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実技試験



 冒険者志望の受験者達が、ドーム内の一角で待機している。

 その中に圧倒的に身長の低い俺は、前の様子が分からないので率先して前列へ赴いた。


 すると、丁度良く冒険者協会の試験官らしき人がやってきた。


「コホン。私は今回の試験官を務めるレイラ・デュランだ。早速だが、これより実技試験を開始する。基礎体力測定の後、各々の戦闘スタイルにあった試験を行うのでそのつもりでいるように。――では、番号が呼ばれた者から順に奥に進め」


 キリっとした女性の試験官が、集まった受験者達に言葉を投げる。

 青いショートヘアと切れ長の眼が特徴的なレイラ・デュランさん。制服が軍服のように見えて、Sっ気がビンビンである。鞭を持たせたら似合いそうだな。とか、どうでもいいことを考えてている場合じゃないか。


 俺の番号は24番だ。受験者は全員で25人なので俺の番はかなり後ろになりそうだな。

 にしても体力測定ってことは、やっぱりあれだろうか。いわゆる反復横跳びとかシャトルランとか。クロヴィス調べでは大したことはしないってことだったけど、いざ目前にまで迫ってくるとちょっぴり緊張するな。上手いこといけばいいが……。


「では、1番から5番。奥に進むがいい」


 試験官の指示で、5人の受験者が奥へと進む。

 緊張からか、歩みがぎこちない者もいるようだ。


「また会ったな嬢ちゃん」


 と、さっきのスキンヘッドが声をかけてきた。

 たまたま横にいたから、そんな気はしていたがやはりか。


「あの試験官がさっき言ったやつだな。彼女自身も現役冒険者で、協会にも務めている凄腕だ。噂によればAランクらしいぞ」


「Aランクって凄いんですか?」


 と、俺がスキンヘッドさんに聞くと、彼は目を丸くした。


「オイオイオイ、冒険者を目指そうってやつがAランクの凄さを知らないのか? Cランクくらいまでなら頑張って冒険者やってりゃなれるが、Bランク以上は本当に強いやつしかなれないんだぜ。そんでAランクといやぁ、先日エルドラに襲来した例の邪竜だってサシで倒せる程の実力者だ。実際、街の防衛のためにBランク以上の冒険者たちが奮闘していたしな」


「そうだったんですね。なら、帝国の七武人くらいに強いんでしょうか」


 俺が何気なく聞くと、アントニオさんはさらに驚いた。


「し、七武人だって!? オイオイ、それはまた話が変わってくるぞお嬢ちゃん。彼らはギルンブルク帝国の至宝と呼ばれる最強の戦士たちだ。冒険者のランクで表せるものじゃないぜ。これは俺の勘だが、七武人の称号を持つ戦士達を冒険者の位で測るとなると……最低でもSランク以上はあると思っていいだろうな。まあ、そもそもこの大陸にSランク以上の冒険者はほんの数十人しかいないんだが」


「そうなんですね。勉強になります」


 強さの形も様々だな。

 まあ、七武人の一人だったオレリアさんがSランク並の実力があるというのは納得だ。Sランクの冒険者がどれくらい強いのかは知らないけど。


「しかし嬢ちゃんはなーんにも知らねえんだな。――っと、そういや自己紹介がまだだったか。俺はアントニオ。アントニーって呼んでくれていいぜ?」


「私はクロエです。よろしくお願いしますね、アントニオさん」


「はっは、さすがにいきなり愛称は嬢ちゃんにとってハードルが高かったようだな! まあいい。よろしくなクロエ!」


 言いつつ、まだ俺の頭をぼんぼんしてくるアントニオさん。

 見た目は強面だが、中身は気さくな人のようだ。

 それから適当にお喋りをしながら待っていると、ようやく俺の番がやってきた。


「では次、20番から25番」


 試験官のレイナさんに指示され、俺は奥のフロアへ進んだ。

 ルートが分かれ、それぞれ違う入り口から進んでいくようだ。


「んじゃクロエ、またあとでな!」


 アントニオさんとも別れ、指示された場所へと進む。

 そこでは想像通り生前でやっていたような体力測定が行われていた。

 垂直飛びとか反復横跳びとか握力測定とかそんなやつだ。

 まあ、適当に終わらせて次の試験へ進むとしよう。


「クロエ・ノル・アートルム様ですね。手始めに身長と体重の測定を行いますのでそちらにお立ちください」


「わかりました」


 そういや、身長も体重もこの身体でまともに測ったことなかったな。

 ちょうどいい機会だし、自分の身体のことを知っておくのも悪くない。


「ええと、身長が136センチ、体重が38キロですね。ふふ、これからいっぱい成長するといいですね」


「は、はい……」


 測定してくれたお姉さんから微笑ましそうに言われ、恥ずかしくなってしまった。確かに、胸もぺったんこ気味だし、女性としてのステータスは低いかもしれない。……別に気にしていないが。


「では、次はあちらへどうぞ」


「ありがとうございました」


 俺は一礼してから次の測定へ向かった。

 次はどうやら握力測定のようだ。

 さすがに、ここらの基礎体力測定で落とされるということはないだろうし、幼女然として行うとしよう。


 それから、いくつかの基礎体力測定を終え、ドームのさらに奥のフロアへと進んだ。すでに大半の人が測定を終えており、次の試験を待っている状況だ。エルーさんとアントニオさんもいる。無事に測定は終わったようだ。


 そして恐らくここが最初の難関だろう。

 実技試験、ここで合格点を出せないと恐らく次には進めない。

 

