。――それじゃあ、気をつけていってらっしゃい!」


 カレンさんに見送られ、俺とエルーさんはギルドを出た。


 言われた通りギルドの裏手に行くと、荷台者が置いてあった。

 外見はまんまトラックだ。荷台がついたクルマだな。


「確認ですが、エルーさんって運転は……」


「一応ちゃんと出来るけどね……。なんというか、へたっぴなんだよね……。でも、運転する……! 下手だけどあたし、運転してみるよ……! この仕事を受けようって言ったのはあたしだし、それくらいのことはしなきゃだよね……!」


「一応手押し車もあるみたいですし、無理はしなくても大丈夫ですよ」


「ううん平気! きっとなんとかなるって!」


 言いながら、エルーさんは近くの荷台車の運転席に乗り込んだ。

 俺も後に続いて助手席に乗り込む。

 見たところ、この荷台車もクロヴィスのクルマと同じような始動の機構のようだ。魔力を注ぐための丸いやつがついている。


「ええっと、キーを差して魔力をエンジンに送り込んで……」


 エルーさんが装置に触れると、すぐにクルマのエンジンが始動した。


「よし、なんだか行ける気がする……!」


「で、ではエルーさん、お手柔らかにお願いしますね……」


「任せて! よーし、かっ飛ばすぞぉー!」


 エルーさんは運転弱者が言ってはならない言葉を発しながら、アクセルに足を置いた。


 少々不安は残るが……、まあ、この世界での運転免許を持っていない俺が運転するのもおかしな話なので、ここは経験者に任せるとしよう。


 

 


 

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