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試験の後




 冒険者資格取得試験も無事終わり、最後にレイラさんからその後説明を軽く受けた。最終試験で失格にならなかった受験者は全員合格とのことで、ランクについては後日通達するとのことだった。


 しかし、色々あったが合格出来てよかった。

 新たな出会いもあったし、皆で一緒に戦うという経験も得られた。

 実りの多い時間だったように思える。


「――クロエ様。試験お疲れさまでした」


 冒険者協会支部から出ると、クロヴィスが出口付近で待ってくれていた。

 気づけば外はもう夕焼け色だ。昼過ぎから試験は始まったから、そこそこの時間は経過していたみたいだ。


「本当に疲れました……。――ああそれと、ランクの通知と冒険者証は3日以内に発行されるそうです。無事にヴェロニカさんと同じか近いランクになれればいいんですが……」


「きっと大丈夫ですよ。相当な実力がない限り初期ランクは皆低く設定されるものです。聞いた話ですと、G~Eが多いのだとか。ヴェロニカ様がDランクでしたから、Eランク辺りだといい感じでしょうか」


 言ってから、クロヴィスはクルマの助手席側のドアを開けた。見た目もさることながら、こういう気遣いを徹底しているところがなおのこと執事っぽいというか。


「ありがとうございます」


「礼には及びませんよ」


 ドアを閉め、クロヴィスも運転席に乗り込んだ。

 シートベルトを締め、クルマが発進する。

 夕暮れに染まるエルドラの街は、とても趣がある。

 こういう西洋風の街に慣れていないからなおのこと異世界感が増すように感じる。いやまあ、リアル異世界なんだけども。


「私から尋ねるのも野暮かとも思いましたが……魔力測定の方は問題ありませんでしたか?」


「ええ。魔力測定は無事に通過できました。ですけど――」


 俺は言いつつ、右腕のアブソーブリングを外した。

 最後の試験で、少しだけ魔力を高めてしまいリングにヒビが入っている。


「最終試験である実戦試験中、少しだけ強く魔力を込めた際に右腕に身につけていたアブソーブリングにヒビが入ってしまいました。エヴリーヌさんに借りていた物なので、申し訳ないことをしてしまったなと思いまして……」


「フフ、その程度の損傷ならば問題ないでしょう。あの方はあれでも帝国随一の科学者です。修理もお手の物だと思いますよ。それに、クロエ様に壊さらたのなら光栄かと」


「光栄って……。そんな風に思うのはきっとクロヴィスだけですよ……」


 他人に貸していた物が壊れて帰ってきたら誰だって嫌な気持ちになるはずだ。クロヴィスの頭がおかしいだけで、普通の人ならそう思うはず。


「そもそも、アブソーブリングを装備した者は魔力を込めることすら困難だと聞きました。なので、物理的要因以外で破損するのはレアなケースなのです。それにエヴリーヌ様のことですから、その傷をも研究の材料にしてしまいそうですけれどね」


「……だといいんですけどね」


 俺の考え過ぎだろうか。

 どちらにせよ、エヴリーヌさんにアブソーブリングを返却する時に謝ろう。


 それから、クルマは順調に屋敷への道を走っていた。

 他愛もない会話をクロヴィスと交わしながら、気づけば屋敷の近くにまで戻って来ていた。やはりクルマは便利な道具だとこの世界でも身に染みて感じる。魔導科学という技術が発展した世界でよかった。形は違えど、元いた世界と似て非なる技術だから違和感もないしな。


