筆記試験
答案用紙が配られ、筆記試験が始まった。
時間は1時間。問題はマークシート形式で行われた。
鉛筆を片手に、試験に臨む。
問題の量は50問。とはいえ、計算問題があるわけでもなく、手間のかかる問いは見当たらない。
……これなら大丈夫そうだな。
俺は問題用紙を一通り確認した後、解答を始めた。
内容は勉強してきたものと合致している。
さすがはクロヴィス。事前に出題されそうな問いかけを選定してくれて助かった。
問題用紙には、魔物の知識や素材の知識等、冒険者ならではの問いかけが散りばめられている。普通に過ごしていては知り得ないであろう問いが、問題用紙には記されていた。
にしても、屋敷に来てから暇なときに色んな場所へ行って魔物を狩ったりしていてよかった。実際に見ておくことで、本で読んだ内容が頭に入ってきやすかったのだ。おかげで勉強はスムーズに進み、苦も無く知識として頭にインプットできた。
それから特に筆が止まることなく解答を記入していく。
選択問題だけなので、文字を書く必要もなく楽だ。
解答に没頭すること数十分。
無事に全てのマークシートを埋めることが出来た。
筆をおき、一息つく。
一応見直しをして、やることを全て終えた。
すると、制限時間もすぐそこまできていたようで――
「――それまで。解答を止めてください」
試験官からのアナウンスが入った。
会場にいる人達から一斉に吐息が漏れる。どうやら皆の緊張が緩んだようだ。
筆記試験の難易度はそれほどでもなかったように思える。変な応用問題もなかったし、常識的な思考を持ち、冒険者について理解しておけばここで落とされるってことはないだろう。
「解答用紙は裏返しで机の上に置いておいてください。次は実技試験なので、ドームの方へどうぞ」
筆記の試験官に指示され、受験者達は席を立ち実技試験会場であるドームへと移動を開始した。
「お~い、クロエちゃん」
と、背後から声をかけられ、俺は振り向いた。
「ねね、筆記試験どうだった?」
「多分大丈夫だと思います」
「だよね! まあ、毎回筆記試験は簡単だからここが原因で落とされるって人はいないと思うけど、クロエちゃんも大丈夫そうでよかったよ」
「ということはエルーさんも?」
「もちろんですとも。これでも3回目だからね。筆記試験は慣れたものよ!」
えっへんと腰に手を当てるエルーさん。
なんだか仕草が一々可愛い人だな。生前の俺ならとっくに惚れている。
「まあ、問題はこの次の実技試験なんだけどね。ここで結構ふるい落とされるんだ。こう見えてあたしは毎回通ってるけどさ」
「そうなんですね。重要なのはやっぱり戦闘力ってことですか」
「そだね。でも、冒険者は危ない仕事が多いから仕方ないよ。弱い人に資格を与えちゃったら、行動中に命を落とす可能性も高くなるだろうからさ」
「確かに。誰でも冒険者の仕事をできたら魔物との戦闘とかで死人もたくさん出るでしょうし、そこら辺はある程度実力を把握して管理しておいた方が効率的ですよね」
「そゆこと。ランク分けの意味もその人にあった仕事の内容を選定するためにあるっていうのが大前提だし。そこらへんは協会も配慮しているんだよ」
「勉強になります」
合理的なシステムと言えばそれまでだが、ランク制は本当にそれだけのためにあるのかは少々疑問ではある。力を誇示したい者もいるだろうし、ランクが高ければそれだけで他の人への圧力となりうる。上下関係なんかにも影響がでてくるだろう。まあ、住み分けするためにもランクという概念は必要だろうけど。どちらにせよ、この世界の仕組みを俺がとやかく言うことじゃないか。
「それじゃあ、実技試験も頑張ろうね!」
「はい。頑張りましょうね」
エルーさんは手を振ってドームの方へ走っていった。
別に急がなくてもいいだろうに、気が早い人だ。
と思ったら他の人もなんだか移動のペースが速い。
冒険者というのはせっかちな人が多いのだろうか。
まあ、ここは周りに合わせて急ぐとしよう。
そう思い、俺も歩みを早めようとした瞬間――
「――っと、わりぃわりぃ。小さすぎて見えなかったぜ」
背後から何者かにぶつかられてしまった。
幸い、倒れたりはしなかったが、急な事だったのでびっくりした。
男は、ガタイがよく、背も高い。筋肉質でスキンヘッドだった。
なんだか世紀末にいそうな見た目だが……。
「おいおい、なんだその眼は。まさかお前魔族なのか? 片目だけ赤いってのは珍しいが、なんか他の種族なのか?」
「私はちゃんと魔族ですよ」
「ほほう! ハッキリと言う嬢ちゃんだ! さすが冒険者を目指すだけあって気が強いな! ダッハッハ! 良い事だぞ!」
ボンボンと俺の頭を叩いてくるおっさん。
いや、多分見た目以上に若そうだが、スキンヘッドのせいで老けて見える。失礼だから、年齢を聞いたりはしないでおこう。
「ま、お互い頑張ろうや。今回のメイン試験官はかなり厳しいって噂だからな。実技試験、本気で取り組まんとまずいかもしれんぞ。それじゃあな! ダッハッハ!」
最後に大きな手を俺の頭にポンと置いて彼はドームの方へ向かっていった。
にしても、失礼なのか親切なのかよくわからない人だったな。
名前も言ってなかったし……。
まあいいか。
俺もこんなとこで突っ立ってないでさっさとドームへ行こう。