「あ、クロエちゃん、お疲れ様~」


 俺を見つけたエルーさんがこちらへやってきた。


「エルーさんもお疲れ様です。ここまでは基礎体力測定でしたので、次が実技試験本番ですね」


「うん、実技試験頑張ろうね! そういえばクロエちゃんの戦闘スタイルって……」


「私は剣士枠にしました。エルーさんは魔術師枠ですよね?」


 枠とは、いわゆる自分のジョブのことだ。

 エルーさんは見たまんま魔術師、俺はまあ無難に剣士にしておいた。

 志願書にジョブ記載の欄があり、そこに書いておいたのだ。


「うん。見たまんまだけどね……。ていうか、クロエちゃん剣士なんだ。あたしと同じ魔術師枠か、もしくは治癒士枠だと思ってたよ」


「魔法はちょっと……」


 威力の加減の都合であまり行使したくない。

 それに、今はアブソーブリングリングも装備している。いつもと違う感覚で魔術を使うのは、加減が難しいのでリスキーだ。


「得手不得手あるもんね。っと、そろそろ始まるみたいだよ」


 試験官のレイラさんが、再び受験者達を誘導し始めた。

 剣士の実技試験がどのようなものなのか、ちょっと興味深くはある。

 ま、行ってみてのお楽しみか。


「剣士枠の実技試験はA会場へ。魔術師枠はB、治癒士枠はCへ進むように」


 それぞれの分けられたフロアへ進んでいく。エルーさんとも別れた。

 俺は剣士区分なのでA会場へ。さすがに一番多いようだ。

 近接戦闘を主体にするスタイルの人は全部ここだもんな。

 アントニオさんもこっちみたいで、一瞬目が合った。が、絡まれるのが面倒なので普通に無視した。


「さて、剣士枠の皆には試験官である私が直に試験を行う。なに、内容は簡単だ。私に一度、打ち込んでくるだけでいい。それで次の実戦試験に進む実力があるのかどうかを判断する」


 試験官のレイラ・デュランさんがそう言うと、辺りがざわつきだした。

 Aランク冒険者でもある彼女に判断されるとなると、中々なシビアな試験になるかもしれない。


 しかし、試験の内容はなんだか単純だな。

 ただ打ち込むだけでその人の能力を見極めることが出来るとは、さすがはAランクの冒険者といったところか。


「時間もないことだ。早速始めようか。では、1番からかかってこい」


 試験官のレイラさんが剣を抜いた。

 無駄のない構えだ。それに隙もない。

 あれが、Aランク冒険者の圧力か。

 冒険者にすらまだなれていない者達からすると、さすがに委縮の対象だな。緊張せずにはいられないだろう。


「よし、良い踏み込みだ。次、3番!」


 テンポよく受験者達が各々の得物を手に、レイラさんに打ち込んでいく。

 当然だが、一本取れるような者はおらず、簡単に手玉に取られているようだ。


「何を恐れている? もっと思いっきり踏み込んでこないとダメだぞ。次、10番――」


 そして、順調に試験は進み、アントニオさんの番がやってきた。

 アントニオさんは戦斧アックスが得物のようだ。スキンヘッドにあまりにも似合っていて、俺はちょっぴり頬が緩んでしまう。


「ふむ、なかなかのパワーだな。よし、次13番!」


 アントニオさんの踏み込みは豪快なものだった。

 恐れを知らない一撃。そう見えたがレイラさんには軽く受け止められてしまっていた。これがAランクとの差なのかと思わずにはいられない。


 そして、ようやく俺の番がやってきた。

 ここまで数分しか経っていない。試験は順調に進んでいる。


「クロエ、思いっきり行けよ!」


 とアントニオさんがエールを送ってくれた。

 だけど、残念ながら思いっきりやるわけにはいかないんだよな。

 他の受験者達に合わせた動きをしなければならない。

 幸い、最後だったのでよく観察が出来た。加減も完璧に出来そうだ。


「24番、クロエだな。見たところ、武器を何も装備していないようだが……」


「あ、すぐに出すので大丈夫です。――よっ、と」


 俺は魔力の刃を召喚し、構える。

 これなら剣士で問題ないはずだ。


「おい、ちょっと待て。それは何だ?」


「こ、これですか? 魔力で作った剣ですけど……」


「馬鹿者。それでは魔術師枠だ。実体を持った得物しか認められんぞ」


「す、すみません。でしたら――」


 そもそも相手も実体剣なのだから魔力の刃じゃダメか。危ない危ない。

 【黒曜丸】はヤバすぎるので適当な模倣品を作るとしよう。


「よいしょっと」


 俺は刃渡り50センチくらいの刀を創造した。

 これくらいの品なら、魔力がない今でも容易に作ることが出来る。


「お、お前、今何をした……? 剣を作ったのか?」


「そ、そうですけど……」


 なんだかレイラさんの表情が怪しい。

 もしかして、剣を作ったらまずかったのだろうか。

 でも、実体剣しかダメって言ったのは向こうだし……。


「……まあいい。こい」


 どうやら許されたようだ。

 こんなことなら最初から短刀でも作って装備しておけばよかった。

 禁止事項に武器の創造は禁止って書いてくれていればよかったのに。


「行きます……!」


 俺は一気に踏み込み、レイラさんが握る剣を目掛けて刀を振るった。


「――!?」


 レイラさんは俺の一撃を受け止めた瞬間、眉根を寄せたが、すぐに戻った。俺も恐る恐る後退する。今ので良かったはずだが、何か勘付かれただろうか。他の人と似たような踏み込みと一撃だったと思うんだけど。


「……いや、気のせいか。――よし、これで以上だな。では、次は魔力測定だ。場所は誘導員が指示するから従うように」


 無事実技試験も終わり、残すは魔力測定と実戦試験のみだ。

 退出時に、試験官であるレイラさんから見られていたような気もするけど、きっときのせいだろう。



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