最終試験へ
試験の途中結果は、レイラさんが言っていた通り30分程で出た。
結果は紙に記されたものが待合室の壁に張り出された形だ。見るに、最終試験に参加できる受験者は10人だけのようだった。ちなみに、俺の番号もちゃんとあった。とりあえず一安心である。
見ると、エルーさんも最終試験に駒を進めていた。
知り合いも一緒だというのはやはり心強いな。
アントニオさんは……まあどうでもいいか。
「クロエちゃん~!」
ほっと胸をなでおろしていると、エルーさんがやってきた。
「クロエちゃん24番だったよね? ええっと、24番は――……あった! おめでとう! って、まだ資格試験に合格したわけじゃないから言うのは早いかな?」
「いえ、そんなことないですありがとうございます。エルーさんも最終試験に進めるんですよね? おめでとうございます」
「ありがとう! いやぁ……はは、いつもここまでは行けるんだけどねぇ~。やっぱり、最後の実戦試験が一番の難関だよ。それに、今回の試験官はあのレイラ・デュランさんだし、きっと実戦試験の相手もあの人……。ううん、弱気になっちゃダメだよね! 頑張れ、あたし!」
顔をパンパンして気合を入れなおしているエルーさん。
3回目ともなると気合の入り方も変わってくるのだろう。
「あとは誰とペアを組まされるかだなぁ。剣士枠の人だとありがたいんだけどね。なんなら、クロエちゃんと組めたら嬉しいかなって」
「私もエルーさんと組めると嬉しいです」
知っている人との方がやりやすいしな。
アントニオさんみたいな人だとちょっと面倒くさい。
「だけど、今回の試験官はあのレイラさんだからなぁ。Aランク冒険者相手に実戦試験は厳しい気もするよねぇ」
「Aランクってそんなに強いんですね……。私は初めての試験なのであまりイメージが湧かないというか」
「まあ、クロエちゃんはその歳だしわからないのも無理はないか。う~ん、なんていうのかな、あのランク帯の人って別次元の強さなんだよね。BランクとCランクにもかなりの差があるけど、BランクとAランクはそれ以上の差があるんだ」
「そんなにですか……。これはちょっと厳しいかもしれませんね……」
やはり、Aランク冒険者はかなりの実力者らしかった。
アントニオさんが言っていたことも嘘ではないようだ。
だが、俺は測定した結果以上の魔力を使うわけにはいかない。故にいつものように際限なく魔術をぶっ放せるわけでもないし、魔力制限のせいで身体能力も著しく低下している状態だ。これはいよいよ試験に合格するのが難しくなってきたかもしれないな。
「大丈夫! きっと手加減してくれるよ! そうじゃなきゃ、冒険者にもなれていないあたし達がAランク冒険者に敵うわけないもんね」
「で、ですよね。多少の手心は加えてくれるはずですよね」
新米相手に本気で向かってくるベテランなどいるはずもないか。……と、思っておかないとやってられないだろうな。きっとエルーさんも心配だろう。
「――いや、それはどうだろうな?」
と、急に横やりを入れてきたのはアントニオさんだ。妙に真剣な表情が実に似合っていない。
「最近冒険者達の死亡数が増えてきているらしくてな。冒険者協会の中で資格取得試験の審査を厳しくしようっていう動きがあるようだぞ」
「だ、誰……?」
エルーさんが困惑している。
それもそうだろう。エルーさんとアントニオさんは初対面だろうからな。
「おっと、自己紹介からのようだな。俺はアントニオ。アントニーって呼んでくれていいぞ」
アントニオさん、キランと歯を光らせるのはいいが、エルーさんは若干引き気味のようですよ。まあ、気づくはずもないか。
「あはは、エルーです。よろしく」
「ああ、よろしく頼む!」
「それで、さっきの話ですが……。審査を厳しくしようって話は本当なんですか?」
「ああ。それは恐らく本当だな。信用できる筋からの情報だ。ま、信じるか信じないかはお前たち次第だがな!」
「試験官があのレイラさんなのも、そのことが影響しているのかな……? だとしたらやっぱり実戦試験は今まで以上に高難易度に……」
「かもしれないですね。まだ実戦試験の内容を知らされていないので何とも言えませんが……。どちらにせよ、レイラさんが担当しているのなら簡単ではなさそうです」
タイミングが悪かったと言えばそれまでだ。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。使徒であるヴェロニカさんとの距離を縮めるためにも、冒険者の資格を入手しなければ。
一喜一憂する受験者達をよそに、待合室の扉が開かれた。
レイラさんが入ってきたようだ。すると、一瞬で待合室にいた受験者達は静かになった。
「――結果の確認は終わったようだな。十分休息も取れただろう。――では、通過者のみ奥のスタジアムに集まるように」
それだけ言い残して、レイラさんは一足先に奥へ向かった。
いよいよだ。この次の試験で冒険者への資格が取れるかが決まる。
「よ、よし……! 頑張るぞ……!」
エルーさんは言いつつも、その表情からはやはり余裕はない。
一番の難関の前で落ち着けと言うのも無理な話か。かくいう俺も、多少なりとも緊張している。
「ま、気張らず頑張ろうや。さ、これで最後だ」
やけに余裕綽々のアントニオさんに違和感を覚えながらも――俺達は最終試験の会場へと向かうのだった。