「お疲れさまでした。私はクルマを駐車場へ停めてまいりますので、クロエ様は先に屋敷に戻っていてください」


「クルマの運転いつもありがとうございます。では、先に戻っていますね」


 そう言って、俺はクルマから下りた。

 屋敷に戻ると、良い匂いが俺の鼻腔をくすぐった。

 どうやら誰かが料理しているらしい。

 クロヴィスがいない間に料理できる人と言えばオレリアさんだろう。

 1回教えただけであるい程度のノウハウを身に付け、オレリアさんはすぐに上達した。向上心も凄まじく、色んな料理にも挑戦しているのだとか。


 キッチンに行くと、予想通りオレリアさんが鍋の前に立っていた。

 それと、今回はレベッカさんも一緒のようだ。

 女性二人で料理をしている図。クロヴィスが厨房に立っている姿よりもしっくりくるなぁ。


「あ、クロっちお帰り! 試験どうだった?」


「なんとか合格しました。色々とありましたけどね……」


「クロエ、お疲れ様。今温かいシチューを作ってやるからな。もうちょっとで完成だから少しだけ待っていてくれ」


「今回はあたしも手伝ったから、期待して待っててね」


「ええ。レベッカさんとオレリアさんの二人の料理、楽しみにしていますね」


 レベッカさんは料理とかそんなにしたことないって言ってたから、オレリアさん主導で作ったのだろう。屋敷で暮らす女性陣が作る料理、普通に楽しみだ。


 テーブルにつき、5分ほどボーっとしているとゼスさんとヨルムンガンドが現れた。どうやらまた2人で魔物を倒しに行っていたらしい。


「――ここら辺の魔物は弱くて修行になんねえなぁ。もっと手応えのある相手がほしいぜ」


 言いながら、ゼスさんは席についた。


「街の近くには凶暴な魔物はおらんからな。森の深部とか山の頂上とかに行けばその地域のヌシに会えるかもしれんぞ」


「う~ん、つってもそこまで行く時間も術もない……というか、魔物と戦うためだけにそんな場所に行くのもなーって感じだよなぁ。――お、クロ助帰ってきてたのか。試験はどうだったんだ?」


 ゼスさんに聞かれ、


「はい。無事に合格しました」


「おお、さすがはクロ助だ。ま、クロ助が試験に落ちるわけないだろうけどな」


「それはそうだろう。クロエが試験に落ちたら冒険者とやらのレベルはどれだけ高いのだという話だろうからな」


「はは……」


 アブソーブリングのことまでは彼らに言っていなかったか。実は結構ギリギリでしたなんて言えなくなっちゃったな。


 とはいえ、既に合格はしているのだから余計な事を教える必要もないか。


「――無事に合格なされたのですな。さすがはクロエ様」


 グエンさんもテーブルにやってきた。

 最近は屋敷のガーデニングとかにハマっているらしい。

 近頃はゼスさん達の修行にヨルムンガンドがついているから、今日もやっていたのかもしれない。


「――皆さんお揃いですね」


 と、クロヴィスも戻ってきた。

 これで屋敷の住人は勢揃いだな。

 それぞれ定位置に腰かけている。

 気づけば料理も出来たようで、レベッカさんが配膳している。

 家族のように皆で食卓を囲む。そのなんでもないような一幕が、俺にとっては温かく感じられた。家庭を持ったらこんな感じなのだろうかと、そんな風に考えることもあった。


「えーっと、料理は行き届いたみたいね」


「今回は私とレベッカで作ったんだ。まだ拙い技術で申し訳ないが……」


「フフ、そんなことはありませんよ。見ただけでわかります。この料理には真心に満ちている。料理をする際に最も大切なのは食べてくれる人のことを想って作ること。技術なんてものは後からいくらでもついてくるものです」


「クロヴィス……。ふ、あなたには敵わないな」


 オレリアさんは小さく笑った。

 これまで料理含め家事全般を完ぺきにこなしてきたクロヴィスが言うからこそ、オレリアさんも思うところがあったんだろうな。加え、裁縫に関してもクロヴィスの方が上手のようなので、彼女にとっては一種の師匠のようなものなのかもしれない。


 しかしそう考えるとクロヴィスのスペックは高すぎるな。

 見た目も良いし、戦闘も強く家事も出来て気遣いもできる。

 欠点と言えば俺のことになると少し度が過ぎることがあることくらいか。

 味方にいてくれる分には心強いから、まあいいか。


「……? どうかなさいましたかクロエ様?」


「なんでもありません」


「??」


 クロヴィスは俺からの視線で首を傾げていた。

 それから、皆で食事をとり、いつも通りに夜は更けていった。

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